32-4 二大怪獣+高校生VS世紀の大悪党(自称)④
自信に満ちたその声が格納庫に響いた直後、巨人は駆けだす。その動きを見たサクは驚きで目を見開いてしまった。
「は、早っ!?」
ハクと同じぐらいの巨躯。相当の重量があるはずなのにも関わらず、その稼働速度は人と何ら変わらぬほどだった。大きく腕を振って走る巨人は、格納庫の床面を踏み込むたびに歪ませながらサクたちへと瞬く間に距離を詰めていく。
デカくて重ければその分だけエネルギー消費量は多く、全体にかかる負荷も莫大なはず。それを耐えるだけの強度とエネルギー源を巨人は有しているということになる。この洗練された技術力を私利私欲のために使っているバンドゥーモのことが、サクは惜しい存在としか思えなくなっていた。
説得したくとも、頭に血が上っている状態からして不可能。であるならば、少々手荒なやり方で止めるしか方法はない。向かってくる巨人にサクが決意を固めて身構えると、その頭上をゴウが飛び越えていった。
荒々しい雄たけびを上げてゴウは巨人へと飛びかかっていった。強靭な右前足による一撃が巨人に迫る。
『邪魔すんな!!』
振り下ろされたゴウ右前足を巨人は円形の盾の形をした結界を腕部に展開して受け止めた。追撃の左前足もその結界で受け止め、そのまま腕を横なぎに払うことでゴウを壁面へと追いやって見せた。
(ぐっ――!?)
「ゴウ!」
背を壁面に強打し、床へと崩れ落ちるゴウにサクは思わず声を上げてしまう。大きく凹んだ壁面が衝撃の大きさを物語っている。心越しに感じる鈍い痛みは相当辛いものだと感じ取れた。
ゴウのことが気がかりだが、その一瞬の攻防で巨人との戦闘が油断を許さないものだとはっきりと知覚したサク。同時に巨人がカッコいいと少年心がくすぐられてしまいながらも、先日の『何か』との戦闘と同じぐらいの緊張感で身心が満たされていった。
『次はお前だ小僧ぉ!!』
ゴウとの接触で僅かに落ちた速度をすぐさま持ち直した巨人はサクの目前にまで迫る。恨みの念がたっぷりと込められた巨大な拳を固く握りしめ、渾身の右ストレートを身構えるサクに向けて繰り出した。
(させない!)
『んヌっ!? またてめえかデカいの!!』
サクの視線数十センチ先で、ハクが巨人の右拳を左手で受け止めた。「パァン!」といった感じの派手な音が響き、発生した風圧と衝撃がサクの体を振動させる。
邪魔するハクを排除するべく、巨人は左拳を脇腹目がけて突き出す。それを見切っていたハクは右手で受け止め、取っ組み合いの構図が出来上がるのだった。
押し返そうと踏ん張るハクに対し、バンドゥーモが操縦する巨人は両腕部の特大コアの出力を上げて押し切ろうとしている。頭上数m上で展開される力の比べ合いは拮抗しており、彼らの眼下にいるサクはその光景に気圧されてしまって数秒の間固まってしまっていた。
踏ん張りを強めようと両者が僅かに足の位置を調整した振動で我に返ったサクは、すぐさま『サクスペシャル3』を駆使して巨人の内側からの破壊を試みる。地上と同じように破壊したい下半身辺りに両手を伸ばし、意識を集中させていく。
だが、
『させるか!』
その行動を察知したバンドゥーモは取っ組み合いを左足だけで継続できるように調整し、自由に動かせるようになった巨人の右片足による鈍重な足払いをサクに繰り出した。
「おがっ――」
(サク!?)
