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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
終章 決して届くことなき憧れの人

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第92話 生意気なVtuberをわからせてやります。

 それから時が経ち、私達は高校2年生となった。

 現在私は、詩音さんの自室でコラボ配信を行っている。

 二人きりでの配信も、これで十度目を数えるだろうか。

 

「今日の配信はここまで!」

「また見に来てくださいね」

「「それじゃあ、おつアカシオ〜」」


 流れるコメント欄が「乙」や「おつアカシオ」の文字で埋め尽くされていく。

 詩音さんは長い入院生活を経て退院し、今では以前と遜色ないほど精力的に活動できるまでになった。

 怪我の後遺症による危うさはまだ残っており、私が側で支えている状態だが、それももう終わりの時は近い。

 

「……それじゃあ今日は私、これで帰りますね」


 機材の片付けを終えた私は、逃げるように家を後にしようとした。

 だが、背後から回された腕がそれを許さない。

 

「久しぶりに泊まっていったらどう? アレから別にそういうコト私からしてないじゃん。私達そういう関係で売ってるのに」

「あれは、詩音さんを救うための方便ですから。視聴者に形だけの体裁を保てていれば、それで十分です」

「形だけ、ね。……茜は私の告白を、魔法で無かったことにしちゃうもんね」

 

 詩音さんは可笑しそうに笑いながら、ゆっくりと腕の拘束を解いた。


「…………何のことだか分かりません。告白なんてされた覚えないですよ」


 嘘である。

 あのお見舞いの日以来、詩音さんは隙あらば『ここだ』というタイミングで、私に愛を囁いてくる。

 彼女が自身を持って放つその言葉に、私の精神は幾度となく削り取られ、危うく「YES」と言いそうになるのを必死に踏みとどまって生きてきた。

 

 どのような執念が彼女を突き動かしているのかは分からないが、一向に諦める気配はない。

 だから私はその度に自身の権能を使い、彼女の記憶を塗りつぶし続けている。

 

 ただあまり適当に暗示をかけると、彼女の生活に影響が出かねないので『私に告白したことだけを忘れてください』という単純なものだけでやりくりしている。

 下手に過去の記憶を改竄してしまったら、詩音さんの体にどんな悪影響があるか分からないからだ。

 

 が、そんな悠長な事をしていると、どうやら最近は詩音さんが慣れてきたのか、それとも私の力が弱まっているのか――

 どうやら最近、彼女は私が繰り返している不正に気づき始めている節があった。


「最近はやけに私を避けるね。もう嫌いになっちゃった?」


 詩音さんは玄関へ向かおうとする私の先を回り込み、壁を背に立ちふさがった。

 私を見上げるその瞳は、どこまでも澄んでいる。

 

「そうかもしれませんね。Vtuberとしてこういうことをするのも、そろそろ終わりにしたいくらいです」


 今の詩音さんは、もはや私がいなくとも一人でどこまでも走り続けられる存在だ。

 退院後の彼女の進撃は凄まじく、登録者数は瞬く間に250万人を超え、VTuber業界ではもう5本の指に入るほどのトップスターとなった。


 だから、もう充分なのだ。

 私は責任を果たし切った。

 これで贖罪は終わり、私は私の人生を見つけに行ける。

 ようやく私は自分だけで、あの日から曇って見えなくなった未来の先に向かって歩き出せるのだ。

 

 あとはどうやって彼女と円満に縁を切るか。


「そこを退いてください」

「い〜やっ! 私はもっと茜と一緒に居たい!!」

 

 ただ、私から強引に切ろうとすると、後でどんな仕返しが待ってるか分からない。

 詩音さんは私との関係を絶対に切るつもりはない――そういう強い意志が見て取れるのだ。

 これまで詩音さんを振り返るに、彼女の基本的な振る舞い方は、おおよそが猪突猛進と言ってもいいだろう。

 この人は自分が一度決めた事を、そう簡単に曲げたりしない。

 もはや、記憶を改竄しても体だけで這って追いかけてきそうな、そんな凄みさえある。

 

 そして今の詩音さん相手に、私の口では絶対に言い勝てない。


 年の始まりを境にして、詩音さんの精神は圧倒的に成長した。

 もう私が彼女の精神に漬け込む隙なんて、ほぼありはしないのだ。

 

 むしろ私の頭がバットで殴られるかの如く、精神をフルスイングされている。

 人間だった頃の弱い私なら、とっくに折れていただろう。


「分かりました。じゃあ今日は夕飯を作ってあげるので、それで勘弁してください」

「やった〜!!」

「というわけでそこを退いてくださいねー。買い出しに行くので」


 私がそう言うと、詩音さんは私の腕に引っ付いてきた。

 

「私もついて行くよ。もしかしたらそのまま逃げちゃうかもしれないしね」

「…………はぁ」


 あれから全てのキスやら夜の誘いやらを躱している――というか、キスをされたところでその事を無かった事にしている。


 それでも尚この人は諦めない。

 まるで彼女の余裕は未来を見通しているかの如くである。




 ---




 私たちは指を絡め合いながら、夜の街へと踏み出した。

 ここは詩音さんのマンション近くなので、結構一通りは多い。

 おまけにもうそろそろで夏休みが始まるので、みんな浮き足立っているようだ。

 

 やっぱり私は、アレだけのことがあった後でも、人が多いのは気持ち悪いと思ってしまう。

 半分くらい消えてくれたりしないだろうか。


「まだ人混みは嫌い?」

「分かりますか」

「だって、世界で自分が一番不幸って言いたげな、すごく面白くなさそうな顔をしてるもん」

 

