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【百合】人とはこの世で最も醜悪な獣の総称である。  作者: 中毒のRemi
終章 決して届くことなき憧れの人

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第103話 化物を飼いならすのは大変です ☆

 山道を少し下ったところで捕まえたタクシーに揺られ、私たちは詩音さんのマンションへと帰還した。

 

 リビングのソファに二人で深く身を沈める。

 時刻は20時を回り、窓の外は濃密な夜の色に塗り潰されていた。


「あー、疲れたぁ」

「そうですね、今日は本当に疲れました」

「でも楽しかった!」

「まぁ……はい」


 私は肺に残っていた祭りの熱を吐き出すように立ち上がる。


「どうしたの?」

「お風呂を沸かしてきます。いい加減この浴衣も脱ぎたいですし」

「え〜、勿体ない。可愛いから今日はそのままでいてよ」

「嫌です。邪魔だしこのままだと汚しちゃいそうですから」


 一歩踏み出そうとした刹那、背後から詩音さんの温かい体温が押し付けられた。


「なんのつもりですか?」

「部屋……いこ?」

「……怖いんですけど、何もしませんよね?」

「神様に誓って何もしないよ。茜とはもう少しゆっくりお話したいな〜って思っただけ」


 そんなのは充分してるし、お風呂の後でもいい気がする。

 けど、詩音さんと一緒にいたい気持ちは確かなので、断る理由もあまりない。


 浴衣の窮屈さには目を瞑ろう。

 暑くなればその時に考えればいい。

 

「おねがい」


 詩音さんは子供のように、そうせかしてくる。


「……分かりました」


 促されるままに、私たちはいつもの配信部屋へと移動した。

 私が先にベッドの端へ腰を下ろすと、シーツが微かに衣擦れの音を立てる。

 

 直後。


「ド〜ンッ!」

「わっ……」


 間の抜けた掛け声と共に、迷いのない力が私の肩を突き、視界が大きく揺らぐ。

 背中にシーツの感触を覚えた時には、詩音さんはすでに私の真上に覆い被さっていた。


「あの……?」

「茜のその格好。今日会った時からずっと、すっごいエッチだな〜、って思ってたんだ」


 覗き込んでくる彼女の瞳は、冗談めかした口調とは裏腹にとてもギラついていた。

 獲物を追い詰めた肉食獣のような、鋭い光だ。


「ねぇ――襲っちゃっていい?」

「はぁ?!」


 彼女は私の両肩をシーツへと縫い止めるように、全体重を預けてくる。

 

「何もしない、なんて神様に誓ったのはどこの誰ですか!?」


 私は無意味な抵抗と知りつつ、覆いかぶさる彼女の肩を押し返そうと、もどかしい掴み合いを演じた。

 

「あんな顔とそのエッチな服装で『家に泊まりたい』って言われたら、普通にシたくなっちゃうじゃんっ!!それに茜だって本当は期待してたでしょっ!!」

「…………考えもしてませんでした」

「え〜〜〜、うそぉ?」


 詩音さんはつまらなそうに眉を寄せ、唇を尖らせた。

 

 でもそんな子供じみた不貞腐れも一瞬のこと。

 彼女はすぐに、どこか破滅的な色気を孕んだ笑みに戻る。


「けどっ! 茜はなんでも言うことを聞くんだから、そういうのも喜んで引き受けるべきだよね」

「その権利はさっきので失効済みですよ」

「細かいことは気にしないで! どうせ茜も途中でノリノリになるんだから」


 否定しようとして言葉が喉の奥でつかえた。

 

 極めて不本意ではあるが、前回のあの皮膚が溶け合うような夜を思い返せば、彼女の指摘を真っ向から拒絶しきれない自分がいる。

 

「仲直りの記念エッチ――しよ?」


 その甘ったるい誘惑に、私は結局抗う術を捨ててベッドへと身を投げた。

 無防備に横たわる私を見て、詩音さんは勝利を確信したような笑みを深める。


「抵抗をやめたってことは、OKってことでいいんだよね」

「……シャワー浴びてきていいですか?」

「ダメ。今の熱が冷めちゃう」


 有無を言わさぬ意思に、私は溜息を吐く他なかった。

 

 彼女もしっかり獣をしているようだ。

 だが、この性欲に抗えきれない私も、やっぱり獣である。

 

「いいですよ。しましょう」

「いぇいっ!」


 詩音さんは意気揚々と私に全体重を預けてきた。

 すべすべの肌が密着し、彼女の独占欲が耳元で熱を帯びようとした、その刹那。


「へ?」

「ただ、今回攻めに回るのは私です」


 私は体を変質させて、背中から出した2本の触手で詩音さんの四肢を捕らえ、そのまま宙へと無慈悲に吊り上げた。


「な、なんでぇぇぇええええっっ?!?!」

「夜中こそ私の領分ですよ。いつも人間状態で抵抗しないと思ったら大間違いです」


 混乱に目を見開く彼女を、私は逃げ場のないベッドへと叩きつける。

 

 更に触手の先端を瞬時に鋭利な刃へと変質させ、彼女の纏う服を、羽虫の羽をもぐような残酷な正確さで引き裂いていく。

 一瞬にして、彼女の服は無惨な端切れへと成り果て、その白い肢体が夜の闇に剥き出しとなった。

 

 私は震える彼女を見下ろし、この上なく晴れやかな――それでいて底の知れない笑顔で拳を固める。


「前回はよくも私の尊厳を破壊してくれましたね。認めたくないですけど、あの時は気持ち良すぎ死んじゃうかと思いましたよ」

「あっ、茜さん……ここは一旦落ち着いておかない?」


 詩音さんは引き攣った苦笑いを浮かべ、シーツを掴んで後退しようとする。

 

 その浅ましい足掻きを、私が許すはずもない。

 私は逃げ道を塞ぐように触手で彼女の足首を固定し、組み伏せた。


「なので今夜はその分を、きっちり利子付きでお返ししてあげます」

「ごめんっ!! 謝るから! 私が悪かったから許してっ! 私がサれる側っていうのは受け入れられないっていうか、なんか屈辱的だし……」

「それは奇遇ですね。あの日の私も同じ気持ちでしたよ」

「じゃあ――」


 彼女は可哀想な子犬のような瞳で、なりふり構わず私に媚びてくる。

 その無垢を装ったお願いは、今の状況ではあまりに滑稽で、同時に私の加虐心をこれ以上なく煽り立てた。

 

「残念ながら手を抜くつもりはありません。今回は化物としての力をふんだんに使って、詩音さんを犯し尽くしてやりますから、頑張って耐えてくださいねっ♪」


 私は逃れられない現実を、死刑宣告のように突きつけた。


「あかねぇぇぇぇぇえええええっっ!!!!!」


 その後、詩音さんはあらゆる抵抗を無力化され、私の指先に、舌に、そして触手の一つひとつに徹底的に翻弄されることとなった。

 

 やがて窓から朝日が差し込むその時まで。

 あの傲慢な詩音さんが、誇りも自尊心もかなぐり捨て、ただの一人の無力な少女として惨敗していく様を。

 私はそのすべてを、一滴も零さぬよう心ゆくまで楽しませてもらった。

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