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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第三章 期待の新星、VTuber灯アカリの電撃デビュー 東京編

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第82話 死(三人称視点)

 藤崎 茜の死亡から1時間が経過。


 深い夜の帳に包まれた公園は、死を悼むような静寂に支配されている。

 街灯の乏しい光の下、雪原に這うのは清水という男の荒い鼻息と、白を汚すどろりとした赤黒い液体。

 それだけが、そこに一人の生命の終わりがあったことを証明していた。


「エグい……人の解体ってこんなに時間がかかるのか。思ったより疲れたな」


 清水は額の汗を拭った。

 足元にはかつて美しかったはずの少女が、無残な六つの肉塊となって転がっている。

 彼は今この雪の箱庭において、生殺与奪の権を完全に掌握した、唯一無二の支配者であった。


「全部は持っていけないしな……。頭だけにしておくか。下半身は後で使うとして……」


 彼は満足げに、切断された茜の頭部を持ち上げた。

 雪に濡れて絡まり合った髪を無造作に掴み、安物の荷物でも運ぶかのような足取りで歩き出す。


 一歩……五歩……十歩。

 人智の歯車が、音を立てて逆回転を始めたのはその時だった。

 

「え?……なんか急に寒くなったような」


 清水の背筋を、正体不明の悪寒が突き抜けた。

 冬の夜気とは質の違う、生存本能が警鐘を鳴らす類いの恐怖。

 

 その沈黙を切り裂き、場違いな哄笑が炸裂した。


「ケッヘヘヘヘッ!アッハハハハハハッッ!!!!」


 夜の静寂を蹂躙する、狂気に満ちた高笑い。

 清水は驚愕し、反射的に掴んでいた()()を足元へ投げ出した。

 自分が殺人鬼であることを隠したいという卑屈な防衛本能が、彼にその判断をさせた。


「あぁ神よ、素晴らしすぎます! ……愚鈍で醜悪で無知な私に、まだチャンスを与えて頂けるのですね!!」


 その声を聞いた瞬間、清水の脳裏に電流が走った。

 それは聞き間違えるはずのない、つい先ほど自分が物理的に破壊したはずの女の声。

 自身の欲求と快のままに捻り潰した弱者であると、直感した。


 常軌を逸した現実に、清水の精神は悲鳴を上げる。

 彼は固く目を閉じ、現実を拒絶するように激しく頭を振った。


「嘘だ……ありえない、ありえない! これは幻聴だ、俺の良心が痛んで聞こえてるだけの妄想なんだ!!」

「良心!!……それはまた大きく出ましたね。今の私達に良心の呵責など一番不要な概念。そうは思いませんか? それに人様の体を裂いた貴方が良心を語るのは、なんとも滑稽で」

「やめろやめろやめろ!!!俺の頭の中に入ってくるな!!!」

「頭の中? ふふっ……一体何をおっしゃってるんですか。変なことばかり言ってないで、下を見てみてください」


 清水は、凍りついた喉を鳴らしながら恐る恐る視線を落とした。

 雪の上に転がっているのは、紛れもなく生首だった。

 

 だが、それは先ほどまで彼が弄んでいた藤崎茜とは、似ても似つかぬ(かたち)をしていた。


 髪は濁った雪のように白く、その瞳は零れた血よりも遥かに鮮明で、不気味なほどに美しい。

 殴り嬲られていたはずの肌は、月の光を吸い込んだかのように透き通り一点の曇りもなかった。


「やっと気づいてもらえましたね。私はこんなにも貴方のことを想ってい――」


 清水はその言葉を最後まで聞く前に、半狂乱でその白髪の頭部を蹴り抜いた。

 踏み潰された衝撃と共に、そこにあったはずの頭蓋は、霧が晴れるように忽然と消滅した。

 

「はは……はははっ。やっぱり幻覚じゃないか。……でも、だったら、藤崎の首はどこへ行った?」


 自問自答が脳内を支配した瞬間、背後から異質な音が響いた。

 肉と骨が蠢き、接合されるような湿った音。

 

 彼はゆっくりと背後へ振り返る。


「――は?」


 そこに立っていたのは、首から下だけが完璧に繋ぎ合わされた、この世のものとは思えぬ絶世の女体だった。

 

 清水は呆然と立ち尽くす。

 だが、悪夢は始まったばかりだった。

 

 断面からドロリとした鮮血が逆流するように溢れ出し、見る間に首を形作っていく。

 最後にその頂に頭部が据えられた。

 

