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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第一章 出会い編

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第27話 外で食べるあんぱんは美味い

 そうして全力で走り続けること2分。

 辿り着いた目的地を仰ぎ見て、彼女は呆然とした声を漏らした。


「こ、コンビニ?!?!」

「ええ、そうです。少し小腹が空きまして。ついでに傘も調達しておきましょう」

「それならそうと言ってくれればよかったのに……こんな、ずぶ濡れになってまで走るような場所じゃ……」


 小腹が空いている。

 これは事実だけど、それをあの時にそのまま月宮さんに伝えてしまっては、また負担を与えてしまうため、黙って連れ出した。


 それに一度シンプルに、さっきまでの空気をぶち壊してしまいたかったのもある。


「じゃあ茜ちゃんの好きなものを好きなだけ選んでいいよ。これもお詫びだから」

「いいえ。この程度の金額は私のお金で払わせてください」

「だめ」


 食い下がる彼女に対し、私は掴んでいた手首に、わざと少しだけ爪を立てて力を込めた。


「今回ばかりは絶対に譲るつもりはありません。どうか分かってください」

「……ミスばかりだから…………」

「ん?」

「…………私がちゃんとリードできなかったから?」


 震えた声で紡がれる後悔を、私は鼻で笑って切り捨てた。

 

「まさか。そんなどうでもいいこと気に留めてすらいませんよ。とりあえず中に入って買ってしまいましょうか」





 ---





 結局私たちが買い込んだのは、何の変哲もないあんぱん二つと、大きなビニール傘一本だけだった。

 そして私は傘を開いた後、コンビニのすぐ手前にあるガードパイプに腰を下ろした。


「月宮さん、隣に座ってください。少し休みましょう」

「中じゃなくて外で休むの?……それも雨の中のこんな場所で?」

「店内には人が結構いましたからね。月宮さんと2人であることを自覚したいので、ここならギリギリ妥協できます」

「…………」

「傘を差してるのであまり水は当たりませんよ? ちょっとパイプは湿ってますけど」

「別にそれが嫌だったわけじゃないから、一々言わないで」

 

 そう言って月宮さんは、私の隣に躊躇いながらも腰を下ろした。


 会話は途切れ、ビニール越しに響く雨音だけが二人を包み込む。

 透明な境界線で仕切られたこの狭い空間が、今は世界のすべてのように感じられた。

 沈黙を破ったのは、彼女の消え入りそうな声だった。


「……ごめん」

「何を謝っているんですか?」

「色々。……いっぱい言わなきゃいけないことがあるはずなのに、言葉が出てこないや」

「それはきっと、月宮さんに非なんか無いから出てこないんだと思いますよ」

「え?」


 そう、彼女に非などない。

 

 確かにここ数日間、弦巻のせいで月宮さんと過ごせない時間が発生したのはとても寂しかった。

 だけどそれはあの馬鹿のせいであって、月宮さんのせいではない。

 更には再登校したあの初日に「私に構ってくれないなら、学校へ行きません」と、一方的な約束を押し付けたのも私の方で、それを律儀に守ってくれてる彼女に非など無いのだ。


 そして月宮さんは何を考えての行動なのか知らないけど、私を旅行に誘ってくれた挙句に、お金の工面までしてくれている。

 旅行のスケジュールやら予約やらリードやらも、その他諸々全部彼女任せだ。

 これで月宮さんが自戒してしまうなんて、おかしいことではないだろうか?


 私は少しだけ間を置き、息を吐いて、彼女が疑問としている事を無視して言葉を口にする。


「ほんと私って悪人ですよね」

「…………変人だとは思う」


 私は彼女が『そんなことないよ』ではなく、そのまま渋々と言った感じに本音で返してきたことに、少しだけ微笑んだ。


「月宮さん、私が今何を考えているか分かりますか?」


 私はあんぱんを袋から取り出しながらそう質問する。

 

「……旅行が台無しになったから帰りたい……とか?」

「どちらかというと、それは貴女自身が思っていそうなことですね」

「ち、違うっ!違うから!! 私は――」

「冗談ですよ」

「…………」


 そしてあんぱんを半分に分けて、彼女に差し出した。


「私は今、凄く楽しいですよ」

「…………」

「正直に言うと家から出るまでここ最近の事を引きずってたので、ちょっと旅行は嫌だなぁ、なんて考えたりもしてましたが……駅で貴女と会ってからの私は、ずっと絶好調です」