脚部背面側と足裏に搭載されたバーニアが青い火を噴き、足払いの威力を高める。強力な一撃を左半身にまともにくらったサクは壁際にある兵器群の残骸の方へと弾き飛ばされてしまった。それを見ていたハクは悲痛の声を上げる。
すぐさまサクの下へと向かいたいハクは片足立ち状態の巨人を吹き飛ばすため、取っ組み合いを続けながら熱線を撃ち放つ準備に移った。口元へと超高圧縮された魔力が輝きとなって漏れ出す。しかしながら、サクと同じくバンドゥーモはそれを易々と見逃すことはなかった。
『てめえもだデカいの!』
(んぶっ!?)
胸部の装甲がスライドし、小型の砲塔が姿を現す。その狙いをハクの口元に定めた砲塔から特製トリモチが連射され、ハクの口に纏わりついていった。数秒も経たぬうちにトリモチで隙間なく覆われたハクの口は、開けることができなくなってしまう。
対象物拘束用に搭載していた特製トリモチの効果は抜群。引きはがそうにも両手が塞がっているため、上手くいきそうにない。非常に苛立った様子のハクにコクピット内部でご満悦といった笑みを浮かべるバンドゥーモは、特大コアの出力を最大にまで引き上げた。
ぎしぎしと各関節部から音を上げる巨人は、遂にハクの力を上回った。両拳を強引に突き出すことで掴んでいたハクの体勢を崩し、今度は勢いよく両拳を引いてハクの手から逃れ出る。そして自由となった拳を変形させ、鋭くなった先端に魔力を集約させ始めた。
空気中と機体の魔力。それらと腕部に貯蔵してあるバンドゥーモ特製粒子を混ぜ合わせて圧縮し、亜拘束まで加速させて発射する。ファンタジーもびっくりなこのトンデモ科学ビーム兵器は、バンドゥーモが自信を持って世に送り出そうとした代物だ。
魔力と粒子は混ざり合って収束し、拳の先端から緑色の輝きを放ち始める。圧倒的な威力を誇る名もなき兵器はようやく体勢を立て直したハクへ真っ直ぐに向けられていた。勝利を確信したバンドゥーモの声が、外部スピーカーから格納庫全体に木霊した。
『こいつでくたばれぇっ!!』
そして、緑色の極太ビームが巨人の両拳から射出された。もう避けることなどできない。ハクが崩れ落ちたその時に高笑いを上げるため、バンドゥーモは口は大きく開いていく。
『はあぁっはっはっはぁ!?』
我慢できずに先走り笑いをするバンドゥーモ。だが、その笑いは途中から驚愕のモノへと変わってしまう。
『んじゃ、そりゃあ!?』
その背に生えた雄大な翼でハクは前方を覆い、ビームを防いだのだ。翼に弾かれた極太ビームは幾多にも分散し、格納庫の至る所を赤く溶解させていった。
永遠に続くとも思えた試行錯誤の末に生み出した現行の兵器を遥かに超える威力持つ自信作。それを、眼前の存在は難なく破った。驚愕や絶望をも通り越して、バンドゥーモの心は真っ白になり始めてしまった。
(熱かった!)
