32-5 二大怪獣+高校生VS世紀の大悪党(自称)⑤
ビーム発射形態から拳ががしゃがしゃとやかましい音を立てて変形していく。ばらばらになった拳は前腕へと合流し、拳と腕の接合部分からは砲塔がにょきっと伸びだした。
『おらおらおらおらぁ!』
(うわわっ!?)
その砲塔から絶え間なくビームが撃ち放たれていく。所謂ビームマシンガンといった様相。本来ならば十分に過ぎる破壊力を誇るものだが、ハク相手では豆鉄砲程度にしか効果を発揮できていなかった。
ハクをその場に釘付けにすることは出来ていたが、熱線の準備を阻害できたわけではない。今度はトリモチをくらわぬように口元を手で覆い隠し、確実に放てるように魔力を圧縮させ始めていた。
バチバチと音を上げて発光する背びれを観測した計器がバンドゥーモに危機を知らせる。舌打ちしながら対策を取ろうとするが、今度は後方を警戒せよとの警告音が鳴り響いた。すぐさま後方カメラを確認すると、バレぬよう姿勢を低くして忍び寄るゴウが映っているのだった。
『でかい図体でバレねえとでも思ったか!』
後方のゴウを迎撃すべく巨人の肩装甲の上部がスライドし、いくつもの小型ミサイルが放たれた。空中を蛇行しながら進むそのミサイル群をゴウは格納庫内を縦横無尽に駆け回って回避していく。
兵器群の瓦礫から瓦礫へ。時には壁面だけでなく天井を蹴りつけて高速移動を繰り返す。その素早い動きに対応しきれないミサイルは格納庫の随所に衝突して爆散していった。
追ってくるミサイルを全て撒いて見せたゴウは再び巨人の背後に降り立ち、その首を刈り取るべく飛びかかる。鋭敏な爪と持ち前の筋力を活かした一撃。それをバンドゥーモは巨人の体を90度反転させ、右手に展開した盾形の結界で受け止めた。
その結界が耐久限界を迎えるまで、ゴウはひたすらに重打を繰り返す。先ほど薙ぎ飛ばしたときと違って掴みかかってこないために、バンドゥーモは防ぎ続けるしか方法がない。ゴウの迎撃を自動防衛制御機能へ任せる操作を終えたその時、外を映すモニターの右側で強烈な輝きが発生した。
コクピット内に脱出を推奨する警告音が鳴り響く。それを無視したバンドゥーモはビームでの攻撃を止め、全出力を両腕の盾形結界へと回すのだった。
(口からドォォーン!!)
『まぁだ終わらねえ!!』
放たれたハクの熱線に対し、バンドゥーモは巨人の盾形結界を”斜め”に構える。防ぎきれないのは分かっているからこその最善の対処法だ。
結界に熱線が直撃した瞬間、巨人に搭載されている機器が異常をきたして火花を上げる。それでも稼働不能に陥らなかったことに安堵するバンドゥーモの目には、盾形結界によって方向を大幅に逸らされた熱戦が映っていた。
逸れた熱線が向かうのは天井部分。分厚い特殊錬成合金製の天井を容易く溶解させた熱線は、地盤をも突き抜けて地上から空へと突き進んでいく。その照射が終わった後でまだ立っている巨人の姿を捉えたハクは驚きの表情を浮かべた。
(まだ戦えるの!?)
『終わらねぇっつっただろうが――』
(では私が終わらせよう)
『ぬおおっ!?』
発言の途中でゴウがそう告げた直後、巨人の体は右半分の方へと大きく傾く。驚きながらもなんとか調整して倒れずには済んだが、自動防衛制御機能がモニター上に『対処不能』の文字を表示させていた。
何事かと右側の方へと視線を移すと、そこには腕部にがっしりとしがみついたゴウの姿があった。放すまいとがっちりと掴みこみ、前腕と上腕を引きはがそうとしている。
『て、てめえ! は~な~れ~ろ~!!』
(断る)
ゴウを振り払おうと右腕を上下左右に大きく揺さぶるも、全く離れる気配がない。それどころか、揺さぶったことによる遠心力が加わって関節部が悲鳴を上げてしまう。
このまま千切られようものなら発生した過負荷で残る機体全身が駄目になる可能性がある。それだけは避けたかったバンドゥーモは、舌打ちしながらとある操作を実行するのだった。
(む。やったか)
『俺の方から切り離したんだよ馬鹿が!』
緊急用の各部パーツ分離機構を駆使し、ゴウがしがみついたままの腕をバンドゥーモは巨人本体から切り離した。これで動力源である特大コアが1つ失われることとなる。
出力の大幅減少は避けられないが、最も恐れた事態を回避できた。出力不足に陥っても使用できる装備類があったのだ。それを可能な限りサクへと見せつけるために、機能停止に追い込まれるわけにはいかなかったのである。
切り離されて床面へ落下した腕部をゴウは粉砕すべく何度も力一杯踏みつける。そちらに気を取られているうちにバンドゥーモが巨人の姿勢制御に尽力していると、左側から再び金色の輝きが発生し始めていた。
『させねえ!』
(うわわっ!?)
