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【完結】猫のオマケで転生した俺、ハズレスキル【ヒロインインストール】を武器に追放聖女と最強レギオンを目指す  作者: 木風
第一章

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第十三話 完全に駄目なものを見る目

 戦わなくても前に進めることを知った翌日、俺たちはまた森へ来ていた。


 理由は単純だ。

 屋根を直すには、金だけでなく材料がいる。

 市場で手に入れた釘と縄と古い網はありがたい。だが、砦の屋根を塞ぐには板が足りなかった。まともな板を買えば財布が即死する。ならば、森で倒木を探して使えそうな枝や板材を取るしかない。

 前世ならホームセンターで済む話が、異世界では森から始まる。

 文明への感謝が、日に日に深くなる。


「本当に、この木を使うのですか」


 リュミエラが、苔の生えた倒木を見下ろしながら言った。

 昨日の町内社交型はもう完全に抜けている。髪は銀に戻り、毛先もまっすぐだ。少し惜しい。いや、本人には言わないが。


「全部は無理だけど、乾いてる部分なら使える。たぶん」

「たぶん」

「強度に不安はあるけど、雨をしのぐくらいなら」

「不安な言葉が重なっています」


 リュミエラは現実的だった。

 正しい。

 俺も自信満々で言っているわけではない。


 コハクは倒木の上を歩き、鼻先で樹皮を嗅いでいた。時々前足で叩いて、どこか職人ぶった顔をする。


「お前、材木の目利きできるのか」

「にゃ」

「今の鳴き方は、できる側の猫だな」

「本当にできるのでしょうか」

「前世では、段ボールの良し悪しならわかってた」

「段ボール」

「猫にとって重要な建材だ」


 リュミエラは真面目に頷きかけ、途中で首を傾げた。

 それは頷かなくていいところだ。


 俺は剣で倒木の枝を払った。

 剣の本来の使い方ではない気がするが、斧を買う金がないので仕方ない。枝を切り落とし、縄で縛り、背負える長さに分ける。

 リュミエラには軽い枝と薬草の採取を頼んだ。

 無理をさせない。月光戦姫型の反動も完全には抜けていない。


「カナタ」


 しばらく作業していると、リュミエラが小さく呼んだ。

 声の硬さに俺は剣を止め、顔を上げる。


「どうした」

「上です」


 反射的に見上げる。


 木々の間に、黒い影がいくつもぶら下がっていた。

 最初は枯れた木の実かと思った。だが違う。羽がある。目がある。逆さにぶら下がった小型の魔物が、こちらをじっと見ていた。

 蝙蝠に似ているが、口元には針のように細い牙が並んでいる。


「ブラッドバットか」


 依頼票で見たことがある。

 単体なら弱い。だが群れると厄介。上から襲ってきて、血を吸い、場合によっては毒を残す。

 そして、俺は上から来る敵が嫌いだ。

 剣が届きにくいから。


「数は?」

「……八、いえ、九匹です」


 リュミエラの声は落ち着いていた。

