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【完結】猫のオマケで転生した俺、ハズレスキル【ヒロインインストール】を武器に追放聖女と最強レギオンを目指す  作者: 木風
第一章

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第十六話 ヒロイン取り扱い説明書

 爆裂魔導型は、強かった。

 強かった、という一言では片づけられないほど強かった。


 岩殻猪を一撃で倒し、窪地の地形を少し変え、グラントに石板を譲ってもらえるほどの説得力を生んだ。

 だが、その代償としてリュミエラは砦に戻ってからしばらく動けなかった。

 暖炉の前に敷いた布の上で横になり、額には濡らした布を乗せている。呼吸は落ち着いてきたが、顔色はまだ薄い。

 コハクは彼女のそばに丸くなり、時々、尻尾の先でリュミエラの手の甲を撫でていた。


「お前、そういう優しさも出せるんだな」

「にゃ」


 コハクは、当然だと言いたげに目を細める。

 前世で俺の腹の上に乗って内臓を圧迫していた猫と同一個体とは思えない気遣いだ。

 いや、あれも本人なりの優しさだった可能性はある。重かったけど。


 俺は暖炉の横で、古い木片を削っていた。

 紙は高い。インクも高い。なので、グラントにもらった薄い木板に炭で線を引き、スキルの記録を残している。

 前世で仕事の仕様書を書いていた頃を思い出す。

 ただし、今まとめているのは業務システムではない。

 俺の意味不明な固有スキルだ。


「カナタ」


 リュミエラが、布の上から小さく声をかけた。


「起きなくていい。寝てろ」

「寝ているだけですと、かえって落ち着きません」

「昨日も似たようなこと言って棚板を持とうとしたからな」

「今日は持ちません」

「今日は、じゃなくて当分持つな」


 リュミエラは少しだけ目を伏せた。

 反論する力はないらしい。爆裂魔導型、恐ろしい。


「何を書いているのですか」

「スキルの仕様書」

「仕様書」

「この力がどういう条件で使えて、どれくらい持って、どんな反動があるのか。ちゃんと整理しておかないと、次に事故る」

「事故、ですか?」

「拠点が吹き飛ぶ事故とかな」


 リュミエラの顔が真剣になった。


「それは、絶対に避けたいです」

「だろ。だから整理する」


 俺は木板に炭で書き込む。

 月光戦姫型。

 町内社交型。

 精密魔導型。

 爆裂魔導型。

 それから、昨日の薬師型。

 型の名前を並べるだけで、改めて統一感がない。

 戦う月の少女、町内会のコミュ強の顔役、冷静な魔導師、爆発狂、薬師。

 何の選抜基準だ。


「カナタの世界の、ヒロインというものは、とても幅広いのですね」

「俺もそう思う」

「町内社交型も、ヒロインなのですか」

「俺の記憶のどこかでは、たぶん国民的なヒロインなんだと思う」

「国民的」

「深く追及すると、俺も説明できない」


 コハクが木板に前足を乗せようとしたので、俺は素早く引いた。


「やめろ。肉球で仕様書を改訂するな」

「にゃ」

「お前の承認印はいらない」


 リュミエラが、布の上でほんの少しだけ口元を緩めた。

 笑う元気が戻ってきたなら、少し安心だ。


「まず、同時に複数は使えない」


 俺は木板を見ながら言った。


「月光戦姫型の途中で精密魔導型、みたいな切り替えは今のところできなかった。表示も出ない。たぶん、一度入った型が終わるまで別の型は使えない」

「はい」

「次に、型ごとに待機時間が違う。月光戦姫型はほぼ一日。爆裂魔導型は三日。精密魔導型と町内社交型は短め。薬師型は、負担は少ないけど戦闘能力はほぼない」

「薬師型は、身体の状態がよく見えました」

「俺の肩の痛みも見抜かれたな」


 リュミエラは、少しだけ目を細めた。

 昨日の薬師型では、彼女の髪は深い青緑を帯び、瞳は瓶底の薬液みたいに澄んでいた。俺の肩を見ただけで筋を痛めていると指摘し、グラントの手の小さな切り傷から古い炎症まで見つけた。