「…………そうなんだ」

 

 彼女はそう言いながらあんぱんを受け取り、それを口に運んだ。


「新幹線での発言は……すみませんでした。アレはあまりに私が無神経すぎます」

「……別に茜ちゃんの言うことは間違ってないし、気にしないでいいよ」

「いえ、アレは――あんなのは普通に縁を切られてもおかしくない発言です」


 私は傘を彼女に預け、パイプから立ち上がった。

 一歩踏み出せば、そこは容赦のない豪雨の世界だ。


「なので……」

 

 降り注ぐ雨を全身に浴びながら、私は彼女の目の前で、ドラマチックに片膝をついた。


「本当にすみませんでした」

「何をして……」

「こんな性格の悪い私ですが、どうか見捨てないでいて欲しいです」


 そのまま私は手を差し出した。


「私は貴女が隣にいてくれないと歩けないんです。凄く弱いんです」

「…………」

「――というかあの日、月宮さんから話しかけてきたんですから!その責任を取って下さい!!」

 

 重い謝罪に耐えかねて、私は無理やり茶化すような言葉を混ぜた。

 すると、あんぱんを食べ終えた月宮さんが、片手で傘を支えながら、もう片方の手で私の制服の襟を強引に掴み上げた。


「一体何をしてるの。周りの人が見てるし本当に恥ずかしからやめて」


 首元を締め上げる力。

 少し乱暴なその手の感触に、不思議な安堵を覚える。

 

 視界の端では、コンビニの客や通行人が奇妙なものを見る目でこちらを伺っていた。

 

「おぉふ。謝罪8割、遊び心2割のジョークじゃないですか。全力で謝罪すると逆に悪い方向に進むと考えたんですけど……失敗でしたか?」


 私が軽口を叩くと、彼女はさらにグイと襟を絞り込んできた。


「大失敗もいいとこでしょ」

「まぁでも、月宮さんは私の顔を伺っているより、それくらい横暴でいてくれた方が、月宮さんらしいですよ」

「…………」


 そう言うと彼女は、私の首元からパッと手を離してくれた。

 

「調子が戻ったのならホテルに戻るまでに散歩でもしませんか? 雨の中の京都を2人で散歩というのも、風情があって良いと思うんですよね」

「…………別にいいけど、茜ちゃんに暴力女って思われてたのはなんか複雑」

「えぇ? 私はそうやってスキンシップ取ってくれる事に喜んでるんですから、気にしないでいいと思いますけど」


 私は彼女から傘を受け取り、再び相合傘の距離へと戻った。


「…………ごめんだけど、やっぱり私はまだちゃんと納得できてない」

「はい」

「今も、茜ちゃんが気丈に振る舞ってくれてるだけかもって思ってる。新幹線での言葉も本音だっただろうし……その、私はあんまり茜ちゃんの言葉を信用できてないかも」

「……そうですね。アレはアレで紛れもなく本音です」


 私は彼女を隣に促し、二人で歩き出す。


「ですが、私が今を――旅行を凄く楽しんでるのも事実です」

「…………ん」

「信じられないというのなら、この散歩の間、一言も喋らずに私の顔だけを見ていて下さい」

「顔を……見る?」

「月宮さんはさっきまで、スケジュールや先をどうするかしか考えてなかったので、あまり私を見てくれていなかったと思いますよ」

「…………そんなことないと思うけど」

「ふふっ……なので今度は何も考えず、私をちゃんと見ていて下さいね。私は月宮さんと一緒にいるだけで元気いっぱいになれるんですから」


 雨に煙るアスファルトを、二人の足音が刻んでいく。

 私から話しかけることも、彼女から言葉を発することもなかった。


 ただ、手を繋ぎ、狭い傘の中で肩を寄せ合うだけ。

 それでも、胸の奥を焦がすようなもどかしさと、とろけるような充足感が同時に押し寄せてくる。


 ……叶うなら彼女の方もそうあって欲しい。

 月宮さんは私と違い、一緒にいるだけで心が満たされる――なんて事は無いだろうけど、それでも余計な荷を背負い込まず、隣にいて安らぎを覚えてくれればいいと願った。

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