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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第二章 文化祭編

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第58話 詩音さんに贈る誕生日プレゼントを選びましょう

 12月上旬、とある日の教室で。


「おい藤崎。一応言っておくが、今は授業中なんだぞ?」

「???……ノートはしっかり書き写してますよ、先生」


 私は顔を上げず平然と答えた。

 机の下、教科書で死角を作った手元では、細かな手仕事が進行している。


「……確かに書いてあるな。まぁテスト点数に免じて許すが、やる相手は選ばないと痛い目みるぞ」

「はい。ご忠告ありがとうございます」


 去り際の教師の言葉を適当に受け流しながら、私は再び作業に戻る。


 わざわざこんな面倒事をしているのには理由がある。

 これは近づきつつある詩音さんの誕生日に向けて、手編みのマフラーを贈ろうと思い立ったのだ。

 私の編み物歴といえば、幼い頃に祖母から教わった記憶と、保育園の行事で無理やり作らされた経験のみ。

 自信があるとは言い難いが、まあ……なんとかなるだろう。




 ---




「やっほ〜、藤崎さん」

「珍しいですね。そっちから話しかけてくるなんて」


 私は編み地から視線を外さず、声の主――坂本さんに言葉を返した。

 詩音さん以外の人間は、この眼鏡の効果によってすべて輪郭のない白一色の塊として映る。

 個人の判別は視覚よりも、声の周波数で行うほうが手っ取り早い。

 わざわざ目を合わせるだけ無駄なのだ。


「少し前から編んでるのは知ってたけど、今日はとうとう先生にまで目をつけられてたからね。そうなると、やっぱり気になるじゃん? どうしてそこまでして、学校で編み物をしてるのかなって」

「これは詩音さん用のプレゼントですよ。本人には『マフラーを買うお金が無駄なので、自分用を自作してます』って説明してありますけど」

「馬鹿にするわけじゃないんだけど、なんで手編みって発想になるの? プレゼントなら別に現物買って渡せばよくない?」

「あの人はお金持ちですから。下手に既製品を贈っても、大して喜んでもらえない気がしたんです。……私の勝手な邪推ですが」

「あ〜ね。弦巻家は若干豪邸寄りだし、親御さんも娘に甘々だもんね」


 会話の齟齬が発生している気がするが、そう言えば彼女は詩音さんがVtuberであることを知らない。


「で、結果手編みマフラーになるんだ。藤崎さんってやっぱり面白いね」

「でも、本当にこれを渡すだけでいいか分からなくて、困ってるんです。参考までに聞きたいんですが、やっぱり現物で何か物を買って渡した方が良いでしょうか?」

「ん〜……それなら今度一緒にイオンでも行く? 手作りのものをあげるだけでもだいぶ重――」

「何か言いました?」

「ううん……充分喜んでくれると思うけど、どうせなら他に何か買ってマフラーと一緒に渡した方が、味するんじゃないかなって」

「悪くない提案ですね。それで行きましょう」

「じゃあ今度の土曜日に行こっか。詩音の誕生日は来週だし、間に合うでしょ。とりあえず一旦LINE交換しよ」


 私は淡々とスマホを取り出し、彼女との連絡先を交換した。

 私の端末に登録された人は、これで詩音さんに続いて二人目だ。

 

「ありがとうございます。では土曜日にイオンで」




 ---

 

 


 いつぶりか分からないくらい久しぶりに来たイオンは、雑音と白に埋め尽くされていた。


「今日は結構人多いね。藤崎さんは大丈夫? 自分から誘っておいてアレだけど平気?」

 

 私は坂本さんの袖口を軽く掴み、彼女を道標にしてイオンの中を歩いた。

 袖口を摘む理由は、一度彼女と逸れたり見失った場合は、眼鏡を外さないと絶対に見つけられないためである。

 

