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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第二章 そうだ首都、行こう
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35 積極的なのね



「――さっきの薬で全部なんだよな、カーラ」


「はい~。間違いありません~」



 揺れる車内において、カーラの膝上に乗るサクはやってくるその時に対する覚悟を決めようとしていた。ここまで恐ろしくて解除できなかった吸血鬼状態を解除するときが迫っていたのである。

 非常時に備え、すぐに追加の薬を確実に投与するためにサクはカーラの膝上にいた。それも、向かい合った状態で。痛みで暴れそうになった場合は抱きしめて取り押さえるとカーラは言っていたが、そんなものは建前であり、それっぽい理由をつけて幼いサクと密着したいという魂胆が見え見えだった。

 それだとしても、頼れるのはカーラしかいないのは事実。地獄のような筋肉痛に苛まれるか、激ヤバショタコン攻めをくらうことへの覚悟を決めたサクは、意を決して元の状態へと体を戻した。



「っ――。お、おお」


「どうですか~、サク~」


「い、一瞬びりっと来たけど、大丈夫そうだ。こいつはすげえ。完璧だよカーラ」


「……お役に立てて何よりです~」



 サクの感謝を受け、少し間を開けてからカーラは微笑みを向けてきた。回復を喜ぶ気持ちと抱きしめることができなかった悔しさがそうさせたようだった。

 カーラの膝の上でサクは小さくガッツポーズをする。両方の危機から脱することができたことがサクは嬉しくて仕方がなかった。



「もういいかしら」


「はい~。問題ありませんよ~」


「それじゃ、もらうわね」


「おぉっと」



 カーラの正面にある座席に座っていたニーアがサクの腹部に手を回し、ひょいと持ち上げて自らの膝上へと持っていった。まるで大好きな人形を愛でるかのように、ニーアはサクをしっかりと抱きしめる。

 麻の服から目立たぬようにと予め騎士団が用意してくれた衣服に着直したニーア。その際にちゃんと下着も配布されたはずなのだが、サクの背面にあたる感触は明らかに生のもの。わざと着用せずにサクをからかおうとしているのは明らかだった。

 だとしても、そのことを指摘して機嫌を損ねるのはまずい。国家間問題への発展の恐怖と男としての喜びが入り混じり、まともに思考できないサクはただされるがままにいることしか見いだせなかった。

 そんな様子をハクとカーラは羨ましそうに見つめていたが、アイリスは呆れ顔を向けている。それはサクに対してではなく、ニーアに対してのものだった。



「……ニーア様」


「こら。駄目でしょアイリス。身分がバレないようにって気さくに話すって決めたじゃない」


「分かりました。いや、分かったわニーア」


「よろしい。それで、何が言いたかったのアイリス?」


「サクを抱き寄せる必要はないんじゃないかしら。恩人とはいえ、彼は見知ったばかりの異性。王女の妹君であるあなたがする行為ではないと思うのだけれど」


「あら。あたしがサクといちゃついてて嫉妬しちゃった?」


「い、いえ。そんなことはないわ。あるもんですか」


「へぇ~。そうなんだ~。それじゃあ、もっとすごいことしちゃおっか、サク」



 そういって小悪魔的笑みを浮かべたニーアは片方の手を下腹部へと当て、そこからゆっくりと下げていく。その先にあるのはサクのムスコだ。

 本来であれば大喜び案件だが、相手が相手故にサクは受け入れるべきか拒否すべきか分からないでいた。その顔は引きつり、無言のまま助けを求めるような目をサクはアイリスへと向けた。



「……!」


「ちょ、ちょっと! そこらへんにしときなさいよ! サクが困ってるじゃない!」


「そう? 私知ってるのよ。サクがこういうの好きだって。ほらほら。緊張しないでサク」


「だから止めなさいって――」


「お取込み中申し訳ありません。まもなく、目的地の『トング』へと到着します。降車の準備をお願いします」



 ごたごたの最中、運転席に繋がる小窓が開いて声がかけられる。そこにて運転を担当しているのは、いつもの4人組の内の1人だ。



「む。ざ~んねん。お預けね。じゃあ、準備しましょうか」


「た、助かった……。すまん、アイリス……」


「どうなるかと思ったわ……」



 ムスコへと伸ばされていた手は離れ、衣服や履物に問題がないかをニーアがチェックし始める。その膝上と隣にいる振り回された2人は、安堵と疲れが混じったため息をつくのだった。

 レカー団の件は騎士団とテンガが何とかしてくれることとなり、サクたちはニーアを連れて今いる場所から最も近い街である『トング』へと騎士団の大型車両を利用して向かうことになった。運転を担当するのはいつもの4人組の内の1人。まともに整備されていない道を徹底した安全運転でサクたちを街まで運んでくれたのである。

 その道中で吸血鬼状態の解除という鬼門以外に、ニーアの嬉恥ずかしな魔の手が迫るなど想定していなかった。以降もこんなことが続くのかと考えると精神が擦り切れそうな気がしてならないサクの視界は、少し暗くなっていった。

