12-90 サクラギの思春期
「サクラギ、君はもしかして死ぬのが怖いのかい? 人間ならそれが普通だけどさ」
「そんなわけッ!」
僕は身を隠したサクラギを挑発して声で位置を確認する。こんな間抜けな事をするなんてやはり彼は僕の下位互換、あらゆる面で劣っているらしい。
「いいや、君は死を恐れている。何故なら生きる事に未練があるからだ。確かに君に生まれた意味は存在しなかった。その事に迷った事もあっただろう。けれど君はたくさんのものを手に入れてしまった。それはとても幸せな事なのにどうして自分から道を踏み外そうとするんだ。本当はあの暖かな場所に帰りたいんだろう? こんな事をやめて意地を張らずに帰りなよ。皆君の帰りを待ってるよ」
「う、うるさいうるさいうるさいッ!」
僕はサクラギの姿を捕らえ至近距離での撃ち合いになる。ただ向こうの戦闘能力は僕と比べるとそうでもないので一対一のバトルではこちらのほうが有利に立ち回れ、何よりも無限にリベンジが出来る以上僕が敗北する事は決してない。
サクラギを倒す事はさほど問題ない。問題は彼の心を救う事だ。僕の説得に耳を傾けるかどうかはわからないけどいろいろ試してみるか。
「覚悟もないなら一線を超えるんじゃないよ。失うものはない? そんなわけないだろ。君はこんなにも幸せ者じゃないか。ただ不貞腐れている中二なだけだ。這い上がれる可能性があるのに失敗を恐れて何も出来ないだけだ。差し伸べられた手をはねのけて、自分の殻に閉じこもって、自分の不幸を人のせいにするんじゃないよ」
「黙れぇッ!」
サクラギの想いは嫌というほどわかった。何故なら今言った言葉はかつての僕へ伝えたかった言葉だったからだ。
「ぐぁッ!」
蹴り上げで武器を奪い、大怪我をさせない様にシンプルにウエスタンラリアット。倒す事は簡単だったけど相手に気を使う必要があったからそこは面倒だったね。
「どうして手加減した……! 僕には殺す価値もないって言うのか!」
「そりゃ君はこの後ライブに出ないといけないから。大怪我をさせるわけにはいかないからね」
「お兄ちゃーん!」
「上手く行ったみたいだな」
サクラギを寝技で拘束していると紗幸とカネヒラもやってくる。二人も怪我は特にしていないみたいで良かったよ。
「あ、配信もしてるけど見るかい? お客さんもたくさんいるよ。今はマタンゴさんズが繋いでいるけど。紗幸、スマホ」
「え、うん」
僕は説得をするため紗幸にそうお願いし、彼女は戸惑いつつもスマホで会場の様子を見せた。が、そこには僕も予想していなかった光景が映し出されていたんだ。
「おじさん……!?」
配信映像では保護者チームがライブをしていたんだけど、イナデラのお父さんがとてつもないギターテクを披露し会場は大盛り上がりだった。その二重の意味でありえない光景にサクラギは言葉を失い、その画面に見入ってしまう。
「なんで……弾けなかったはずなのに……こんなにお客さんがいるなんて……」
「これが君の否定していた現実だよ。案外現実は簡単に変えられるんだ。本気で自分を信じて行動を起こせばね。君は自分と商店街の運命を変えられる千載一遇のチャンスを失う所だったんだ」
「っ」
彼の美しくもがく姿はサクラギのハートにしっかりと響いた。そして曲が終わりMCの真似事をしていたイナデラはカメラに手を振って笑顔で叫んだんだ。
『サクラギー! こっちはこんなに楽しいよ! だからとっとと帰ってこーい!』
「あ、ああ……」
自分には帰る場所がある。そして命を懸けてでも護らなければならないものがある。サクラギはようやくそんな当たり前の事に気が付き、力を失い嗚咽を漏らしてしまった。
「サクラギ。これでもまだ意地を張るのか。これがやり直せる最後のチャンスなんだ。もう何をすればいいのかわかるね?」
「あ、あ、あ、アッーーー!」
「ウホッ?」
「あはは、空気嫁ドアホ」
切ない空気に耐え兼ねボケてみるとほっこりした笑顔の紗幸からお叱りの言葉が飛んでくる。そりゃまあこんな心温まる光景を見たら些細なKYなんてどうでもよくなるよね。
この世に生を受けた赤子の様に泣きじゃくる彼は、自ら首にはめた全てのくびきから解き放たれ生まれ変わる事が出来たんだ。
さて、サクラギはこれで大丈夫だろう。他の皆は上手くやってるかな。後はツァルとロイの企みを阻止して脱出すればいいだけだ。
正直中二の反抗期に付き合わされただけな気もするけど、彼は僕自身のもう一つの可能性でもある。僕たちは兄弟みたいなものだし、気持ちよく岩巻に帰るためにもここはちゃんと責任を持って商店街に帰して新たな人生を歩ませないとね。




