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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第二章 文化祭編

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第43話 文化祭スタート!

 そして文化祭当日の朝。


「えええぇぇ?? マキちゃんが休み〜!?」

「一番張り切ってた奴が来ないことあるんだ」

「風邪ひいちゃったのかなぁ。詩音と入れ替わりでダウンなんて……」


 教室に充満しているのは、期待と不安が入り混じった混沌とした空気。

 

 クラスメイトたちが困惑した声を上げる。

 どうやら、今回の立役者である弦巻さんが欠席したという情報が流れているらしい。

 

 今回のクラスの出し物は、クオリティーを上げるために弦巻さん自身の身銭を切って、このクラスに投資している。

 例えば高品質なメイド服とか、調理するための道具とかがそう。

 

 ここまで揃えた側の人が休む?

 それこそ足を引きずってでも来そうだけど……


「♪〜」


 そんな私の疑念を証明するように、廊下から調子の良い鼻歌が聞こえてきた。

 

「いや〜待たせたね、みんな!」


 現れたのは、昨日と同じく髭メガネと白衣を身につけた弦巻さんだった。


「あれ? 先生がさっき教室から出ていく前『弦巻さんは休みだ』って言ってたから、弦巻は欠席扱いになってるような?」

「欠席かどうかは関係ない。今回の私はメイド喫茶の監督者兼、一般客として振る舞わせてもらうよ」

「弦巻さん」

「先生と呼びなさい」

「先生…………のその立場ってどういうものなんですか? 普通に私達と一緒に文化祭に参加すれば済む話な気がするんですけど」

「良い質問だ、茜くん」


 私の至極真っ当な指摘に、彼女はドラマチックに白衣を翻し、教壇に立って黒板をチョークで叩いた。


「私はシフトに縛られるということが嫌いでね。気分で自由に動ける立場が望ましいのだよ」

《弦巻先生ー! ということは、気分次第では全くクラスに関与しない可能性もあるってことでしょうか?》


 少し元気めの男子が挙手して質問する。


「かもしれないね。まぁ人手が足りなくなったら呼ぶといい、私の機嫌が良ければ手伝うとしよう」


 ……この人、本当にやりたい放題のようだ。

 よくもそんな馬鹿げたことができる地位をクラス内で築けたものだと、もはや感心できるレベルである。


 だが、当然ながら全員がその独裁を歓迎しているわけではない。


《足りないのは、お前のおつむと社会性だろうが、帰って寝てr――》


 一人の男子生徒が、吐き捨てるように嫌味を言った。

 それを聞いた瞬間、ノータイムで弦巻さんの指が動いた。

 手元にあったチョークを指先で弾き、豪速球で彼の額へと叩き込んだのだ。

 

《ぶっ?!》

 

 チョークを見事にクリーンヒットさせられた彼は、そのまま、どさり、と糸の切れた人形のように床に倒れ込んだ。

 このシュールな展開に、クラスのみんなは活気立つ。


「他に反論があるものはいないな?」

《《《…………》》》

「では皆の者、最終セッティングに取り掛かりたまえ」

《《《イエス、マイ・ロード!!!!》》》

「よろしい」


 .......終わってるなぁ、この教室。

 慕われているというより、もはや洗脳が完了した後のようだ。

 誰かこの銀髪の化け物を止めて欲しいとさえ思ってしまう。


「……月宮さん」

「ごめん、これは無理」

「ですよね」

「それにみんな大体は一丸となってるし、別にこれでもいいんじゃない?」

「貴重な労働力を、たった今削られたのが問題ですけどね」

 

 溜息をつく私の隣に、いつの間にか髭メガネを外した弦巻さんが忍び寄っていた。

 

「茜っちのメイド服は、やっぱり絶妙に似合わないね〜」

「そうかなぁ、私は可愛いと思うけど」

「......そんなこと文化祭前から分かりきってたことです。一々指摘しないでください」


 弦巻さんは私の文句を無視し、「ん〜」と、品定めをするように私の全身を検分した後、有無を言わさぬ力で私の手首を掴む。


「ちょっとこっちにきて。良いものを貸してあげるよ」




---




「きゃああああ、かっこいいい!」

「え、1人だけズルくね?」

「これも一つのギャップってやつ?」


 更衣室に連れ込まれ、無理やり着替えさせられた私の姿を見て、クラス中から黄色い悲鳴とどよめきが上がった。


「執事服って、あの……何かの冗談ですよね?」

「凄い似合ってると思うよ! これ見せられたら確かにメイド服が微妙って言うのも分かるかも!!」


 月宮さんは瞳をキラキラと輝かせ、私の周囲を落ち着きなくぐるぐると回っている。

 長めに伸ばしていた髪を高い位置で縛ってポニーテールにし、身体のラインを拾うタイトな執事服に身を包んだ今の私は、自分でも別人のコスプレをさせられている異邦人のように見えた。


