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猫のオマケで転生した俺、ハズレスキル【ヒロインインストール】を武器に追放聖女と最強レギオンを目指す  作者: 木風
第一章

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第四話 降臨を実行しますか?

 俺はリュミエラの肩を支えたまま、剣の柄に手をかけた。

 まずい。片手は彼女を支えるために使っている。まともに戦うなら、両手がほしい。だが今ここでリュミエラを地面に戻せば、次に立たせるまでに時間がかかる。

 コハクが低く身を沈めた。

 尻尾は草に触れそうなほど低い。耳は完全に伏せられている。

 つまり、ただの通行人ではない。


「リュミエラ、少しだけ我慢しろ」

「……はい」


 リュミエラの返事は弱い。

 けれど、さっきより意識ははっきりしている。細い指が俺の袖口をつかんだ。力はない。だが、倒れまいとする意思だけは伝わってきた。


 草を踏み分けて、三人の男が姿を現した。

 一人は鉄の剣。

 一人は短い槍。

 一人は弓。

 革鎧は薄汚れているが、完全な野盗というほど雑でもない。装備は安物でも、動きに無駄が少ない。少なくとも、街道で偶然出くわした農民ではなかった。


「いた」


 剣を持った男が、リュミエラを見るなり口の端を歪めた。

 俺の背筋が冷える。

 探していた。こいつらは、最初からリュミエラを探してここへ来た。


「白い装束に銀髪。間違いないな」

「息はあるのか?」

「ある。むしろ拾われてやがる」


 槍の男が俺を見た。

 その目に、助けた人間への驚きや感謝はない。邪魔なものを見る目だった。


「おい、そこの男。その女を渡せ」

「いきなりだな。せめて自己紹介くらいしろよ」

「必要ない。そいつは神殿から出た女だ。お前みたいな野良冒険者が関わっていい相手じゃない」

「神殿から出た女、ね」


 元聖女とは言わない。追放されたとも言わない。だが、リュミエラの素性を知っている。


 俺はリュミエラを支える腕に力を入れた。

 彼女の身体が、わずかに硬くなる。


「知り合いか」

「……知りません」


 リュミエラの声は小さかった。嘘をついているようには聞こえない。

 男たちの方も、彼女を個人として知っているというより、特徴だけで探していたように見える。


「だそうだ。人違いじゃないのか」

「その女がそう言ったところで、何の証明にもならん」

「本人確認を本人以外でするの、だいぶ雑だな」

「口の減らない男だ」


 剣の男が一歩前に出ると、草が踏み潰される湿った音がする。

 距離は十歩ほど。相手が本気で踏み込めば、一瞬で詰められる。


「最後に言う。その女を渡せ。命までは取らない」

「最後に言うの早すぎないか。交渉って、もう少し段階を踏むものだろ」

「交渉ではない。命令だ」

「誰の?」


 男の顔から、わずかに笑みが消えた。

 当たりだ。こいつらには、命令した誰かがいる。


「答える必要はない」

「じゃあ渡す必要もないな」


 俺はリュミエラを少しだけ背後へ下がらせた。

 とはいえ、彼女はほとんど自力で立てない。支えを外せば倒れる。戦うにも逃げるにも、条件は最悪だった。

 弓の男が弦を引く。

 乾いた音が、耳の奥にやけに大きく響いた。


「カナタ様」


 リュミエラが俺の袖をつかんだまま、かすれた声で呼ぶ。

 様。

 急に距離感のある呼び方が飛んできて、こんな状況でなければ突っ込んでいた。

 いや、少しだけ突っ込みたかった。


「様はいらない。あとで直せ」

「……今、それを言いますか」

「今だから言う。緊張がほぐれるだろ」

「ほぐれません」


 だめだった。

 コハクが「にゃ」と短く鳴く。

 俺たちのやり取りをどう判断したのかはわからないが、少なくとも男たちは苛立ったようだった。


「ふざけている余裕があるなら、後悔しながら倒れろ」


 弓弦が鳴ると矢が飛んでくる。

 俺はリュミエラの肩を抱えたまま、強引に身体を横へ捻った。矢が頬のすぐ横を掠め、背後の木に突き刺さる。

 熱い痛みが頬に走った。血が一筋、顎へ落ちる。


「っぶねえな!」


 言いながら、俺はリュミエラを近くの木の根元へ押し込むように座らせた。


「ここから動くな。コハク、見ててくれ!」

「にゃっ!」


 コハクがリュミエラの前に立つ。

 小さな背中だが、その背中があるだけで、なぜか少し安心する。


 剣を抜くと鉄の刃が夕方の光を鈍く返す。

