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【完結】猫のオマケで転生した俺、ハズレスキル【ヒロインインストール】を武器に追放聖女と最強レギオンを目指す  作者: 木風
第一章

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第十四話 この一撃に、すべてを捧げたくなります

 精密魔導型の感想を、俺は胸の中でもう一度繰り返した。

 森で出会った初老の木こりは、グラントと名乗った。旧監視砦の近くで長く木を扱ってきた男らしく、倒木の乾いた部分と腐った部分を、斧の柄で軽く叩くだけで見分けていく。

 俺が剣で雑に枝を払っていたことについては、かなり渋い顔をされた。


「剣は木を割る道具じゃない」

「はい」

「刃が欠けるぞ」

「もう少し欠けた」

「威張るな」


 怒られた。

 リュミエラは隣で静かに頷いている。

 精密魔導型はすでに解けて、髪は銀に戻っていた。口調もいつもの柔らかさに戻っている。だが、俺が刃物の扱いで叱られていることについては、特に庇ってくれない。


「カナタ、道具は用途に合わせて使った方がよいと思います」

「正論が二方向から来る」

「にゃ」

「お前も言うのか」


 コハクまで、倒木の上で偉そうに鳴いた。

 前世で段ボールを爪とぎにしていた猫に、道具の用途を説かれる日が来るとは思わなかった。


 グラントは倒木の枝を斧で手早く払い、使える部分を切り分けてくれた。

 その手際は見事だった。ひと振りごとに木の繊維が割れ、余計な力が入っていない。俺が剣でやっていた雑な作業とはまるで違う。


「屋根板にするなら、このあたりだな。薄く割って乾かせば使える」

「助かる」

「ただし、これだけじゃ足りん。旧監視砦の屋根を塞ぐなら、もっと幅のある板か、古い石板がいる」

「石板」

「丘の北側に、昔の作業場がある。砦の補修材を切り出していた場所だ。そこに残っている石板がまだ使えるはずだが……」


 グラントは言葉を切り、森の奥へ目を向けた。

 その顔つきで、だいたい次の話が読めてしまった。


「何かいるんですね」

「岩殻猪が棲みついている」

「いわ……?」

「岩殻猪。猪の魔物だ。背中が岩みたいに硬くて、正面から剣を入れても弾かれる。動きは鈍いが、突っ込まれると木も折れる」

「最悪の猪じゃないか」

「だから誰も近づかん」


 グラントは肩をすくめた。


「本来なら、下手に手を出すなと言うところだ。だが、さっきのお嬢さんの魔法なら、やりようがあるかもしれん」


 リュミエラの肩が少しだけ強張った。

 俺はすぐに首を振る。


「無理はさせれない」

「それがいい。俺も、命を懸けろとは言わん。ただ、旧監視砦に住むつもりなら、あいつが近くにいるのは厄介だぞ。夜に餌を探して動くこともある」


 砦の近くに、木を折る猪。

 屋根材のある作業場を塞いでいる。

 放っておけば危険。

 だが、月光戦姫型は再使用待機中。精密魔導型は使えるかもしれないが、岩の殻に小さな魔法弾が通るかは怪しい。


 俺はリュミエラを見る。


「今日は戻るか」


 そう言った瞬間、視界の端が赤く揺れた。

 半透明のウィンドウが開く。


【爆裂魔導型】

接続可能。

対象同意確認待ち。


「……嫌な予感のする名前が出た」

「今度は、何ですか」

「爆裂魔導型」


 リュミエラが瞬きをした。

 グラントも聞き慣れない言葉に首を傾げる。


「爆裂」

「ああ」

「つまり、爆発するのですか」

「たぶん」

「どこが」

「それは俺にもわからない」


 わかっていたら苦労しない。

 ただ、名前だけで用途はだいたい察せる。

 硬い猪。岩の殻。一撃の火力。どう考えても、今この型を使えと言われている。


「リュミエラ、嫌なら使わない」

「……怖くないと言えば嘘になります」


 彼女は胸元に手を当てた。

 昨日までより、迷う時間は短かった。


「でも、試すなら、グラントさんがいて、周囲の地形を知っている今の方が安全かもしれません。危なくなれば、すぐ退けます」

「本当にいいのか」

「はい。ただし、先にどこまで下がればよいか決めてください」


 確かに。爆裂という名前の型を使うのに、退避距離を決めずに突っ込むのは愚か者だ。


 グラントは北側の作業場まで案内してくれた。

 森を少し抜けると、石を切り出していたらしい開けた場所に出る。低い崖の下に、長方形の石板が何枚も積まれていた。苔をかぶっているが、割れていないものも多い。

 そして、その前に岩殻猪はいた。


 でかすぎないか……猪というより、山が牙を生やして歩いてるみたいだ……

 普通の猪を想像していた俺が悪かった。

 岩殻猪は、荷車ほどの体躯をしていた。背中から肩にかけて、灰色の岩が貼りついたような甲殻が盛り上がっている。鼻先には短い牙が二本。地面を掘り返すたび、土と小石が飛ぶ。

 獣臭い息が、風に乗って届いた。

 正直、近づきたくない。


「殻が硬い。だが腹は柔らかい。転ばせるか、背中の殻を割るかだ」


 グラントが低い声で言う。


「転ばせる」

「突進してきたところを横へ避けて、足場を崩す。ただし、失敗すれば轢かれる」

「却下で」


 即答した。俺の身体能力補正でどうにかなる相手ではない。

 前世でトラックに轢かれて死んだのに、異世界で猪に轢かれて死ぬとか最悪だ。


「なら、爆裂魔導型を試す。ただし、全員かなり下がる。グラントさん、岩殻猪を引きつける場所はありますか」

「ある。向こうの窪地だ。昔、石を削った跡で少し低くなっている。あそこなら爆風も横へ抜けにくい」

「よし。リュミエラ、そこを狙えるか」

「型を使ってみなければ、わかりません」

「だよな」


 俺は喉を鳴らした。


「使うぞ」

「はい」


 ウィンドウが赤く光る。


【爆裂魔導型】

対象同意確認。

推奨退避距離 長。

消費 極大。

降臨(インストール)を実行しますか?


