12 理想郷
ちょうどいい機会だ。俺の好きな理想郷についてまとめよう。そうでもしないと落ち着くことができない。
諸君、私は理想郷が好きだ。諸君、私はおっぱいが好きだ。諸君、私はおっぱいが大好きだ。某組織の少佐っぽく盛大に言ってしまうほど大好きだ。それも、大きい巨乳が特に好きだ。
全てを受け止め、全てを癒してくれるであろうあの柔らかさ。ほんのりと温かい人肌が合わさり、最強に見える。実際この世界に来てようやく触れることができた瞬間の喜びは今でも忘れられない。
アイリスのようなその他全ての乳を否定することはしない。だが、他人から何といわれようと、全力で説得されようとも、この好みであり、性癖が崩れることはないだろう。
巨乳は素晴らしい。しかし、その上でもさらに俺にはこだわりがある。あまりにも大きい爆乳レベルはどうしても好きになることができなかった。原因はテレビでバストのギネス記録を持つ女性の特集を見てしまったことだ。
月曜の夜8時過ぎに放送されたそれを父と一緒に食い入るように見ていたが、活き活きとした俺たちは消沈し、互いに確認しあった。乳の威力で缶をつぶすようなほど大きくなくていいと。女性にとってそれが誇らしいことだとは理解しているつもりだが、驚異的な光景はあまりにも印象的すぎた。
最も理想とする大きさは、自分の顔かそれよりもわずかに大きいぐらい。それに該当するのが、カーラと美女状態のハクのおっぱいだ。あれは、いいものだ。
大きく、大きすぎずもなく、はりのある絶妙な感触は最高以外にどう表せばいいのだろうか。俺はそんな存在と一緒にいることができる。こんなに嬉しいことはない。
自分なりにまとめてみたところで、眼前の状況に意識を戻す。両手の中にはおっぱい。程よい大きさだが、少女状態のハクの大きさは理想にはまだ足りない。そう自らに言い聞かせて乱れた呼吸を整える。
とりあえずとるべき行動は決まった。しかしながら一筋縄ではいかないはず。何せ相手はハク。もしかしたら凄まじい抵抗を見せるかもしれない。
心を決めたサクは意識を自らがもつ力に集中していく。ありったけのそれをこの家の中一点に行使する準備が整ったところで、躊躇うことなく動き出した。
「えっ――?」
切なそうに顔を赤く染めたハクは物足りなそうな声をもらしてしまう。一瞬それに気を取られそうになってしまったが、サクは家の中を”吸収”することに成功したのだった。
今回はサク以外の全ての存在が動けなくなるように調節したので、ハクは動くことはできない。高鳴る心臓の音を耳にしながら、サクはハクの胸から手を離すことができた。
吸収した中で抵抗すると思っていたが、ハクは動き出そうとはしない。どうしたのかと様子を窺っていると、その綺麗な瞳を潤ませ始めた。
「こんなにしたいと思ってるのに……、何で?」
「いや、それは……。ちくしょう。ちょっと待っててくれハク。すぐに終わるから」
「サクぅ……」
すでに零れ落ちそうになるほど涙が溜まっているのを見て、サクは心が揺るいでしまう。Мっ気はあっても、Sっ気はないのだ。大切な存在が悲しそうにしているのを見るなんて辛すぎる。
早く終わらせるためにサクは再び意識を集中していく。そして、普段のハクでなら絶対に持つことのない何かしらの力をハクの体内から感知することができた。
違和感の塊であるそれを粒子に変換してハクの体から外に取り出す。すると、悲しみに満ちていたハクの表情がきょとんとしたものに変わっていった。どうやら、正気を取り戻したようだ。
「大丈夫か、ハク?」
「……サク? 私は……、んんっ!?」
「ど、どうした!?」
目の前でつらそうに目をつむったハクに呼びかけるサク。襲い掛かってきた何かの波が過ぎ去ったハクは、頬を赤らめながら口を開いた。
「だ、大丈夫。えっと、確かそっちの方にある棚の小瓶を開いてから記憶がないの」
「反対の方か。どれどれ……」
サクが調べた棚の反対方向にある棚。いくつもの本が並んでいるその一角の空いたスペースに、いくつかの小物が置いてある。そこに、ハクのいう小瓶があった。
触れようとしたが、直前でサクの手は止まった。その小瓶の空いた口から、粒子として取り出した違和感の塊と同じ力を感じ取ったからだ。
ここにきて、ようやく思い当たる物を思い出すことができた。恐らく、これは媚薬と同じ効果を持つ魔力的な便利品の一種。数回、カーラに襲われたときに無理矢理使われたことがある。抜群の効能だったから忘れるはずがない。
これの耐性が無かったため、ハクは我を忘れて自らを性的な意味で襲ってきたのだろう。だが、ここで同時に考えられるのがそういった欲求がハクに溜まっていたということ。自我がないとはいえ記憶が飛ぶほどしたかったとか、相当溜まっていたのだろう。
しかしながらハクと一緒に街にあるホテルや宿に行く気にはなれない。すぐに知れ渡って人が集まってくるからたまったもんじゃない。かといってそれ以外にするとしたら屋敷の自室しかない。
