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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
終章 決して届くことなき憧れの人

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第91話 この上なく惨めな人でなし ☆

「んんむっ!?!?」

 

 驚愕に目を見開く私の唇を、彼女の舌が強引に割り開く。

 侵入してきた熱が、口内を縦横無尽に蹂躙していく。


「やめ……っ!」

 

 抵抗しようと腕を動かしかけたが、包帯だらけの彼女の体に衝撃を与えるわけにはいかない。

 その一瞬の躊躇を見透かしたかのように、彼女のキスはさらに深く、貪欲に熱を帯びていった。

 

 思考が白濁し、脳が甘い快楽に蕩けていく。

 彼女が満足したようにゆっくりと舌を引き、唇を離すまで、私はただ為す術もなくその熱に焼かれるしかなかった。

 

 ようやく酸素が脳に回り、現状を理解した瞬間。


「わ、わあああぁっ!?」

 

 私は突き飛ばされたかのような勢いで後退り、背後のサイドテーブルをなぎ倒しながら、無様に床へと転がった。

 

 金属音が病室に虚しく響く中、彼女は可笑しそうに肩を揺らして笑う。


「あははっ! ……ふぅん、私の血の味って、こういう感じなんだ。ごちそうさまっ!」

 

 そう言って彼女は唇を舐め、子供のように『べー』と舌を突き出した。


「いきなり……何、してくれてるんですか……っ!」


 激しく乱れた呼吸を整え、困惑の極みの中からどうにか言葉を絞り出す。

 

 あまりに突飛で、強引な口づけ。

 ムードも何もあったものじゃないのに……脳も、私のプライドや理念も。

 そのすべてが、たった一度のキスで跡形もなく焼き払われそうになっていた。


「愛情表現ってやつだよ。やっぱり好きな人にはドシドシ愛を伝えて、二度と手元から離れないようにしておかないとね」


 そう言って微笑む彼女の瞳の奥に、得体の知れない熱が宿っている。

 

 私の本能が警鐘を乱打していた。

 

 この人は危ない。

 ここで放置すれば、取り返しのつかないことになる。

 今この場で彼女を消してしまわなければ、私が、私の尊厳ごと喰い尽くされてしまう。

 

「今から凄く大事な事を言うから、私の言葉をよく聞いて、茜」

「……いえ、これ以上貴方は喋らなくていいです」


 私は瞳孔を開き、思考を加速させた。

 白濁した脳を無理やり臨戦状態へと切り替え、彼女を制圧するため、体に負荷をかけ始める。

 

 でも、詩音さんはそれさえも見透かしたかのように、あまりに衝撃的な言葉を突きつけてきた。


「――私が一生、あんたを守ってあげる。だからあんたは私を受け入れて、死ぬまでずっと隣にいなさいっ!」


 立つことすら叶わぬ、脆く傷ついた少女。

 それなのにベッドの上から見下ろす彼女の言葉には、抗いようのない神聖な暴力性が宿っていた。


「……ぁぅ…………ぅ……」


 その言葉の力強さに、戦意は一瞬にして削がれ、私の思考は焼き切れた。

 何も言い返せずにいる私に、彼女はさらに追い打ちをかける。

 

「ちなみに優しい優しい茜様と違って、私は拒否とか許すつもりないの。だからこれは決定事項ね」


 それはもはや提案などではなく、絶対的な支配宣言だった。

 あまりの暴挙。

 だが彼女の瞳には微塵の揺らぎもない。

 

 私は震える声で、どうにか最後の防波堤を築こうと試みた。

 

「と、友達として……ですよね」

「生涯の伴侶として、だよ」

 

 かつての私であれば、それは泣いて喜ぶべきことだったはずだ。

 でも今彼女が提示しているのは、睦まじい恋人ごっこなどではない。

 段階をすべて踏み倒し、私の人生を、魂の在り方を、死ぬまで鎖で繋ぎ止めたいという契約だ。

 

 ――私が一生、あんたを守ってあげる。

 

 その言葉に込められた重みを、私は正しく理解できる。

 普通、あんな酷い目に遭った直後に、口にできる言葉ではない。

 それを言い切る彼女の覚悟を思うほどに、背筋に冷たいものが走る。

 

 彼女の申し出を受け入れるということ。

 それは新しく目覚めつつある自らの欲望を切り捨て、この絶対的な強者へ永遠に隷属することを意味していた。


「っ!!」

 

 ――そんなことはっ!私のプライドが絶対に許さない!

 捕食対象に頭を垂れるなんて、あってはならない!!


「だ、断固として! お断り……しますっ!!」


 私は震えた声でそう吐き捨て、腰の抜けた足を引き摺り、四つん這いに近い無様な格好を晒しながら、どうにか病室を逃げ出そうとした。


 なりふり構わず、彼女のベッドの脇を横切ろうとしたその時。


「逃げるの?」


 詩音さんの冷徹な声が、私の背中に突き刺さった。

 

 私はその言葉にイラッとして、不格好ながらも彼女の方に振り向いて言葉を返す。


「やりたい放題勝手にやって、私の気持ちも考えないで……何を言ってるんですか!! 普通にそんなことを言われて、私が『どうぞよろしくお願いします』なんて言うはずがないでしょう?!」

「ううん、茜にはそういってもらわないと困るよ。だってそうしないと、多分あんたは不幸になるから」

「は……?」

「断言してあげる。茜は私が隣に居ないと不幸になる。だから私の隣に死ぬまでいなさい」


 ふざけている。

 よくそんな言葉をそんな真剣な顔で吐けたものだ。


 私は顔を歪ませ、ありったけの怒りを言葉に乗せた。

 

