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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第二章 文化祭編

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第50話 これからは茜って呼んでください

「ねぇ、起きてる?」


 私は彼女が入ってきてすぐに狸寝入りに入って、眼は開かなかった。

 なんというか、月宮さんが大泣きしたって話を今になって聞かされると、凄く申し訳ない気持ちになる。

 別に文化祭のことは月宮さん、何も悪くないし。

 結局私の気質が終わってて、そういう人種だからこうなっただけ。


「明日菜ちゃんから聞いたよ。目を覚ましたって」


 お願いだから本当に申し訳ないけど帰ってほしい。

 そして指が動くようになったら、LINEのメッセージでちゃんと謝るから、それでどうにか……


「茜ちゃん」


 お願い!!!

 帰ってください!!!


「……明日菜ちゃんが『一ヶ月たくあん禁止』って、言ってたよ」

「そんなこと!許せるわけが!!!――ゲホッゲホッ!!」


 反射的に跳ね起きた代償は、喉を焼くような激痛と猛烈な咳き込みだった。

 悶絶する私の体に月宮さんがそっと、壊れ物を扱うような手つきで抱きついてくる。

 その拍子に腹部に繋がれた無数のコードやチューブが引っ張られ、不快な異物感に胃の中が「おぇっ」とせり上がった。


 ……居眠りこいてやろうと思ったのに。

 こういうところはちゃっかりしてるな、月宮さん。


「……良かった、生きてて。本当にごめん、私酷かったよね。準備期間は勝手に休んでたし、アメの強攻は止められなかったし」

「…………」

「アメから学校を休みたいって話も聞いた……」

「…………そうですか……それを聞いてどう思いましたか? 正直に聞かせてください」


 私の問いに、彼女の腕の力が微かに強まる。

 

「ショックだった。本人から聞かされるんじゃなくて、他人越しに言われることも。アメの命令として処理されることも」

「ふふっ……ですよね。では――その話忘れてください」

「え?」

「今回こんな結果になったのは結局のところ、私のせいです。ただこういう気質だからこうなっただけのこと。その件で月宮さんを傷つけてしまったのなら、私が謝ります。本当にすみませんでした」


 それにこんな形で入院してるあたり、そんな約束が無くとも、暫くは他人と顔を合わせずに済む。

 最近は他人と会話する時間が長すぎて、心身ともにめちゃくちゃ削ったから、こうやって静かな場所に強制的に幽閉されるのは、だいぶ都合がいい。

 

「……でも私が一緒に学校を休んであげれば、入院なんて……」

「それは本当にその通りですね!」


 私の即答に、彼女は呆気に取られたように体を離した。

 そしてなんとも言えない、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 たぶん、いつもだったら殴られてるんだろう。

 この顔を見る限り。


 ただ、それについては事実なんだから仕方ない。

 こっちの都合でしかないけど、普通に一緒に学校を休んで欲しかったって気持ちは、今でもかなりある。

 

「私が入院するレベルでこうなってるってことは、トータルで考えたら体は学校を否定してるってことですからね。本能の方は圧倒的にダメって事なんですよ」

「……うん」

「まぁでも、一番の後悔は月宮さんが文化祭で、心から楽しんでくれなかった事でしょうか」

「茜ちゃんだって楽しんでないのに、よく人のこと気にかけれるよね」

「私は心から楽しめる場面もありましたし……結局は弦巻さんのいいように使われたとはいえ、アレも良い勉強になりました」

「…………」

「そして短い時間だったとはいえ、月宮さんと一緒に文化祭を回れて歌う事までできた。……ここまでやったんなら、私としては良い思い出として残る…………かもしれません」


 ここについては純度100%の大嘘だ。

 今の気分でアレを良い思い出に昇華するなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。

 今あの教室でやった接客を思い出すと、胃液が逆流しそうになる。

 

 私はそれを死に物狂いのポーカーフェイスで押し殺した。

 

 ふと月宮さんの顔を盗み見ると、彼女の大きな瞳から大粒の涙が、堰を切ったように溢れ出していた。


「えぇっ!?――ゲホッゲホッ……私、なんか泣かせるようなこと言いました?!」

「私も……私も楽しかった……」

「あの……言ってることとやってることが、矛盾してるんですけど」

「それを言うなら……私からキス迫るだけで泣き出す……茜ちゃんも、意味わかんないから!」


 月宮さんはそう言いながら、自分の手で涙を拭った。

 

「…………」


 ……確かに。

 彼女のその言い分には一理あるかもしれない。

 

 それを言われたらこっちは言い返せないため、彼女の涙は一旦見なかったことにしよう。


「……今日は配信、無いんですか?」

「ある……だからもう帰らないといけない」

「帰る前にお願いがあるんです。良いでしょうか?」

「『配信休んでここに残って』ってお願いでも聞くよ」

「それをお願いしたら最低すぎますよ、私……そうじゃなくて、少し手を握って欲しいんです。今はまだあまり自分で手を動かせませんから」

「???……別に良いけど……こう?」


 彼女の掌が私の手に重なった。

 暖かい。

 

