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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第十二章 失われた理想郷【第二部3】

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12-82 ネオユートピア・ハナコチームの探索

 迷路の様に入り組んだビル内部を移動し、時折遭遇するサイコ・ウィスプやグレルをやっつけながら私たちは他のメンバーを探す。


 でも参ったな、イリスさんっていう化け物も現れちゃったし最早任務どころじゃない。これじゃあサクラギさんを探せないよ。メインターゲットのツァルとロイもどこにいるのかわからないし。


「ところでここはどういう用途で作られた場所なんでしょう。なんかさっきから悪趣味な看板とかがありますけど」

「ネオユートピアにも娯楽はあります。負ければ死ぬ闇カジノやらドラッグ乱交パーティーだの人間の解体ショーやらどれもこれも退廃的なものばかりですがね。そういう事をするための施設なのではないでしょうか」

「うわあ……最悪ですね」


 私は黒鬼さんの解説に気分が悪くなってしまう。同じアンダーグランドに裏ひふみ横丁があるけどこちらはガチの奴らしい。そう考えると裏ひふみ横丁ってかなり健全だったんだね。


 黒鬼さんは適当にグレルを秒殺し恐れる事なくズンズンと進軍し、お店などは無視してしばらく道なりに進むと何やら一際立派なボス部屋の様な豪華な扉を発見した。


 鉄の鋲が打ち込まれたドアの上には何の動物かわからない角の生えた獣の頭部の骨が飾られている。開くのに特別な鍵が必要っぽかったけど、そんなゲームみたいな事はなく普通に押したら開く事が出来た。


 ドアの向こう側には花道の様な通路があり、その先には広い空間が広がって周囲には観客席が設けられていた。まあ見たら大体この部屋の用途はわかるね。


「闘技場ですか。ここならそれくらいあるでしょうね。潜入捜査で地下闘技場に潜り込んで戦ったのを思い出しましたよ」

「死ぬまで戦うのは前提としてトラとかと戦わせたりするのかねぇ。金がもらえるならそれでもいいけど」


 黒鬼さんとギバさんは楽しそうにバイオレンスな想い出を語る。ただ戦うのにはこの上なく適切な場所だけど見たところ人はいない。何もなさそうだしここは素通りして別の所に移動しようかな。


 バッ!


「ッ!?」


 しかしすっかり油断していると闘技場の電気が突然消えてしまう。慌てて警戒するとダイナミックな音楽が流れ、鮮やかな四つのスポットライトが動き回った後部屋の中央を照らした。


 続けざまにそこから白いスモークが噴き出てマントを身にまとった久我が姿を現し、彼は大鎌を振り回しさらにはそれを空中で回転させた。


 さらにくるくると回る大鎌は渦を描き闘技場中央の真上にある風船をぱんっ、と破壊、そこからバニーを意識した衣装に着替えたビッキーさんが降ってくる。


「「ハイッ!」」


 二人は互いに手を取り合い情熱的にダンスを踊った後、普段ステージでそうしている様に華麗なポーズを決める。正史で語られている通り相変わらず息ぴったりで思わず拍手を送りたくなってくるよ。


「レディースアンドジェントルメンッ! ようこそ、稀代の天才奇術師久我柊弥のステージへッ! 今宵の哀れな生贄となる子羊たちは彼らだッ!」

「うおっ」


 眩いスポットライトは私たちを照らし一瞬視界が奪われてしまう。もしこの隙に攻撃されたならやられてしまっていただろうけどさすがにそんな無粋な事はしない様だ。


「悪趣味な真似はやめてくれますかね。邪魔すんねやったら帰ってー」

「ほんなら帰るわ~、ってコラ! ちゃうちゃう!」


 黒鬼さんの振りに関西人であるビッキーさんは条件反射で反応してしまう。なんていうかせっかく手間暇とお金をかけて作った世界観ァンが台無しだよ。


「ところでいつも思うのだけどあのやり取りってどっちがボケでどっちがツッコミなのかしら」

「律子ちゃん、その議論は始めるとごっつう長ぅなるからやめとこか」

「で? 結局何の用ですか」


 そんな和気あいあいとした空気の中、ミヤタさんと離れ離れになったフィリアさんはかなりピリついている様に見えた。うう、このやり取りに混ざりたいけど下手にボケたら怒られちゃいそうだし自重しよう。


「もちろん邪魔をしに。黒鬼たちも薄々気付いているとは思うけどここにはネクロムのプラントがあって、ツァルとロイはそれを切り札にして身を潜めている。ただこれはいわば自衛のための核兵器みたいなものさ。俺たちの一番の目的は偽造電子マネーのアプリを白き帝の軍勢と赤月会を使って広く普及させて経済テロをする事で、この街を滅ぼすつもりはない。つまり君たちが二人を見逃してくれるのなら平和にこの騒動は終わるんだ。そういうわけだから安心してね、ハナコちゃん」

「そ、そうだったんですか。ちなみにシオン君は」

「もう日本を離れたよ。サブロウとカンパネラもね。今どこにいるのかは言えないけど」


 私は会話の過程でシオン君が化学兵器を用いたテロに関わっていないと知りホッとする。ただツァルとロイは最悪その切り札を使うつもりでいるらしいからやっぱり安心は出来ないけど。


「だから、ね? 駄目かな? うるうる、お願~い」

「気色悪い声を出すんじゃないです。ケツの穴に手ぇツッコんで奥歯ガタガタ言わせますよ」

「もう、黒鬼ったら~。どうでもいいけどそのお決まりのフレーズってなんかウホォっぽいよね。もしかしてその気はあるのかい?」

「テメェ舐めた口聞いてるとチ〇コ切り落とすぞコラ。情報提供には感謝しますがこちとら仕事でここに来ているんです。それにツァルとロイはおそらくケミカルハザードを起こして逃げるでしょう。赤月会を憎むあいつらがこの街を巻き添えにしない訳がありませんから。日本で最も赤月会とズブズブなこの汚れ切った街をね」

「っ」

「なんだ、わかってるじゃん」


 だけど二人の舌戦によってやっぱりすぐにその安らぎは壊される。あくまでも黒鬼さんの推測だけどやっぱりツァルとロイを倒さなければこの街は護れないみたいだ。どの道二人とは戦うつもりだったけど……。


「で? 結局あんたは邪魔するんですか。今の私はとても機嫌が悪いので返答次第ではガチで殺しますが」

「うーん。そうなるね。ごめんね、こっちも仕事だからさー、俺は黒鬼の事が大好きなんだけど殺さないと駄目なんだよねー!」


 結局久我さんとビッキーさんは笑いながら得物を構えて戦闘態勢に入る。七大派閥の英雄と戦えるのは個人的になかなか嬉しいけど喜んじゃいけないんだろうな。手を抜いたら普通に死ぬし。


「そういうわけやから律子ちゃん、それでええな?」

「ええ。お互い役割を果たしましょう。手加減はしないわ」


 同じ一族で姉妹とも呼べる様な関係のビッキーさんと律子さんもすぐに覚悟を決めた。家族同士で殺し合うだなんて残酷にも程があるけど、歴史の闇の中で生きてきた荒木の一族である二人はそういう事はとっく割り切っているんだろう。


「ほな行くで、久我ァ!」

「ははッ! 最高にブチアガるステージにしようじゃないか、黒鬼ィッ!」


 そして同じ故郷で生まれ、道を違えた二人はそれぞれの正義のためにぶつかり合う。その過酷な運命の先にある結末には望むものがあるとただひたすらに信じて。

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