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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第二部 第一章 ゆるふわな五日間
97/264

10 耐性なしには辛いよ


「サクー! 指輪見せてー!」


「おう。ほい」


「おおー……。これがアイリスとの……」



 待ち合わせの場所へと向かう道中にて、要求通りにサクは左手の指輪をハクに見せてあげた。ちなみに今日は少女状態だ。

 幼少女、少女、美女の3つの状態と竜へとハクは姿を変えることができる。今の少女状態は年齢的に言えばJKといったところ。初めてこの姿になったロメルのホテルでの朝は忘れられない。

 きらきらと瞳を輝かせながら体を寄せ、サクの左手に顔を近づけてくるハク。十分すぎるほどにまで大きい胸の柔らかくて温かな感触が腕に当たっている。無意識であることは分かっていても、当てられているサク本人は気が気でなかった。

 待ち合わせ場所は間近にまで迫っているため、出来れば早く離れてほしいとサクは願う。これから会う相手に内股になりながら声をかけるのは気が引けるからだ。



「そっか~、アイリスが……。私も……、えへへ……」



 ようやく離れてくれたハクはサクとの少し先の未来を想像してにやけている。可愛らしいその姿を微笑ましく思いつつ、男性としての反応が治まったことでの安堵のため息を漏らし名ながら歩を進めていった。

 今日はバンドゥーモが店長をやっている超有名カレー店、『我ら一番』の手伝い。街から少し離れたところにある森へと向かっていた。明日個室を用意してもらう見返りに頼まれたことで、乗り気ではないが断るわけにはいかない。

 ほどなくして、待ち合わせ場所である森の出入り口に到着した。『可能な限り立ち入り禁止』という曖昧な注意書きが書かれた看板の前に、見慣れた人物が立っている。



「おっす、『タク』。お待たせ―」


「お、来たか……?」


「ん? どうした?」


「……いや、何でもない。いつも通りだと思ってな」


「んん? どういうこと?」


「相も変わらずべったりだって思っただけだ。気にすんな」



 そういってため息をつき、少々冷ややかな目をタクは2人に向ける。いつも通りの見慣れた光景だとは言え、他者の視線などお構いなしに仲睦まじい様子を見せつけられるのは一人の男として寛容しがたかったようだ。

 このタクは、5年前においてサクがこの世界へ来るきっかけを引き起こした『金本かねもと たく』その人である。

 投獄中に何者かに襲われ、その身に潜んでいた邪悪な存在もろとも記憶の一部を失ってしまったのだ。その後はバンドゥーモと協力して監獄の制度を活用して僅か2年で出所した異例の人物の1人となり、『我ら一番』の店員兼用心棒、食材ハンターとして活躍している。

 以前のような禍々しい殺意は撒き散らしていない。見た目は少し怖いことに変わりはないが、話せばわかってくれるタイプの人物となった。今ではサクの友人のだが、ハクは完全に心を許していないようだ。

 確かに許しがたいことをした人物ではあるが、本人が覚えていないのであればしょうがない。街の一員として馴染み始めている彼を断罪する気はサクにはなかったし、これ以降も考えることはないだろう。



「んで、手伝いってどんなこと? やっぱり食材関係か?」


「ああ。ここに最近出没し始めた狼の魔物を狩る。そんで試し食いする」


「ああ、いつものか……」


「魔力の塊だから不味いとか言われてるが、まだ確かめたことがないからな。もしかしたら新しいメニューに使えるかもしれん」



 そういって少し楽し気な笑みを浮かべるタクは片手の指をぽきぽきと鳴らす。それをやると関節に悪いと前に教えたが、まだやめていないようだった。

 今回のように狩って美味かったら養殖できないかと試みるのが『我ら一番』のやり方。実際、店で使われる肉はバンドゥーモの選んだ動物を街の近辺にて独自で育て、出荷している。こだわりようが半端じゃない。

 最近嫌な話題の対象として上がることが多い魔物に手を出すその探求心は凄まじい。彼らであればどんなゲテモノであってもとりあえずは試すのだろう。

 感心しつつも少し引いてしまうサクとハクだったが、ここで帰るわけにはいかないと自らに言い聞かせる。これを終わらせれば、明日には絶品カレーが待っているのだから。



「んじゃ、出没情報のある中心部あたりまで行くか。はぐれないよう……つっても、ハクがいりゃ上空に離脱も可能か」


「そうだな。いざって時には頼むぞ、ハク」


「任せて。素早く変身して、しゅばっと飛ぶから」



 手を使って思い思いにジェスチャーしながら元気に応えてくれるハクだったが、動くたびに揺れ動くその胸に目がいってしまってまともに見てなかったとか口が裂けても言えない。

 天然のカーテンが太陽の光を遮る薄暗い森の中を3人は進み始めた。たまに吹く風が木の葉をざわめかせ、それによって生まれた隙間から陽光がちらちらと入り込んでいる。

 それほど不気味といった印象はなく、よくありそうな森のようにも見える。こうした光景を見ると、木々をうまく活用しているトングの美しい景色が蘇ってきた。

 あそこにもまた行きたい。いつか行く旅行の目的地に入れてもいいだろう。そんな感じで楽しそうにこれからを想像していたサクだったが、異変を感じ取って足を止めた。同様にハクとタクも止まり、周辺に意識を集中させる。



「……獣っぽい。それに、かなり血生臭い。近いな」



 面白くなってきたと言いたげな顔でタクはつぶやく。3人の鼻を刺激したのは街であればまず嗅ぐことはないであろう異臭。風上の方から漂ってくるそれを頼りに、その匂いの正体を探るために進んでいく。