 あの型で戦場に出るのは怖い。

 魔物の弱点より先に、俺の栄養状態を診断されそうだった。


「それから、強い型ほど反動が重い」

「爆裂魔導型は、特に重かったです」

「本当に重かった。見てるこっちの胃も重くなった」

「なぜ胃が?」

「お前が倒れるたびに、俺の胃が縮む」


 リュミエラは少し驚いたように瞬きをした。


「私のせいで」

「その言い方は禁止」


 言うと、彼女は小さく黙った。完全には納得していない顔だ。

 でも、何度でも言うしかない。


「俺が使うと決めた。お前が同意した。それで起きた反動を、お前ひとりのせいにするな」

「……はい」


 返事はまだ弱い。

 だが、以前のように全部を自分のせいにしようとする硬さは少し薄れている。


「あと、一番大事なのは同意だ」


 俺は炭の先で木板を叩いた。


「同意確認が出るようになってから、安定率が上がった。たぶん、俺が勝手に押し込むと危ない。お前が受け入れるかどうかで、成功率も反動も変わる」

「私が、受け入れるかどうか」

「ああ。だから、俺は必ず聞く」


 リュミエラは、暖炉の火を見つめた。

 橙色の光が、彼女の銀髪に揺れている。


「不思議です」

「何がだ?」

「聖女だった頃、私の身体は神殿のものだと思っていました。祈る日も、休む日も、食べるものも、誰を癒やすかも、決めるのは私ではありませんでした」


 木が、ぱちりと音を立てると、火の粉が小さく跳ねた。


「でも、この力は……私が嫌だと言えば、使わないと言ってくださるのですね」

「使わない。そこは絶対だ」

「それなのに、私は使うと決めることもできる」

「そうだな」

「怖いです。でも、少しだけ……変な感じがします。選べることが、まだうまくわかりません」


 彼女は言葉を探すように、胸元の布を握った。


 俺は木板の上で炭を止めた。

 軽い励ましで流せる言葉ではなかった。

 リュミエラは、ずっと選ばされてきた側だ。聖女として。王宮に必要な存在として。不要になれば、追い出されるものとして。

 だから、自分で選ぶと言われても、すぐには身体が追いつかないのだろう。


「じゃあ、練習だな。今日は寝るか起きるかを選ぶ」

「それは、できれば起きていたいです」

「却下」

「選ばせていただけるのでは」


 リュミエラが、ほんの少しだけ不満そうな顔をした。

 その表情が出るなら上出来だ。


「じゃあ、選択肢を増やす。寝る。横になったまま話す。横になったまま俺の仕様書に口を出す」

「三つ目にします」

「即答かよ」

「まず、仕様書という言葉ですが、もう少し優しい名前にした方がよいのでは」

「そこから?」

「はい。スキルを使うたびに仕様書と言われると、少し硬いです」


 俺は木板を見る。

 確かに、仕様書という単語は夢がない。だが、他に何と呼べばいい。


「ヒロイン取り扱い説明書」

「それは、もっと嫌です」

「即答の確度が鋭い」

「私は取り扱われるものではありません」


 言ってから、リュミエラ自身が少し驚いたように口を閉じた。

 俺も黙った。今のは、彼女の中から自然に出た言葉だった。


「そうだな。じゃあ、別の名前にする」

「何にしますか」

「作戦帳」

「それなら、よいと思います」

「採用」


 木板の端に、俺は炭で大きく書き直した。


 作戦帳。

 文字は少し歪んだ。

 それでも、取り扱い説明書よりずっといい。


 そのとき、視界の端がわずかに揺れた。

 いつもの白い表示ではない。

 紫色の文字が、火の粉のように一瞬だけ浮かぶ。


【騎士王型】

接続不可。

条件未達。

対象自己認識 不安定。

使用者理解 不足。

強制接続 非推奨。


「……」


 俺は炭を握ったまま固まった。

 リュミエラが不思議そうにこちらを見る。


「カナタ?」

「今、一瞬だけ新しい型が出た」

「新しい型」

「ああ。騎士王型」


 リュミエラの瞳が、かすかに揺れた。


「騎士で、王……ですか」

「でも接続不可。条件未達って出た」


 紫色の文字は、もう消えている。

 けれど、俺の目にはまだ残像があった。

 対象自己認識。不安定。

 使用者理解。不足。

 強制接続。非推奨。


 なんとなくわかる。これは、今の俺たちが軽く触っていい型ではない。

 強そうだから使う、という発想で手を伸ばせば、たぶん失敗する。

 リュミエラの身体も、心も、無理やり別の何かへ押し込むことになる。


「今は使わない。表示が出ても、使わない。条件がわからないものを強引に試すのはなしだ」

「……はい」


 リュミエラは胸元に手を当て、静かに頷いた。

 怖がっているようにも、少し気になっているようにも見える。


 俺は作戦帳の端に、小さく書き足した。


 騎士王型。

 接続不可。

 紫表示。

 強制接続禁止。


 炭の黒い文字が、木板に残る。


 俺たちは、まだこの力の入口に立っただけだ。

 そしてその奥には、今の俺たちでは開けてはいけない扉がある。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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