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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第二部 第一章 ゆるふわな五日間
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11 で、味は?

 広げたシートの上で素早く、且つ丁寧な手際で仕留めた獲物たちの皮を剥ぎ、予め用意しておいた皮用袋に詰め込んでいく。骨や内臓の処理を終え、各部位ごとに切り分けられた獲物たちの肉は棒に括りつけられたり、フックで木の枝に吊るしたりして血抜きを進めていた。

 一通りの作業を終えたタクは赤黒く染まった手袋を水筒の水で洗い流し、四方に一つずつ設置した動物侵入防止用結界器の様子を見に行く。凄まじい獣臭と血なまぐささが漂う中、サクとハクはタクが用意してくれた折り畳み椅子に腰かけて変わり果てた獲物たちを眺めていた。



「……相変わらず見事な手際だったな」


「そうだね。でもすっごく臭い」


「そうはいってもよだれ出てるぞハク」


「はっ。熊のお肉見てたらつい……」


「この後食えるだろうし、もしかしたら一部持って帰れるかもしれん。そしたらアイリスの出番だな」


「吐いちゃった後だけど、なんかワクワクしてきた……」



 ぼんやりとした表情の2人がそんな感じで言葉を交えていると、タクが戻ってくる。顔色からして完全回復に至っていない2人には話しかけることなく、手早く片付けを進めて行った。

 狩猟時には以前の荒々しさが見え隠れすることはあるものの、それ以外の時では何だかんだで面倒見がいい強面猟師といった風格がタクから感じられる。人とはこうも変わるものなのかとしみじみサクが感じていれば、時はあっという間に過ぎ去っていった。

 必要最低限に血抜きされた各部位をタクは食べ比べ始める。魔法で焼いたものや茹でたもの、行ける部分は生でも口にしていく姿はたくましく思えた。順調に食べ比べていく彼の目の前で、サクとハクは青ざめた顔のままそれぞれ手の中にある小袋から大豆ほどの大きさの食品を指でつまんでは口に運ぶ単純作業を繰り返していた。

 こういったことになることを想定したカーラがくれたお手軽栄養食だ。味は優しいミルクチョコレート味。酔いに効く特製の薬品も混ぜ込まれているため、食べれば食べるほどに元気が湧いてくる。

 やめられない、止まらない。そんな懐かしいCMのフレーズが脳内を過る。何故あのお菓子の商品名に河童がつくのかを以前テレビで特集していたが、シリーズ最後の商品だったとか断片的なことしか思い出せない。

 こんなことを考える余裕ができたということは、回復に向かっているのだろう。隣のハクを見れば、まだ本調子ではないが笑顔を見せてくれた。美しいそれによってさらに心が元気を取り戻していく。

 小袋の中身の半分ほどを食べ終えた頃にはすっかり元気になった2人。その目の前で肉を食べ終えたタクが大きなため息をつく。答えの予想は出来ているがあえて聞いてみる。



「で、味は?」


「熊は食える。だけど、狼の魔物は料理に加えて提供しようとは到底思えない。狼の魔物に関しては、他の魔物肉と大差がないどころか全く同じ味と肉質。旨味もなにもないから、継続して食べろっていわれたら苦痛でしかないな」


「おお、かなり辛口だな。ちなみにもっとぶっちゃけると?」


「不味い。可能な限り食いたくない。ゲテモノ系として売り出せるかもしれないが、『我ら一番』じゃそういったものは出さないと決めてる。魔物の肉はお蔵入りだな」


「そうか。残念だったな」



 少し落胆した様子のタクにそう投げかけながら、最後の1つとしてとりだした栄養食を口に運ぶ。満ち足りたような笑みを浮かべるサクをタクは歯に座った状態のままで、詰まった肉片を楊枝でしーしーしながら羨ましそうに見ていた。