 詩音さんは悪戯っぽく私を横目に見ながら言う。


 私は吐き捨てるように言葉を繋いだ。


「私は自分を含めた知的生命体全てが嫌いですからね。……思考する力なんてなければ、こうして不幸を自覚することもなかったのに。神様というのは随分と悪趣味なところもあるみたいです」

「茜はいつも通り平常運転だ〜」

「……ひとつ付け加えさせて貰うんですけど、面白くない顔をしている理由には、嫌いな人の隣にいるから――って可能性もあるかもしれませんよ」


 私は詩音さんの心にジャブを放った。

 

 すると予想通り詩音さんは、冷ややかに言葉を返してくる。


「それはもちろん人間が嫌いって意味で、私が嫌いって話じゃないよね?」

「どうでしょうか。私も自分で自分が分かっていないので、答えようがないですね」


 私の出した答えは変わっていない。

 それに具体的な目的地があるわけではない。

 

 ただ私は自らの才覚が許す限り、他者を蹴落とし、加害し、その苦悶を糧にして悦に浸りたい。

 そんな人間としての当たり前を求め、歩み出したいのだ。


 そのためには、詩音さんの存在はあまりに邪魔だった。

 彼女が隣に居ると私は歩き出せないのだから。


「ううん。茜は私のことを好きで好きで、大好きで仕方ないはずだよ」

「そうですね。好きですよ、大好き」


 心など微塵もこもっていない、空虚な音の羅列を返す。

 

 すると詩音さんが足を止めた。

 繋いでいた手が、勢いよく拒絶するように解かれる。

 

 慣性に引かれるように私もまた、夜の街のただ中で立ち止まった。


「……あんたも強情だよね」


 本当に夏なのか疑わしいくらい、冷気の篭った声が耳に届く。

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」


 自己紹介か?って思ってしまう言葉だ。

 私とそういう関係になるのを諦めない、彼女の方が圧倒的に強情だと思う。

 

 かつての私がどれほどそれを望んでいたとしても、今はもう違う。

 同性同士の恋愛という世俗の壁に加え、私はもはや人ですらない化物なのだ。

 そんな二人が永遠を誓い合うなど、滑稽を通り越して狂気の沙汰だというのに。


「どれだけ言われようと強情なのはそっち。だって茜はもう充分幸せなのに、その事から必死に目を背けようとしてるんだから」

「は? 私が幸せ?……何を根拠にそんなこと言って――」

「なんだかんだ言って、私から離れられないのがその証拠。茜は他人が嫌いだけど、世界で私だけは絶対的な例外。そんな私とずっと一緒なのに、幸せじゃないなんてことある? ないでしょ」


 相変わらずだ。

 本当にどこまでもこの人は変わらない。

 

 何一まともな根拠のない、揺るぎのない自信。

 さも他人が――それも種族も思考の前提すら異なる相手が、私のすべて理解したかのように語る。


 その不遜な振る舞いに、奥歯が軋むほどの苛立ちを覚えた。


「いつもいつもいつもいつもいつもッッッ!!!……自分勝手に私に告白してくる異常者が、何を分かった風に言ってるんですかっ! こっちはウンザリしてるんですよ。 いい加減私のことなんか放っておいて下さいっ!!」

「やっぱり告白をなかった事にしてるんじゃん。私が内容を覚えてないって事は、それが明日菜ちゃんの言ってた茜の力なんだね」


 くっ……

 勢い余って口走ってしまった。

 まぁいい、後でどうにでもなる事なのだから。

 それよりも私は、知ったような口を聞くこの人がどうしても気に食わない。

 私の幸せを他人が勝手に定義し、語ることを私は許さない。


「そんな事はどうだっていいんです!! 大体ですね、こっちは告白を何度も断ってるのに、貴女はそれを強引に進めようとしてきてるんですよ!!私のことを考えてもらえるなら、少しは諦めるって姿勢を見せてくれませんかね!!?」

「無理」


 叫ぶような私の拒絶に対し、詩音さんは瞬き一つせず即答した。

 それは天地が引っくり返っても曲げることのない、絶対的な意志の表明。

 もはや対話など成立しない、完全にお手上げである。


「………………やってる事が、あのストーカー男と変わりませんよ」

「――」


 投げつけた言葉と同時に、詩音さんの表情から一切の温度が消えた。

 空気が凍りつき彼女の唇から微かな、だが鋭い舌打ちが漏れる。

 

 どうやら逆鱗に触れてしまったようだ。

 だけど、関係ない。

 これで私達の関係が終わるなら、それだけの事である


 そう思ったが。


「な〜んてね。今のは超マジでムカついたけど、でも、そんな安っぽい挑発じゃ私は折れないよ」

「…………っ」

「茜は諦めて欲しいみたいだけど、それはこっちのセリフだね」


 詩音さんは射抜くような視線を向けたまま、私の頬に触れようと指先を伸ばしてきた。

 それを許すつもりなど毛頭ない。

 

 私は目前まで迫ったその細い手首を、すぐさま掴み取った。


「どうやら死ぬくらいに酷い目に遭わないと、その腐った性根は治らないみたいですね」

「残念、私はこれ以上変わったりしないよ」


 あざ笑うような彼女の余裕を、完膚なきまでに叩き潰してやる。

 これまで私は吸血以外の化物としての姿は、彼女に見せてこなかった。

 

 だが、もう手加減はしない。

 二度と私の顔を直視できなくなるほど恐怖を、その身に刻みつけてやる。

 

 私は詩音さんの腕を強引に引きずり、光の届かない狭い路地裏へと彼女を放り込んだ。

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