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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第三章 期待の新星、VTuber灯アカリの電撃デビュー 東京編

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第86話 日の光

 寒い寒い冬だった。

 眠りながら、私は体も思考も凍りついてしまいそうだった。

 いっそ、そのまま凍らせて欲しい。

 新しく見つけた生きる意味を目の前ですべて破壊され、何の成果も得られないまま家に帰された虚無感に、眠りの中でも打ちのめされていた。

 

 そんな時、ふと鼻腔をくすぐる匂いがする。

 

 目を覚ますとすでに翌日の朝だった。

 体には毛布が掛けられている。

 

 視界が開けた時、真っ先に映り込んだのは血を滴らせた弦巻さんの手だった。

 

「おはよう……ございます」

「おはよ〜」

「いつからいたんですか?」

「ついさっききた」


 溢れ出す血を飲めると期待して待っていたのに、彼女はすぐさま手を引いてしまった。

 とんだ生殺しである。

 

 かなり嫌な気分のまま周囲を見渡すと、母と妹が呆然とした顔でこちらを見つめていた。


「これで分かって貰えたかな〜? 茜っちが化物になっちゃったって事を」

「お姉ちゃん……さっきまで何をしても起きなかったのに、それで起きるんだ。しかも何の抵抗もなく飲もうとしてたし」

「これが東京にいた時、私が飲ませた薬の影響ねー」


 一体どこから彼女は話始めているのやら。

 話の重要性でいえばそこではなくて、私の体が一度バラバラにされて死んだことの方を話すべきだし、今の言い方では彼女が一方的な悪者になりかねない。

 ……まぁ変な薬を盛られた時点で、実際に悪者には違いないのだけれど。


「ッ!!」


 激昂した母が、弦巻さんに掴みかかろうとした。

 私は反射的に起き上がり、その腕を片手で受け止めた。


「茜……?」

「全部聞いてもいないのに、飛びかかろうとしないでください。心配してくれるのはありがたいんですけどね」


 そこからの説明には私も加わり、弦巻さんも補足として情報を小出しにしてくれた。

 清水さんに身体をぐちゃぐちゃに切り刻まれた事実も、あえて包み隠さず話した。

 

 母と明日菜は絶句し、幽霊でも見るような目で私を見ている。

 話が現実離れしすぎていて、疑う以前に思考が停止しているようだったけれど、弦巻さんが真剣な面持ちで念押しすると、二人の顔から血の気が引いていくのがわかった。

 

 それでも完全に信じたくないようだったので、私が自分の腕を自分で折って見せると、お母さんから本気の平手打ちを食らって「二度とするな!!」と叱られた後、信じてもらえた。


「茜っち……なにやってんの?」


 流石の弦巻さんも、これには眉をひそめてしまうようだ。

 折れた腕は、服の上からでもわかるほど急速に形を整え、数秒で元通りに修復させる。

 

「痛覚がだいぶ弱くなっちゃったので、実践してみせただけですよ」

 

 平静を取り戻したところで、弦巻さん側の情報を整理していく。

 彼女が持ってきた話も、今後の生活を左右するほどに重いものだった。

 

 どうやら、私をどこかの秘匿された施設へ移送しようとする機関が存在するらしい。

 私がベックさんを力でねじ伏せたことや、Vtuberとして急激に影響力を強めてしまった現状を、彼女の背後にいる業界の人たちが危険視しているのだという。


「純粋に腕力が強いってだけならまだよかった――う〜ん、報告通りのことをやられて死んでないから、全然良くはないんだけど……おまけに茜っちは、他人を魅了する力もあったっぽいんだよね」

「魅了?」

「吸血鬼には備わってるっぽいよ〜、そういう力。だからキミが変に長い期間虐められてたのも、体力が限界の時に文化祭であのパフォーマンスを出せたのも、一気にVtuberにまで成り上がったのも、大体はそういう事情があったせい……かな」

「なんで貴女が疑問系なんですか」

「だって私はこうなるって思わなかったし〜、そういう人外の痕跡を茜っちから感じなかったし〜……っていうか、薬の件でめっちゃ上の人に怒られちゃったしー……」


 裏の業界とやらに属する人間たちは、私を危険因子として管理下に置きたがっていたらしい。

 それを弦巻さんが独断でいくつかの条件を提示し、なんとか矛先を逸らしてくれたのだという。

 

 その条件というのが、これだ。


「茜っちには暗示……というか、魔法でめちゃめちゃに縛りをかけさせてもらうね! そしたら普通の暮らししてても、許してもらえるそうだから!」

「ボーリングの時は適当言って、私に何もしなかったですよね。縛るとかまた嘘――」

「そんな調子に乗ってられるのも今だけだよ」

 