 かっこよく構えたいところだが、俺の剣術は基本的に泥臭い。身体能力補正に任せ、相手の動きを見て、無理やり隙を作る。それだけ。

 だが、グラスワームしか斬っていない男だと思われるのは癪だった。


「来いよ。七回落ちた男の八つ当たりを見せてやる」

「意味のわからん脅しだな」

「俺も言っててそう思った」


 剣の男が踏み込んだ。

 思ったより、ずっと速い。

 斜め上から振り下ろされる剣を、俺は刃で受けた。硬い衝撃が腕に走る。痺れる。だが、受けられないほどではない。

 押し返し、体当たり気味に肩をぶつける。

 男の体勢がわずかに崩れた。


「おおっ!」


 その隙に、横薙ぎの一撃を叩き込む。

 男は咄嗟に身を引いたが、刃先が革鎧を裂いた。浅い。だが、こちらの攻撃が当たることは証明できた。


「この野良、意外と動くぞ!」

「足を止めろ!」


 槍が横から突き出される。

 俺は半歩下がって避けた。草に足を取られかけ、舌打ちする。

 足場が悪い。背の高い草で相手の足元も見えにくい。リュミエラを庇う位置を意識し続けるせいで、動ける範囲も狭い。

 弓の男が二射目をつがえる。


「カナタ様、右です!」


 リュミエラの声が飛んだ。反射で右へ跳ぶ。

 直後、矢がさっきまで俺の胸があった場所を貫いた。


「助かった!」


 振り向く余裕はない。

 けれど、木の根元に座るリュミエラが、苦しそうに息を乱しながらも戦況を見ているのはわかった。

 力を失った元聖女。さっきまで自分の命すら諦めていた少女。

 それなのに、俺の命の危機は見過ごせないらしい。


「厄介だな。女の方も黙らせろ」


 槍の男が向きを変えた。

 俺ではない、リュミエラへ向かって。


「させるか!」


 俺は剣の男を押し返し、槍の男の前へ割り込む。

 だが遅い。

 槍の穂先が、俺の剣の防御をすり抜けるように伸びる。

 狙いは俺の脇腹ではない。俺の後ろにいるリュミエラだ。


 コハクが飛び出した。

 小さな身体が槍の柄にぶつかる。軌道がわずかにずれた。

 穂先はリュミエラの肩を掠め、白い装束に赤い線を引く。


「リュミエラ!」

「大丈夫、です……!」


 大丈夫なわけがない。

 彼女の顔色はさらに悪くなっている。額には汗が滲み、唇は白い。それでも、すみれ色の瞳だけは男たちを見据えていた。


「もういい。抵抗するな」


 剣の男が低く言う。


「その女は、どのみち誰かに回収される。拾ったところで、お前には何の得もない」

「得がないと人を助けちゃいけない決まりでもあるのか」

「世の中はそういうものだ」

「だったら、俺はその世の中と相性が悪いな」


 息が上がる。腕が痛い。頬の血が顎から落ちる。

 リュミエラを背に庇ったまま、三人を相手にするのは無理がある。わかっている。わかっているが、ここで引けば彼女は連れていかれる。


 そのとき、リュミエラが動いた。


「リュミエラ、動くな!」


 叫んだが、彼女は木の根元から立ち上がろうとしていた。

 膝は震えている。立てているとは言いがたい。それでも、彼女はコハクの背中を越えるように一歩前へ出た。


「……やめて、ください」


 細い声だった。

 けれど、不思議と草原に響いた。


「この人は、関係ありません。私を探しているのなら、私だけを――」

「馬鹿言うな!」


 俺は怒鳴った。

 リュミエラの肩がびくりと震える。


「関係ある。今、俺が決めた。お前をここで渡さないって決めた時点で、俺の話になった」

「でも」

「でもじゃない。お前はもう少し、自分を安売りするのをやめろ」


 言った瞬間、リュミエラの目が大きく揺れた。

 その感情が何なのか、今の俺にはわからない。

 ただ、その一瞬の隙を男たちは見逃さなかった。


「まとめて倒せ!」


 三人が同時に動く。

 剣、槍、矢。全部がこちらへ向かってくる。

 俺の身体能力補正だけでは足りない。剣一本では守り切れない。コハクも間に合わない。


 それでも、リュミエラは逃げなかった。

 白い装束を血と泥で汚したまま、俺の背後でなく、隣に立とうとしていた。


 その瞬間、視界の端が白く弾けた。

 半透明のウィンドウが、今まで見たことのない勢いで開く。


【月光戦姫型】

接続可能。

降臨(インストール)を実行しますか?

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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