 動物と同じで口から食物を体内に取り込むが、魔物は特殊な消化器官を持っているために排泄を行うことがない。取り込んだそれを即座に自らを構成する魔力へと分解し、動力としているのがこれまでの研究で分かっている。

 臭いと見た目が酷いためにタクは不要な部分を焼却したが、放っておいてもいつかは空気中に霧散していく。普通に活動している魔物も動力となる魔力が枯渇すれば、消滅してしまう。だから積極的に他者に襲い掛かる獰猛さを持っているのだと推測されているが、まだ確証が得られていないのが現状である。

 こんな感じで脳内でまとめてみてはいるが、全ては屋敷での勉強会で知り得たもの。サク1人では恐らく知ることはなかったであろう学術的な知識だった。

 お試しが失敗だった言うことはもうこの森とはおさらば。しかしながら時刻はちょうど昼になったぐらい。夕方手前まで手伝ってほしいと聞いていたので、もしかしたら荷運びとかを任されるのかもしれない。

 次の手伝いのことをサクが予想していると、爪楊枝を収納方陣へとしまったタクは立ち上がった。懐から方位磁石を取り出し方角を確認すると、進むべき方向へと体を向ける。



「街まで荷運びを手伝ってほしいが、まだ時間がある。今からとっておきの所に連れてってやるよ」


「とっておきのところ?」


「ああ。店に来た旅人から話を聞いたんだ。この森を少し行ったところに、先代の守護騎士が住んでたらしき家があるらしい」


「先代の……? でも、こんなところに住んでた話なんて聞いたことないぞ」


「教科書や騎士団にも知られず、敢えて首都に近いこの森に住み、人知れず活動していた。って話だ。謎だらけだけど、嘘ともいえない。実際その家に証拠っぽいものもあるんだと」


「ほえ~。ちょっと面白そうに思えてきた。ハクはどう思う?」


「サクが行くなら行く。行かないなら行かない。私が大好きで、興味があるのはサクだからね」



 そういって微笑んでくるハクに心を射抜かれるサク。これまでの間で射抜かれ過ぎて穴だらけになっているが、まだ穴は増えてしまうようだ。

 照れてしまって口ごもってしまうサクだが、心を通して好意を感じ取ったハクは嬉しそうに腕に絡みついてきた。はっきりと腕に柔らかさを感じれば、否が応でも体は反応してしまう。仲睦まじい様を見せつけてくる2人に、タクは呆れ顔を浮かべながら言い放った。



「んじゃ行くぞ。付いてきてくれ」


「おう」



 いちゃいちゃする2人に少し冷ややかな視線を向けた後、タクは目的地があるであろう場所へ向けて歩き出した。

 タクの後ろについて行く間もハクはくっついたまま。動くことで擦れてしまうから割とシャレにならない。興奮しつつもしっかりと気を保ち、浮かれて転んだりしないよう注意しながら進んでいった。

 幸いにも魔物が出てくる気配はない。先ほどの一件で警戒しているのか恐れているのか、どちらにせよ無駄な労力を使わずに済むのはありがたいことだ。

 いくつもの木々の間を抜け、薄暗い森の中を進み続けること約30分。ようやくそのとっておきが見えてきた。



「見えた。あれか?」


「木造か……。入った瞬間に崩れ落ちたりしないか心配だな」


「ま、そうなっても大丈夫だろ、お前たち2人なら」


「「まあね」」


「綺麗にはもったな」



 絶妙な返しに驚いてタクが振り向くと、そこにはやりきったといった感じのどや顔を浮かべるサクとハクがいた。楽し気な様子の2人を鼻で笑ったタクは先に家へと行ってしまう。

 気持ち悪くされた恨みを晴らそうかとさらにうざったい追撃をかけようかと思ったサクだったが、家に少しずつ近づいていくたびにその感情が薄れていった。

 よく分からないが、懐かしい。まるで旅行先からに久しぶりに帰ってきたような感覚に陥る。いつもそこにいて、そこで過ごすのが当たり前だったような。

 気づけばサクはハクの腕から離れ、タクを追い越して家へと向かっていた。あそこに何かがある。何かが呼んでいる。それらの思いを胸にサクは無意識のうちに歩みを速めていった。