 清水が踏み潰したはずの白髪の頭蓋。

 だが、それだけではない。

 彼女の額からは二本の小さな角が、まるで白銀の冠のように生え揃っていた。

 

 女は目を閉じ、一糸纏わぬ姿のまま天を仰いでいた。

 雪夜に浮かび上がるそのシルエットは、神々しくもあり、同時に底知れぬ禍々しさを孕んでいる。


「何だ…………何なんだお前。い、一体誰なんだよ!」


 清水の震える問いに、女はパッと赤い眼を開いた。

 深紅の虹彩が、獲物を捉えた蛇のように清水を射抜く。


「酷い話です。さっきまであんなにもお互いを尊重し、高め合っていたというのに……貴方はもう、私を忘れたおっしゃるんですか?」


 白髪の女はそう言いながら、怠そうに自身の衣服に眼を向けた。

 現在、完全に裸だったため、服を着たかったのだ。

 だが服はボロボロに剥がされ、おまけに自身の鮮血により大きく汚れてしまっている。


 彼女は仕方ないと言わんばかりに、下に落ちている自身の鮮血をたっぷりと吸い込んだマフラーを拾い上げた。

 それを新しく生えた首へ巻きつける。


「ですが、そう言うこともありますよね。私にとって重要な事でも、相手にとって意味のないことだったら、記憶から消されていても不思議ではありません。……なので改めて自己紹介をするとしましょう!!」


 茜の声には、かつてないほど濃密な高揚が宿っていた。


「私の名前は藤崎 茜。この場で唯一の貴方の理解者でもあり、そして今から貴方の尊厳を犯すのがこの私。――二度と私の事を忘れないよう、今から貴方の体に教え込んであげましょう」




 ---


 


 藤崎茜は頭はとっくの昔から狂っている。

 多感な小学生時代に受けた執拗な虐めが、彼女の倫理観を修復不能なまでに歪めてしまったのだ。

 ここからの彼女は、己が信じる狂った信条に基づき、ただひたすらに()を謳歌する異形である。


 茜に関わった人間たちは、二つの致命的な過ちを犯した。


 一つは小学生時代に彼女を虐めた者たちだ。

 藤崎茜を虐めるのであれば、中途半端に切り上げるべきではなかった。

 彼女が自ら死を選びたくなるほど、徹底的に、塵一つ残さず破壊し尽くすべきだったのだ。

 彼女はまっとうな社会で生きていけるような知能を、持ち合わせてはいないのだから。


 二つ目は、弦巻アメが裏社会の劇薬を彼女に与えたこと。

 この世界には亜人という生物が地球に約1万人ほど隠れて生活している。

 藤崎茜の遠い遠い先祖には、実に吸血種たる者がいた。

 彼女はその血脈を、稀有な隔世遺伝として受け継いでいたのだ。

 

 純粋な人種である弦巻アメには、その因子を見抜く術はなかった。

 劇薬に含まれていた亜人の血液成分が、茜の体内で眠っていた獣を呼び覚ますトリガーとなった。

 瀕死からの異様な復活――その根源はここにある。

 

 藤崎茜が他人の思考と食い違うのは、仕方ないことだろう。

 元々人の社会に生きるのに向いていなかった。

 

 藤崎茜が自身の部屋を真っ暗にし、カーテンを閉め切っているのは仕方のないことだろう。

 彼女の先祖の因子が太陽を忌み嫌っている。

 昼間の外を歩くのが純粋に嫌っている。

 初めて詩音が茜の家に夜出向いた時、彼女のテンションに疑問を持ったのはこれがであった。

 

 藤崎茜の気分に上下のムラっけがあるのは仕方ないだろう。

 元々血を扱う獣、血流の良し悪しによって彼女のホルモンは一般人より圧倒的に影響されやすい。


 藤崎茜が胃に穴を開ける理由は他にある。

 初めて虐めを受け始めた時、文化祭での時、東京のクラブ入店からVtuberとしての活動終了まで、吸血鬼特有の魅了の力を捕食対象(人間)に使っておきながら、それを胃の中に入れなかったからである。

 だから彼女の体はその矛盾に文句を言い続け、穴などという物が空いたのである。


 ――ここからの彼女は止まらない。

 人として歩むため、知識の欲求ままに更に先へ進むのみである。


 吸血種とはかつて他者の生を蹂躙し尽くし、それゆえに人類に根絶やしにされた種族である。

 只人の殺人鬼の一人如きに、止められるわけもなく……

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