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ジョーク

開けたままの裏口から、ひょっこりとフージエが顔を覗かせた。

フージエは時々、ふらっと早目にやってきてはクラブの開店時間まで時間を潰すことがあった。


「あ、いたいた~」

屋台で買ってきたビニール袋に入ったつまみを顔の高さまで持ち上げ、したり顔でラム達に見せた。

そして、慣れた手つきでカウンターから出した皿に移し、客席テーブルに置いた。シュエガオはすぐにフージエの元へ駆け寄り、早速それを頬張っている。

「姐さんも一緒にどうっすか?」

「その呼び方やめてって、言ってるでしょ。せっかくだけど、私は結構よ」


ハイリーの平手打ちの一件以来、フージエはハイリーとの距離感をしっかりとわきまえるようになった。そのせいもあってか、ハイリーも少しずつフージエと打ち解けつつあった。

二人がそんな会話をしていると、ラムは何かを思い出し、防音扉で隔てた隣の衣裳部屋へと入っていった。そして、すぐに女性ものの服を手に戻ってくると、それをハイリーへと渡した。

「これは?」

「舞台衣装」

「っ!―――私にそんなものを着ろと?」

突然、ステージで踊れと言われたかのような含みのある返事。どこか侮辱されたようで、ラムに食って掛かる。

「いや、ただの冗談だろ」

「ハイリーすぐ怒る」

シュエガオにまでそう言われてしまい、なるほど、今のは流すべきだったのかと気が付く。しかし、どうしてこうもラムに当たりが強くなってしまうのか、ハイリー自身よくわからない。

「デイジーが毎回新しい服を買って来ては置いていくんだ。邪魔だから持っていけ、好みのがあるか知らねぇが。要らなければ捨てろ」

そう言い残し、ラムはタバコを吸うため裏口から出て行った。


ちょうど服を揃えないと、と思っていたところではあるけど、他人が着たものを受け入れるのは、とやや気が引ける。

「あいつ、流行なの見つけるとすぐ新しいの買うんすよね。でも姐さんが着てるの見てみたい…くはないっすよ」

ついつい距離感を忘れかけ、フージエは慌てて言い直す。

「いやでも...姐さん見てるとさ、なんか哀愁っていうか、懐かしいっていうか、そんな雰囲気持ってるっすよね。流行の服より、やっぱり今のままの方がいいわ」

フージエの言葉に、やはり、かつて自分のいた時代が滲み出てしまっているのだろうか、それとももう正体を知られてしまっているのだろうか、とハイリーはやや不安になる。

「そういえばラムの弾く二胡、聴いたことあるっすか?ラムの弾く二胡もめちゃくちゃ哀愁あって、すっげー心に染みるんすよ。でもバンドメンバーが休んだ時とかにしか弾いてくれないから、なかなか聴けないっすけどね」

だんだんとフージエの熱量が上がってくる。

「あ!ラムの弾く二胡で、姐さんが歌ったらめちゃくちゃ合うんじゃないすか?!よし、特別公演てことで今晩歌っちゃいましょう!これからのうちの目玉ステージ!いいっすねぇ!近くの爺さん婆さんたちも懐かしがって、きっと喜びますよ!あ、そしたらチラシ作るか。街にもポスター貼りに行かないと…そしたら、テレビに売り出しもいけるか?」

フージエが一通り喋り終わると、ハイリーは一呼吸したあと、勢いよくテーブルに手を着いた。

「それ、冗談よね?」

「…ハイ、冗談デス」

ハイリーの冷たい視線に、フージエは縮み上がっている。

ハイリーはさっきラムにからかわれたように、自分も冗談を言ってみた。自分を不安にさせたフージエに、ちょっとしたお返し。の、つもりだった。

ところが、フージエには微塵も冗談だとは映っておらず、平手打ちの痛みを思い出して肝を冷やしていた。

シュエガオがつまみを頬張りながら、二人のやり取りを面白おかしく見ていた。

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