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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第三章 期待の新星、VTuber灯アカリの電撃デビュー 東京編

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第80話 人でなし同士の対面。

 家の最寄のバス停に着くまで残りおよそ10分。


 清水と詩音さんがどこにいるか、検討はついていた。

 幼い頃、祖母がよく連れて行ってくれた、家から一番近い馬鹿でかい公園。

 あの建物や、手入れの行き届いていない不潔なトイレの雰囲気は、今でも鮮明に覚えている。

 清水はそれを知らずに、私が探し出せるはずがないと高を括っているのだろう。

 私の家の正確な位置も知らない彼に、土地勘などあるはずもない。


 私は冷静であった。


「あぁ……なんなんでしょうね」


 送られてきた写真には、血を流して横たわる詩音さんと、その傍らで内カメラに向かって笑顔を浮かべる清水が写っていた。

 そしてこれから愛し合うと言ったメッセージ。


 ……察するに、ここから非道なことを彼は詩音さんにするのだろう。

 それくらいは理解できる。


 私のせいで彼をここまで焚き付けてしまった。


 罪悪感はある。

 怒りもある。

 自己嫌悪も健在だ。

 私が全部悪い。

 

 ……それを分かっていても尚、私自身の頭は反省の色に傾いたりなどしなかった。

 

 それ以上に私はどこか高揚感を抱いていた。

 自分でも今は説明ができない感情だ。

 どうして私が今、こんな気分になっているのか分からない。





 ---



 


 やがてバスを降り、公園までの雪道を歩き始めた時、私のスマホに詩音さんから着信があった。

 迷わず、指を滑らせる。


「詩音さん、無事ですか?!」


 今私はどんな顔で、こんなことを言っているのだろう。

 詩音さんに無事で居てほしいという気持ちがもちろんありながらも、私はどこか気持ちが浮ついていた。


「よぉ、藤崎。申し訳ないんだがお前の声は今は要らないんだ。良かったらそのままの状態で俺と詩音が愛し合うところを聞いてってくれ。通話は繋げたままにしておくからさ」

「は?一体何を言って」


 その言葉の真意は、何度か声を投げかけた後で理解できた。

 彼はスピーカーの音量を切り、私の声を詩音さんに届かないようにしたのだ。

 

 通話は繋げたままにするということは、()()()()()()を私に見せつけ、文化祭での仕返しをするという意図が含んでいるのだろう。

 

 ……いや、それだけだろうか。

 私はあの男に自分と近しい何かを感じていた。

 なら、彼が単なる見せつけだけで満足するはずがない。


『ぎゃああああああッッッ!!!!!」


 スマホから、詩音さんの喉を裂くような絶叫が突き刺さる。

 私は怒りに震えていた。

 そのはずだった。

 

 あんな暴挙を許せるはずがない。

 今すぐ公園へ駆け込み、あの男を完膚なきまでに叩き潰さなくてはならない。

 ……叩き潰さなくては、ならないのだ。

 

 ああ、それなのに。

 なんて……なんて……

 楽し――


「一体何を考えているんでしょうか、私は……」


 思わず、自分の頬を力任せに叩いた。

 

 まともに眠らぬまま2週間。

 きっと脳が死にかけているのだ。

 確か不眠の世界記録は11日程度だったはず。

 私はそれを優に超えてしまっている。

 

 既に三十分がわずか一秒に感じられるほど、私の脳は崩壊している。

 今、この瞬間に正気でいられないのは、極限の疲労がもたらすバグのようなものだ。

 そう自分に言い聞かせながら、重い足を引きずって雪を蹴る。

 

 今は絶対に歩みを止めるわけにはいかない。

 馬鹿な事を考えてはいけない。

 許してはいけない。

 笑ってはいけない。


 私はその事実を脳に刻み、大切な存在を壊されていることへの純粋な怒りで身を震わせなければならない。

 ここで軸をブレさせてしまったら、おしまいだ。

 

 そうでなければ、一体何のために東京で地獄のような贖罪を続けてきたのか。


「…………はぁ…………はぁ……落ち着くんですよ、私。寝てなさすぎて気が狂うのは仕方ありませんが、もう少しの辛抱なんです」


 疲れたのなら、これが終わった後に3日でも4日でも眠り続けてればいい事なのだ。

 幸い、冬休みはまだ終わっていないのだから。


「早く……」


 独り言を吐きながら雪を蹴る。

 イヤホン越しには詩音さんの悲鳴、呻き、嘆きを絶え間なく流れ続け、男の生理的に受け付けない吐息が耳を汚していた。

 それはとても不快で、聞いていられない音のはずなのだ。

 詩音さんの隣に立つ者として、社会に生きる人として、秩序を乱すその行為は断じて度し難く、見逃せるものではない。


「……行かないと」


 私は限界をとうに超えた体で、雪道を駆け抜けた。

 詩音さんの心が、完全に壊れてしまう前に。


 


