表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】猫のオマケで転生した俺、ハズレスキル【ヒロインインストール】を武器に追放聖女と最強レギオンを目指す  作者: 木風
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/45

第三十三話 そんな高度な顔芸できる気がしないな

「私は、型なしでも戦えますか」


 もう一度リューが確認するように聞いてきた。


 中庭の土に描いた砦の図の上で、彼女の指が止まっている。


 無責任に戦えると言うのは簡単だ。

 けれど、それで彼女を前に出すなら昨日と同じになる。

 勝つために、リューの怖さを後回しにすることになる。


「剣を持って殴り合う意味なら、今は厳しい」


 言い方が冷たくなりすぎないよう、枝を握る手に力を入れる。


「体力も戻ってない。昨日の負荷も残ってる。あの七人相手に正面で戦うのは無理だ」

「はい」


 リューは目を伏せなかった。

 俺の言葉をしっかりと正面から受け止めている。


「でも、戦うって、剣を振るだけじゃない」

「それは、作戦の一部になるということですか」

「そう。見て、判断して、声を出す。相手を狭い場所に入れる。危ない時に止める。それも戦いだ」


 言いながら、俺は自分の胸にも刺さるものを感じた。

 昨日、俺ができなかったことだ。

 見る。判断する。止まる。強い型に飛びつく前に、それをしなければいけなかった。

 リューは土の図を見つめたまま、少しだけ考えた。


「私は、人の動きを見るのは、得意かもしれません」

「得意?」

「神殿では、祈りの列に並ぶ人を見ていました。誰が痛みを隠しているのか。誰が怒っているのか。誰が誰かを怖がっているのか。見誤ると、祈りの場が荒れることがありましたから」


 静かな声、誇る声ではない。

 ただ、長く身につけてしまった習慣を確かめるような声。


「王宮でも、そうでした。殿下の言葉の前に、周りの者がどこへ目を向けるか。誰が先に息を止めるか。それを見ていれば、少しだけ先がわかりました」


 胸の奥が重くなる。

 それは能力だ。でも、身についた理由が優しくない。


「じゃあ、それを使おう。ただし、リューを傷つけるためじゃなく、リューが自分で立つために」

「自分で立つため」

「ああ。型なしでも、リューが見たことはリューの力だ」


 彼女は、そこで初めて少しだけ目を瞬かせた。

 指が、土の上の小石に触れた。七人の敵を示す石のうち、弓兵の一つを少し動かす。


「では、昨日の敵のことを話してもよろしいですか」

「頼む」


 俺は枝を置き、真面目に土の図へ向き直った。

 コハクも前足で自分の位置を押さえる。

 猫の参加意識が高い。


「中央の男は、ほとんど動きませんでした」

「指示役だからだな」

「それもあります。でも、動かない場所を選んでいました。暖炉の火を背にしない位置です。顔が見えにくくならないように。こちらからも、味方からも、表情を見せる場所にいました」