 太陽に雲がかかったのかと思ったが、違うようだった。大窓の外から、陽の光とは違う柔らかな光が入り込んできている。その光の正体を確かめるため、ニーアの膝上から離れたサクは大窓の方へと歩み寄っていった。



「明るい木の……、街?」



 凄まじい大きさの木が天高くそびえ立ち、青々とした緑の葉を茂らせて上空を覆っていた。これまたぶっとい木の枝からは、電灯とは違う温かな光が漏れ、木の下を照らしている。その木の表面を人が行き来しているのが見え、どうやら内部と周囲が人が住みやすいように整備されているようだった。

 超巨大な森林をそのまま街として活用している。サクのいた世界では見ることが不可能な幻想的ファンタジーな光景は、とても温かみのある雰囲気を醸し出していた。

 眼前に広がる光景に見惚れてしまったサクは、車両が街の外延にある駐車場に停車するまで窓に釘付けになってしまう。絶景を見て感動する機会が少ないサクにとって、トングの景色は一生心に刻まれるほどの衝撃を与えていた。



「到着です。忘れ物がないよう確認の上、ゆっくりと降車してください」


「はいは~い、ご苦労様。後で国の方から運賃多めに出させるから、楽しみにしておいてね」


「そうですか。ありがとうございます。今後の活動資金にあてさせていただきます」


「そうしなさいな。ほら、行くわよサク」


「お、おう」



 ニーアの呼びかけで我に返ったサクは、皆とともに降車していく。その輝いている目が一帯を見渡している間に、車両を再稼働させた4人組の1人は運転席の窓から顔を出してアイリスへと告げた。



「それでは、私はテンガ様の下へと戻ります。後々我々もここにやってきますので、それまでの別れとなりますね。ニーア様をよろしくお願いします」


「分かったわ。テンガにありがとうって伝えといて」


「了解です!」



 快活な返事をした1人は車両を発進させ、事後処理が続いている現場へと戻っていった。それを見送りつつ、サクたちはとりあえず寝床となる場所を探して街の散策を始めるのだった。



「自然豊かで、幻想的で、尚且つちゃんと街として機能してるのか。すごいなこりゃ」


「ここトングは、外国からの旅行者にも人気の街なの。自然と調和してる街は世界中にいくつかあるけど、ここはその中で最上位にあるとされているわ」


「ほえー。有名なんだな」


「今はゆっくり観光とかはできないけど、いつか皆で来ましょっか。サクも気に入ったみたいだしね」


「そうだな。この雰囲気は、大好物だわ」



 サクはアイリスと会話を交えながら、ゆっくりと街中を進んでいく。木の根元のあたりには店が立ち並んでおり、行き交う人も多かった。普通の人と動物の人の数はちょうど半々ぐらい。人と自然の温かさを感じながら進んでいくと、街の中でも大きめな木が密集している場所に到達した。

 それらの大きい木は居住用ビルとして開発されているものや、ホテルとして機能しているものだった。そこから少し離れた所には倍近い大きさを誇る巨木があり、その周辺は多く人で賑わっているのが見える。どうやら、その巨木こそがこの街最大の銘所であるようだ。



「向こう、人滅茶苦茶多いな……」


「どうしたのサク? もう皆入ってちゃったよ」


「ああ、すまん。今行くー」



 人の多さが気になってサクは足を止めてしまっていた。それに気づいたニーアに声を掛けられ、ホテルの中へと入っていく皆の後を急いで追う。追い付くまでサクの視線は人でごった返している巨木の方へと惹かれ続けていた。

 柔らかな趣ある入り口を通りぬけると、エントランスは観光客や遠方から仕事でやってきた人などで賑わっていた。アイリスが部屋の確保のために受付へと向かうと、思い出したようにニーアが呼びかけた。



「サクとあたしは同じ部屋で! ちなみに2人っきりでお願い!」


「……いいけど、サクを困らせないでね」


「百も承知だからら大丈夫よ。それと、他の皆もかたっ苦しいしゃべり方はなしで。忘れないでね」



 そういって有無を言わさぬ勢いで笑顔を振りまくニーア。それに同意するようにハクとカーラは頷く。その傍らでサクがこれからのことを想像して体を震わせていた。

 粗相は絶対駄目。欲望に身を任せるのも駄目。やってはならぬことを脳内で列挙し、それらを禁ずるようにとサクは自らに言い聞かせる。そんな感じで1人心の内で戦うサクの横で、ハクが羨ましそうな目でニーアを見据えた。



「いいなー、サクと2人っきりー。私もサクと一緒に寝たいのにー」


「恋人ならいつでもいちゃいちゃできるからいいでしょ。あたしはいついなくなるか分からないから、今日だけでも恩返しのために一緒にいたいのよ」


「ちなみにニーアはどんな恩返しをするんですか~? 気になります~」


「それは秘密。後でサクに教えてもらいなさい」



 笑うニーアはサクに対してウインクをした。芯の強さの中にも可愛さをのぞかせるニーアにサクは内心で満足を表す親指を立ててしまうが、いや駄目だろうと別の自分がその手をすぐさま下げさせた。