 ---




 15分ほど走り続け、私はようやく目的地の公園へと辿り着いた。

 ここは広大な敷地を持つ公園だ。

 私の家への通り道であり、かつて通っていた中学校のすぐ隣でもある。

 百台近い車を収容できる広々とした駐車場は、今や雪に覆われ静まり返っていた。

 その駐車場の奥に、場違いなほどぽつんと男女兼用の公衆トイレが建っている。


 あの中に彼と詩音さんがいる。

 間違いない。

 私の直感と、欲求がそう告げている。


 私は足元にバッグを置き、宮本さんから借りた傘を折りたたむ。

 そしてその傘をトイレの入口に向けて全力で投げつけた。

 音で彼を外へ引きずり出すために。


 ――傘は空を裂き、耳をつんざくような轟音を立てて建物に衝突した。


 驚いた。

 傘は予想の百倍は飛躍し、鋭い音を立てて建物を叩いた。いけるとは思っていたが、自分にこれほどの筋力があっただろうか。

 人は本来の潜在能力の10%も使えないと聞いたことがあるが、私の脳は睡眠不足を通してストッパーが外れているのかもしれない。


「…………遅いですね」


 それにしても、早くそこから出て来てくれないだろうか?

 詩音さんがいる前で彼と話すのは忍びない。

 というか、気が散ってならないので彼一人で出て来てほしいのだが……

 

 それに私は間に合わせたはずだ。

 行為に移るギリギリで私はここへ辿り着けたはず。

 

 ……もしかして、私を無視して始めてしまっているのだろうか?

 

 いや、それは許せない。

 あってはならない。

 彼を見定めた私が間違っているはずがないのだから、そんなことあっていいはずがないのだ。


 ――カツッ、カツッ、カツッ。

 

 しばらくしてトイレのコンクリートを叩く足音が響いた。

 暗がりの向こうから、一人の男が姿を現す。


 私の眼鏡にもくっきりと彼の姿は映っている。


「なんで…………お前が……ここにいる?」


 彼は私の顔を見るなり、魂が抜けたような表情を浮かべた。

 

「これは……夢か?」

「失礼な、ここは現実ですよ。貴方はここがバレないとタカを括っていたようですが、残念でしたね」


 久しぶりに見た彼は前にもまして酷い姿だった。

 髪も髭も服も、不衛生極まりない。


「さて……貴方は私に見える形で詩音さんをレイプしたかったようですが、それは失敗に終わってしまいました」

「…………」

「清水さん、貴方はもう詰みです。ここで惨めったらしく喚きながら、自分で警察を呼んで自首するというのなら、この件を許してあげましょう」


 …………それにしても、予想が当たってくれていてよかった。

 もしここ以外の場所であれば、詩音さんは間に合わなかっただろう。

 警察に連絡してパトカーが到着するのを待っている間に、最悪の事態が完了していた可能性すらあった。


 ――いや、今自分で言葉にして気づいた。

 私は警察へ通報するというあまりに初歩的な手段を、今の今まで完全に忘れていた。

 ここに来るまでの道中、さっさと連絡を済ませておくべきだったのに。

 

 ……こうした致命的な判断ミスも、すべては睡眠不足のせいだ。

 もはや頭がおかしいという言葉ですら生ぬるい。


 私はぬかるんだ雪を踏みしめ、彼との距離をゆっくりと詰めていく。

 

「――あんま調子乗ったこと言うなよ、社会不適合者が!!」

「語彙が貧しいですね。それしか煽り文句が出てこないんですか? 性獣さん」


 挑発に応じるように、彼が背後から包丁を抜き放った。

 右腕を不自然に隠していると思えば、パーカーとシャツの間に器用に挟み込んでいたらしい。


「そこで止まれよクソ女。これ以上近づいたら、詩音の命はないぞ!!」

「……自分の愛する人を脅しに使うとか、普通に考えてできることじゃないですよ」

「そうか? でもそれはそっくりそのままお返しするぜ。普通なら俺の前で、あんなキス(真似)できるわけないよなぁ?」


 さて、どうするべきか。

 まさか武器持ちだとは思っていなかった。

 これは完全に予想外の範疇だ。

 本当は今すぐ警察を呼んでしまいたい。


 だけどその隙にコイツがどう動くか分からない。

 眼を離すなんて論外だ。

 

 彼はどうやら前と比べて、大きく性格が変わってしまったらしい。

 発言からしても、電話の内容からしても、これ以上放置すれば何をしでかすか分からない。

 

 今の私の体調と頭の回転で、どうにかする手段が欲しい。

 まぁこのままだと、包丁持ち相手にほぼ死人の私が暴力に訴えかけるという、無謀な手段を取らざる終えないのだが。

 