音を消す魔法や部屋そのものを吸収してしまえば隣人問題は解決。後はそれをしようと誘うことができればいいのだが、その先へとヘタレスキルが作用して進めないでいることが大半だった。
基本的に向こうから寝るときにしようと言ってくれたらする有様である。最後にしたのは約一ヵ月前にカーラに襲われたとき。何だかんだで幼少女状態のハクと一緒に寝ることが多かったため、もう二ヶ月くらいはやっていない。
こうした事情も大切な人との間では重要であることは分かっている。しなかったことによって関係に亀裂が入っていくなんて話もテレビなどで聞いた。ならば、勇気を出さなければいけないかもしれない。
今日の夜はカーラと寝て、明日は大部屋で皆で。出発前夜となる明後日の夜ならばちょうど美女状態のハクとだ。さあ、頑張らねば。自らがヘタレないようにと肝に銘じながら、サクは小瓶と粒子を綺麗に消滅させる。これでもう大丈夫だと思ったハクが家の中を展開した時、目の前でハクが崩れ落ちた。
「ハク!?」
「んくっ……!」
「んん!?」
ギリギリで受け止めることに成功したが、腕の中でハクが全身をびくつかせながら淫らな声を上げた。それに驚きつつも僅かに興奮を覚えてしまったサクは自らに渇を入れてバランスをとる。
八の字に曲げた眉。真っ赤な頬。小刻みに震える体。それらを見て、久しい情景が脳裏に浮かんできた。全てを察したサクは、そのまま抱き上げる。
「我慢してくれ。ベッドまで運ぶから」
「ふっ、んん」
「しばらく安静にしてれば治るから、それまでゆっくりと寝ててくれよ」
「……うん。んんっ」
便利品による影響が完全に体から消え去っておらず、体に少しでも触れられるだけでも駄目なようだった。全身のそれを除去してもいいが、普通の生物よりも遥かに複雑な魔力回路の構造から考えて、やったとしたらサク力の過剰行使で倒れてしまうことになる。
苦しそうにしながらも、どこかで喜びが感じられるハクをベッドに寝かせつけると、再び家の中の探索を始めようとした。その時、寝そべるハクが必死に声をひねり出す。
「サク、えっと、ごめんね。迷惑かけたみたいで」
「いや、大丈夫。むしろ気持ちよかった」
「それは、私のおっぱいを……」
そういって口ごもり、顔をだけでなく全身を真っ赤にさせていくハク。おぼろげながら記憶はあるようで、それを思い出して恥ずかしくなってしまうその姿は大変可愛らしい。
勢いに乗ればあんなことやこんなことができても、平常時や不意打ちの時には弱いのが少女状態のハクだ。初めてその反応を見せたアルーセルでの図書館の一件が脳裏に浮かぶ。あの後のアイリスのチョップは痛かった。
大切な存在の愛らしい姿をしっかりと堪能した後、写真が置いてあった棚の方へとサクは戻っていく。他に何か目ぼしいものがないかと捜索してみるが、この家に住む人の手掛かりなどは見つからなかった。
では他の場所へ。そう思いながら上げた視線は壁の一点に集中する。そこに、今まで気づかなかったというか、先ほどまではなかったはずのスイッチがあった。
真っ赤なそれには、この世界の言語で『押してね!』と書かれている。こういった類を押せばろくなことにならないのが通例だが、サクは押さざるを得なかった。そこにスイッチがあるなら押さなくちゃいけないというよく分からない使命感が、そうさせた。
プラスチックぽい触感のそれを中心として壁の奥へと正方形のくぼみができていく。ある程度まで行くとスイッチのある面は壁の中の上部へと移動し、その奥にあった小さな球状の物体がころころと転がってきた。
それをタイミングよく取ったサクは、手の中にある水晶のようなものを注意深く見つめる。某鑑定番組でも使われるアニメのBGMが勝手に脳内で再生されていると、突如物体が光り輝き始めた。
「何何何!? 押しちゃ駄目だった系!? でも押しちゃうでしょあんなの!」
突然のことにサクは慌てふためくが、物体を手放すことはなかった。というか、手放せなかった。まるでハクやワーたちに乗っているときと同じで、肌がくっついてしまっているからだ。
本気で焦るサクは手の中のそれを投げ飛ばそうとするが、吸着したその重みと自らが引き起こした遠心力によって体のバランスを崩してしまう。そのままなんとも情けない感じで盛大にずっこけてしまった。
強打した尻が2つ以上に割れていないことを確認した後も、何とかして物体を外そうと試みる。その様子を心配そうな目でハクが見つめていると、進展があった。
「ふぅうおお!?」
物体の輝きが集約していき、いくつもの光線が天井へと向けられた。素っ頓狂な悲鳴を上げたサクがゆっくりとその首を上げていくと、そこにはサクにも理解できる言語で、こう描かれていた。
『ここが見え、入ったのならば時は来た。助言は、スモークの首都で。開かずの部屋で待つ』
簡潔で分かり易いが、状況を飲み込めないサクはただ茫然とそれを見つめることしかできない。少しの間が空いた後メッセージは消え、最後にその発信者の名が映し出された。
『オーガニック・クロムウェル』




