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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第三章 期待の新星、VTuber灯アカリの電撃デビュー 東京編

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第69話 オクスリいっぱい、元気いっぱい

 そして無事に面接を受かってからも、やることは山積みであった。

 というか山積みという次元を超えている気もするが、生憎幸か不幸か、私は東京に居座っている時間をほぼ飲まず食わずの睡眠時間も大幅削り前提の覚悟で来ているので、そこまで問題にはならなかった。


 丈夫な身体で産んでくれた母に感謝するべきか、それとも私を産んだことに対してブチ切れるべきか……

 この点だけで言えば、少しだけ悩めてしまうところではある。


 現在の日にちは12月31日。

 予定とする日まで残り1日である。


「ゲホッ……ゲホッ…………はぁ……ぁ……」


 私はトイレで一通り吐き終わり、そして廊下へと出た。

 すると出口のすぐ近くに、弦巻さんとベックさんが立っていた。

 ……この男、普通に事務所内も歩けるのか。


「なんだ。まだまだ余裕そうじゃ〜ん」

「えぇ……元気いっぱいですよ」

「ちな他のライバー達とは何人くらいに挨拶した?」

「直接出会ったのが20人弱、Discordで挨拶をしてくれたのが……数えるのが馬鹿らしくなってきますね。ここって何人所属でしたか?」

「176人……だったかな」

『181人』

「181人だって!」


 まさかのベックさんの訂正によって正確な人数が把握できた。


 本当にここは人が多すぎる。

 リアルで挨拶されるだけならまだしも、使った事のないDiscordとかいうアプリで連絡を回されては、頭がパンクしてしまいそうだ。

 おまけにまだまだ勉強しないといけない事があるというのに。


「にしても良かったね〜、初配信以降の配信頻度は完全に自分で決める事ができて。まさか面接で言い放った事が全部通っちゃうなんて驚きだよ!」

「それは本当にその通りですね。ここが自由の利く職場で良かったです」

「でも茜っち、あの態度で他の一般企業に面接受けに行ったら、絶対落ちちゃうよ?」

「心配には及びません。就職するつもりなんて全くないので」


 私があの面接で出した条件はこれだ。

 ・3Dお披露目、ライブは極力しない。

 ・配信日、配信時間はこっちで勝手に決める。

 ・イベントごとに呼び出して良いのは一年に一度のみ。

 ・実家から引っ越すつもりはない。

 ・案件は受けない。

 

 他にも細かい条件をいくつか出し、それが全部通ることとなった。


「ふぅ……口を開けるのも億劫になってきますね」

「今から何しに行くの〜?」

「コンプライアンス研修と明日のリハに行き――」


 私は続きを言おうとすると、ぐらっと身体が傾き、倒れそうになり、私は即座に膝をついた。


「ありゃりゃー。元気いっぱいなんじゃなかったの〜?」

「くっ……ふぅ…………ぅ……」


 ちょっとこれはダメだ。

 文化祭の時より天地の差があるくらい、今の作業量や、頭に詰め込むべき情報量が多すぎる。

 正直もう限界だ。

 

 ……今すぐに死ねたら……どれだけ楽を出来るのかとさえ考えてしまう。

 

 でも私はそんなことを考えて良い立場ではなく、その上まだ炎上は収まっていない。

 運営はSNSであの動画と天野シオンとの関連性は無いと否定しているが、そんなのは苦しい言い訳でしかなく、この炎上を機にこれまでの配信アーカイブをアンチに辿られ、社会人経験が無いことをほぼ確定させられてしまっている。

 今の手持ちから世間に出せる情報では、件を事実無根として処理するのは、事実上不可能。

 

 現時点でぶいれいん!公式アカウントでは、その炎上の一度のみの言及とイベント告知と私のティザーを電撃発表する以外の投稿はない。


 事務所側の行動に期待はできない。

 現状を変えることができるのは自分だけ。

 ここで私が限界を迎えるのだけは、絶対にあってはいけないのだ。


「責任を取らなきゃ…………ぁ……!」

「あーあ、減らず口も聞けなくなっちゃったか〜。……仕方ないなぁ」


 彼女はそう言いながら、私の目の前に一つの小瓶を差し出した。


「……なんですか、これは」

「めちゃくちゃ元気になれる薬だよ。ちなみに今私が使ってる眼鏡より何倍も高価な代物ね」


 あの、ありえないくらい性能がぶっ飛んでた眼鏡より高価な物?!?!

 一体どれくらいの値段になるのだろうか?

