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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
終章 決して届くことなき憧れの人

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第90話 頭を撫でられながらする吸血は、涙が出るほど屈辱的である。☆

 私は彼女に語る。

 他人を害する喜びを持つ自分の特性を。

 剥き出しになった、醜い心の原型を

 

 弱肉強食こそが世の常であり、私が生きる上でこれこそが絶対不変の必須条件であると。

 

 あの日の私の行動を踏まえて、誰にも話してない心の内を事細かに話した。


「私はこれから先……どこを向いて歩けばいいのか、もう全然分からないんです」


 ただ一つ、視界から彼女の色彩が消えてしまったことだけは、言葉にできなかった。

 

 本当に私は客観的に見ても、現代で一番気色の悪い人間だ。


「な〜んだ。そんなことか」

「え?」


 詩音さんの口から漏れたのは、あまりに拍子抜けな、そして残酷なほどに軽い言葉だった。

 彼女は私の告白を、まるで取るに足らない世間話であるかのようにあっさりと踏み躙った。


「別にいつもと変わらないね。茜は茜だよ」


 もし今の話を私の家族が聞いていたなら、間違いなくドン引きしているだろう。

 母親が今の話を聞いていたら、またビンタしてくるに違いない。


 けれど、この人は――。


「言っておきますけど私、あの日は限界も限界で……詩音さんを喰べようともしてたんですよ。怖くないんですか?」

「怖がってほしい?」

「……いえ」

「じゃあ――」


 返す刀で問いを突きつけられ、私が言葉に詰まった瞬間だった。

 座っている私の胸ぐらを、詩音さんが唯一動く右手で、力任せに引き寄せた。

 

「私を殺したい(食べたい)?」


 鼻先が触れ合うほどの至近距離で、詩音さんの瞳が私の視線を逃さず射抜く。


「…………」

 

 私は先ほどまで彼女を甘く見ていた。

 視覚的な情報だけを頼りにするなら、今の彼女は生物としてあまりに脆弱だ。

 指先一つで壊せてしまうほどに、か細く、無防備。


 ……だけど私を見つめる彼女の眼は、まるで太陽をその身に宿しているかの如く力強かった。

 まるで私の身を焼くように。


殺したい(喰べたい)……って言ったらどうするんですか?」

「私、茜と違って死にたくないんだよね。それに凄いショックかも。本当に私を大好きって言ってくれた人なのか、疑いたくなるくらい」

「……っ」

「でも今回の原因は、私が中途半端に他人を振り回したせいってのもある。って言うかアイツを友達グループに引き入れたの私っぽいし、ほぼ全部私のせいかな」

「そんなことは……」

「――黙って」


 議論の余地などない。

 彼女は有無を言わせぬ響きで私を制し、定義づけた。

 

 そして余裕の笑みを以て、彼女は私にとんでもないことを口にする。


「茜。私が死なない程度だったら、()()()()()()()()()


 詩音さんは私の胸ぐらをさらに引き寄せ、自身の無防備な首元に、私の顔を強制的に近づけさせた。


「……言っておくけど、心の内に問題があるのは別にあんたばかりじゃないからね。人間なんて皆何かしらの欠陥を抱えた異常者達なんだから」

「…………驚きです。詩音さんの口からそんな哲学的な言葉が出ると思いませんでした」

「まぁ、これは友達の受け売りだしね。でも最近は私もそうかもって思えてきた」

「…………もう夜になります。私がその気になったら、詩音さんの命なんか秒で消せちゃうんですよ」

「たらればばっか言ってないで、早くしなよ。――まさかビビってるの?」


 詩音さんの唇から、小さな、だが鋭い煽りが聞こえてくる。

 

 自分では何もできない弱者のくせに、どこまでも生意気な――。

 そう毒づく思考の裏側で、私は彼女の瞳に宿る『絶対的な自信』に気圧されていた。

 

 それはまるで私に出会う前に戻ったかのような。

 もっとも輝かしく、残酷なほどに現実離れしていた、私の太陽としての月宮詩音がそこにいた。


「後悔しても知りませんよ!!」


 私は彼女の挑発に乗り熱を孕んだ牙を、詩音さんの肌へと迷わず突き立てた。

 

「っ……あ……」

 

 彼女の短い吐息が耳元で跳ねる。

 首筋の柔らかな皮膚を突き破り、その奥にある生命の奔流に辿り着いた瞬間、私の口内に鉄の味が混じった甘美な熱狂が溢れ出した。

 熱い、喉を焼くような熱量だ。

 ドクンドクンと、彼女の心臓が刻む鼓動が、私の牙を通じてダイレクトに脳を揺さぶる。

 一滴、また一滴と彼女の命を啜るたびに、今まで透き通っていた私の頭の中が、どろりとした赤色で塗りつぶされていく。

 

 心地いい。

 久しぶりに体内で巡る私を私たらしめるための、暴力的なまでの甘い充足感。


 ――もっと、もっと欲しい!


 そう無意識のうちに腕に力がこもり、彼女の折れた肋骨や、痣だらけの体を圧迫してしまう。

 それでも私は止まれない。

 シーツの上に散らばる点滴の管も、彼女の体を拘束する無機質な装具も、今の私には関係なかった。

 ただ私を拒まないこの熱源に、醜い本能のままにしがみついた。

 その時だった。

 

「…………よしよし。良い子だね、茜」

 

 ふわりと、私の頭に温かい感触が触れた。

 彼女の右手が、震えながらも私の後頭部を優しく、愛おしむように撫でる。

 点滴の針を固定するテープの感触が髪越しに伝わってくる。


「美味しい? ……全部、茜にあげるからね」

 

 彼女の声は掠れていた。

 痛みと、血を失うことによる急激な体温の低下のせいだろう。

 それなのに私を撫でるその手つきは、まるで親が子供をあやして慈しむように、どこまでも穏やかだった。


「くっ……」


 ……これではまるで子供扱いだ。

 まるで私が守られるべき弱者みたいではないか。

 私が今捕食しているのに、こんなの……私が食べられているようにさえ感じる。


 やっと獲得することができた自尊心が、ゴリゴリ削られているようでとても腹立たしい。

 こんな弱い人にいいように扱われて、凄くイライラする。

 

 それなのに……それなのに……

 

「あーあ、泣いちゃった。やっぱ茜はずっと泣き虫だね」


 視界が歪んでいく。

 理由の分からない涙が、溢れて止まらなかった。

 

 私は啜るのをやめ、ゆっくりと牙を離した。

 

 頬を伝い、彼女の傷ついた肌に落ちる涙を拭おうともせず、私は声を震わせて返した。

 

「……………………詩音さんだって、元日は泣きっぱなしでした」

「はい、ノンデリポイント100点。私以外にそれ言ったら絶対に縁切られてるね」

「……ごめんなさい」


 消え入るような声で謝り、私は彼女の首筋から離れようとした。

 だけど再び胸ぐらを強く掴まれ、逃げ場を塞がれる。


「え……?」

「血をあげたんだもん。やっぱりお返しはあって然るべきだと思わない?」

「そ、そんなの先に言ってくださいよ! 先に言ってくれれば、血が欲しいなんて……」

「別にそこまで焦るほどの物を、要求するわけじゃないよ。というか、むしろこれはプレゼントにもなっちゃうかな?」


 詩音さんは悪戯っぽく目を細めると、私の胸元から手を離し、今度は後頭部へと回した。

 そして私に抗う暇など与えられず、一気に距離を詰められ――柔らかな唇が重なった。

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