 だが、肩に力が入っている。

 魔物はまだ動かない。ただ、俺たちが倒木から離れようとするのを待っているようにも見える。


「リュミエラ、下がれ。木を盾にする」

「はい」


 俺たちは倒木の陰へ移動した。

 コハクも素早く潜り込む。

 直後、黒い影が一匹、枝から離れた。

 羽音がすると、薄い膜が空気を叩く、嫌な音だった。


「来た!」


 俺は剣を振る。

 だが、ブラッドバットは急に高度を変え、刃の上をすり抜けた。

 速い。

 小さい。

 そして嫌な角度で来る。


「くっそ、グラスワームの方がまだ親切だった!」

「比較対象が虫です」

「こいつらもだいたい虫みたいなもんだろ!」


 言いながら、もう一度剣を振る。

 今度はかすったが、仕留めるには浅い。

 ブラッドバットが甲高く鳴くと、枝に残っていた仲間たちが一斉に動き始めた。


 まずい。

 九匹…… 剣一本で全部落とすには、数が多い。

 月光戦姫型はまだ再使用待機中だ。町内社交型で蝙蝠と話し合える気もしない。

 視界の端に新しい表示が浮かんだ。


【精密魔導型】

接続可能。

対象同意確認待ち。


「また新しいのが来た!」

「今度は何ですか」

「精密魔導型!たぶん、こういう相手に向いてる」


 名前の響きからして、遠距離や狙撃系だ。

 派手な力ではないかもしれない。だが、今必要なのは派手さではなく、当てる力だった。


「使っていいか」


 問いかけると、リュミエラは空を旋回する黒い影を見上げ、それから頷いた。


「お願いします。あの速さは、私の目でも追い切れません」


 目でも、という言い方に少し驚いた。

 さっき九匹と数えられた時点で、俺よりずっと見えている。

 それでも足りない相手ということだ。


降臨(インストール)!」


 光は、月光戦姫型とも町内社交型とも違った。

 紫がかった藍色の線が、空中にいくつも走る。まるで見えない製図台に、魔法陣を定規で引いていくような光だった。

 リュミエラの銀髪が、深い藍色を帯びる。毛先だけが夜の端のような紫に染まり、すみれ色の瞳から感情の揺れがすっと消えた。

 表情が静かになる。


「リュミエラ?」

「問題ありません」


 返ってきた声は、いつもより平坦だった。


「対象九。高度差あり。こちらの有効射程内です」

「急に戦闘報告みたいになったな」

「無駄話は命中率を下げます。黙っていてください」

「辛辣だな!?」

「事実です」

「今、完全に駄目なものを見る目だったな!?」


 リュミエラは俺を見ていなかった。

 右手を静かに上げる。

 彼女の周囲に、小さな藍色の光点が浮かんだ。豆粒ほどの大きさしかない。月光戦姫型のような華やかさはない。爆発もしない。音もほとんどない。

 ただ、光点の位置が異様に正確だった。

 空を飛ぶブラッドバットたちの進路、その少し先。

 逃げ道を潰すように、淡々と配置されていく。


「射出」


 短い声。

 次の瞬間、光点が走った。


 速い!

