幽玄からの誘い①
ハイリーが祭礼の日に遭遇した、謎の現象が少しづつ明らかに。
本作からしばらく「幽玄からの誘い」が続きます。
夕刻過ぎ。
ラムが営業時間まで仮眠を取っている時間帯。
ハイリーは台所にあるテレビに夢中になっていた。
やがてCMに変わると、つまらなそうに頭をテーブルに乗せたシュエガオが口を尖らせた。
「……つまんない」
「子供にはちょっと話が難しいわよね。でも、再現が上手くてとても面白いのよ。懐かしくて」
「ちっとも面白くないよ。時代劇が好きだなんて、年寄りみたい」
シュエガオの言葉にハイリーは笑うしかなく、肩をすくめてみせた。
シュエガオの言う時代劇とは、主に王朝時代の宮廷ドラマであり、ハイリーが生まれ育った時代近くでもある。
身分と地位がすべての、窮屈な清の時代に戻りたいかと問われると悩んでしまうが、それでも、自分の暮らしていた時代の番組を見つけると、つい見ずにはいられくなってしまう。
「じゃあ、番組変えていいわよ。シュエガオはどんなテレビが好きなのかしら?」
「そりゃあ、闘うやつだよ!こうやって、こうやって悪い奴倒してさ!ラムも強いんだから!」
シュエガオは早速ボタンをガチャガチャと回して番組を変えると、小さな手と足をめいっぱい大きく動かして”カンフー”を披露してみせる。
「フフッ。シュエガオが守ってくれたらとても心強いわね。私もとっても安心だわ」
「ラムが教えてくれたんだよ。ごしん……なんとかだからって」
「道理で」
シュエガオが言いたかったのは護身術のことだと察することはできたけど、護身術ができるからと言って格闘や争いに到底同意できるはずもなく。
まして、そんな野蛮なことを子供に教え込んだラムに、ハイリーはいささか怒りを感じていた。
「確かにシュエガオが強いのはとっても安心。だけど、危険なことは絶対にしてはだめよ。ラムのように、もしシュエガオの可愛い顔に傷がついたら大変だもの。ラムのここに傷があるの、知ってるでしょう?もし目に入っていたら本当に大変な場所よ」
そう言ってハイリーはラムの右目の下を指さし、優しく諫めた―――つもりだったのだが、突然、それまでカンフーについて熱く語っていたシュエガオの元気がなくなってしまった。
「あの傷は……」
シュエガオはそう言いかけて、口を噤んだ。
表情からするとふてくされているようではないけれど、両腕はだらりと下がり、明らかにハイリーから目を逸らしている。
そんなに強く叱責してしまっただろうかと思いつつも、ハイリーは反省を込めてシュエガオの頭を優しく撫でながら機嫌が直るのを待っている、その時———ホールの方から誰かが呼ぶ声が聞こえた。
<<続く>>