 俺は広間の中央へ置いた石を見る。

 確かに、あの男は壁際でも入口側でもなかった。全員の視線が集まる場所に立っていた。


「見せるための立ち位置か」

「はい。自分が指示役だと隠していませんでした。逆に、こちらの注意を集めていたのかもしれません」

「その間に、弓と鎖が動く」

「はい」


 リューは弓兵の石を二つ動かした。


「左の弓は、手元を狙うのが上手いです。右の弓は、天井や壁に当てて角度を変えていました。右の方が危険です」

「跳ね返り矢のやつか」

「はい。ただ、右の弓兵は放つ前に一度、肩が上がります。矢を高く上げる癖があるのだと思います」


 俺は思わずリューを見た。


「よく見てたな」

「怖かったので。怖いと、見えます。どこから痛いものが来るのか、どこへ逃げれば少しでも避けられるのか」


 リューは淡々と言った。

 だが、その指先は少し冷えているように見えた。


 俺はすぐに話題を逸らさなかった。

 これは彼女が差し出しているものだ。

 怖さごと、戦いに変えようとしている。


「なら、次はその肩を見る。リューが合図を出せるか」

「できます。右の弓なら、肩、と言います」

「短いな」

「戦闘時は、長く話す余裕がありません」

「実務的」

「にゃ」


 コハクも同意らしい。

 リューは次に、盾の石を動かした。


「盾の男は、左足が遅いです」

「左足? 片足だけ?」

「はい。押す時は強いのですが、方向を変える時、左へ回るのが少し遅れます。膝か足首を痛めているのかもしれません」

「それ、かなり大事だな」


 俺は土の上に短い矢印を引く。

 盾の正面へぶつかるのではなく、左へ回らせる。

 曲がり角で、左へ切り返させる。


「調理場前の通路なら、棚を置いて左へ回らせる形にできる」

「はい。正面から押されると負けます。左へ少しずつずらせば、後ろの短槍が詰まると思います」


 俺は笑いそうになった。いや、笑う場面ではない。でも、これはすごい。


「リュー、型なしでめちゃくちゃ戦ってるぞ」


 思わず言うと、リューは少しだけ目を見開いた。


「まだ、土の上です」

「土の上で勝てないやつが、本番で勝てるわけないだろ。たぶん」

「たぶん」

「まぁ、机上の空論とも言うしな」


 リューの口元がわずかに緩む。

 少しだけでいい。その顔が戻るだけで、俺は自分の中の焦りを手放せる気がした。

 次に、彼女は縄と鎖の石へ触れた。


「鎖の男は、カナタが手首を打ちました」

「ああ。あれは入ったと思う」

「次も同じ動きなら、左手で補うはずです。鎖の軌道が外へ膨らみます」

「じゃあ、そこに布を垂らすか。引っかければ一瞬止まる」

「縄の男は、足元を見すぎます。相手の顔を見ません。だから、視線で誘導できます」

「視線?」


 リューは俺を見た。


「カナタが右へ逃げる顔をすれば、足元の縄は右へ来ます。実際の足は左へ」

「そんな高度な顔芸できる気がしないな」

「面接で落ち続けたなら、表情だけは作れませんか」

「そこを突かれると痛い」



 俺たちは土の上で、何度も石を動かす。

 門から魔物が入る線。

 敵が広間を通る線。

 リューが見える位置。

 俺が壁裏に隠れる位置。

 コハクが塔から知らせる合図。

 灰胡椒を置く場所。

 水を撒く場所。

 倒した棚を斜めにする角度。


 途中で、リューの顔色が悪くなったことに気が付き、すぐに枝を置く。


「休憩」

「まだ」

「条件一、危ないと思ったら下がる。俺が危ないと思った」

「それは、私が危ないと思ったわけでは」

「作戦立案者権限で休憩」

「その権限はどこから」

「もちろん俺の特権だ」


 言いながらも、リューは素直に座った。

 水筒を渡すと、彼女が水を飲む間コハクが土の図の上を歩いた。


「あっ、そこは敵の配置が」

「にゃ」

「肉球で踏むな。いや、かわいいけど」

「にゃあ」


 図の上に、猫の足跡がついた。

 調理場の入口あたりだ。

 リューがそれを見て、ふと目を細める。


「足跡」

「ん?」

「敵も、足跡を残します。広間の床に、昨日の足跡がありました」

「あるな」

「次に来る時、同じ場所を踏ませられれば、どの敵がどこにいるかわかります。水や灰を薄く撒いておけば、足跡が残りやすくなります」


 俺はコハクを見た。


「お前の肉球が作戦のヒントになったぞ」

「にゃ」

「偉そう」


 でも、いい案かもしれない。

 暗い広間で相手の位置を見失うのが一番怖い。床に灰を撒けば、足跡と滑り止め、両方の役に立つ。

 ただし、こちらも踏む場所を決めておく必要がある。


「じゃあ、俺たちは踏んでいい場所に布を置く。敵が踏む場所には灰。足跡を見る。リューは敵の足運びを見る」

「はい」


 土の上の作戦図が、少しずつ形になっていく。

 完璧ではない。相手がその通り動く保証もない。

 ワイバーンがまた来れば崩れる。魔物の数が多ければ、入口で止まらないかもしれない。

 それでも昨日とは違う。


 昨日は、追い詰められて型を押した。今は、型を押す前に、できることを並べている。

 リューは水筒を膝に置いたまま、騎士王型の失敗ログについて自分から口を開いた。


「カナタ」

「うん」

「騎士王型のことですが」


 脇腹とは別の場所が痛んだ気がした。


「今は使わない。接続できないし、俺も押さない」

「はい。それは、わかっています」


 彼女は手首の布へ触れた。

 縄の跡を隠す白い布。


「でも、あの型そのものが怖いのか、カナタが私の声を聞かなかったことが怖いのか、考えていました」


 リューは土の図から視線を上げた。


「怖かったのは、後者です」


 俺は息を吸えなかった。


「騎士王型は、まだわかりません。けれど、もし必要な時が来て、私が使うと決めたなら、その時は使ってもいいです」

「リュー」


 名前を呼ぶ。型の名前より先に。

 彼女は、まっすぐこちらを見ていた。


「私は、誰かの王になるために使うのではありません。神殿の器としてでも、殿下のためでもありません。私が、私の足で立つために必要だと思った時だけです」


 風が止まった。

 中庭の音が、少し遠くなる。


「だから、その時は、私から言います」


 俺は、何度も頷きそうになるのをこらえた。

 簡単に感動して、軽く受け取ってはいけない。これは、彼女が怖さを見つめた上で差し出している条件だ。


「わかった。騎士王型は、リューが言うまで使わない。表示が出ても、俺からは押さない」

「はい」

「もしリューが使うと言っても、その時にもう一度確認する。怖いならやめる」


 視界の端で紫の文字が揺れ、反射的に身構える。

 だが、昨日のような刺すような紫ではなかった。

 薄く、遠く、冷えた火種みたいな色だった。


【騎士王型】

接続経路 破損。

再接続不可。

対象意思 確認中。

使用者理解 更新。

強制接続 不可。


 再接続不可の文字は残っている。

 それでも、最後の行だけが変わっていた。


 強制接続、不可。


 それは拒絶ではなく、約束の形に見えた。

 リューは表示が見えていない。けれど、俺の表情で何かを察したのか、静かに聞いた。


「何か、変わりましたか」

「強制接続、不可って出た」

「そうですか」

「安心した」


 正直に言うと、リューは少しだけ息を吐いた。


「私もです」


 土の上には、砦の図がある。石と枝と、猫の足跡。

 完璧な作戦ではない。でも、昨日より確かに前へ進んでいる。


 リューは型なしで戦う方法を見つけ始めていた。

 そして騎士王型は、強制ではなく、彼女自身の言葉を待つ型になった。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



こちらの作品もよろしくお願いします
▶ 四国転生
〜459通のお祈りメールから、旅館若旦那の偽恋人になりました〜
現代恋愛/お仕事/愛媛/道後温泉/旅館若旦那/偽恋人/ご当地グルメ/じれ甘/溺愛
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