第62話 万人の正義
@gareno_LOL
ぶいれいん!所属の天野シオンさんに彼氏がいるとの情報が入ってますが、中の人が16歳JKであることが発覚したため取り上げません。
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@v_news_sokuho
【悲報】超人気V・天野シオンさん、ブサメン彼氏とのクリスマス直前デート写真&文化祭のメイドコス動画が流出。ガチ恋勢無事死亡。 #Vtuber #天野シオン
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@sion_daisuki_ken
嘘だろ……明後日の配信、クリスマス特別企画だって楽しみにしてたのに。裏で男と出会ってたのかよ。俺の投げ銭、彼氏とのデート代に消えたんか?
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@gomigominomi
文化祭の動画、声入ってるじゃん。ガチで本物で草。それに男の方の顔面と服装がマジで終わってて笑えるw。まぁ中の人があんな美少女なら、そりゃ男も寄ってくるわな。
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@suumo_umo
ケン◯ッキー冷めちゃった……。
信じてたのに。清純派吸血鬼とか言って、裏では普通に男いんのかよ。もう二度と配信見ない。
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@anti_v_pro
中の人がこんな形で炙り出されるの初めて見た。っていうか、シオンって高校生だったんだな。こんなバチャ豚どもに群がられて可哀想に。
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@shion_forever_love
全部嘘だよね? だって配信時間バグってるし、高校生であれだけ活動してるんなら、彼氏に構ってる暇とかないよね???
└ @anon_v
夢見てんじゃねーよタコ。隣にいる不細工はどう考えても理解ある彼くんだ。どうせ空いた時間の間にでもイチャイチャしてるだろ。日曜日とかな。
└@shion_forever_love
マジでこの売女は殺すし、あの男さえいなければ俺のシオンちゃんは綺麗なままだった。シオンちゃんを汚したあいつだけは許さない。
@lnuisuko_Anti_natalism
私には分かる。このショッピングデート、多分彼氏くんより、シオンちゃんの方が依存度デカいと思う。よほど愛されてると見た!!
└ @shion_forever_love
わざわざそのツミートする必要ある? その投稿を見て他人が傷つくとか思わないわけ? こっちはクリスマス前に推しに彼氏がいることを知って傷ついてるんだけど……
└ @lnuisuko_Anti_natalism
普通に女子高生相手にワンチャンあると思ってるバチャ豚キモすぎだろ。逆に聞くんだけど、その投稿を見て純粋にシオンを応援してる私が、不快に思うことを想像できなかったわけ?
└ @shion_forever_love
はい、開示請求
└ @lnuisuko_Anti_natalism
私のアカウントが精子臭くなるから話しかけてくんな。誰にも相手されない非モテおじさんは首吊って死んでな。万が一にでも、お前の精子から子供が産まれてくることを想像したくない。マジで子供が可哀想だと思うから。
@yorukun_1111
たぶんシオンのASMR台本は彼氏が書いてると思う。ソースは俺がやらされてた経験。
@v_matome_kan
天野シオン彼氏バレまとめ
・イオンで嫌がってる彼氏を引っ張りながら、完全にエスコート。
・文化祭での動画。
・今年の夏に入ってから配信時間の減少から推測するに、おそらく夏頃に付き合い始めた模様。
・今回の大炎上により、2代目バーチャルヴォ◯デモ◯ト就任か?!
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「えぐいね〜、これー」
画面の端で数字が恐ろしい勢いで増えていく。
リツイート数、いいね数、そして悪意に満ちた返信の数。
さっきまであんなに温かかった部屋の空気が、今は凍てつく針のように肌を刺してくる。
よく思い返せば、この男の顔には見覚えがある。
両方の写真にはある程度モザイク処理がされているけれど、すぐに記憶から消えたりはしない。
彼の名前は――清水寛太。
この男は振られた後も何度も告白し、その度に詩音さんから煙たがられ、ついには気を引くために退学まで選んだ、あの救いようのない男だ。
そして文化祭にはわざわざ姿を現したが、愛しの人の記憶から完全に消えた過去の男だった。
……思えば詩音さんの家の前で見たものと、イオンで見かけた私と同一の姿は、彼の服装だったのだろう。
「……私のせいだ」
喉の奥が熱い鉄を飲まされたように引き攣る。
私がずっと男に見える格好をしていたから。
私が彼女の隣に居てしまったから。
そして極めつけは、私が彼のプライドを徹底的に踏みにじってしまったから……かもしれない。
「茜、あなたが気負うことじゃないわ」
「そうだよ、お姉ちゃん! 服装が同じだっただけだし、こんなのもらい事故だって!! だから落ち着いて!!!」
二人の励ましが遠くに聞こえる。
「落ち着いてますよ。むしろ落ち着くべきなのは貴方達の方です」
そうだ。
私の思考はこんな場面だというのに、ありえないほど透き通っていた。
でも私はここから何ができるわけでもない。
ただ一つ言えるのは、この騒動は100%私が悪いということだけである。
「いえ……違いますね」
私が悪いという話一つで済むことではない。
偶像を消費し、少しの綻びを突いて徹底的に破壊しようとする、この社会の在り方そのものが――。
いや、今はそんな高説を垂れている暇などない。
私は今着ているパーカーを、呪物でも捨てるかのようにその場でゴミ箱に脱ぎ捨てた。
そして財布、スマートフォン、詩音さんから渡されたばかりの合鍵を握りしめる。
「……どこへ行くつもり?」
母の問いに私は短く答えた。
「詩音さんの家に行って、しっかり謝ってきます。自分の何が悪いのか理解したので」
詩音さんがネットで、ここまでの大炎上を経験したことは一度もない。
きっと私には、とても想像できないような苦痛だと思う。
彼女のメンタルは強そうに見えてその実、一度ひびが入れば脆い。
ここで彼女を放置するなど、選択肢にすら入らない。
「もう遅いわ、明日にしなさい。今のあなたは冷静じゃない。一度寝て頭を冷やすのよ」
「…………」
母の刺すような視線を、私は無言ではね除けた。
そんな言葉程度で、止まる理由にはならない。
だが、
「茜っちがただ謝りに行ったところで、なんも解決しないよ」
まさかの弦巻さんが更に追い打ちをかけてきた。
「ただ『ごめんなさい』しに行くだけじゃ、火に油を注ぐだけ。だから今日はお母様の言うとおり家で休んでなよ。明日になったら、とびっきり面白い提案をしてあげるからさ〜」
「……ふっ、弦巻さんがそんなことを言うとは思いませんでした。貴女なら面白半分で笑いながら背中を押しそうなのに」
「だから面白さを求めるために、明日動こうって言ってるじゃん。それに……」
彼女が合図すると、ボディーガードの男が扉の前に立ちふさがった。
「これは100%の善意で忠告してあげるけど、今追いかけたら必ず後悔するよ。シスター・サニーのTmitterアカウントを賭けてもいい」
後悔?
それならもうとっくにしている。
これ以上を重ねたところで、何になると言うのだろう。
「あと数ヶ月たらずで引退する人のアカウントとか、いらないですよ」
――ここで行動せずに後悔するなら、詩音さんを追いかけて後悔した方がマシだ。
私は玄関への道を早々に諦め、台所近くの窓へと手をかけた。
クレセント錠を弾き、冷たい冬の夜気を取り込む。
「明日の朝には帰ってきます。それでは」
「なっ?!」
「ええっ?!」
そして私は靴も履かずに、家を飛び出した。