熱線を放つ準備を進めるハクの首に、巨人の左腕に仕込まれていた特殊錬成合金製のワイヤーが射出され、巻き付いた。それを引きはがそうとハクが手を伸ばすよりも早く、巨人は動き出す。
『うおぉらぁ!!』
(ひゃあ!?)
残る出力と推進剤を全開にし、ワイヤーを引っ張ってハクを強引に引き寄せる。突然のことでバランスを崩してしまったハクは前のめりの状態で倒れていった。
倒れたハクを巨人はさらにもう一度強く引っ張った。直後、機体各部に搭載されているバーニアを噴かした巨人は、火花を散らしながら体前面を盛大に引きずっていくハクの頭上を一回転しながら飛び越え、巻き付きを解除したワイヤーを腕部へと格納していった。
(あいだぁっ!?)
(ぬおっ!?)
結構な勢いで滑っていったハクは、腕部の破壊を試みていたゴウに激突してしまった。想定外の衝撃にゴウは対応できず、ハクの上に圧し掛かるように崩れ落ちてしまう。折り重なった2体が無防備になった隙を見逃さず、華麗に着地した巨人は使用可能な全射撃兵装の照準を定め始めた。
胸部の装甲が下方へスライドし、内側から合計で4門の実弾タイプのガトリング砲がせり出す。先ほどゴウへと放った両肩の小型ミサイルの残弾全てを放出するよう設定し、残った左腕の砲塔の先端を2体へと向けた。
そして、次の瞬間。
『全弾、一斉射ァ!!』
展開した射撃兵装全てが、一斉に火を噴いた。弾薬の雨はまともに身動きができない2体に降り注ぎ、弾着で発生した煙が一帯に充満していく。全弾を使い果たすまで続いた攻撃は、圧巻の一言だった。
ガトリング砲とビーム砲の先端は耐熱限界を迎えたことによって赤々と熱を帯びる。緊急用の冷却ガスが噴き出して各兵装を冷却する間、バンドゥーモはやり切ったような表情をコクピット内部で浮かべていた。
徐々に晴れていく煙の中にサクの姿があった。感服したといった顔で巨人を見つめている。それをモニター越しに横目で確認したバンドゥーモはさらに口元を緩めていった。
ロマンを詰め込んだ巨大人型兵器。出力不足で全兵装を使用することは叶わなかったものの、その戦いぶりは見事なものだった。大抵の存在であれば難なく撃破することができるだろう。だが、最初にして最後となった相手は強大に過ぎた。
(ドォォーン!!)
『んぐっ!?』
まだ晴れ切っていない煙の向こう側から放たれた熱戦が巨人の頭部に直撃し、跡形もなく吹き飛ばした。巨人はよろめきつつも何とか持ちこたえる。さらなる追撃をくらわせるため、ハクは翼を動かして発生させた風圧で煙を払って視界を確保するのだった。
白銀の体表にはかすり傷こそ出来ていたが、活動への支障はなし。理不尽ともいえるほど強靭な肉体を有するハクに、バンドゥーモは呆れ顔でため息をついてしまう。損傷率が限界値にまで達したことで緊急脱出装置が作動し、コクピット内部では強制離脱までのカウントダウンが始まっていた。
ここまでやれたことに悔いはないと思えたバンドゥーモはしみじみとした表情で強制離脱の時を待つ。正面のモニターを見据える彼の目には、熱線を放つ準備を整えたハクの姿があった。
(もいっかいドォォーン!!)