「全然平気です。文化祭で倒れて視力が落ちた後、人の顔がよく見えなくなったので、人混みの中にいてもあんまり不快じゃなくなったんです」

「視力が落ちたのは詩音に聞いてたけど、そういうのって物理的な人嫌いも緩和させちゃうんだね。最近の藤崎さんが凄く太々しく見えるのも、そのせいだったりするのかな?」


 太々しい。


 聞き捨てならない評価に、私は思わず足を止めた。


「なんか不満そうだね」

「私のどこが太々しいのかと思って、少し考えてたんです」

「えぇ……自分で気づかないかな? 文化祭終わりから、結構他人に対する遠慮がなくなってると思うけど」

「具体例を出してみてください」

「それこそ授業中に堂々と編み物してるところじゃない? いつもは教科書で隠しながらスマホ弄るだけだったのに、急に段階飛び越えてきたからみんな驚いてるよ」


 坂本さん曰く、授業中もみんなして私の様子をチラチラと見ているらしい。

 そんな無意味な事する暇があるなら、先生の話でも聞いていた方が面白いだろうに。


「……少しだけ不快です。他人に見られるのは」

「あははっ! もしかして文化祭で暴れたこと、後悔してる?」

「そんなの当たり前でしょう。睡眠も食事も血も不足していたとはいえ、アレはその場の気分のままにやりすぎました」

「まっ、そうだよね。こっちは見てる分には面白かったけど――あ、そうだ。適当に服でも買ってかない?」


 坂本さんは愉快そうに笑いながら、少し大袈裟に話をズラした。


「さては貴女も私の服装を馬鹿にする民ですね? それはもう散々詩音さんに言われてるので聞き飽きましたよ」

「別に馬鹿にしてるわけじゃないけど、その格好は女の子としてなんか……。それに古い男友達と服装あんま変わんないからさ」

「はぁ……服とかどうでもいいので、早く詩音さんへのプレゼントを選んでしまいましょう」

「そっか。じゃあ私も彼氏にあげるクリスマスプレゼント買っちゃおうかなー」


 そんなこんな言いながら私たちは、アクセサリーや文房具、入浴剤が並ぶフロアを目的もなく彷徨った。


「………………?」


 不意に背後から射抜くような、鋭い視線を感じて振り返る。

 

 視界にあるのは相変わらず無個性な白の群れだけだった。


「どうかした? 気になる物でもあった?」

「……いえ、視線を感じた気がしたんですが、誰もいなくて」


 私の言葉を聞いた瞬間、坂本さんの口角がどこか悪性を含んだように跳ね上がった。


「あっはは! きっと気のせいだよ気のせい。……まぁでも、行動力に飛んだ馬鹿が私達を覗き見してたりするのかもね?」

「???」


 不可解な言葉の真意を測りかねたまま、私たちはコスメコーナーへと足を踏み入れた。

 

 吟味の末私が手に取ったのは、ある有名ブランドのセットだった。


「リップとハンドクリームなんだ。割と高めだけど大丈夫そう?」

「別にこれくらいなら大丈夫ですよ。それに初めて友達の誕生日を祝うんですから、これくらいは渋ってられません」


 しかも私は散々詩音さんにお金を使わせてきたのだ。

 たとえ圧倒的な資金力の差があったとしても、この程度の出費で渋っていては、あまりに面目が立たない。

 

「その友達相手にキスしてるのも、中々可笑しな話だよね。もしかしたらリップをプレゼントしてもそういう意味に取られちゃうかもよ」

「――――――っ?!」


 心臓が不快な音を立てて跳ねる。

 動揺を隠せない私の頬を、彼女の温かい両手が包み込んだ。


「……何の、つもりですか?」

「藤崎さんは女の子が好きだったよね。なら、私とはどうかなって思って」

「坂本さんは彼氏いましたよね。いいんですか? 私になんか手を出して」

「女の子ならノーカンだし。それにこの状況で抵抗しないってことは、期待してるってことでしょ」


 期待?

 ……この私が、他人のキスに期待……?

 

 ありえない。

 誰にでも靡く猿じゃあるまいし。

 

 どちらかというと、そんな事をされた日には失望と嫌悪と憎悪で頭の中がいっぱいになるだろう。

 だって友人だと思っていた相手から、突然キスされるのだから。

 それはいわゆるぬいペニと同質の、吐き気を催すようなグロテスクさを孕んでいる。

 

 だがその悍ましい定義には、あの日詩音さんに一方的に欲望を押し付けた私自身もまた、深く該当している。


 脳内で暴言を巡らせるたび、その刃は鋭いブーメランとなって私自身の喉元を切り裂く。

 自浄作用のない罵倒を繰り返す私は、どこまでいっても人間としての階層が底辺に位置する弱者だった。


 私は自身の首元を力強く抓り、混濁した思考の海から強引に正気へと這い上がる。


「坂本さんはそんな酷いことしませんよ」

「…………どうしてそう思うのかな?」

「だって貴女は、私と違って強者(普通)ですから」


 一般人にそんな非道な振る舞いはできない。

 文化祭の接客中でも、私から触れることはあっても、向こうから私に触れてくる人はいなかった。

 坂本さんもまた、その常識という枠組みの中に留まっているはずだ。


 だからこれは悪戯かドッキリか、私を揺さぶって何かしらの言質を引き出したいだけなのだろう。


「私はそう言う普通なところ、凄くいいと思いますし、とても羨ましいです」

「…………なんか全っ然褒められてるように感じないし癪に障るね、それ。――本当にキスしちゃおっか」


 坂本さんの瞳に挑発的な温度が宿る。


 彼女の唇が、逃げ場のない距離までゆっくりと、確実に、私の酸素を奪うように近づいてきた。

 

 ――その時だった。


「――ちょっと待ったあああああ!!」


 周りの目も厭わないような絶叫とともに、一人の少女がこの場に滑り込んできた。

 

