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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第三章 期待の新星、VTuber灯アカリの電撃デビュー 東京編

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第81話 人の在り方

 通話に出るのを即座に断念し、私はスマホを雪の上へ放り出した。

 両手を空けて迎撃の体勢を取る。

 だが一瞬の判断の遅れが、修復不能な綻びを生んだ。

 不眠で錆びついた反射神経は、その刃の速度に追いつけない。

 

「――――――ッ!」


 一撃目を辛うじて受け流すが、二撃目をいなしきれなかった。

 コートの生地を易々と貫いた冷たい刃が、私の左腕の肉を浅く、けれど確実に切り裂いた。


 焼けるような激痛に視界が歪む。体勢を立て直そうと一歩引こうとしたが、限界を超えた足腰がぬかるんだ雪に裏切られた。

 逃げ場を失い、私は無様に仰向けに倒れ込む。

 

 清水はその絶好の機会を逃さなかった。

 獲物を仕留めた獣のような勢いで、私の上に覆い被さってくる。


「ずっとお前をこうしてやりたかったんだ!!ありがとよ、神様!!!」


 男は歓喜の咆哮を上げながら、片手に包丁を握ったまま、空いた拳を私の顔面へ振り下ろしてきた。

 私は反射的に両手でガードを作り、鈍い衝撃を正面から受け止める。


「こんなこと、して……っ! 捕まるだけ、ですよ……!!」

「動画をアップロードした時から、そんなのは薄々分かりきってたんだよ、カス。――そんなことよりさ、お前は泣き叫んでくれないのか?」


 男の瞳に宿る、底知れない暗い期待。

 

 次の一撃は拳ではなかった。

 清水は包丁を振り上げ、迷いなく私の右腕へと突き立てた。

 刃が肉を抉る嫌な感触と共に、猛烈な熱痛が全身の神経を駆け巡った。

 

「っ、あ――――――ッ!!!!!!!」


 肺から空気がすべて絞り出され、声にならない悲鳴が雪夜に消える。

 あまりの衝撃に、目からは大粒の涙がとめどなく溢れ落ちた。


「足りないよ藤崎。声が全然足りないって!!!お前が俺に与えた痛みはこんなんじゃ癒えねえよ! 俺のことを思うなら……もっと泣き叫んで痛がってくれ」


 眼球を血走らせ、至近距離で男が笑う。

 激痛で白く霞む視界の端で、私は呪詛を絞り出した。

 

「外道…………が…………」

「外道はお前だろ。お前が俺の詩音に張りついたせいで、俺とアイツの関係にリセットが入った。全部お前のせいだろ!! 加害者の分際でなんで被害者面してるんだ!!!」


 咆哮と共に、今度は包丁の峰が私の側頭部を容赦なく打ち据えた。

 鈍い衝撃に意識が断裂しかける。

 むしろこれほどの暴行を受けていながら、なぜ未だに意識が繋ぎ止められているのかが、不思議でならなかった。


「モ………………あ…………」

「なぁ、俺は藤崎が羨ましいよ。俺だってお前のことを大衆の面前でぶっ殺したかった。アレは本当に異常だったよな? 周りの奴らはお前のことを止めず、むしろお前の暴挙を応援してさえいた」


 男は感傷的な声を漏らしながら、今度は私の腹部へ深く刃を突き立てた。


「俺は悲しい、お前がこの程度しか泣いてくれないんだから。お願いだから我慢せずに泣き叫んでくれよ。俺は文化祭でアレだけ発狂したんだから、そうじゃないと釣り合わないだろうがっ!!!」


 ザク、ザク、と嫌な音が響く。

 男は狂ったように、私の体に幾度も刃を突き刺していった。


「……………………」

「あーあ、もう死んじゃったか?」


 死の淵に立たされた瞬間、私はまるで他人事のように、現在を俯瞰して見ることができた。

 

 これが幽霊の状態というものなのだろうか。


 ……もしくはこれが神様が私に与えた罰なのか。

 痛くて苦しくて、頭がおかしくなりそうで、発狂しそうで、怒りでどうにかなりそうで、全てが許せなくなるこの感覚が……今の私に与えられた罰。


 あぁ……なんということなのだろう。

 これには平等の欠片も無い。

 こんな経験、世の中の殆どの人がしないだろうに。

 私がここまでの仕打ちを受けるほど、何かしたのだろうか?


