12-89 神はおパンツを与えたもうた
――芳野幸信の視点から――
サクラギ戦の最中、イリスさんの横槍で戦場が崩落し僕は紗幸とカネヒラだけで行動する事になってしまう。
ついさっき皆の無事を確認したけど大丈夫かなあ。戦いも強制的に中断しする事もなくなったので、仕方なくその場を移動すると僕たちは少し奇妙な場所に迷い込んでしまった。
その区画には何に使うのか、どういう働きをしているのかわからない機械がたくさん置かれていた。剥き出しの配管は錆びつきところどころ欠損しているのでもう使う事は出来ないのだろう。
そのゾンビゲームの最終ステージで来訪しそうな研究施設には怪物もいない代わりに人もいない。たったそれだけの事なのに、それが僕は無性に恐ろしく感じてしまったんだ。
そして、同時に懐かしさも。
「もしかしてここは……」
ひょっとすると僕やサクラギはここで作り出されたのだろうか。割れて中に液体は残っていないけど人が入れそうなくらい大きな空の試験管もあるし。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ううん、何でも。遮蔽物があって隠れる場所も多いしガンナーからすれば戦いやすい地形だなって」
もちろん不安げな紗幸にそんな事は伝えず僕はそれっぽい事を言って誤魔化した。実際それは戦いにおいて有利な情報になるし彼女に伝えておいても間違いではないだろう。
「つまりヨシノからすればこの上なくうってつけのステージだが……敵にとってもそうだろうだろうな」
「だね。向こうは全員僕のキャラデザの使い回しだし」
カネヒラは敵の気配を察知して構え、物陰から飛び出したクローン兵に素早く接近しワンパンで撃破する。
当然敵は彼だけではない。気付けば室内はそこかしこに湧き出たクローン兵が所定の場所に待機し、無防備に固まっていた僕らを殺そうと一斉に発砲したのだ。
「そうだ、僕たちは所詮使い回しだ。だけどこの数ならどうだ!」
高所に陣取ったサクラギは性能のいいアサルトライフルを装備し僕に狙いを定めて引き金を引く。ただこちらからすれば相手の行動パターンはとっくに見抜いていたので遮蔽物も利用すればよけるのはさほど難しくなかった。
「うう、お兄ちゃんと同じ顔の人を倒すのはなんか嫌だなあ。あの人たちを攻撃する時はゴム弾でいい?」
「構わないよ。僕はそういうの気にしないけど紗幸は嫌だろうし」
それに紗幸のガトリングはサクラギが講じた全ての小細工を力技でぶっ壊す。圧倒的な火力を誇るガトリングは突貫工事で作ったバリケードを易々と破壊し、サクラギの作戦を物理的に破壊していった。
「クッ、怯むな、これくらいッ!」
サクラギと戦って分かった事がある。彼らは恐怖への耐性と身体能力が高く、銃を使えるけどそれだけだ。
少し劣勢になった所で狼狽えているし、後天的に身につく作戦の立案や判断力に関しては詰めが甘く素人もいいところだ。これじゃあ赤月会とかその辺のモブヤクザと大して変わらないな。
「駄目ね、全然駄目。うちのゆう君を倒すならもう少し命を張らないと。うちのゆう君はあなたみたいなチキンな戦い方はしないわよ。もちろん親としてはそもそもそんな危険な戦い方をしてほしくないんだけどね」
「ッ!?」
さらに聞き慣れた女性の声が聞こえた後爆発が起こり、サクラギが陣取っていた機械が破壊され彼はその場から逃げざるを得なくなってしまう。
「ありがとう、母さん」
「子供のピンチだもの、駆け付けるに決まってるじゃない」
どうやら助っ人に来た母さんがロケットランチャーをぶっ放してくれた様だ。サクラギよりもさらに高所に陣取った母さんは追加でバンバンロケランを発射し敵の陣形を乱していった。
「ふむ、私も手助けしましょう! ヒーローは遅れてやってくるものです!」
「ん?」
さらにさらに母さんのいるあたりからベテラン声優の様な渋い声が聞こえ、再度そっちを見てみると何故かハロウィンパイセンがいた。はて、特にあのオッサンとは絡みは無いけど何でここにいるのだろう。
「さあ、天の恵みですぞー!」
「ッ!」
「えッ!?」
ハロウィンパイセンはそう叫ぶと、淡い色の何かをはなさかじいさんが灰を撒いて花を咲かせる様にまき散らした。
よくよく見るとそれはパンツだった。おパンツだった。男なら老いも若きも誰もが目の色を変えて飛び掛かってしまう最上級のスウィートだった。しかもすべて幼女のものだった!
「パンツだ、おパンツだ!」
「しかも使用済みのおパンツだ!」
「神はおパンツを与えたもうた!」
「おい、お前ら何をしているんだ!」
クローン兵は戦う事を放棄しサルの様に飛び跳ねてはしゃぎながらおパンツに群がった。サクラギはいう事を聞かない仲間に激怒するも、当然彼らが聞く耳など持つはずなどなかった。
「さすが僕のクローン、おパンツには目がないらしい。きっと僕の変態はDNAに刻み込まれている本能みたいなものなんだね」
「かなり楽にはなったが……いいのかこれで?」
「うわあ、ないわー」
カネヒラは取りあえずバカ騒ぎをしているクローン兵を殴り飛ばすが、紗幸はドン引きして戦意を喪失してしまった。シリアスなシーンのはずなのにこれが何か大きく間違っているっていう事は理解しているよ。
「どいつもこいつもッ! チィッ!」
結局敵はサクラギだけになってしまい、後は入り組んだエリアで逃げ惑う彼を追い詰める詰将棋に変わってしまった。もうこちらの勝利はほぼ確実だけど、なんだか一方的過ぎて可哀想になってきたよ。