「えっ……詩音さん?! なんでここに……?」


 思ってもみない人が現れ、私はただ呆然と目を見開く。

 

「遅かったじゃん。ずっと隠れてついてくるもんだから、何考えてるのかと思ったよ」

「それはこっちのセリフ!」


 坂本さんの余裕たっぷりな物言いに、詩音さんは噛み付かんばかりの勢いで詰め寄った。

 その手は坂本さんの肩をがっしりと掴んで離さない。

 

「……あんた今絶対にキスしようとしてたよね? 本当に何考えてるの???」

「ただの遊びだし本当にするつもりはなかったよ。ねー、藤崎さん」

「まぁ……そうみたいですね」


 同意を求められ、私はぎこちなく首を縦に振った。


 ……なんで詩音さんがこの時間にイオンを彷徨っているのかは分からない。

 昨日の夜の通話でも外に出るなんて話は聞いてないし。


 ただ坂本さんの今の不可解な行動は、すべて潜伏している彼女を引きずり出すためのものだと理解し、安心した。


「茜も茜だからね?! 私以外の人が嫌いなのに、なんで抵抗しようと思わないわけ?!?!」

「それ自分で言ってて恥ずかしくないんですか……」

「はぁっ!!!?」


 つい失言してしまい、詩音さんの怒りのボルテージがさらに跳ね上がる。

 その険悪な空気を楽しむように見届けてから、坂本さんはひらりと一歩身を引いた。


「じゃあ私はこれで失礼するね。なんだかお邪魔みたいだし」

「いえ、別にそんなことはないですけど」

「そうそう、どうせなら今からみんなで買い物の続きでもすればいいでしょ。鈴菜がどうして茜とイオンにいるのかも説明ついでにね!」

「それは藤崎さんが教えてくれるよ」

「えー……」


 思わず口から気の抜けた声が漏れた。


 詩音さんへのサプライズを画策していたはずが、これでは台無しだ。

 この場でネタバラシを強要される状況に、言いようのない徒労感を覚える。


「『え〜……』って何? こっちは配信中(仕事中)にいきなり変なLINEがきたから、急いで飛んで来たんだよ?」


 憤慨する詩音さんは私に詰め寄り、スマートフォンの画面を顔面に押し付けるように突き出してきた。

 そこには坂本さんからのメッセージで『藤崎さんとイオンでデート中』という、短くも破壊力のある文面が綴られている。

 

 送信時刻は私たちがイオンに入る直前。

 詩音さんはこの一報を受け、わざわざ配信を切り上げてまで駆けつけてくれたらしい。


「それにまた茜が眠ったままの状態になるんじゃないかって思って、凄く心配して急いで来たんだけど!!……何か言うことないの?」

「あ〜……その、ごめんなさいです」

「分かればいい」

「………………私がちょっと黙ってるだけで、すぐに二人の世界作っちゃってるじゃん。これで詩音の方は他人の目を気にして付き合わないの、中々酷いよね」

「私もそう思います」


 まぁ詩音さんが私と付き合ってくれない理由の中には、同性と恋仲になるのはちょっと……という理由もあるだろうし、過去のトラウマとかがあったりするだろうから、一概には言えない。

 

「とりあえず藤崎さんも今から大変だろうけど、頑張ってね。私は本当に用事があるから、帰らせてもらうよ。バイバイ」


 そう言って鈴菜さんは去っていった。


「…………」


 別に帰られるのは構わないんだけど、ここで本当に帰ってしまうパターンとかあるんだ。

 詩音さん以外に友達がいなかったせいで、少し驚きがある。

 ……他人ってよくわからないな。


「何ぼ〜っとしてるの? まだ話は終わってないんだけど?」

「話……?」

「どうして昨日通話した時に、イオンに行く話を教えてくれなかったのか。どうして鈴菜とここに来ることになったのかって話」

「…………答えたくないって言ったら、どうします?」

「ならついでに、アレから家に来てくれなくなった理由も教えてもらおうかな? 毎週日曜は来てくれるって言ってたのに……」

「すぐに答えるので、その話はやめましょう!!」

 

 ……誰があんな酷い目にあった後、簡単に現場へ戻ることができようか。

 普通にこっちは、思いだすだけで恥ずかしくて仕方ない。

 行かなくて当然というものだろう。

 

 それに家まで行ってしまったら、私はまた同じことが起こらないかって期待してしまう可能性がある。

 そういう悶々としている自分を想像するだけでも、気持ち悪い。


「とりあえず手持ちのものを買ってきますね」

「はいはい。早くしてね」




 ----




 その後、私たちは場所を適当なカフェへと移し……


「ごめんっ!!!!! まさか茜がそこまで気をきかせてくれるなんて思ってなくて……」


 誕生日プレゼントの相談という名目で坂本さんに同行してもらった経緯を正直に話すと、詩音さんは即座に謝罪の言葉を口にした。

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