 

 いや……それよりも。

 

「それを……私にくれるっていうんですか?」

「これは面白いものを見せてくれる視聴代の代わりだと思ってくれて良いよ〜」

「弦巻さん……貴女、本当に最高ですよ」


 私はそう言ってそれを受け取ろうとした瞬間だった。


「は?」

「え?」


 突如ベックさんが彼女の手を掴んだのである。


「……おい、ベック。なんだこの手は?」

『それを渡すのは良くない』

「ふーむ……その心は?」

『きっとそれは他の誰に使っても問題ないと思う。でも彼女はダメだ。あまりに適しすぎている。絶対にロクなことにならない』


 彼がそう言うと同時に、弦巻さんはその手を強引に振り払った。


『アナタはそれを飲んだこと無いから理解できない。俺はそれを飲んだからこそ分かる。俺の体はそう叫んでいる』

「ほ〜ん」

『だからそれは使わないであげてほしい。疲れているというのなら、他にいくらでも癒す方法があるはずだ』

「面白い忠告だけど……ベック、口答えを許した覚えはないよ――」


 弦巻さんはそう言うと同時に、飛び上がって彼の顔面を鷲掴みにする。


「と言うわけでギルティ!」


 そして気づけば二人の姿が消え、数秒後にその場には、弦巻さんだけが立っていた。


「ふぅ。ちょっと距離がありすぎて疲れちゃったな〜」

「あの……弦巻さん。今のは?」

「あ〜、ちょっとうるさかったから、ベックには茜っちの家まで飛んでってもらったよ!」

「……言いたいことと聞きたい事がいっぱいあるんですけど、弦巻さんって彼とずっと一緒にいますよね? 一体どんな関係なんですか?」

「えぇ……別に面白いものじゃないよ? 外国旅行中に私は彼を買って、彼は私に買われた側って話だけだし〜」


 人を買う買われるでものを言う関係性とはって感じである。

 闇が深そうな話だ。

 

 闇が深そうで言えば、今渡されそうになった薬もだ。


「……その薬には、何が入ってるんですか?」

()()の体液を少々。亜人くらいは聞いたことあるよね?」

「まぁ……ちょっとだけ。架空の生き物って程度には知ってます。天使とか悪魔とか……それこそ詩音さんのVの体である吸血鬼も含まれるとか」

「そうそう、そういうやつ。まぁ架空の存在じゃなくて、実在した生き物から取ってるんだけどね〜」


 私は彼女の言葉に小さく笑った。

 

「……何言ってるんですか弦巻さん。亜人なんかいるわけないじゃないですか。子供みたいなことを言わないでくださいよ」

「茜っちがそれを言う? 自分は神様がいるって信じて神社巡りまで行ったくせに、それを言うんだ? じゃあ今目の前に立ってる人は何で、ベックが消えた原因はなんて説明するのかな〜?」

「…………」

「神様はいないけど魔法使いは存在するし、亜人もちゃんと人にバレないように隠れて生きてるんだよ」

「……神様はいますけどね」

「なんでそこは譲らないの〜?茜っち、ちょっと盲目的で怖いよー」


 怖いのは、今目の前から人を消し去ったそっちである。


「で、この薬を飲むの飲まないの? どっちなんだい!」


 そう言って彼女はもう一度小瓶を出してきて。

 中身は赤い液体。

 

 ……それを飲みたいと言う欲求など一切ないが、こっちは猫どころか化け物の手でも今借りたいくらいなのだ。


「…………一応聞くんですけど、某ゾンビ映画みたいな……ウルトラ大惨事にはなりませんよね?」

「絶対にならない。もしもそんなことになったら、私が責任持って殺しに行ってあげるよ!」

「ははっ……それはありがたいお話です」


 私はそう言って彼女から小瓶をぶんどって、それをラッパ飲みした。


 すると体に電流のようなものが走る。


「おぉ…………おおおお!!!」


 さっきまであった体の不調は嘘のように消え、更に体全体が力でみなぎってくるようだった。

 その間にトイレの中へと弦巻さんに引きずり込まれた。


「……なんだ〜、別に問題ないじゃん。角が生えたり尻尾が生えたり、醜い化け物になる可能性もちょっと考慮してたんだけどな〜」


 地面に両手を突くのをやめて、一瞬顔をあげると、彼女は手持ちに持っていた凶器をスッと消した。


「へ?……いま全然殺す気満々でしたよね。さっきの話は普通に冗談かと思ってたのに?!」

「え〜? アメ馬鹿だからわかんなーい」


 ……これはベックさんの警告を聞いていた方が正解だったか?

 眼鏡の件で普通に貰えるものに対する信用をあげすぎたのが、少し問題だったかもしれない。

 次からはちゃんと警戒するようにしよう。


「まぁいいです……それで弦巻さんからして私の状態は大丈夫そうですか?」

「大丈夫っしょ〜。っていうか、あの肉だるまはちょっと茜っちに優しくされたからっていい気になってるんだよ!あんまりその気にさせたりしないでよねー」

「優しくした覚えも話しかけた記憶もないんですけど…………って、ヤバいです」


 私はすぐにトイレのドアを叩き開けた。


「普通にこんなことしてるせいで遅刻です!!」

「あっそうだったね〜」

「予定が詰まってるので先に行ってます!また会いましょう!!!」


 そう言って私はその場を後にした。

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