「その格好、とても似合ってるよ。私の方が惚れちゃいそうだった」


 狂乱する周囲の反応を他人事のように眺め、意識が遠のきかけていた時、坂本さんがスッと横から現れ、肩がぶつかる距離まで踏み込んできた。

 そして周囲の喧騒に紛れ込ませるように、低い声で耳元に囁いてくる。


「……体、まだ調子悪いでしょ。さっき一瞬、意識が飛んでるみたいにぼ〜っとしてたし。保健室に行かなくて大丈夫?」

「大丈夫です、ご心配いただきありがとうございます」

「詩音にはバレてないし、隠しておきたいようだけど、私とマキちゃんにはバレバレだから、酷くなったらすぐに助けてあげるね」

「……そうならないことを祈るばかりです」


 そう、確かに私の体調はアレから変わらずだ。

 まともな食事が喉を通らなくなって数日、胃の奥には焼けるような不快感が常に居座っている。

 

 けれどこの二日間を乗り越えれば、私は来週の土日含めて合計一週間は休める。

 そのことを考えれば、まだ暫くは踏ん張れるというものだ。


 …………ただ、執事服を着せられているのはかなり不快ではあるけど。

 

 ふと視界の端に、弦巻さんが私の視線にだけ入る位置で、一枚のカンペを掲げた。


『プラス5万』


 もはや私に反論するだけの気力も体力もなかった。

 決して金に釣られたわけではない。


 ……というかあの人、私の体調に気づいていながら、アレだけ私を振り回し、お金を出してまで私にこの格好を強制させようとしているのか。

 普通に性格は外道の類に入るだろう。


「近いって鈴菜! 茜ちゃんはあんまり人慣れしてないんだから!!」

「そうかもしれないけど、文化祭準備期間、詩音がいない間に私はだいぶ藤崎さんのこと支えたしな〜」

「それはスマホ越しで聞いてたし、ありがたいって思ってるけど……それはそれ、これはこれ!」

「ならもう友達として見てくれて、良いと思ったりするんだよね。どう?」


 坂本さんの真っ直ぐな問いに言葉が詰まる。

 月宮さんを友達という枠組みから外しつつある今の私にとって、献身的に支えてくれた彼女を他人扱いし続けるのは、確かに不誠実が過ぎる気がした。


「茜っちは私の友達でもあるもんね〜?」


 葛藤する私の思考に、弦巻さんが無遠慮な横槍を入れてくる。


「貴女と私が友達だったら、私と坂本さんはズッ友ですよ」

「おっ、つまり私達は友達ってことだね」

「はい……それで良いです」

「あぁもう!解決したんだったら離れて!!鈴菜は彼氏のところでも行ってこれば良いでしょ!」

「はいはい〜」


 月宮さんが坂本さんを強引に押し出し、そのまま私の手を取った。

 その握力は驚くほど強く、逃げることを許さない。


「じゃ、最初はインパクトが大事だし、看板(執事)の茜っちにはスタートからバリバリフルタイムで働いてもらうから!」

「私のシフト、2時間後ですよ」

「関係ないね!!」


 ……あぁ、今考えてもヤバい。

 弦巻さんの暴論に、私の血管がピクリと跳ねた。

 体調は最悪で接客は本っっっ当にマジで嫌。

 

 それなのに事実上の無職である弦巻さんに、労働を強要されている。

 真剣にその理不尽を咀嚼すれば、彼女の顔面に拳を叩き込んでしまいそうだった。


 まぁでも15万で雇われているわけだから、配分的には妥当なのかもしれない。

 だとしても普通に個人的には納得できないけど。


 私が怒りを押し殺していると、繋がれた手に不意に力がこもった。


「アメ、それだけは絶対に許せない」


 月宮さんの声から温度が消えた。

 

「……しおっちは最近、悪くない顔をするようになったね。それで?」

「茜ちゃんとは文化祭を回るって約束してるから、働く時間は最低限いく。別に問題ないよね?」

「ないよ〜」


 ……怖。

 普通に月宮さんの言葉の雰囲気が怖いんだけど。

 それで満天の笑顔を返してくる、弦巻さんの狂気は殿堂入りだ。


 結局、月宮さんの提案で私がフルタイムで働くという話を秒で撤回したし……ほんと、何考えてるんだこの人。


「ま、それでも最初はインパクト欲しいし、1時間だけ残業してもらうけど、それでいいね」

「分かった、それならたぶん大丈夫」


 私の意思など介在しないまま交渉は妥結した。

 開始を告げる放送が、校内に鳴り響く。


「じゃあメイド喫茶スタート!」


 弱肉強食は世の常で、絶対不変の真理。

 文化祭などという行事を、弱者が楽しめるわけもない。

 

 私はこの祭り事を通して、自身以外の人の在り方を再認識する。

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