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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第二章 文化祭編

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第59話 サプライズ大失敗

「もう…………これが誕生日プレゼントです、どうぞ!!」


 私は半分ヤケになったふりをして、先ほど購入したブランドの紙袋をテーブルに突き出した。

 

「……怒んないでよ。悪かったと思ってるし、ちょっと心配しすぎだったって反省してるんだから」


 詩音さんはドリンクを啜りながら、むすっとした顔で視線を逸らす。


「冗談ですよ。ただ告白した時と同じで、雰囲気が台無しになったのを、ちょっと残念に思ってるだけです」

「茜ってそういうところあるよね。なんでもかんでも経験を大切にしがちなところ」

「私の友達は詩音さんだけな上に、まともな人生経験も少ないんです。それなら初めてを捧げる相手には尽くしたいって思っちゃいますよね?」

「……そうなんだ。私にはよくわかんないけど」

「ちなみに詩音さんの様々な初めて経験の相手が自分じゃないことに、私は凄く嫉妬していたりもしますよ。……この感情はどうすればいいんでしょうね」

「え〜、そんなこと言われたって過去は変わんないけど…………私が初めてエッチした相手は、茜だったよ」

「………………………………」


 唐突に投下されたあまりに生々しい単語と夜の記憶に、私の思考回路は一瞬でショートした。


「茜……?」

 

 数秒の沈黙の後、ようやく脳が再起動を果たす。

 

「……あ、あんなのはノーカンです。というか、もう用件は済みました。そろそろ帰りましょう」


 私は逃げるように席を立ち上がった。


「今日は迷惑を掛けたようですみませんでした」


 若干の不機嫌を装い、会計のために鞄から財布を取り出そうとした、その時。

 詩音さんの手が私の手首を強く掴んだ。


「ちょっと待って。お金は要らないから、代わりに今日私の家に泊まって夕飯作ってよ」

「…………着替えありません」

「服はこれから買う。それに冬休み期間中は茜が家に泊まりくるんだし、ここでいっぱい買ってけばいいじゃん」

「――はっ?!?!待ってください!! そんな話聞いてないですよ」

 

 冬休み中は私が泊まりに行く???

 いつどこの世界線の私が、そんなトチ狂った約束をしたのだろうか?


「当然でしょ。だって今決めたんだもん」

「…………」

「何、嫌なの?」

「嫌です」

「あっそ、じゃあいいよ。適当に他の友達でも呼んで、冬休みの暇は潰すから」


 突き放すようなその言葉に、私は顔をしかめる他なかった。

 

 ……詩音さんが一人でクリスマスや冬休みを過ごすというのならまだ許せる。

 というより彼女のことだ。

 クリスマス当日は炎上という名のリスクを回避するため、何食わぬ顔で長時間配信を優先するに決まっている。

 

 それに配信者が聖夜に誰かと過ごすなど、この界隈では致命傷になりかねない。

 だから誰かを家に迎え入れるなんて話は、私を動揺させるための嘘であるはずだ。

 

 私は努めて冷静を装い、反論を口にする。


「嘘ですね。貴女が他人に配信部屋を見せれるわけがありません」

「部屋には鍵かけて誰も入れないようにするよ。そしたら他の人から見れば普通の家だしね」

「…………」

「あーあ……茜が来てくれないんだったら、今からみんなにLINEして誘っちゃお〜っと」


 そう言って彼女はわざとらしくスマートフォンを取り出し、LINEのトーク画面を立ち上げた。

 その指先の動きには迷いがなく、まるで本気で実行に移そうとしているかのような、嫌なリアリティがあった。

 

「……………………ごめんなさい」


 私は周りの人の目に触れるのも拘らずに、頭を下げて許しを乞う。

 

「…………少し、強がっちゃいました。私が悪かったです。なのでお願いですから、他人を家に入れるのはやめてください……」

「ちょっと、こんな場所でそんなことするの、本当に恥ずかしいからやめてほしいんだけど……で、結局泊まりに来るってことでいいの?」

「……はい。ただその……エッチな事はしないで頂けると、とても助かります」

「それ多分私が言うべきセリフだよね」

「でも、前回抱か…………れたのは私の方に……なると思うので……」


 私は言葉にするのも恥ずかしくて、詩音さんの顔も見てられなかった。


「茜のその恥ずかしがる基準、ほんとわけわかんないね」


 呆れたような、それでいてどこか満足げな彼女の声を聞きながら、私たちはカフェを後にした。




 ---


 