 私は考え事をしながら更に一歩進んだ。


「止まれって言ってんだろうが!! 詩音がどうなっても良いのか!!!」

「どうにかする手段も持ち合わせてないくせに、何を叫んでるんですか? 」


 相手に肉薄し、一撃で包丁を叩き落とせれば状況は五分。

 そこからこの体調で彼を組み伏せ、再起不能まで追い込めるかは極めて怪しい。

 だが、他に選択の余地はなさそうだ。


 私はまた一歩近づく。


「……ここで引かないというなら、文化祭の時みたいにおねんねさせてあげますよ」


 威嚇を重ね、さらに一歩。


 すると清水は、急に熱を失ったような冷たい声で、言葉を吐き出した。

 

「……次だ。次の一歩を踏み込んだら、詩音の指を一本ずつ切り落としていく。いいんだな?」

「はぁ? 何言ってるんですか清水さん。貴方がここに立っていると言うのに、どうやってそんなことができると――」


 反論を遮るように、彼は不敵な笑みを浮かべた。

 

「お前は馬鹿か、よく考えてみろ。俺一人でこんな大それたことできるわけない。なら普通に考えて俺の後ろに仲間がいることを想定するべきだよな?」


 嘘だ。

 ありえない。


 わざわざこんな愚行に付き合う人間など、この世に存在するはずがない。

 友達のいなかった私でさえ、それくらいの良識は――


『俺の裁縫道具をゴミ箱に捨てたのは誰だ!!』

『先生の裁縫セットを捨てたのは藤崎だよ!』

『良い度胸だ藤崎。……今すぐ空き教室に来い』


 ……最悪だ。

 ありえないと思い込もうとした瞬間に、私をスケープゴートに仕立て上げたあの女子の顔がフラッシュバックした。


 人とは面白ければ、どんな馬鹿な事にも付き合うもの。

 そも私自身、偽造したマイナンバーカードを手にクラブへ潜り込むような真似をしてきたのだ。

 彼にそれをする人脈が無いと言えようか?


 いや、それでもハッタリのはずだ。

 確率的に考えて、弦巻さんのようにクレバーな人間が彼の後ろ盾についているとは考えにくい。

 もしそんな存在がいるなら、今頃ネット上の炎上騒動は更に泥沼化しているはずだ。

 何より先ほどの通話で聞こえてきたのは、彼と詩音さんの声だけだった。


 …………だが、最悪の可能性を切り捨てられない私の足は、ぬかるんだ雪の上で凍りついたように止まった。


「……もっとマシな嘘を吐いたらどうですか?」

「嘘? なんで俺が嘘をつく必要があるんだ? というか普通考えたらそうだろ」


 清水が微笑みを浮かべたまま、突如一歩近づいてきた。


「退学した後、俺に文化祭の日程やクラスの出し物を教えてくれる奴がいた。それにアレだけの炎上を起こすのに、俺一人の力で拡散しきるなんて無理な話だ。……そう考えたら、まぁ分かるよな?」


 さらに、彼が距離をゆっくりと詰める。


「それに誰だって、どんな状況でも手を貸してくれる友達がいるもんだろ――あっ、お前には誰もいないんだっけか!」


 また一歩。

 お互いの距離はもう7mほどしか無い。

 

 だが、雪に足を取られて身動きを制限されているのは、私の方だけだ。


「俺に何かあれば、詩音の安全は保障しない。もし俺に万が一のことがあったら、詩音には俺と一緒に天国でランデヴーしてもらうことになっている」

「…………高校中退の低脳のくせに。適当なブラフで私を騙し切れるなんて思わない――」


 言葉を言い終える直前。

 突如、私のポケットからLINEの音が鳴り響いた。

 

 無視すべきだとは分かっている。

 だが、清水の咆哮が思考をかき乱す。


「そのLINEは俺の友達からの電話だ!!もちろん詩音のスマホを通してな!!!」


 ――いや、これはむしろ、千載一遇のチャンスではないか。

 仲間の存在など、依然として可能性は限りなく低い。

 そんなリスクを冒してまで、彼に加担する人間などいるはずがない。


 たとえその可能性があったとしても、誰かから電話を掛けられているこの状況はデカい。

 着信に応じるだけなら、こちらから発信するような複雑な操作は不要だ。

 画面を一撫でするだけで、外部と繋がることができる。

 

 今この瞬間に電話を繋ぎ、外部に助けを求めることができれば、まだ勝ちの目は残っている。

 

 もし相手がお母さんか明日菜なら、文句なしの超大当たりだ。

 彼女たちなら私の一言で即座に状況を察し、この距離なら大勢の大人を引き連れて、秒速で駆けつけてくれるだろう。

 

 逆に坂本さんや詩音さんのスマホからの着信であれば、それは大ハズレを意味する。

 それでも一瞬の隙を自ら作ってでも、これは賭ける価値がある。


 その瞬間、清水が包丁を逆手に握り、猛然と距離を詰めてきた。


「全部嘘に決まってんだろ、馬鹿がァ!!!」

「そんなことくらいわかってますよ、マヌケェ!!!!」


 怒号をぶつけ合いながら、彼は迷いなく刃を振り下ろす。

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