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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第二章 文化祭編

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第61話 崩壊

 二人で洗い物を片付け、散らかされたリビングを掃除し、頂いたマンゴーを切り分ける。

 弦巻さんとうちの妹は、我関せずとマ○オカートに熱中している。


 詩音さんは現在風呂掃除中でこの場にいない。


 ……そう言えば私はさっき、交際に対して否定的な言葉を返さなかった。

 

 夏の旅行中に告白した時は、ただ一方的に想いを吐き出せればそれでいいと思っていた。

 自分の内側に溜まった熱を放出しなければ、私が壊れてしまいそうだったからだ。

 もちろん付き合いたいという欲求がなかったわけではない。

 でもそれ以上に私は、彼女がその人生を賭してまで私と歩んでくれる未来など、一欠片も期待していなかった。

 

 期待しなければ裏切られることもない。

 どうせいつかは切り捨てられる。

 その諦観が私の支えだった。

 

 なのに私は、今日の彼女の提案を黙って受け入れた。

 これは私がいつの間にか、彼女に未来を預けてもいいと思えるほどに、彼女を信頼してしまったということなのだろうか。


 ……ホント、何を考えているのやら。

 私の頭もおかしくなる一方だ。


「ん?」


 私はふと、部屋の隅にいるガタイの大きいサングラスをかけた男に目を止めた。

 そういえば彼はこの家に来るのは二度目の筈であるけど、弦巻さんや詩音さんは当然ながら、うちの家族達も彼に干渉するところを見ていない。

 一応、弦巻さんのおじさんという設定で来ている筈なのだが、流石に存在感が異様すぎて、スルーされてしまっているのだろうか。


 ……ちょっと可哀想に思えてきたな。


 私は皿にクリスマスケーキの一切れを乗せ、フォークを添えて、彼の元へと歩み寄った。


「これ、食べませんか?」


 すると彼は前回同様にスマホをポケットから取り出し、文字を打ち込み、アプリにそれを喋らせた。

 

『お構いなく、仕事中なので』

「いえ、お構いします。みんな楽しそうに遊んでる中、貴方一人で突っ立たせてるのが居心地悪いんですよ、私」

『…………』

「座って食べるのが許可されてないんだったら、適当にこの場で食べちゃって下さい。お盆は持っててあげますので。さあ」


 たたみかけるように促すと、彼は困惑したように沈黙した後、傍らのバッグから財布を取り出した。

 そして私に一万円札を手渡そうとしてきた。


「……あの、お金とかいらないです。っていうか今両手塞がってますし」

『後でお嬢様を通してお支払いする』


 お嬢様?

 あぁ、弦巻さんのことか。

 確か金持ちだった筈だし、そう呼ばれる事もあるのかな?

 …………思い出してみると、文化祭で私が着た服って、この人のサイズ違いのやつじゃなかろうか……


 まぁどうでもいいけど。


「はぁ……これは私が他人に善行を施して、自己満足に浸りたいがためにやっていることです。貴方はスマホでつべこべ言ってないで、私の気が変わらないうちに、さっさとケーキを食べちゃってください」


 突き放すように言い放つと、彼はようやく財布を下ろした。


『ありがとう』


 そしてフォークを手に取ると、驚くべき速さでケーキを三口ほどで平らげてしまった。


「はっや……やっぱりお腹空いてるんじゃないですか」

 

 まさに秒速の完食である。


「ではお仕事、頑張ってください」


 私はそれだけ言い残し、空になった盆を台所へと下げた。





 ---


 



 騒がしさが一段落し、私と詩音さんはダイニングテーブルの片隅で、静かな一息を吐いていた。


「もう体調も大丈夫そうだね。やっぱり茜は人が多いところが嫌だった?」

「別に嫌だったわけじゃないですよ。さっきはちょっとだけ考えごとしてただけなので。それに今の時間はたぶん……楽しいんだと思います」

「たぶん?」

「……認めるのが照れくさかっただけです。あまり追求しないでください」


 私が視線を逸らすと、詩音さんは「ふふっ」と喉の奥で愛おしそうに笑った。

 その優しい響きに、私の胸の奥が微かに熱くなる。

 

「他人との会話に慣れてきたんなら、やっぱり学校に通い続ければいいんじゃないかな?」

「貴女が死ぬまで私の隣に居てくれるなら、別にそれでも構わないですけど」

「えー……それを決めるのは、やっぱり一緒に過ごし始めてからじゃないと」

「そうですか。なら冬休みの仮同棲期間は、私が失敗しないようにしないとですね」

「同棲じゃなくてお泊まりね」


 軽口を叩き合う穏やかな平穏。

 だがその時、テーブルに置かれた詩音さんのスマートフォンが、短く無機質な通知音を鳴らした。

 

