ロウの特技と秘密2
「そんなに喜んでくれるならもうひと披露と行こうか」
調子に乗ったロウは再びハイリーに披露しようとトランプを掴んだ。
ところが。
「やめとけ、やめとけ。俺たちみたくすぐ飽きることになる」
ラムとフージエに窘められ、ロウは二人の意見を渋々受け入れると目の前の皿に盛られたつまみをふてくされたように一つ口に放り込んだ。
「でも、本当に面白いものを見せてもらったわ。何度見ても少しも飽きる気がしないけれど次回のお披露目を楽しみにしてるわ」
「いつでもお安い御用」
久しぶりに接した見物人の驚く顔と誉め言葉を浴びて、ロウは意気揚々としたり顔を浮かべる。
それに対してフージエは―—―片付けに遅れてきたうえに、昨晩ハイリーに歌を歌わせるという突拍子もない提案をしたにも関わらず当の本人と仲良く話しているロウにふつふつと腹立たしさが湧いてくる。
そこで、有頂天になっているロウを少し困らせてやろうと思いつく。
「手品をやるヤツってのは手先が異様に器用なんだけど、そもそもなんでロウは手先が器用なんだと思う?」
突然そう聞かれたハイリーは一瞬考えてみるけれど、手品を見るのも今が初めてでタネや仕掛けはもちろんどういう技術が必要かなど当然知っている訳もなく、首を横に振る。
「ロウ、あれをやってみろよ」
そう言って、フージエはトランプの束をロウの手にわざとらしく乗せる。
すると、さっきまで得意げだったロウの表情はどこへやら、含みのあるフージエの視線に気づくと気まずそうにトランプを切り始めた。
そして、ハイリーに一枚カードを引かせ、そのカードを覚えた後、カードの束に戻させる。
「ハイリーが引いたカードはスペードの10、これだろ?」
引いたカードを言い当てられたハイリーは驚きのあまり、再び目を丸くした。
「…当たってるわ」
それを数回繰り返し———ロウはすべて言い当てる。
ハイリーが言葉も出ないほど感心していると。
「本当はこっち。こっちが専門なのよ」
そう言ってフージエはヒッチハイクをするように、立てた親指をロウに向けた。
「専門?どういうこと?」
「実はね、こいつ…」
にやついたフージエはそう言いながらロウの肩に手を置く。
「手品が得意っていうのはついでみたいなもん。ここで働く前は詐欺師だったのよ。つまり、いかさま賭博師。カードを使って人を巧みに騙してたから手先が器用なの」
「詐欺師…?賭博師…?」
フージエに振られた質問の答えは、予想外でまさかの回答。
ハイリーは返答に迷う。
ロウは自分の肩に置かれたフージエの手を大げさに振り払い、誰もいないカウンターへと視線を泳がせた。
「昔、こいつが黒社会にいたのは知ってるよね?当時、詐欺担当でいつもイカサマ博打をやってたんだよ。カモれそうなヤツを見つけてテーブルに誘って。カモ以外は当然全員グル。今のカード当てがまさにその手口。だから、ロウにとってカードを当てるなんてむしろ手品よりも簡単ってこと。その手口で姐さんも騙されたってことだから何も感心することないっすよ」
「今はただのゲームだし、もう人を騙してねぇだろが」
フージエのネタバラシに、ロウは若干焦りながら必死の言い訳を探すも今の言葉を口にするのが精いっぱいだった。
すると、それまで黙っていたラムは二人のやり取りに加わる。
「そういえばお前、一度とんでもないことになったよな。あれって結局どうなったんだ?」
「あー…あの話はいいっしょ」
「え?何それ、オレ聞いたことある?」
視線を泳がせているロウに、フージエはロウのグラスに酒を注ぐと、詳しく話すよう無言の視線の圧を送る。
ロウはしばらくフージエを無視していたが、やがてフージエとラムの無言の圧に耐えられず、注がれた酒を一気に飲み干し、そして仕方なく口にし始めた。
「ある日、カモにしようとある男に狙いをつけたんだ。ちょっと変わったヤツだったから、すぐ嵌められると思ったんだ。だが、全然落ちないからこいつやるなと思ったんだよ。だからその技術を買って手を組まないかって提案したら乗ってきたんだよ。で、ある日、大物投資家をカモに引き込んで見事成功、俺とヤツはガッツリ稼いだのさ。ところが、だ。ヤツと手を組んだっていうのは俺らの作戦のうちで、最終的にヤツの取り分も俺らが頂くっていう計画だったのさ。そしたらその男はまさかの”赤豹”の詐欺担当だったんだ。笑えるだろ」
”赤豹”とは、かつてラムやロウが所属していた組織とは別の組織で、こずるいことで有名で別名”ハイエナ”と呼ばれるほど他の組織からも敬遠されていた。
縄張りこそ違うが、今もクーロンの中に拠点を据えて色々と悪どいことをしている。
「詐欺師が詐欺師を騙したってのか!それも”赤豹”の?それでどうなったんだ?まずいことになったのか?」
フージエは神妙な面持ちながらも、興味津々とばかりにロウの話に食い入っている。
「次の日、”赤豹”のボスに犯人が俺だとバレて、武器を持った舎弟達をぞろぞろ連れて俺のボスのとろこに怒鳴り込んできたんだよ。金を返すか俺を差し出すかどっちか選べってな。そん時はマジで死ぬかと思ったぜ。間一髪裏口から逃げてその時は助かったけど、それから半年くらい身を隠すはめになったんだよ。で、その間にうちのボスがなんとかうまく収めてくれて俺は表に出てこれるようになったってわけだ。ちなみに向こうの詐欺師は消されたって話」
なんとも物騒な話題にハイリーはただ黙って耳を傾けていた。
ロウが話し終わり、思わぬ話の展開に気づけばフージエはロウを冷やかすことをすっかり忘れて、むしろ食い入って話に耳を傾けてしまっていたことに、さらに悔しい気分になった。
「ところで本当になんとかなったんだろうな、お前。一体どういう交渉したのか聞いてねぇが」
命を狙われるほどの揉め事を一体どうやって丸く収めたのか、ラムはずっと気になっていた。というのも、詳細はボスの右腕に近しかったラムでさえも聞いていなかったのだ。
さらに、ロウはラムを追って組織を抜けている。何も引き換えなしにロウを組織から抜けさせれば”赤豹”の件は組織にとってただの損失となり、組織にとって何の得もない。それゆえにどういう交渉をしたのか、とても気がかりであった。
ただの偶然ならいいのだが、今日遅れて来た違和感といいつい勘ぐってしまう。
「確かにどういう交渉で”赤豹”が退いたのかは聞いてないが、俺が稼いだ額はボスも認めてくれたから俺の身の安全は確かだ」
ラムの心配をよそにロウはいたって普通に返す。
「ならそのサングラス取って見ろ」
ラムの突然の言葉に、ハイリーとフージエは的を得ない表情を浮かべたが、ロウにはラムの意図している事がすぐにわかった。
が、ロウはサングラスを取ろうとしない。
「…サングラスがどうかしたのか?」
ロウが何も反応しないため、代わりにフージエが答える。
「何もないならサングラス、取って見ろ。殴られたあざを隠してねぇなら取れるよな?」
「……」
ロウが詐欺で稼いだ額、”赤豹”との交渉リスク、そしてロウが組織を抜けなかったら今後稼げたであろうロウの役割としての価値。
これらを総合すると、ラムの勘ではロウの言う、身の安全の確かは正直まだ信用に欠けていた。
<<続く>>




