12-91 ツァルとロイとの対峙
――宮田マリアさんの視点から――
皆がそれぞれ因縁のある相手と決着をつけた頃、わたしとチェルノちゃん、アトゥちゃんとメイリンさんはビルを登って薬品工場の様なエリアを探索していた。でもチーム明日花のメンバーがいないからちょっと寂しいの。
「ふに、なんかくちゃいのー」
薬品プラントはかなりの刺激臭がして息苦しかった。あんまり長くいると身体にも悪そうだし早く外に出て新鮮な空気を吸いたいなあ。
「ここがネクロムの生産工場か。もしここにある麻薬を全て売りさばいたら余裕で国家予算並みの金を稼げるだろうな」
「駄目だよチェル、それはちょっとシャレにならないから」
「冗談だ、それくらいわかってる。吾輩たちは誇り高き革命家だ。その一線を超えるつもりはない。後で黒鬼にこの場所の事を伝えて処理してもらおう。だがこれだけの量の麻薬が外に漏れ出たのならどうなる事やら」
「ええ、間違いなく被害は神渡だけじゃすまないでしょう。ネオユートピアは海にも面していますし……」
「つまりそうなる前にどうにかしてツァルさんとロイさんを止めればいいんだよね!」
「うむ、要するにそういう事だ!」
チェルノちゃんたちは難しい話をしていたけど最終的にそういう結論に至る。今回は悪い人をやっつければそれで終わるからやりやすくはあったの。
でもツァルさんとロイさんは悪い人なのかな。もちろん復讐は良くないけど、故郷を奪われる苦しみはわたしにも痛いほどよくわかる。どうにかして話し合いで解決出来ればいいんだけどなあ。
「この部屋は何の部屋だろう?」
工場エリアを進んでいるとわたしは広い部屋にやって来た。ドラム缶がたくさん置かれているからここは何かの保管場所なのだろう。
ドラム缶には警告文つきでドクロマークが描かれて、滅茶苦茶錆びているからなんかものすんごく嫌な気分になったけど。これ大丈夫だよね?
「あっ」
「うげ、来やがった」
「まじ? 何が荒木の一族秘蔵の精鋭部隊なのさ。ルミナリエスも役に立たないなあ」
保管庫にはツァルさんとロイさんが待ち構えていて、二人はかなりギョッとした様子で戦闘態勢に入った。
「ツァル、ロイ! 何してるのさ!」
でもわたしは二人と戦いたくなかった。話し合いで解決するためにもここは友達のアトゥちゃんに任せてみよう。
「しかもアトゥまでいるし。私戦いたくないんだけど。チェルノも恩人みたいなものだし……」
「仕方ないよ、これは戦争だから。恩を仇で返したとしてもね。まずはあの人民解放軍の女から殺してみる?」
「あー、はい。裏切ったので今はもうクビになりましたが。その節はすみません」
二人はまず憎くて仕方がないメイリンさんに狙いを定める。メイリンさんは国の命令で動いただけだからそんなに悪くはないと思うけど、そんな理屈は通用しないんだろうな。
「アトゥ、残念ながら今の私たちはあなたの友達のツァルとロイじゃなくてアラディア王国のスパイの雨呪と風呪なんだよ」
「チェルノもいろいろお世話になったし、今なら見逃してあげるからさ。駄目?」
「二人とも……」
「お前たちがケミカルハザードを起こさないという保証があれば構わんぞ」
「うーん、どうしよっかなー」
けどどうやら戦いたくないのは二人も同じらしい。チェルノちゃんたちはその会話に話し合いの余地があると判断しまずは説得しようとしたの。
「ツァルさん、ロイさん! わたしたちはあなたたちと戦いたくないの! わたしたちは何もしないからネクロムをばらまくのはやめて欲しいの!」
「ん? ああ、あんたもいたんだ。っていうか何甘い事言ってんの?」
わたしの事なんて眼中になかったツァルさんはその申し出にあからさまに不機嫌そうになる。やっぱり聞く耳を持ってくれないみたいだ……。
「そりゃね、ネクロムのケミカルハザードはリスクがあるよ。きっと関係ない人もたくさん巻き込んじゃうし、精神汚染された人はゾンビみたいになって人を襲うんだろうね。何事もなく国外逃亡出来ればそれが一番理想的な結末なんだろうね」
「でも私たちは正直この街がどうなろうとどうでもいい……ううん、ぶっ壊したいと思ってる。この街は赤月会の最大級の拠点の一つだからね。あいつらを笑顔でへこへことへりくだって受け入れている連中を見ると虫唾が走るんだよ」
「ふに……」
赤月会はいわゆる反社だけどこの街では名士のような扱いを受けていた。実際ビジネス目的とはいえ貧しい人に寄付とかもしているらしいしその一面だけ見ればその評価は正しいのだろう。自分たちの故郷を滅ぼした人間が称賛され、それがどれだけ悔しくて腹立たしい事だったのか――わたしには想像も出来なかった。
「ねえ、夢見がちなヒーローさん。赤月会が私たちの故郷に何をしたかもちろん知ってるよね。なのにあんたはあんな奴らのために戦うの?」
「あいつらは私たちの故郷を、家族を、友達を、人生を奪った。そしてその罪を償う事もせずに今ものうのうと生きている。あんたはそんなクズのために命をかけられるの?」
ツァルさんとロイさんはしょんぼりとするわたしに強い口調で問いかける。
正直に言えば月影さんはいい人だけど赤月会はそうじゃない。それに月影さんももし上から命令があればどんなひどい事だってするだろう。
もしケミカルハザードを抜きにすれば、きっとほとんどの人が赤月会を悪と定義してツァルさんとロイさんの味方になるはずだ。
わたしのしようとしている事は思いこみの正義で自分勝手な事かもしれない。ただ、それでも――。
「わたしは悲しい事は嫌なの! 故郷を奪われる悲しさはわたしもよく知ってるの! だからあなたたちにはそんな事は絶対にさせないの! だからごめん、全力で殴らせてッ!」
わたしは戦う決意をしてツァルさんとロイさんに立ち向かう。悲しみの連鎖を断ち切り、この街に住む人を護るために!
「あはは、暑苦しいね。クソみたいな理想論にゲボが出るよ」
「わかってないね、何にもわかってない。私たちは悲しさをよく知っているからこそそうしたいって思ったのにね」
「こいつ殺そうか、ロイッ!」
「そうだね、ツァルッ!」
結局話し合いは上手くいかず、ツァルさんとロイさんは機械の腕を振りかざして襲い掛かって来る。戦いたくないのは二人も同じみたいだったし行けると思ったんだけどなあ……。
だけどこうなったら仕方がない。こんな悲しい事は力尽くでやめさせるの。聞く耳を持たないなら嫌でも聞く耳を持たせてやるんだから!




