12-92 VS 呪われし双子 雨呪&風呪
そして神渡の街を護るための決戦が始まる。
「ツァル! こいつらに私たちの力を見せてあげようよ!」
「いいね、ロイ! 姉妹の絆パワーをとくと味わいなさい!」
「ひゃわわっ!」
「ぐっ!」
ツァルさんとロイさんは戦いが始まってすぐに息の合った連係プレーで攻撃を仕掛けてわたしたちを翻弄する。その戦い方は機械の半身を使った肉弾戦オンリーだけど、結局こういう小細工なしの攻撃が一番大変なんだよね。
「せいッ!」
チェルノちゃんは闇雲にロケットランチャーを発射するけどその狙いは大きく外れてしまう。二人はパワーもすごいけどやっぱり一番厄介なのはこのスピードかなあ。
「むぐぐ、こんなに素早くては狙いが定められんぞ!」
「当たり前だよ! ミヤザワさんが私たちのためだけに特注で作ってくれた義体だからね!」
「人間の肉くらいなら余裕で引き裂けるけど~、試してみる?」
二人は機械の半身を自慢するかのように決めポーズをとる。むう、アピールする余裕があるなんて舐められてる。なんか悔しいのー。
「いやあ、旧友としては健康になって嬉しいけどね。こうして自由に動き回れるようになってさ」
ただアトゥちゃんはどこか嬉しそうにそう言った。ツァルさんとロイさんは身体が引っ付いて生まれたそうだけど、考えてみればそれがこんな風になったんだからすごい事だよね。
わたしもそういう病気の子はテレビで見た事があるけど大体は手術も出来ず大人になる前に死んでしまう。戦う事にならなければわたしも喜んでたんだけどなあ。
「そう思うよねー。ただぶっちゃけて言うと正直ちょっと落ち着かないんだよね、私たちは文字通り一心同体だったわけだし」
「こういう事言うと不謹慎かもしれないけどあれはあれで良かったよね。私たちは自由と引き換えに安らぎを失ったの。もしかしたらどちらかが突然いなくなるんじゃないか……別々の身体になった事でそんな不安にいつも苛まれるようになったんだよね」
「難儀なもんだね。悲しい事なのはわかるし友達だから理解してあげたいけど」
残念ながら普通の人には共感しがたいその悩みにアトゥちゃんは寂しそうな顔になる。わたしももう少し想像力が豊かならその痛みを理解出来たんだけど。
「いいよ。この苦しみは私たちだけのものだから」
「それにだからこそ私たちは満たされる。他の誰にも理解なんてしてほしくない」
だけどツァルさんとロイさんはその優しさを跳ねのけ拒絶する。悲しいけど救いを求めていない以上、他の誰かには決して二人を救う事は出来ないんだろうな。
もしそれが出来る人がいるなら――彼女たちが母親の様に慕っているミヤザワさんなんだろうな。私たちからすれば敵だけど二人にとっては命の恩人で唯一心を許している人みたいだし。
「それに……お話をしている間にこっそり蜘蛛の糸を仕込んでいるあんたには理解されたくもないね」
「ありゃ、バレた?」
「ふに? いつの間に」
お悩み相談が終わってツァルさんはちょっと怒った様にアトゥちゃんを咎める。わたしも全然気付かなかったけどよくよく見ると彼女はいつの間にか蜘蛛の糸を張っていた様だ。友達なのになんだかちょっと酷い気がするなあ。
「せめてもう少しバレないようにしなよ。じゃあバトル再開だね!」
そのせいで交渉は決裂し二人は再度戦場を駆け巡り、壁を飛び跳ねかく乱しながら切り裂き攻撃を連発した。これじゃあもう説得は出来ないだろう。
「うう、アトゥちゃんったら余計な事しないでよー!」
「ごめんごめん」
わたしは仕方なくアトゥちゃんとチェルノちゃんのそばに移動し攻撃をやり過ごす。二人の動きはとてもじゃないけど目で追えないから、こうして固まってタイミングよく反撃するしか対抗手段はないからね。
「あの壊れた柱には近づくな」
「え?」
けどチェルノちゃんはボソッと呟き、
「見るな。怪しまれる。お前は何も考えず適当に戦ってくれ」
「ふにっ」
わたしは思わずチラッと壊れた柱を見るとチェルノちゃんはそう注意した。わたしはその意味が分からなかったけど、きっとチェルノちゃんたちの事だから何か考えがあるんだろう。なら言われた通り暴れればいいよね。
でもそれはそれとしてメイリンさんが孤立しているのが気になるなあ。あれじゃあ狙われ放題なの。よし、助けに行こう!
