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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第二章 文化祭編

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第44話 校内最強の人誑し、茜ちゃん(月宮:視点)

 ここ最近の茜ちゃんは変だ。

 私が文化祭に参加してほしいと我が儘を言ったのは確かだけれど、今の彼女は私の期待を遥かに超えて——あるいは逸脱して、自発的にこの狂騒の中に身を投じている。


 喘息で数日ほど入院していた私には、彼女の身に何が起きたのか、その詳細を知る術はない。

 問い詰めても彼女は煙に巻くばかり。

 

 けれど、準備期間中の通話越しに聞こえてくる彼女の疲弊した、それでいてどこか投げやりな声は、彼女がクラスのために異常なほど働いていることを物語っていた。


 そして営業中の今も……


「私の父は病気で亡くなってしまって、母は一人でとても大変そうでした。それで私は私を育てて産んでくれた母に恩返しをしたくて、料理を始めるようになったんです」

《素敵♡》《うんうん》《……》

「それで母や妹、そして友達達が料理を美味しいって言ってくれるのがキッカケで私は将来、料理人になりたいって考えました」


 執事服に身を包んだ茜ちゃんは、慈愛に満ちた完璧な笑顔を浮かべ、パンと両手を合わせた。

 

「そうだ。良かったら皆さんも、今度家に遊びに来てください。この楽しい時間のお返しとして、とびきり美味しいご馳走を用意しますから!」

《行きます!♡》《私も!!!》《……これ、チップです》

「ありがとうございます。また、明日も来てくださいね」


 彼女は男女問わず次々と接客していった。

 うちのクラスの出し物はメイド喫茶。

 つまりメインはメイドであるべきはずなのだが……何故か茜ちゃんはこの店の執事、というかNo.1ホスト的な立ち位置で接客をしている。


 おかしいな……絶対におかしいと思う。


「鈴菜はどう思う?」

「凄いと思う」

「小学生並みの感想やめて」

「はっきり言うならアレかな、詩音がクラス内の太陽で一番の人気者。でも藤崎さんは面白いことに、学校一のダークホースだったみたい」

「………………なんか、茜ちゃんのあの姿に違和感ないのが、とても複雑かも」


 そして茜ちゃんに次の客がついた。


 彼女は、流れるような所作で女の子の警戒心を解いていく

 その姿には雨が降るコンビニで跪かれた時の、彼女の綺麗な姿を彷彿とさせるようだった。

 茜ちゃんとお客さん、その姿を見ているとまるで旅行中の私と彼女の姿を客観視させられているようで、心臓がズキズキと響いてくる。


「ほんと酷い顔をしてるよね、詩音も藤崎さんも。文化祭なんだから楽しみなよ」

「私は楽しんでるけど」

「そうかなぁ」


 私達は少し離れた場所から、盗み聞きするように茜ちゃんの会話に意識を集中させた。


「藤崎()()の好きな食べ物とかある?……良かったら明日にでも持ってこようと思うんだけど」

「ふふ……そうですね」


 茜ちゃんがわずかにお客さんとの距離を詰めた。

 吐息が届きそうな距離で、彼女は蠱惑的に目を細める。


「もちろん――こちらの先輩をテイクアウトで」

「きゃー!」


 ヤバい。

 茜ちゃんが1000%演技でやってるのは分かっているし、私にしか好意がないのも知っている。

 でも、あまりに役にハマっているせいで……


「くぅぅぅうううう!!!!…………イライラするっ!!!!」


 私は叫び出したい衝動を抑え込み、教室の壁に思い切り拳を叩きつけた。

 幸い室内の喧騒がその鈍い音をかき消してくれたけれど、拳の痛みより胸のざわつきの方が勝っていた。


 ……というか本当におかしい!!!!

 なんでこうなってるの!?

 まず茜ちゃんとその他のキャストの指名で、値段が倍以上違うのもおかしいし、まず指名制なことにも文句を言いたいし、今も更に価格が上がり続けている。

 なにここ、本当に文化祭?????

 

「やっぱ楽し――」

「楽しんでる。あ〜……文化祭楽しいなぁ!」

 

 はぁ……ガチで茜ちゃんをひっぱ叩きたくなってきた。

 他に人がいなかったら、すぐにでもぶん殴ってやるのに。


 そんなことを考えていると、気づけばアメが茜ちゃんのお客さんの後ろについた。

 そしてカンペを取り出す。

 

 そこにはこう書いてあった。


 ――タイミング良くキスしたら、報酬は更に倍!!!――


 茜ちゃんの眉が一瞬だけ不快そうに歪んだ。

 でも彼女はプロ?の顔を崩さず、すぐさま微笑みを取り繕う。


 ……というか!!!


「え、は、…………え?」

「報酬が倍……藤崎さんってマキちゃんから何か受け取ってるのかな?」

「何かって何!!?」

「私に面と向かって『嫌い』って言ってくるほど人嫌い。それでも尚自分から突き動く理由……」


 鈴菜の言葉に、すぐさま答えに結びついた。

 

「――お金だああああ!!!!」


 私は叫び、その場に頭を抱えてうずくまった。


「う〜ん……ちゃっかり私、藤崎さんに嘘つかれてたんだなぁ。まさかお金のために頑張ってたなんて……」


 そうだ。

 茜ちゃんはお金を渡せば結構単純に動く。

 それは旅行で証明されてるし、あの集合写真でも分かってる。


 だとすると今回は文化祭、アメは準備期間から今日に至るまで一体どれだけの額を渡したのか?!