 いや――何もしてない。

 

 むしろ悪いのは何もしてないからこそ、ダメだったのだ。


「……初めては詩音にあげるつもりだったけど、まぁお前が相手でも良いかもな。裸にひん剥いてやるから練習台になって喘いでくれよ――つっても死人は喋れないか!」


 弱肉強食は世の常。

 私はそれを身を以って理解していたはずだ。


 神様はそれを何度も教えてくれていた。

 弱い私ではダメだと、いつも教えてくれていた。


 弱いとは肉体の強度の話ではなく、社会性の有無。

 私にはそれが全く足りて無い。

 

 無知は罪とはよく言ったものである。

 この場合、私は生きているだけで罪に問われるのだろう。


 食われるだけの弱者に、生存権など与えられない。

 そんな弱い者に人権はいらない。


「おぉ……良い体してるじゃん。ちょっと悩みどころだけど、セックスは藤崎の首を切り落として、詩音に見せた後でも良いかもな。どんな反応してくれるか楽しみだ!!」


 その点で言ってしまえば、彼は文化祭の時と比べて大きく変わった。

 私が変えてしまったのだろう。


 元からある程度彼に社会性はあったようだが、それでもあの時の彼は弱かった。

 人という種として彼は心意気が弱すぎた。

 それは過去の私と同じくらいに。


 でも彼は変わった。

 今の私が羨望すら抱くほどに。


「藤崎の胸やわらけぇ……女の子の胸ってこんな柔らかいんだ……すご」


 思い返せば初めて彼に睨まれた時から、私はどこか彼に惹かれていた。

 これが運命というやつなのだろう。

 

 この男は私と全く同じだけの弱さと、同じだけの加害性(社会性)を秘めている。

 そう直感してしまったから。


 ――何度でも言おう。

 

 弱肉強食は世の常。

 そしてこの現代社会において、人があるべき姿とは、他者を完膚なきまでに加害できるだけの力を保持することに他ならない。

 

 牙を持てば虐げられることはない。

 他人に蹴落とされ、泥を舐める屈辱を味わわずに済む。

 他人を害する力は、人間という種における必須ステータスなのだ。


「首だけじゃアレかな」


 あぁ……素晴らしい、素晴らしい。

 私は無意識のうちに、彼と高め合っていたのだ。

 同質の弱さを持つ者同士、イタチごっこを繰り返すように、人としての高みを目指して。


 入学直後、私は彼から詩音さんの時間を奪い、彼の居場所を踏みにじった。

 彼が告白する直前には、彼は私に毒を吐いて悦に浸った。

 

 文化祭では私が彼を蹴り飛ばして、他者を蹴落とす快楽を私は知った。

 

 今度は彼がこの炎上と暴力をもって私を凌駕し、先へ進む。

 

 まさしく、切磋琢磨といえるだろう。

 

「やっぱ体を6分割くらいにして、詩音の目の前に置いた方が迫力あるか? そこら辺は悩みどころだけど……」


 ありがとう、清水さん。

 私は今、ようやくあなたの存在の尊さに気づくことができた。

 自分と同じ次元の弱者が存在すること。それがどれほどの幸福であったかを知った。

 

 ………………まだ、私は終われない。

 これは「死にたくない」などという生存本能ではない。

 この気づきを得た今、ここで果てることへの圧倒的な「勿体なさ」ゆえの執着だ。

 今までは他人のことなど理解できず、皆等しく苦しんで死ねばいいと呪っていた。

 けれど、今は違う。

 

 客観的に見た清水さん()を通して、この社会でどう生きるべきか、ようやく理解できたのだ。

 やっと私は普通の人としてこの地上を歩ける。


 頂点捕食者たる人間に生まれておきながら、その真理に到達した瞬間に終わるなど、あってはならない。

 私はまだ、人として生きたい。


 

 イキタイ。

◇あとがきです。

 次回から少し三人称視点になります

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