「消費、極大」

「……極大」

「これ、絶対燃費悪いやつだ」

「はい」


 それでも、リュミエラは頷いた。


「それでも、お願いします」


 俺は息を吸う。


降臨(インストール)!」


 赤い光が爆ぜた。


 光じゃない、火花だ。

 リュミエラの銀髪の内側に、深紅の光が走る。毛先は燃えるような赤へ染まり、すみれ色の瞳の奥に、炭火を閉じ込めたような輝きが灯った。

 彼女の周囲に、黒と赤の魔法陣が幾重にも展開される。

 ひとつではない。

 二重、三重、さらにその外側へ、細かな文字のような紋様が広がっていく。空気が熱を帯び、喉が乾いた。土の匂いに、焦げた石のような匂いが混ざる。


「……これは」


 リュミエラが自分の手を見た。

 その顔に、月光戦姫型とも精密魔導型とも違う表情が浮かんでいる。

 高揚。

 たぶん、そう呼ぶべきものだった。


「カナタ」

「なんだ」

「この一撃に、すべてを捧げたくなります」

「捧げるな。いや、込める型なんだろうけど、言い方が怖い」

「止めないでください。今、撃たなければ、私が私でなくなります」

「爆裂に人格を持っていかれてる!」

「詠唱を、した方が威力が上がる気がします」

「詠唱!?」


 リュミエラは、真剣な顔で片手を空へ掲げた。

 赤い魔法陣が、彼女の足元から空へ向かって広がる。


「燃え盛る星よ、沈黙を裂き、我が眼前の障害を――」

「長い!思ったより長い!」

「途中で止めると、不発になりそうです」

「不発の方が安全じゃないのか」

「いいえ。撃てない爆裂ほど危険なものはありません」

「判断基準が爆裂中心!」


 岩殻猪がこちらに気づいた。

 鼻先を上げ、低い唸り声を漏らす。

 地面を蹴る前触れ。


「グラントさん、下がって!」

「こっちだ!」


 見ると、グラントは俺よりずっと早く安全圏へ退いていた。

 さすが森の男。判断が早い。

 コハクも俺の背後ではなく、すでに大きな岩の陰にいる。


「お前も早いな!」

「にゃ!」


 俺も走った。

 リュミエラを置いていくわけではない。彼女自身が魔法陣の中心に立ち、動くなと言わんばかりの圧を出している。

 ただ、爆発に巻き込まれないためには離れるしかない。


 岩殻猪が突進すると、 地面が揺れ、巨体が窪地へ入る。

 その瞬間、リュミエラの詠唱が終わった。


「――灰すら残さず、道を開いてください」


 丁寧なのに、言っている内容は物騒極まりない。


 リュミエラが掲げた手を、静かに振り下ろす。


 赤い魔法陣が、一斉に反転した。

 音が消える。一瞬だけ、森の風も、葉擦れも、岩殻猪の唸りも、全部が遠のいた。


 次の瞬間、窪地が爆ぜた。

 赤と黒の光が地面から噴き上がり、岩殻猪の巨体を丸ごと包む。熱風が顔を叩いた。爆音が腹の底へ響く。遅れて飛んできた土と小石が、周囲の岩にばらばらと当たった。

 俺は腕で顔を庇いながら、思わず叫ぶ。


「威力が馬鹿!」


 爆風が収まったあと、窪地には黒い煙が立ち込めていた。

 焦げた土の匂い。砕けた石の粉。熱で揺らぐ空気。

 岩殻猪は倒れていた。背中の岩殻は砕け、巨体はぴくりとも動かない。

 勝った。勝ったのだが……周囲の地面もかなりえぐれている。


「石板まで壊してないよな!?」