 近づけば近づくほど異臭は強くなり、何かを噛み千切るような音と、荒々しい呼吸音が聞こえてくる。サクは若干気分が悪くなりつつも、前を行く2人と同様にいつでも戦えるように態勢を整える。

 そして、音と臭いの正体が目に飛び込んできた。少し開けた場所にある岩。その前に岩と同じ体色で、同じ大きさを誇る『何か』が一心不乱に地に押さえつけた狼の魔物を貪り食っていた。すでに息絶えた魔物の首から先は悲痛な表情であらぬ方向へ向いている。

 ちょっとどころか、だいぶ話が違う。どう見ても共食いには見えない。魔物を喰いちぎっては噛み砕き、飲み込んでいるのは北海道とかにいるヤバい奴。出没注意の看板でおなじみの生物だ。

 勝ち負けどうこうの前に普通にビビるサクを庇う様にハクが前に立ち、その横にタクが立つ。こんな陣形だが、この中で一番強いのはサクである。



「お、気づいた」


「サク、私たちが前に出るよ」


「気を付けろよ」



 サクたちに気づいた『熊』が振り向き、赤黒い口を大きく開いて吠える。そして、欲望を抑えることなく真っ直ぐにこちらに向けて接近してきた。

 テレビで言っていた通り、自動車並みの速さ。迫力ある見た目で突撃してくる熊だが、タクとハクがその場から動くことはなかった。それに合わせてサクも留まるが、今すぐにでも退避行動をとりたくて仕方がなかった。

 目の前まで迫った熊はタイミングよくそのたくましい右腕で殴り掛かってくる。普通の生物であれば一発でノックダウン可能なそれをハクは片手で受け止めた。

 一瞬驚きを見せたが、熊はすかさず左腕で攻撃を行おうとする。しかし、



「そら」



 一切の予備動作無しのタクの蹴り上げが熊の顎に直撃した。凄まじい衝撃は熊を吹き飛ばしただけでは済まず、周囲の木々を揺らす。弾き飛ばされた熊はまともに受け身をとることもできず、岩へとその身を打ち付けた。

 記憶を失う以前の戦いにおいて『創造主』の力を間借りして邪悪な存在を力として取り込み、大幅に強化された肉体は健在。たった今披露したのは、その強靭な肉体を使って狩りをするうちに独自に考え出した肉弾戦法。その破壊力は圧倒的の一言だ。

 岩から地面に落下した熊はその場をふらふらとしている。どうやら意識が朦朧としているようだ。あんな一撃をくらってまだ意識を保てているのも十分に凄い。

 これ以上無駄に苦しませないためにもタクは熊の方へと近づいていく。その後をハクと一緒に追うが、ここでサクはある異変を見逃さなかった。ハクも気づいたようだが、今から動いても間に合わない。

 咄嗟に周囲一帯を吸収したサクは、自分たちに敵意を向けてくる存在『全て』の動きを止める。そこには、間一髪な状況が出来上がっていた。



「うおっと。こりゃ結構やばかったな。すまんサク、助かった」


「どういたしまして。間に合ってよかったよ」


「流石だね、サク」



 空中に固定されているのは4匹の狼の魔物。好機と見なして一斉に襲い掛かってきたのだろう。この連携と狡猾さは一般人にとって脅威以外のなにものでもない。

 看板の注意喚起を厳重な物へと書き直した方がいいとサクが思っていると、タクは動きを止められている熊と魔物たちを手早く仕留めていった。次々と首や脅威となる部分があらぬ方向へと曲がっていく見慣れない惨い光景をサクとハク目の当たりにしてしまう。

 全てが完全に沈黙したところで一帯を展開すれば、魔物たちは力なく地に伏せた。味や鮮度を落とさないために初めて狩猟した獲物は解体までナイフなどは使わず素手で倒し確認を行うのが信条らしく、どれもが綺麗な肉体を残していた。



「んじゃ始めっか」


「あ、ちょ――」



 サクの制止を受け入れずにタクは収納方陣から取り出したナイフで狼の魔物の一体の首を切り落とした。グロ耐性のないサクはここまで何とか耐えてきたのだが、それによって一気に限界にまで気持ち悪さが高まってしまう。

 すぐにその場に背を向けるが、背後からは切断音や何かを引きずり出すような生々しい音が聞こえきた。耳を塞いでも、熊の食べ残しの異臭が鼻の方へとやってくる。

 何度かしたことのあるこの手伝いにおいて、この時間がサクにとって一番の試練だった。試し食いをするのはいいが、その工程を面白がってタクは見せつけてきたりするのだ。

 万能血抜き機が手に入ったとか言って目の前で肉を力任せに引きちぎったり、綺麗だとかいって目玉を手渡してきたりと、その度に散々な目に遭っている。早く終われと願いながらその場から離れようとしたサクだったが、その前方に回り込んだタクが笑顔で両手の平に乗せた物を見せつけてきた。



「一杯ころころ~ってか。ほれほれ、綺麗だよな~」


「……ああ、もう、無理」


「サグ、わだじも……」



 まだ輝きが残っている8つの目玉を見て限界を迎えた吐き気。心が繋がっているハクにも伝染してしまったようで、隣で青い顔をしている。お互いに顔を見合わせたあと近くの茂みへと急ぐ。

 記憶がなくなったとはいえ、前は凶悪犯罪者。そういった部分に興味があり、耐性があるからこそ楽しいのだろう。だが、サクは違う。



「オロロロロロォォ」


「うえええええぇえぇ」



 茂みに向けて勢いよく汚いナイアガラの滝が2つ形成された。その後ろ姿をタクは商品になる可能性のある魔物を解体しつつ、大爆笑しながら見守るのだった。

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