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猫のオマケで転生した俺、ハズレスキル【ヒロインインストール】を武器に追放聖女と最強レギオンを目指す  作者: 木風
第一章

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第六話 お前が嫌がるなら、使わない

 リュミエラの問いに、俺はすぐ答えられなかった。

 答えたくないのではない。答えがない。

 俺の方こそ聞きたいくらいだった。


 草原には、さっきまでの戦闘の跡が残っている。

 踏み荒らされた夏草。落ちた短剣。地面に転がる折れた矢。リュミエラの肩から流れた血が、白い装束に細い線を作っていた。

 遠くの木立の向こうでは、逃げていった男たちの足音がもう聞こえない。

 だが、追ってこないと決まったわけではない。


「俺の固有スキル、だと思う」


 ようやく絞り出すと、リュミエラの指先がぴくりと動いた。


「固有スキル……?」

「ああ。今までは、まともに使えたことがなかった。表示されていた名前も、意味不明で」

「どのような名前だったのですか」

「【ヒロインインストール】」


 リュミエラが沈黙した。

 数秒後、すみれ色の瞳がゆっくり俺を見る。


「……女性を、集める能力ですか」

「やめろ。語弊がありすぎる」

「にゃぁ」


 コハクが俺の足元で鳴く。

 同意なのか追撃なのか判断に迷う声だった。


「今、初めて表示が変わった。月光戦姫型って出た。それで、お前に力が入った」

「月光、戦姫型……」


 リュミエラは言葉をひとつずつ確かめるように繰り返した。

 その顔には、まだ怯えが残っている。

 当然だ。

 自分の身体が急に別の何かへ変わり、知らない戦い方で敵を退けた。勝ったからよかった、で済ませられる話ではない。


「すまない」


 俺は頭を下げた。


「お前に確認する前に使った」

「……あの状況では、仕方なかったと思います」

「仕方なくても、怖かっただろ」


 リュミエラは何も言わなかった。

 否定しない沈黙が、答えだった。

 夏草を撫でる風の音が、急に近くなる。彼女の呼吸は浅い。肩の傷もあるし、型とやらの反動もあるのだろう。


「次に使うときは、必ず先に聞く。いや、使わないで済むなら使わない」

「……使わないのですか」

「お前が嫌がるなら、使わない」


 リュミエラの瞳が揺れた。


「でも、私は……あの力がなければ、先ほどの人たちに連れていかれていました」

「そうだな」

「なら、役に立つ力です」

「役に立つかどうかだけで決めたくない」


 言ってから、少しだけ自分の声が硬くなったのに気づいた。

 さっきの男たちが、リュミエラを物のように扱ったことが、腹の奥にまだ残っている。

 連れていく。回収する。拾ったところで得がない。

 どの言葉も、人に向けるものではなかった。


「俺のスキルが、お前を道具みたいに使うものなら、俺は使い方を間違えたくない」

「……道具」


 リュミエラは小さく呟いた。

 その声に、薄い痛みが混じる。

 俺はしまったと思ったが、もう遅い。


「神殿でも、よく言われました。聖女は、祝福の器だと。神意を受け入れる清らかな器であれと」


 器。その言葉が、妙に冷たく草原に落ちた。

 俺は唇を引き結ぶ。


「……嫌な言い方だな」

「当たり前だと思っていました。私は、そういうものなのだと」

「違うだろ」


 思わず言葉が出た。

 リュミエラが瞬きをする。


「お前は器じゃない。少なくとも、俺はそう扱いたくない」

「でも、先ほどの力は、私の中に何かが入ってきました」

「だから怖いんだろ。俺も怖い。使った俺が言うなって話だけどな」


 自嘲気味に笑うと、コハクが俺の靴を前足で叩いた。

 慰めなのか、反省しろという叱責なのか、こいつの猫パンチはいつも情報量が多い。


「ただ、ひとつだけわかることがある」

「なんですか」

「さっき、お前は俺を助けようとした。自分だけ連れていけって言おうとして、それでも最後は俺の隣に立とうとした」


 リュミエラの手が、胸元で止まる。


「あの力が出たのは、たぶんその瞬間だ。お前が誰かを守ろうとしたから、ああいう型が出た。少なくとも、俺にはそう見えた」

「私が、守ろうとしたから」

「ああ」


 リュミエラは、草の上に落ちた自分の影を見つめた。

 長い銀髪が頬にかかり、表情の半分を隠す。


「……聖女ではなくなっても、誰かを守ろうとしていいのでしょうか」

「許可がいることなのか、それ」

「今までは、必要でした。祈ることも、癒やすことも、誰に祝福を与えるかも、私が勝手に決めていいものではありませんでしたから」


 言葉に、喉が詰まる。

 聖女という響きから想像していた華やかさは、彼女の話の中には少しもない。