 しばらくしてアイリスが人混みをかき分けて戻ってきた。今回はうまい具合に部屋が確保できたようだ。夕食は3、6階のレストランに行くか、いつもと同じように鐘を鳴らしてホテルおすすめの料理を食べるかと、今回は食事に関しては幅広い選択肢があった。

 今後のことを考えながらも、とりあえず一度それぞれの部屋に向かうことにしたサクたちは、上層の階へと向かうために外へと出た。外壁のそばに設置されている大きな切り株のようなものにサクたちが乗り込む。すると、切り株の周辺が光り輝いてゆったりと上昇を開始する。

 謂わばエレベーターのような物。見る見るうちに街中を歩く人の姿が小さくなっていくのを確認することができた。見ろ、まるで人がゴミのようだ。懐かしい某パヤオ作品のキャラの迷言を頭の中でつぶやく。

 目的の階へとたどり着いた切り株は、サクたちを乗せたまま大木の中へと入っていく。自然そのものの廊下に降り立つと、切り株は次の乗客のために外へと出て何処かへと行ってしまった。ファンタジーってすごいと改めて実感しながら、サクは寝泊まりする部屋へと向かった。

 自然豊かな香り漂う中を進んでいき、ほどなくして部屋に到着した。今回とった部屋は2つ。隣同士なのでいざというときにはすぐに駆け付けることが可能だ。特にニーアのレベルの重要人物を警護するためのアイリスの措置だった。

 サクはあらかじめ手渡されていた鍵で開錠すると、すぐさまニーアに抱きかかえられた。それにサクは驚いていたが、構うことはないといった感じのニーアは笑顔でハクたちのほうへと向いた。



「それじゃーね。何かあったら呼ぶから」


「分かった。ゆっくり休んでね。重ねて言っておくけど、サクを困らせないでね」


「はいは~い。ありがと~」



 アイリスの返答に笑顔で答え、サクを抱きかかえたままのニーアは扉を開けて中へと入っていった。活気のあるその様子にサクのことが心配になりつつも、アイリスは鍵を開ける。

 そのドアノブに手をかけた時、隣の部屋の扉が開いてそこからニーアが顔だけを廊下に出してきた。



「ちなみに防音性はある?」


「たぶん、それなりに。でも、何でそんな――」


「ありがと!」



 アイリスがしゃべり終える前に、ニーアは楽しそうにしながら扉を閉めてしまった。部屋を分けたことが失策であったことを悔やむアイリスは、サクのことが心配で仕方がなくなってしまっていた。

 そのすぐ横ではハクがうらやましそうな顔をし、カーラはフワフワとした笑顔を絶やさないがどこか悔しそうな雰囲気が滲み出ている。呑気な彼女たちを見たアイリスは深くため息をつきながら部屋へと入っていくのだった。






     ◆








「サク、痒いところはない?」


「ないけど……、何で俺も一緒に入らなくちゃいけなかったの?」


「そりゃーもしかしたら入浴時にまた何かあったら困るじゃない」


「それにしては緊張の欠片も無いというか、どちらかといえば楽しんでいるようにしか見えんのですが」


「気にしなーい、気にしなーい。だって、サクはこういうの好きなんでしょ?」



 サクの頭を洗いながら、ニーアは健康的なその体を背に押し付けてくる。柔らかな感触を背後から感じ、押さえつけられない生理現象によってムスコが瞬時に大きくなってしまう。

 内股で隠そうとしてももう遅い。ばればれなそれを後ろから見て、ニーアが悪戯っぽく笑った。鏡越しに見えるその姿はとても可愛かったし、美しかった。

 心臓を高鳴らせるサクの頭を流し、ニーアは艶めかしい手つきで体を洗い始める。王女の妹なのに、どこでそんなテクニック学んだのだろうか。興奮冷めやらぬサクの心臓はどうにかなってしまいそうだった。

 ようやく洗い終え、ドキドキが少し収まってきたサクは風呂椅子から立ち上がるように促された。解放されたと思ったサクは、そのまま浴室から出ていこうとしたが、それをニーアが止める。



「さ、今度はあたしを洗ってもらうわよ」


「え゛」



 そういってニーアは風呂椅子へと腰かけた。鏡越しににやにやしながらサクのことを見ている。

 これ、俺で遊んでるよね。でもね、お風呂で洗いっことか、正直に言って最高です。夢のようです、はい。

 がっちがちにムスコも体も緊張しながら、サクはニーアに近づいていく。そして、息を整えつつニーアに背中越しに話しかけた。



「えっと、女の子を洗ったことないけど、が、頑張る」


「うん。ちゃんと綺麗にしてね~」


「お、おう」



 震える手を押さえつけながら、サクはこの男にとって最高の状況を心から楽しむことを決意し、恐る恐るその手を伸ばしていくのだった。

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