 弦巻さんの声音から温度が消えた。


 彼女が私の背にそっと掌を添え、唇を微かに動かして呪文のようなものを呟く。

 その直後、全身の毛穴が逆立つような悪寒と共に、みなぎっていた筋力が砂の城のようにガクンと崩れ落ちた。


「うわぁっ!!?」

「茜!?」

「お姉ちゃん!!?」


 立っていられない。

 内臓を素手で掻き回されるような酷い吐き気がせり上がり、私はその場に膝を突いた。

 冷や汗が吹き出し、視界がちかちかと明滅する。

 

 しばらくしてようやく、重力に抗える程度の感覚が戻ってきた。


「これで人を傷つける危険性はだいぶ減ったかな〜」

「茜に、一体何をしたの……?」

「簡単に言うと、他人を害さないように、できるだけ人間に近くなるように、弱体化の魔法をかけたんですよ、お母様」


 説明を聞きながら、私は自分の体を確認する。

 

 化物としての全能感と、引き戻された人間としての脆弱さ。

 そのあまりのギャップに、肉体が悲鳴を上げているようだった。

 

 今は太陽の出ている時間帯だから特に作用が強く、夜になれば多少は緩和されるらしい。

 だが今のこの状態では、ペットボトルのキャップを開けることすら、大仕事になりそうだった。


「薬の影響でこうなったわけだし、歳を重ねれば少しずつ馴染んで元に戻る…………かも?」

「どこまでも、あやふやですね」

「初めての事例だから、私だって正解なんて分かんないんだよねー。あ、触診した感じだと普通の食事で栄養は足りそうだから。こちらで血液パックとかは用意しないけど、もし容態が変わったらすぐに連絡して」


 一方的に用件を済ませると、彼女はひらひらと手を振って部屋を出て行こうとした。


「もう帰るんですか?」

「帰るんじゃなくて怒られに行くの! なんか知らないけど私の責任になっちゃったぽいし……おまけに給料50%カットって言われちゃったし、本当に最悪!!」


 一方的にまくしたてると、弦巻さんは不機嫌を隠そうともせずにリビングの扉を開け、嵐のように去っていった。

 詩音さんと比べてると、弦巻さんはだいぶあっさりしているキレ方なので、気楽に放置できていい。

 

「茜、お母さんじゃ力不足なことが多いかもしれないけど、何か辛いことがあったらすぐに言うのよ。あとは危ない事に絶対に首を突っ込まない。いいわね?」

「はい」


 母の言葉に、私は適当に頷いてみせる。

 言ってなんだけど、私はそこまで家族に期待はしていない。

 大切な人側ではあるけど、問題解決能力があるとは思っていない。

 この人達にそれができるのなら、私は虐めなんて受けていないし、体を6分割なんてされていないのだから。

 

「心配しなくても、別に大丈夫ですよ。生活はこれまで通り変わりませんから」


 まぁこれを伝えたところで、お母さんの頭がフリーズするのも目に見えてるので、言わないけど。

 

「髪が白くなって目も赤くなっちゃったけど、そのまま学校に行くの、お姉ちゃん?」

「…………」


 そういえばその問題があったか。

 そこら辺は髪の毛を黒染めして、カラコンを入れればなんとか――今普通に対処法を考えてしまったけど、結構面倒くさいかもしれない。

 わざわざ学校のために、それをやり続ける労力を割くというのが、本当に怠い。

 

 そもそも、美容室へ行って他人と喋りたくない。


「まぁ、それは今度考えるとしましょう。今はとりあえずお風呂ですね」


 思考を打ち切って部屋を出ようとした時、明日菜が私の背中をトントンと突いてきた。

 私は振り向かず、声だけで背後の用件を促す。

 

「何かまだ用があるんですか?」

「別に用ってほどでもないんだけどさ、お姉ちゃんが詩音さんとエッチしたって話――あれ、本当?」


 瞬間、身体の芯が沸騰したように熱くなった。

 だが、その熱は一瞬で凪ぎ、代わりに脳が急速に冷めていく奇妙な感覚に襲われた。

 自分の内側で、正反対の感情が激突して消滅していく。


 酷い冷え方だ。

 今日の目覚め――というより昨日の帰りから頭の調子は変わってない。

 最低最悪な気分。


「あれは視聴者に向けた嘘ですよ。あぁ言った方がインパクトがあると思っただけです」

「へ〜? 本当かなぁ」


 自分でも、この感情の正体が分からない。

 ただ私の心はまだ、真冬の夜の真っ暗な道を一人で歩いているような、救いのない寒さの中に置き去りにされたままだった。

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