 目で追えないほどではない。だが、無駄な軌道が一切ない。

 藍色の線が空を切り、最初のブラッドバットの翼の付け根を貫いた。魔物が悲鳴を上げて落ちる。

 二発目は、別の一匹の進路を塞ぐように飛び、回避した先へ三発目が置かれていた。


「こわっ」


 思わず声が漏れた。

 強い、ではなく、怖い。

 派手な光も、叫びも、決め台詞もない。ただ当たる。必要な場所に、必要なだけ、必要な威力で。


「二」


 リュミエラが数える。


「三。四」


 藍色の光が、森の隙間を縫う。

 木の枝には当たらない。俺にもコハクにも近づかない。リュミエラはほとんど動いていないのに、空の魔物だけが次々に落ちる。


「ちょっと待て、全部落とす気か」

「駆除対象です」

「いや、依頼じゃないけど」

「放置すると、夜間の拠点移動時に危険です」

「判断が冷静すぎる。あと目が冷たい」

「必要な判断です」

「返しまで冷たい!」


 最後の一匹が、高く逃げようとした。

 枝の上へ抜け、森の奥へ飛ぶ。

 リュミエラは目だけで追った。

 指先をわずかに動かす。


「逃走経路、予測済みです」


 藍色の光が、枝と枝の間を通った。

 葉が一枚も揺れない。

 次の瞬間、遠くで魔物が落ちる音がした。


「九。終了」


 リュミエラは手を下ろした。

 森は急に静かになった。さっきまでの羽音も、甲高い鳴き声もない。

 あるのは、木漏れ日と、湿った土の匂いと、倒木の上で固まっているコハクだけだった。


「……コハク?」

「にゃ」


 いつもより小さい声だ。

 たぶん、猫も少し引いている。


「リュミエラ、今の型、めちゃくちゃ強いな」

「状況に適していました」

「褒められてるんだから、そこは少しくらい喜んでもいいんだぞ」

「喜ぶと、次弾精度が落ちます」

「次弾ないよ。もう敵いないよ」

「では、今は喜ぶ必要がありません」

「マジで辛辣だな」


 リュミエラは瞬きをした。

 それから、ほんの少しだけ首を傾げる。


「そうですか」

「この型、会話の温度が低いな」

「平熱です」

「絶対違う」


 視界の端に、表示が浮かぶ。


【精密魔導型】

接続安定率 七十八%

消費 小

戦闘適性 中

遠距離制御適性 高


「消費小。遠距離制御適性高」

「つまり、短時間なら負担は少なそうですか」

「たぶん。月光戦姫型ほどじゃない」


 リュミエラは自分の手を見た。

 藍色の光が、まだ指先にかすかに残っている。

 怖がってはいないように見えた。

 ただ、静かすぎる自分の状態を確かめている。


「この型は、私の心があまり動きません」

「それはそれで怖いな」

「はい。ですが、先ほどのような相手には、有効です」

「便利だけど、長く使うのはやめよう。戻ったあと、変に冷静になりすぎたら困る」

「変に」

「俺の面接七連敗を淡々と分析されたら、立ち直れない」

「分析は可能です」

「やめろ。本当にやめろ」


 リュミエラの口元が、ほんの少しだけ動いた。

 型の影響下でも、今のは少し面白かったらしい。


 そのとき、倒木の向こうで枝が折れる音がして、俺は反射的に剣を構える。

 リュミエラは藍色の光点をひとつだけ指先に残した。


「まだいるのか」


 茂みから現れたのは、魔物ではなかった。

 大きな背負い籠を背負った、初老の男だ。灰色の髭を生やし、手には木こり用の斧を持っている。

 男は地面に落ちたブラッドバットを見て、次にリュミエラを見て、それから俺を見た。


「お前さんたちがやったのか」

「まあ、一応」


 俺が答えると、男はしばらく黙った。

 それから、落ちた魔物の翼を足でつつく。


「こいつら、ここ数日で増えて困ってたんだ。森の浅いところまで出てきてな。木を取りに入る連中が怖がって、誰も奥へ行かなくなっていた」

「やっぱり魔物の動きが変なんですね」

「やっぱり?」

「レギオンでも聞きました。浅いところに出るって」


 男は顔をしかめた。


「そうだ。奥で何かが暴れてるのか、追い立てられてるのか……まあ、助かったのは確かだ。礼になるかわからんが、そこの倒木を使うなら、切り出し方を教えてやる」

「いいんですか」

「ああ。下手に剣で枝を払うと、刃が駄目になるぞ」

「もう少し駄目になってます」

「だろうな」


 即答された。

 リュミエラが静かに俺を見る。


「カナタ、刃を道具代わりにするのは非効率です」

「その言い方、型の影響だよな?」

「おそらく」

「その目、俺を失敗例として記録してないか?」

「記録済みです」

「するな!」


 初老の男は、そんな俺たちを見て少し笑った。


「変わった連中だな。旧監視砦に出入りしてるのは、お前さんらか」


 俺の背筋がわずかに強張る。

 このあたりの人間には、もう見られているらしい。

 隠れて暮らすには、砦は目立つ。

 だが、完全に孤立するより、地元の人間と細く繋がる方が安全な場合もある。


「借りようと思ってます。まだ、雨漏り物件ですけど」

「雨漏りどころじゃないだろ、あそこは」

「そこまで?」

「そこまでだ。だが、昔はいい砦だった」


 男は森の奥へ視線を向けた。


「何を始める気かは知らんが、屋根板くらいなら相談に乗ってやる。ブラッドバットを落としてくれた礼だ」


 思わぬところで、修繕の協力者ができた。

 リュミエラの精密魔導型は、派手な勝利を見せたわけではない。

 ただ、空の小さな敵を正確に落とした。

 その結果、森の人間が一人、こちらを見る目を変えた。


 俺は藍色の光が消えかけているリュミエラを見た。

 派手ではない。けれど、命中率が異常だ。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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