「はぁ!? そんなこと言ったらもう絶賛大不幸ですよ!! 一体誰のせいでこんな事になってると思うんですか?!!! 」

「…………」

「全部貴女のせいで、もう行き着くところまで行き着いちゃってるんですよ!!! それなのに不幸の大元である詩音さんが、よくもそんな馬鹿な言葉を口にできましたね?! 頭沸いてるんじゃないですか??」


 壁に背中を預け私は荒い息を吐いた。

 

 口にしてから後悔が襲う。

 

 最悪の他責だ。

 自分の選択の結果を、すべて彼女に押し付けるような、もっとも醜い言葉。


 だが詩音さんは、眉一つ動かさなかった。

 それどころか微笑みを浮かべて私を包み込む。


「そう、だから私はもっと頑張るの。頑張らないといけないの。でも私一人じゃ……また転んじゃうかもしれないからさ、茜には側についてて欲しいな」

「っ……!」

「茜が安心して、私だけを見て暮らせる世界にする。それだけの力を私は手に入れる。だからその為に――一緒に歩こう?」


 詩音さんは遠い私に向けて、白く細い右手を差し出した。

 

 ……やはり私は彼女を甘く見ていた。

 そこに横たわっているのは、単なる弱者ではない。

 いずれ大輪として輝く、巨大な種子とも言えよう。


「ふざけ……」


 どうにか反論を口にしようとするも、言葉を全て口にすることは叶わなかった。

 私は彼女が放つこの圧倒的な空気感に、頭がおかしくなりそうだったのだ。

 頭を抱えて叫び出したいほどの激情が、胸の内側をかき乱す。


 それほどまでに、今の彼女と私の精神の差は、圧倒的に広がっていた。

 何の力を持たない人間風情が、言葉とその風格のみで、私を操ろうとしている。


「手を取って茜。私と前に進んで」


 詩音さんは迷いのない眼差しで私を射抜く。

 

 私は壊れた操り人形のように、あるいは花の蜜に誘われる虫のように吸い寄せられ、床を手で這いながら、彼女へと近づいていく。


 絶対によくないって頭では分かっているのに、体が言うことを聞いてくれない。

 このまま詩音さんに寄り添いたい。

 思考を停止して死ぬまで彼女の側にいたい。

 そんな夢が思考の隅でチラついてしょうがなかった。


 そして震える右手を伸ばし、その指先に触れようとした、その時。


 ――血管を駆け巡る血が一瞬で沸騰した。

 

 完全に太陽が沈み、世界が夜へと反転するのを本能で感じた。

 

 昼間の淀みが一気に押し流され、五感が研ぎ澄まされる。

 全能感の再来とともに、私の思考は急速に冴えを取り戻した。


「っ……!? 茜、何をする気……っ!」

 

 詩音さんが息を呑んだ。

 一変した私の気配に、彼女の本能が警鐘を鳴らしたのだろう。

 

 だけど、もう遅い。

 

「詩音さん。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 言霊を編み私の権能で、彼女の意識の深淵へ叩き込む。

 

「これは……………………やって…………くれた……ね」


 詩音さんは必死に頭を押さえ、混濁する意識を繋ぎ止めようと私を睨み据えた。

 閉じようとする瞼を強引にこじ開け、私の支配に抗おうとするその意志の強さに、一瞬だけ胸が騒ぐ。


「抵抗しても苦しいだけですよ。早く寝てください」

「そんなに…………私の隣……嫌……?」

「はい。すっごく嫌です」

「そう…………でもっ!」


 どうにか抵抗を試みてる詩音さんに最後の一押しをする為、私は立ち上がり、彼女の視界を遮るように、その眼を右手で優しく塞いだ。

 

 指先から夜を流し込み、意識を強引に断絶させる。

 

「馬鹿、あかね…………絶対に……あんたを、私の物に……して――」


 呪いのような執念を言葉に残し、詩音さんの身体から力が抜けた。

 

 規則的な寝息が、静まり返った病室に小さく響き始める。

 私は無防備になった彼女の枕元に屈み込み、その滑らかな額に、触れるだけの口づけを落とした。


「また明日、お見舞いに来ます。……貴女が一人で立てるようになるまでは、側にいてあげますから」


 眠りに落ちた彼女にそう告げ、私は病室を後にした。

 そこで無意識に眼鏡へ手を伸ばしかけたが、思い直して指を止める。

 

 これで逆に詩音さんの事が映ってしまった方が、私の決断がブレそうだ。

 しばらくは眼鏡をかけるのもやめよう。

 

 そして病室の扉の前で、深く、長く、溜まった熱を吐き出す。


「はぁ…………」


 詩音さんとは今年の5月――いや、怪我の完治を読むに7月と言ったところだろうか。

 そこら辺の時期を境に、お別れをしようと考えている。

 結局私は学校生活に向いていないのは理解できたし、詩音さんと共に3年間をここで過ごすのはあまりに長くて辛い。

 ちゃんと時間を決めた方が私としてもやりやすい。


 それとやっぱり詩音さんと長く一緒にいると、私の向上心は削がれ、毒気を抜かれてしまう。

 あの人は耳触りの良い理屈で私を懐柔しようとしていたが、私は誰の助けを借りずとも、自分の足で幸福を掴み取れる。

 

 ただ今はちょっと道に迷っているだけ。

 だから心配されずとも自分の道は自分で歩いていける。

 

 ほんと……全部を曝け出す相手を間違えたかもしれない。

 これなら弦巻さんにでも心情を話した方が幾分かマシだった。

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