眩い輝きが、バンドゥーモの視界を埋め尽くした。直撃した熱線は巨人の下半身を瞬く間に蒸発させていく。爽快感溢れる敗北を受け入れたバンドゥーモは、強制解放されたコクピットから外へ向けて座席ごとはじき出されていった。
座席後部からパラシュートが展開されるも、それが開くよりも早く落下してしまう。その衝撃でシートベルトは外れてしまい、バンドゥーモは座席から投げ出されて床面を派手に転がっていった。上下左右が判別できないほどに目を回すバンドゥーモは、ゴウの前足に下腹部から下を押さえこまれたことで止まるのだった。
これにて決着。ゴウに拘束されたまま抵抗する様子を見せないバンドゥーモへとサクはゆっくりと近づいていく。ようやく感覚が安定してきたバンドゥーモもサクを視界に捉えていた。
「……やるじゃねえか天才野郎」
「伊達に天才やってねえんだよ」
「そうか。今度娑婆に出たら、その才能を人が喜ぶようなものに使えよな」
「小僧如きにお説教されるとはな。俺様も落ちぶれたもんだ」
「確かに落ちぶれたかもしれないな。でも、俺が思うにあんたはすぐにでも底辺から這い上がってきそうな気がするぞ」
「なんだ。分かってんじゃねえか小僧」
「だろうと思っただけだよ」
そんな感じに言葉を交えた2人は、無意識のうちに互いに笑みを浮かべていた。想定外な2人の様子を見たハクとゴウは、その光景を不思議そうに眺めている。
決して許されない悪行を実行した事実は覆せない。それでも、視線の先にいるバンドゥーモからは悪人としての気配が感じられなかった。自己主張の激しい髭面から滲み出ているのは、多くの者から慕われそうな兄貴分の雰囲気だった。
バンドゥーモのこれからに期待するサクは、自分自身が彼を目覚めさせたことに気づいていない。対するバンドゥーモはそのことに気づいており、であるならばと礼を直接告げることはなかった。これからの行動で自らを取り戻させてくれた恩を返すことを決め、バンドゥーモは内に秘めた闘志を滾らさせていた。
「よし。それじゃあ地上に戻ろうか」
(そうか。では、今回の私の役目はここまでだな)
「行くのか、ゴウ」
(ああ)
「今更思ったんだけど、この姿でも俺だってわかるんだな」
(見た目は変わっても、力は変わっていないからな)
「ほへー。そうなのか。ま、なにはともあれ協力してくれてありがとうな」
(仕える身として当然のことをしたまでだ。では主よ、また会おう)
「ん? 待ってくれゴウ。ハクじゃなくて俺が主なのか?」
(当たり前だ。お前以外の誰がいる)
そう告げたゴウは押さえつけていたバンドゥーモを器用に掴んでハクの胸下へと投げつける。慌てながらもそれをハクが受け取ったところで、ゴウは格納庫への進入経路を壁蹴りジャンプの要領で鮮やかに駆け上って去ってしまった。
守護騎士には高等魔生物を複数従えるような力か何かがあるということなのだろうか。新たな疑問が生まれながらも、サクは少々息苦しさを感じていた。爆発炎上した兵器群によって薄れ始めていた酸素量がいよいよ限界に近付き始めているようだった。
「爆発と炎上のせいか、苦しくなってきたな」
(そうだね。私たちもいこっか)
「だな。ハク、空いてるもう片方の手で俺を掴んで、地上まで連れてってもらっていいか?」
(お安い御用だよ)
頼まれた通りにハクはサクの下半身から下を大きな手で優しく掴み上げた。落ちることがないようにハクのざらざらとした体表を掴むサクに、ハクは笑顔を向ける。
(掴まっててね、サク)
「おう。安全重視で頼むぞー」
「ちょ、ちょっと待ったデカいの!? もっと俺様を丁重に扱えよ――」
(いっくよ―!)
「だああぁぁぁあ!? 頭に血が上るぅぅぅぅ!?」
その背を翼を広げ、ハクは飛び立った。サクに負荷がかからない程度に速度を上げつつ、降りてきた経路をたどって地上へと上昇していく。心地よい風を感じるサクの横で、わざと逆手に掴まれて地に頭を向けた状態のバンドゥーモは悲鳴を上げ続けるのだった。