「もーらいっ!」
「おおっと!」
案の定一番憎まれているメイリンさんは集中的に攻撃されてしまう。大きなガントレットで防いでいるけどこのままじゃまずい!
「たーっ!」
「当たらないよ!」
わたしは急いで飛び膝蹴りを繰り出し二人を追い払う。ロイさんはバック転で回避し命中こそしなかったけど護れたからこれで良しとしよう。
「あら!?」
ロイさんは回避の最中アトゥさんが仕掛けた糸に引っかかり転倒してしまう。もしこれを計算して仕掛けてたのならすごいね。
「そーら!」
「くッ!」
「ロイッ!」
足がもつれている隙にチェルノちゃんはロケットランチャーを発射し追撃を行う。動きが制限されていたからギリギリだったけどロイさんはどうにか回避出来たみたいだ。
「貴様はツァルを!」
「う、うん!」
「どけぇッ!」
わたしは助けに向かおうとしたツァルさんにタックルをして動きを封じる。一対一の純粋な力比べならわたしに軍配が上がるからそんなに難しくなかったよ。
「ツァル、逃げて!」
「ロイこそ! こいつら何か仕掛けてきそうだよ!」
二人の連携は崩れたけどツァルさんは何かに勘付き、蜘蛛の糸と悪戦苦闘しているロイさんにそう警告した。
もしかしてさっきチェルノちゃんが言っていた壊れた柱に何か仕掛けているのかな。って見ちゃいけないんだった、自然に自然に。
「ああもう鬱陶しいなあ!」
蜘蛛の糸を避けて移動していたロイさんは自然と壊れた柱の周辺に移動する。何を仕掛けているかわからないけど上手くいくといいな。
ドォンッ!
「ふに!?」
「ロイッ!?」
そして突然柱のほうから大きな爆発音をし、ツァルさんはわたしとの戦いを放棄してその音がした方向を――ロイさんの元に駆け寄る。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「ロイ! ロイィィイッ!」
きっとあの辺に仕掛けられた地雷の様なものを踏んだのだろう、ロイさんは瀕死のダメージを受けてしまった。
「ふ、ふに……」
その見るに堪えない姿と悲痛な叫び声にわたしは恐怖してしまう。なぜならこれは紛れもなく相手を殺すための攻撃だったからだ。
多分チェルノちゃんかメイリンさんがこっそり仕掛けたんだろうけど、こんな一線を超える事はするはずがないと思っていたのに。
「安心しろ、威力は調整してある。それにあいつがこのくらいで死ぬ事はない」
「う、うん」
不安がるわたしに気が付いたチェルノちゃんは少しだけ安心する事を伝えてくれた。チェルノちゃんはなんだかんだで優しいからどうやら一応最低限の配慮はしていたらしい。それにしては随分死にかけだけど。
「それで、まだ続けるのか。これ以上戦えば大切な存在を失う事になるぞ。吾輩たちは貴様らが何もせずに帰ってくれれば危害を加えるつもりはない。吾輩も同胞の友を殺したくない。ここはどうか大人しく身を引いてはくれないか」
その時のチェルノちゃんは普段のおバカなチェルノちゃんの顔ではなく、信念を持って戦う革命家のそれだった。かつてアトゥちゃんの故郷を救うために戦っていた時もこんな顔をしていたのかな。
「……………」
その問いかけにツァルさんは何も言わない。どうかお願い、これ以上は戦いたくない。こんな誰も幸せにならない戦いは早く終わりにしたい。わたしはツァルさんが諦めてくれる事を必死で祈っていたの。