 冬休み用の衣類を調達するため、私たちは再びイオンの広大なフロアへと繰り出した。

 吹き抜けから降りてくる冷気に身を震わせ、私は深くフードを被る。

 視界の両端が黒い布地に遮られ、少しだけ安堵した。


「茜……私の言いたいこと、分かる?」

「フードをおろせって言うんですよね、分かってますよ。でも寒いですし……」


 特に耳が冷たくて仕方ない。

 パーカーは他人の視覚や寒さからも守ってくれるので、やっぱり万能アイテムだ。

 

「だったら、それも今日の買い物で解決してあげるから。その地味な黒パーカー、マジでもう禁止だからね」

「……善処します」

「なら、とりあえずGUに着くまでは被っててもいいよ。特別にね」


 とてつもなく独裁的な我儘だ。

 本当にこの人のこういうブレない強引さは、ある種の清々しささえ感じさせる。

 

「…………詩音さんのそういう偉そうなところも、私は――っ?!」


 無意識に本音が溢れそうになった、その時だった。

 (うなじ)を撫でられるような、生理的な嫌悪感……危機感を伴う視線。

 私は反射的に背後を振り返った。


「偉そうなところがなんだって? 続きを言ってみなよ」


 詩音さんの声が遠のく。

 私の視界に映るのは、相変わらず無個性な白のシルエットたち……だけではなかった。

 遠くの曲がり角を右へと曲がる、私と同じようなパーカーを羽織った影。

 

 あの姿には見覚えがある。

 詩音さんの家へ行く前にも一度、視界の端に紛れ込んでいたはずだ。

 後ろ姿だけならば、まるで私自身の鏡写しかと思うほどに似通っている。

 あまりに奇妙で、あまりに不気味だった。

 

 そして何より異常なのは、あの人物が詩音さんと同じく、この眼鏡越しに鮮やかな色彩を纏っているということだ。

 

「ッ!――すみません、詩音さん! ちょっとだけここで待っててもらえますか!」

 

 私はその場に彼女を置いて駆け出そうとしたが、即座に腕を掴まれ、強引に引き留められた。


「いきなりどこに行こうとしてるの?……逃げようったってそうはいかないからね?」

「違いますよ!!見えたんです!!」

「見えたって何が? お化けの話でもしてる?」

「詩音さん以外の色付きの人が見えたんです!それも多分男性で!!」


 必死に腕を振り払おうとするが、詩音さんは一ミリたりとも譲る気配を見せない。

 本気で抗えば力で勝てる自信はあるが、公衆の面前でそんな暴挙に出れば、後の説明が立ち行かなくなる。


「その眼鏡って、興味が無い人を視界から消すっていう凄い性能だったよね。……まず殆どの時間を私と家族に消費してる茜が男って……」

「ちょっと!それは言い方が心外なんですけど!!私が普通だったら全然男性に興味持っていい歳頃ですからね!?」

「やっぱり興味無いんじゃん。馬鹿なこと言ってないで早く行くよ」

「あーもう! 話になりません!!」


 問答をしているうちに、決定的な時間をロスしてしまった。

 あの一角を曲がっても、もうその姿を捉えることはできないだろう。


 でもやっぱり流石に正体が気になりすぎる。

 今度見かけたら絶対に逃したりしない。

 次は詩音さんに何にも言うことなく、ダッシュで捕まえてやろう。


 結局、私は抗う間もなく服屋へと連行され、そこで馬鹿げた分量の冬服を買い込まされる羽目になった。

 両手はすでに、千切れそうなほどの紙袋で塞がっている。

 タクシー呼んで帰るからって、全く遠慮がない。


 そしてこのドタバタのせいで、肝心の誕生日プレゼントであるマフラーを渡すタイミングを完全に逸してしまった。

 これが最大の失策だ。

 

 挙句、当の本人はしっかりと自前のマフラーを持参していたのだから、救いようがない。

 ……学校へ行くときは、一度だって身につけていなかったくせに。

 

 何もかもが、最悪なまでに裏目に出ていた。


「ここは茜に似合うやつ無さそう。次、行くよ」

「……もう勘弁してくださいよ」

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