そんなバンドゥーモに追い打ちをかけるように心越しに響いたのは元気そうなハクの声。少々赤くなっている翼を後方へと戻し、口を覆っていたトリモチを無理矢理手で引きはがしていった。
『なんだよ……。何なんだよそりゃあ……!』
何の問題もなく立つその姿を見て、バンドゥーモはこれまでの自分の何もかもが否定されているような気がしてならなかった。操縦桿を握る手の力は無意識のうちに強まり、わなわなと震える。
もう、これからどうしていけばいいのか。夢であり目標である世紀の大悪党の道を断たれ、ここまでの人生をも否定された。戦闘の最中で、バンドゥーモは生きる道を失ってしまう。そんな彼の耳に、警戒音が飛び込んできた。
左側面に気を付けろという警戒音に従い、バンドゥーモは心ここにあらずといった空虚な目をその方向へと向ける。その視線は、瓦礫となった兵器に佇むとある存在を捉えた。
『……はぁ?』
そこにいたのは、サクだった。
『何だ、その目は』
キラキラと瞳を輝かせてこちらを見つめるサクが、そこにいたのだ。
「ん、んん゛っ! や、やるじゃねえか天才野郎。だが、ハクには勝てなかったみたいだな」
外部スピーカーから漏れた声に気づいたサクは、慌てて咳ばらいをして真剣な表情へと戻って巨人へと近づいていく。その気になればすぐにでも加勢できたのだが、ハクに対抗して巨人に敵ながら見惚れてしまっていたのだ。
(あの目は……。”昔の俺様”か……)
そんなサクの姿に、バンドゥーモは見覚えがあった。正確に言えば、自らもその一員だった。かつて幼い頃、両親と共に『インスタント』と言う国に赴いた際、同じように瞳を輝かせていた。
異界から取り入れたとされる技術で発展する国が、インスタントという国だった。そこにて活躍していたのが、人型の機械人形。人々の手助けとなる人型サイズのものもいたが、何よりも心奪われたのは魔物の討伐や大規模工事のために製造された大型の機械人形だ。
幼い頃に間近で見たそれをいつか自らの手で作り上げ、世に送り出したい。役立ててもらいたい。そういった思いを胸に生き続け、紆余曲折の果てに今現在へとたどり着いた。いつからこれほどに歪んだものとなったのか。こうすることでしか資金を集められなかったということだけは、嫌になる程脳裏に焼き付いていた。
資金を得るために悪の道を進み、そんな中で自分が折れないために”世紀の大悪党”になると目標を立てたことを思い出す。それに躍起になることでかつての想いを忘れてしまっていたことに、バンドゥーモは今になって気づくのだった。
『――はは。そうかよ。とんだお笑い種だ。俺様は俺様を見失ってたってことかい』
人々の助けとなるはずが、真逆の存在へとなり果てていた。そんな自分自身に呆れ、バンドゥーモは深く、深く、ため息をつく。そこに既に戦意は微塵にも残されていなかった。
その手は、コクピット開閉のための操作をするために動き出す。もはや戦い続ける意味を見いだせない故の行動だった。全く動きを見せない巨人を警戒し続けるハクを他所に、着々と手を進めて行く。
全てが終わり、後は手元のスイッチを押すのみ。そこへと指先を伸ばし始めたバンドゥーモの耳に、サクの声が入り込んできた。
「ごちゃごちゃ言ってるみたいだけど、これで終わりなのか天才野郎。まだ隠し兵器とかあるんじゃねえのか?」
煽るような発言に、バンドゥーモは思わず手を止めた。怒りが湧き上がることはなかったのだが、奇妙な違和感を抱いたからだ。
「ハクも俺も、あそこにいるゴウもまだまだ健在だぞ。ほらほらどうした。かかってこいよ」
(そうだ、そうだー! かかってこーい!)
サクの煽りにハクも乗っかる。しかしながら、その煽りに違和感をバンドゥーモは抱いたことに気づく。ハクとは違い、サクからはどことなくこちらへの期待が含まれているような感じがしたのだ。
その気になれば攻撃はできる。いつでもこちらを倒せる。だのにもそれをしない。答えは明白。小僧はまだ見ぬ巨人の機能を見たがっているのである。
それに気づいたバンドゥーモの沈み切った心の奥底から、ふつふつと感情が湧き上がってくる。それは怒りでも、憎しみでもない。見ている小僧からの期待に応えようとする”活力”だった。
『――言ってくれるじゃあねえか小僧』
「お? やる気になったか」
『おうともよ。だが、お前じゃ役不足だ。そこで突っ立って見てな』
「ほほう。言ってくれるなねえか。ならそうさせてまらおうか。ハク、やっちゃっていいぞ」
(うん! いっくよー!)
『行くぞデカ物! 俺様の全てを受けてみなぁ!!』
やかましくも勇ましく、活力みなぎる声が格納庫に轟く。そこにあるのは、自分を取り戻した暑苦しくもやかましい男の姿だった。