 神殿。王宮。命令書。新しい聖女。会ってもくれなかった王太子。

 その全部が、リュミエラという一人の少女を、少しずつ削ってここまで運んできたのだろう。


「じゃあ、今は勝手に決めればいい」

「勝手に?」

「そうだ。俺も勝手に決めた。お前を渡さないって」

「……それは、危険です」

「もうだいぶ危険だっただろ」

「そうですが」

「それに、首都へ戻す方がもっと危ない」


 リュミエラの顔から、血の気が引いた。


「……首都」

「戻りたいのか?」


 彼女はすぐには答えなかった。

 遠くの街道の方を見る。草の向こうに、首都へ続く道がある。彼女が追い出され、ひとりで歩いてきた道だ。


「戻る場所は、ありません。神殿には新しい聖女がいます。王宮にも、私はもう不要です。力を失った聖女が首都へ戻れば、混乱を招くだけです」

「さっきの連中もいるだろうしな」

「はい。彼らが神殿の者なのか、王宮の者なのか、あるいは別の誰かに雇われた者なのかはわかりません。ですが、私を探していたのは確かです」

「王太子本人の命令かどうかも、まだわからない」


 俺がそう言うと、リュミエラは目を伏せた。


「……はい。殿下ご本人が、あのようなことを命じたのかどうかは、私にはわかりません。最後にお会いすることもできませんでしたから」


 その声には、怒りよりも深い疲労がある。

 俺は傷口に布を当て、持っていた残りのポーションを少しだけ染み込ませた。

 安物でも、肩の傷には多少効いたらしい。滲んでいた血がゆっくり止まっていく。


「なら、首都には行かない」

「……カナタ様」

「様はいらないって言った」

「……カナタ」

「それでいい」


 なぜか少し照れくさい。

 呼び方ひとつでそんな顔をするな、と自分に言いたくなる。

 コハクが俺の横で大きくあくびをした。緊張感の回収が早い。


「でも、首都へ行かないなら、どこへ」

「まずは街道沿いの宿だ。お前は休め。俺も頬が痛い。コハクはたぶん干し肉が食いたい」

「にゃ」

「ほら、肯定が強い」


 リュミエラがほんの少しだけ目を丸くした。

 笑ったわけではない。けれど、先ほどまでの空っぽな表情よりはずっといい。


「その後は?」

「その後か……」


 俺は剣を鞘に戻し、落ちていた短剣を足で遠くへ押しやった。

 男たちが戻ってきたとき、武器を拾われるのは面倒だ。

 空は少しずつ赤くなってきている。日が落ちる前に動かないと、本当にまずい。


「俺はレギオンを作る」


 口に出すと、思ったより腹の底に重く落ちた。


「どこのレギオンにも入れないなら、自分で作る。最強のレギオンだ。笑うなら笑っていい」

「笑いません」


 リュミエラの返事は早かった。


「どうして」

「カナタは、先ほど本当に私を守ろうとしてくれました。無茶で、危なっかしくて、あまり計画性はなさそうですが」

「そこまで言う?」

「でも、笑うことではありません」


 彼女は弱々しく息を吸い、それから続けた。


「誰にも選ばれなかった人が、自分で居場所を作ろうとすることを、私は笑えません」


 言葉が、まっすぐ胸に刺さった。

 俺は少しだけ視線を逸らす。

 レギオンの面接に七回落ちた俺と、聖女の座から追われたリュミエラ。

 並べるには重さが違いすぎる。だが、どこにも入れなかったという一点だけは、妙に似ているのかもしれない。


「じゃあ、暫定目標だ」

「暫定」

「まずはお前が安全に寝られる場所を探す。次に、俺が食いっぱぐれない仕事を探す。その先で、レギオンを作る」

「……順番が、現実的ですね」

「七回落ちた男は、夢だけでは宿代が払えないことを知っている」

「説得力があります」

「そこは褒めてるのか?」

「少しだけ」


 リュミエラの唇が、ほんのわずかに緩んだ。

 笑顔と呼ぶには薄い。けれど確かに、さっきまでなかった表情だった。


 俺は彼女に手を差し出す。


「立てるか」

「……少し、支えていただければ」

「了解」


 リュミエラの手を取り、慎重に立たせる。

 軽い身体がまたこちらへ傾いた。今度は、さっきよりも少しだけ自分の足で踏ん張っている。

 コハクが先へ歩き出した。

 夕暮れの草原に、猫の小さな尻尾がぴんと立つ。


 俺たちは、首都とは反対側の街道へ向かった。

 誰にも選ばれなかった俺たちが、どこへ行けばいいのかなんて、まだわからない。

 それでも、ひとつだけ決めた。


 俺はレギオンを作る。

 そして、少なくともこの少女を、もう一度誰かの都合で捨てさせたりはしない。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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