 慌てて確認する。

 幸い、積まれていた石板は窪地から少し離れていたため無事だった。数枚は爆風で倒れているが使えそうだ。

 俺が胸を撫で下ろした直後、背後で小さな音がした。


「リュミエラ?」


 振り返ると、赤い光が彼女の髪から抜けていくところだった。

 毛先の深紅が銀に戻り、目の奥に灯っていた火も消える。

 リュミエラは片手を胸に当て、数歩だけこちらへ歩こうとして、膝から崩れ落ちた。


「リュミエラ!」


 俺は駆け寄り、地面に倒れる寸前で彼女を支えた。

 身体が熱い。さっきまで火の中に立っていたせいか、それとも反動か。額には汗が浮かび、呼吸は浅い。


「すみ、ません……立てません」

「謝るな。むしろ立てる方がおかしい」


 視界の端に表示が浮かぶ。


【爆裂魔導型】

接続終了。

再接続待機 七十一時間五十九分。

対象疲労 極大。

行動不能 短時間。


「七十二時間待機!?行動不能!?」


 燃費が悪いどころではない。

 完全に一発撃ったら終わりの型だった。


「カナタ……岩殻猪は」

「倒した。石板もたぶん無事だ」

「よかった、です」

「よくない。いや、よかったけど、よくない。お前、三日くらい使えないぞこの型」

「……三日」

「爆発の代償がでかすぎる」


 リュミエラは、力なく瞬きをした。


「でも、威力はありました」

「あった。ありすぎた。地形が少し変わった」

「撃てて、よかったです」

「そこを満足そうにするな。倒れる前提で撃つな」

「それは……申し訳ありません」

「謝るところそこじゃない」


 コハクが岩陰から出てきて、リュミエラの膝元に座った。

 少し離れたところで、グラントがぽかんと口を開けている。


「……今の、お嬢さんがやったのか」

「たぶん」

「たぶんで、あれか」

「俺もそう思う」


 グラントはしばらく窪地を見つめ、それから深々と息を吐いた。


「屋根板どころか、石板も持っていけ。あんなもん見せられたら、駄目とは言えん」

「ありがとうございます」

「ただし」


 グラントは俺を見た。


「その力、むやみに使うな。森で何かを倒すには便利だが、場所を間違えりゃ味方も家も吹き飛ぶ」

「それはもう。今、骨身に染みた」


 俺は腕の中のリュミエラを見る。

 彼女は目を開けているが、力はほとんど入っていない。爆裂魔導型は強い。強すぎる。

 だが、代償も大きすぎる。


「リュミエラ、今日はもう帰るぞ。石板運びは俺とグラントさんでやる。お前は休む」

「ですが」

「これは決定。異議は却下」

「……はい」


 リュミエラは珍しく素直に頷いた。

 反論する力もないのだろう。


 俺は彼女を背負うことにした。

 軽い身体が背中に乗る。熱っぽい額が肩口に触れた。

 コハクが先導するように歩き出す。


 背後では、まだ焦げた土から薄い煙が上がっていた。

 爆裂魔導型。一撃必殺。ただし、燃費は最悪。


 そして、俺は心の底から理解した。

 この型は、使いどころを間違えたら拠点ごと消える。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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