 所々が傷んでいる扉のドアノブに手をかける。するとそこから何かしらの封印魔法のようなものを吸収してしまった。役目を終えたかのように、扉はサクが力を入れる前に自然に開いていく。



「……はあ? なんじゃこりゃ。話と違い過ぎるぞ」


「すごい。外面は最悪なのに、中はこんなに綺麗なのか」



 サクの横から家の内部を見たハクとタクは目を丸くさせていた。まるで新築の家屋のような圧倒的に綺麗な空間が広がっていたからだ。

 使われている木材の心を落ち着かせる良い香りが漂う中へとサクは躊躇うことなく入っていく。随所に設置された魔力を動力とした照明が温かな光を放ち、内部を心安らぐ空間へと昇華させていた。

 すごく、ものすごく安心していることに部屋の中央まで移動したところでサクはようやく気付いた。まるで実家にいるような安心感に満たされている。



「あだっ!? な、何だこりゃ。入れねえ」



 心を和ませるサクの背後から聞こえてきたのは戸惑うタクの声。ちょうどハクが隣に来たところで振り向くと、扉から先を見えない何かで遮られてしまっているタクの姿があった。

 殴ってみても、体当たりしてみても、その何かはびくともしない。結界とはまた次元が違う力がタクの進入を拒んでいるようだった。



「駄目だ、びくともしねえ。しょうがない、俺は外で待ってるから中を探索してくれ」


「ああ、任せとけ」



 潔く諦めたタクはそういうと扉のところから姿を消した。どうやら家を周囲から見渡してみることにしたようだ。

 ハクと2人っきりになったところで改めて内部を見渡す。キッチンもあれば、生活するうえでの必需品は全て揃っており、隅にはトイレや風呂があると思われる扉もある。快適な生活を送れそうなところだ。金持ちの別荘とはこんなものなのかもしれない。もしかしてここに住んでた人は相当のお金持ちだったのか。

 様々な疑問が浮かび上がる中で、サクの視線があるところで止まる。そしてそれを確認するために、サクはゆっくりと棚の方へと移動していった。

 そこにあったのは木製のフレームが温かく感じられる写真立て。そこには収められている写真には、2人の男女の姿があった。まだ外面が綺麗な頃に撮ったと思われるそれを見て、ふとサクは思ったことを口にする。



「この女の人……、竜か? となるとこの男の人は――」


「ねえ、サク」


「ん? どうしたハクぅ!?」



 呼ばれてハクの方を見たサクは唐突に唇を奪われた。それもただのキスではなく、ディープの方だ。全てを欲するかのようなその艶めかしい舌の動きは、一瞬にしてサクの鼓動を跳ね上げさせた。

 状況が理解できずにただ興奮して体が火照る。嬉しくも戸惑っていると、ハクは顔を離して真っ直ぐにサクを見つめてくる。その黄金の瞳は、とても切ないといった感情を訴えていた。

 そこはかとなくにじみ出る色気はサクの心を盛大に惑わせる。このまま理性を吹き飛ばして欲望に身を任せてもいいかとも思えたが、外にタクがいるし、何よりここが他人家だということを自らに言い聞かせてギリギリで踏みとどまった。

 しかしながらこれが続けば間違いなくマズい。早く何とかしなければ。自制心のある少女状態のハクがこんな場所でこうなるなんて、絶対に何か原因があるはずだ。

 焦りつつも状況を打開するための案を模索し始めるサク。そんな頑張りを惑わすように、ハクはサクの手を取って自らの胸へと押し当てる。頭の中が真っ白になって口から体の内容物が全て出てしまいそうになるサクに向け、とろけるような甘い囁きが放たれた。



「ねえ……サク、しよう?」


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