 彼女が何気なく手を伸ばし、画面を覗き込む。

 私はその隙に彼女のために冷蔵庫から冷えた水を取り出し、そっと脇に置いた。

 しかし詩音さんはグラスに手を伸ばすどころか、端末を握りしめたまま石像のように固まっていた。

 

 異様な静寂。

 不審に思って横顔を覗き込むと、そこには今まで一度も見せたことのない、心臓が凍りつくほど冷淡な表情をしていた。


「……詩音さん?」


 呼びかけても応答はない。

 

 ふと視線を向ければ、リビングでゲームをしていたはずの弦巻さんが、コントローラーを放り出してこちらを凝視していた。


「まままっま、マキさん? 急にどうしたの!? 今レース中だよ!!」


 明日菜の叫びも空しく、弦巻さんはソファの背に手をかけ、神妙な面持ちでこちらを見ている。

 ほぼ同時にボディーガードが弦巻さんの目前にスマートフォンを突き出し、私の視界から彼女の表情を遮蔽した。


「…………ごめん。今日はやっぱり帰る」

「えっ――ちょっ、え???」


 詩音さんは私が出した水も飲まずに、さっさと自分の荷物を持って玄関へと早歩きで向かう。


「待ってください! 急にどうしたんですか!」

「…………」

「体調が悪いんですか? 仕事のトラブルですか? 何かあったなら相談してください! 私にできることなら何でも――」

「ごめんだけど、話しかけないで」


 吐き捨てられた声は、まるで人を殺しそうなほどに鋭かった。


「…………今、凄く機嫌が悪いの。このまま喋り続けたら、絶対に茜を傷つけると思うから」

「そんな一言で納得できるわけないでしょう! 今日はみんなでお泊まりするって、さっき約束したばかりじゃないですか!」

 

 食い下がる私を無視して、彼女は乱暴に靴を履き、ドアノブに手をかけた。


「あぁ……その話ね。ついでに言っとくけど、冬休みのお泊まりの話も無しって事にしておいて。外せない仕事が入ったから」

「はあ!? さっきの今で、何を身勝手なことを!」


 私は声を荒らげ、そして彼女に触れて連れ戻そうとする。

 だがその瞬間、詩音さんが振り返った。


 その顔は怒りと、それを必死に抑え込もうとする激情で歪んでいた。

 彼女は一切の躊躇を捨て、呪詛のような言葉を叩きつけた。

 

「ここまできて察することもできないの?!!! 全部全部!!()()()()()()でこうなってるんだけど!!!!」

「――――――ッ?!」


 向けられたのは、今まで一度も経験したことのない純粋な敵意だった。

 向けられた矛先の意味が分からず、私はただ呆然と立ち尽くす。


「あんたが聞き分けのない馬鹿だったから!!!……今、私は取り返しのつかない事態になってるの!!」

「………………」


 私は状況を理解できず、何も言い返すことができなかった。

 

 詩音さんは唇を震わせて立ち尽くす私を一瞥すると、吐き捨てるように背を向けた。

 

「……………………ごめん。頭冷やしたいから暫く話しかけないで。今度ちゃんと謝るから」


 そう言って詩音さんは出て行った。

 だが言葉とは裏腹に、彼女が最後に出ていく時に扉を閉めた力は、怒りのままに叩きつけるような仕草だった。


「詩音さん……」


 何も状況が理解できない。

 自分が何をしたのか全く分からない。

 何が原因であそこまで怒らせてしまったのか。


 彼女の私を見る目は、まるで生理的に嫌悪する対象――もしくは汚物でも目にしているような顔だった。


 私は力の出ない足取りで、ゆっくりとみんなが集まる部屋へと足を向けた。


「わっ……!」

 

 扉を開けると明日菜が聴き耳を立てていたようで、開けた瞬間にこっちに倒れ込んできた。

 私はそれを跨いで渡り、弦巻さんの方に視線を向けた。


 彼女はボディーガードから提示された画面を凝視したまま、酷く冷めた声を漏らした。

 

「いや〜、こうなっちゃうかぁ。予定外すぎるけど今年は本当に退屈しないや」

「…………弦巻さん。……これは一体……どういう状況ですか……」

「ん? 茜っちは今、SNSの方がどうなってるか確認した?」

「してないです」

「じゃあ見てみよっか! すっちーとお母様も一緒にどうぞ〜」


 弦巻さんはまるで見世物小屋の呼び込みのように、私たちを手招きした。


 みんなが狭い一画面を囲むようにして、集まった中、弦巻さんはTmitterを立ち上げる。


「茜っちは心の準備をしておくことだね。当の本人じゃなくても、キミ程度のメンタルなら結構効いちゃうかもよ〜」

「答えを目の前にして臆するほど、私は弱くありません」

「そうだね〜」


 彼女は迷いのない指つきで、検索窓に【天野シオン 彼氏】と打ち込んだ。

 

 エンターキーが押された瞬間、私の脳内に処理きれないほどの、人の悪意が流れ込む。

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