 少し冷えてきたこの時期に、彼女の確かな体温はあまりに優しく響き、凍てついた私の心象風景を、ほんの少しだけ溶かしていく。

 このまま、その温もりに溺れてしまいたいって気持ちが、ちょっとだけ湧き出てくるようだった。


「…………もう一つお願いがあって……」

「……うん」

「私をこれから……()って呼び捨てに……して欲しいんです」


 口にした瞬間、猛烈な羞恥心が遅れてやってきた。

 熱が頬に集まるのがわかる。


「それはどうして?」

「……いつも他の人は呼び捨てで親しいのに、なんか私だけ……距離取られてるみたいに感じるので」


 この願いがどれほど矛盾に満ちているかは理解している。

 彼女との関わり方を見つめ直そうとしている人間が、口にしていい言葉ではない。

 でも、それはそれとしてこの文化祭期間中、他人との関わりを通して、妙に呼び方に距離感を感じたのがとても癪だった。

 

 彼女は基本、私にのみ『ちゃん』付けで呼び、その他全員を呼び捨てにする。

 これはフェスでの出会いという特殊なケースから続いてしまった習慣なのだろうが、それが他人以上に距離を取られてるみたいで嫌だった。

 唯一の『ちゃん』付けも特別感はあるかもしれないが、やっぱり私は普通に呼んでほしい。

 

「最近の行動が支離滅裂だった茜ちゃんでも、そんな顔でそんなお願いすることあるんだね。なんで恥ずかしがってるのか、理解に苦しむよ」

「……呼び方の変更をお願いするなんて、普通に考えたら恥ずかしい行為だと思いますけど」

「ううん。そんなのより、絶対に公衆の面前で公開キスする方が恥ずかしいもん」

「………………それ……言わないでください。アレは不可抗力だったんです」

「ふふ……分かったよ。そう呼んであげる。またすぐにお見舞いに来るね――茜」


 人間というのは、なんと複雑で、ままならない生き物か。

 これ以上彼女に深入りすべきではないと理性では理解していながら、本能は彼女を求め、矛盾した言動を吐き出させる。


 呼び方の変更なんて、どう考えても私達の繋がりを、より強固にするものでしかない。

 本当に私は中途半端な人間だと、自嘲したくなる。

 

「あはは……私は月宮さんのお見舞いに行けなかったので、これ以上病院に来られたら罪悪感で押し潰れちゃいそうですね」


 私は彼女にテンション感を合わせるように、精一杯おどけてみせた。

 

「それはいいの!!!茜ちゃんも文化祭で先が重かっただろうし、来れる体調じゃなかったはずだから」

「茜です」

「……………………」


 即座に訂正を入れる私に、彼女は何かを企むような、あるいは拗ねたような表情を見せた。

 そして、私の顔を両手でしっかりと固定し――。


「ひゃっ!?!?!?」

 

 至近距離に迫った彼女の瞳に射抜かれた直後、私のおでこに、羽が触れるような柔らかいキスが落とされた。


「じゃ、茜は私のことを詩音って呼ぶんだよ!これは命令だからね!?」

「…………ひゃい」


 突然の爆撃に、私の心臓が警報のような音を立てて跳ねる。

 不意打ちはあまりに卑怯だ。

 

 そして私の激しい鼓動に呼応するように、枕元のモニターがけたたましく鳴り響いた。


「え、なに!? と、とりあえず私帰るね!!」


 動揺した彼女が脱兎のごとく扉を開けた、その時だった。

 

 扉の先には無表情で仁王立ちする看護師さんが立っていた。


「…………」

「あっ……」




 ---




 結局私は月宮さんをどうしたいんだろう。

 またもや私は、彼女を変な形で縛り付けてしまった気がする。


 私は文化祭で出会った客達をひたすらに捌き、あの男に対しては説教を垂れ、人として上だという悦に浸り、ただただ嬲り倒した。

 人間として成長した気はすれど、それでも人の在り方が、私に受け入れ難いのは変わらない。


 今回の文化祭を通して私は、人の愛欲とは何か――がどんどん不透明になっていくばかりだった。

 やっぱり私は人として生きるのが向いていないのだろう。


 月宮さん――詩音……さん、のことは好きだ。

 でも、今回の件は私の頭を狂わせるのに余りある。

 

 人の好きとは結局何なのか。

 生殖できず、お互いの遺伝子を残せない同性同士の愛に、何の意味があるのか。

 そして果てには人の存在意義までも。

 

 私は彼に性に対する説教を垂れておきながら、定まりきっていない答えを、自分自身や神様にも問いかけているようだった。


 ただ一つだけ出た結論を述べるなら――人って本当に気持ち悪い生き物なんだと思う。

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