 ……いや、違う。

 そんなことは関係ない。


 まず今考えるべきなのは、茜ちゃんと他人のキスを阻止しなければいけないことだ。


「って!!私はなんで阻止する側に立とうとしてるの!!! それも意味わかんないでしょ!!」

「今日の詩音は元気だねー。……あっ、藤崎さんが2年の先輩の顔に触っちゃった」


 私は鈴菜の声にすぐさま顔をあげた。

 鈴菜の声に、私の脊髄が反応した。

 私はトレイに載ったドリンクを奪い取ると、茜ちゃんのいるテーブルへ突進し、叩きつけるようにコップを置いた。

 

「お客様!…………飲み物をお持ちしました」

「え、私頼んでないけど……藤崎くんが頼んだの?」

「……………………………………」

「……こちらは私のサービスとなっております。()()()()()、どうぞ」


 そして私はどさくさに紛れてアメの首根っこを掴んだ。


「ぐえっ!」


 そのまま私は彼女を引きずるように、鈴菜のいる場所まで後退した。




 ---




「アメ!!!茜ちゃんにいくら出したの?!!?」

「あ、気づいた〜? 茜っちなら15万で雇われてくれたよ」

「なんでっ!!!??」

「えぇ? なんでって言われても知らないけど……たぶん、普通に文化祭に参加するだけだったら心が持たないからって、お金に縋ったんじゃないのー?」

「そんなこと……でもアメはこう動くって全部わかってて、茜ちゃんにお願いしたんでしょ!!??」

「それはそうっ!」


 アメは悪びれもなくテンション高めに言った。


「このっ!」


 私は激しい憤りに突き動かされ、数年ぶりに命の恩人に対して手が出そうになった。

 だが、その拳が空を切る前に鈴菜が後ろから私を羽交い締めにし、強引にその場へ繋ぎ止める。


「まぁまぁ、落ち着きなよ詩音。詩音がそんなにマジになってるのも珍しいねー」

「落ち着くとか無理っ! こんなの意味わかんないでしょ!! っていうかアメが全部悪いんだから、早くこの状況をどうにかしてよ!!!」


 半ばパニック状態で暴れる私を、鈴菜が必死に宥める。

 それでも収まらない私の激情を冷やすように、アメを纏う空気が一瞬で別物へと切り替わった。


「はぁ……しおっち――いや、詩音。一つ言っておくけどこうなるのが嫌だったら、始めから二人でサボりを決め込むべきだった」

「…………なっ!」

「茜っちの性格を知っておきながら、一体何を考えてるの? 人のことを思うんだったら、まず自分の幼稚な我儘衝動を抑えることだね。一体いつまでそんな真似を続けるつもり?」


 本気のトーンで放たれた彼女の圧に、わずかに息が乱れる。

 ぐうの音も出ない正論よりも、突然始まった説教の方に私は驚いた。

 

 アメは畳み掛けるように、無機質な言葉を続ける。


「それともう一つ。私は茜ちゃんにとあるお願いをされてるんだ〜。聞いて?」

「…………何を……言われたの?」

「私経由で『文化祭終わりから三日間ほど休みをください』ってさ。だからこれは私からのしおっちに対する命令ね、拒否は許さないよ」


 そんなこと……


「そんなこと、私を通さずとも直接言えば良いのにって思った? 無理でしょそれは。『つい先日の一緒にサボろう?』って誘いを叩き切った相手に、常識的に考えて期待なんかできないよ〜」


 ……確かにアメの話は全て正しいのかもしれない。

 大前提としてアメのやってる事は、極端に言ってしまえば犯罪者が私に説教を垂れているのと何ら変わらないけど、でも茜ちゃんは結局彼女を選んで頼った。

 大嫌いなはずの相手を。


「……私って最低だったんだね」

「そう、最低だよ。特に今の茜っちの苦しみに、何一つ気づけてないところとかね」

「マキちゃん! 言い過ぎだよ!!」

「怒らないでよ、すずっち。これは妹に対して説教してるだけなんだから〜」


 苦しみ……

 今の彼女はあんな笑顔で演技できている状態でも苦しんでいるのだろうか?

 いや、苦しんでるのだろう。

 もはや、一ミリたりとも楽しんでない可能性もあるかもしれない。


 私は考えていた。

 旅行の時のように私と二人きりなら、彼女も楽しんでくれるはず。

 そんな私の考えは傲慢で甘すぎた。

 今回の状況に限って言えば、接客という場に私が入る隙なんてどこにもないのだし。

 

 つまり茜ちゃんが私を原動力として動いているはずなのに、私が側にいてあげれていないのだ。

 だから彼女の本当の想いは……

 

「……ちょっと、風に当たってくる」

 

 私は絞り出すようにそう告げ、逃げるように一人教室を後にした。

 

 ……茜ちゃんの出番が終わったら、心の底から謝ろう。

 そして明日の文化祭は二人で一緒に休もう。

 どこか、誰もいない二人きりになれる場所へ。

 なんなら高級なお菓子でも買って、私が茜ちゃんの家に行くのだって良い。


 茜ちゃんは今や、私にとってかけがえのない一人の友達。

 もっと私は、彼女に対する関わり方を見直すべきなのだろう。

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