12-79 まがい物の命と心
敵を怯ませ弾幕結界が薄くなったところでミヤタ、カネヒラなどなど後続部隊がぞろぞろとドアから現れた。僕だけじゃ厳しかったから正直大助かりだよ。
「ふにに、ヨシノくんっ!」
「これは一体……よくわからんが加勢するぞ!」
「認めない、僕はお前を認めないッ! とっとと僕の前からいなくなれぇッ!」
「あだっ」
サクラギは喚き散らしながら僕目がけて拳銃を乱射する。彼は僕以外見えていないらしく怒りのせいでやや精細さを欠いており、その予想が出来ない荒れ球のせいで弾丸は僕の頬をかすめてしまった。
僕らの目的はサクラギを連れ戻す事なので怪我をさせるわけにはいかない。彼には帰ってギターを弾いてもらわなければならないし、腕に攻撃とかはもってのほかだろう。
「黒鬼さん、出来ますか!」
「やってみますが……!」
黒鬼さんはダメもとでサイコジャックを発動するけどもちろんサクラギには効果はなかった。ボスエネミーだからバステは効かないとかそういうんじゃないよね。
「何をしているんだい? 僕たちは生まれたその時から人を機械的に殺すのに最適な心を植え付けられているんだ! だから催眠なんてかかるわけないんだよ!」
「なるほどね、こういう事だったのか。こんな伏線回収したくなかったけど」
僕は自分が催眠にかからなかった理由を知ってほんのりショックを受けてしまう。どうやら僕が今まで催眠を無効化出来たのは既に催眠にかかっていた状態だったかららしい。
つまり僕の心は作られたまがい物ってわけだ。僕には最初から心なんて存在しなかったんだ。
いや、今は感傷に浸っている暇はない。どうにかしてこの状況を打開して突破口を開かないと。
「黒鬼蒐兵ッ! 言っておくがお前も復讐の対象だッ! お前も生きて返さないからなッ!」
「はて、私あなたに何かしましたっけ? 恨まれてナンボな生き方をしてきたので心当たりはありすぎますが」
「僕の遺伝子には君の母親である彩子の遺伝子も組み込まれている。つまり僕とお前は腹違いの兄弟というわけだ。僕は試験管から生まれたけどね!」
「あら」
またサクラギは黒鬼さんとの会話の最中なかなか衝撃的な事を言った。彼と黒鬼さんが兄弟だという事は僕も黒鬼さんと兄弟だというわけである。初めて会った時からなんか馬が合いそうだなあ、と思ったけどそういう事だったのか。
「はあ。先ほどの理屈で言えばまさかあなたは私の事を羨ましいと思っているんですかね?」
「ヨシノほどじゃないけどね。お前は這い上がる事が出来て僕は出来なかった。同じ化け物から生まれた存在だっていうのに!」
「そうですかー。隣の芝生は青く見えるって言いますけどねえ。ふむふむほうほう……ナマ言ってんじゃねぇぞクソガキが。んな舐めた事は本当の絶望を知ってから言えやボケ」
震災で地獄を経験した黒鬼さんからすればサクラギのゆとりモンスターの様な発言は看過出来なかったのだろう、静かに激高してしまう。
確かに僕も同じ顔をしているから肩を持ちたいけどさすがにこれはねぇ。甘ちゃんだよねぇ。正直周りに友達もいるし、逃げたのは彼自身の問題だし、そんなに不幸だとは思えないのに、せっかく手に入れた大切なモノを自分で壊そうとするなんて。
クローン兵の総数は先ほどのアロウレス部隊よりも少なく、数十名程度だけど個々の強さは一枚も二枚も上手だ。
幸いにして彼らの戦闘能力は初期の僕と同じ程度でサードマンモードや残機無制限というスキルはない。というかあったらその時点で無理ゲー確定だけども。
ただやはり流石は僕のクローン、最大の武器はその尋常ならざる回避力だ。銃を撃っても撃ってもあっさり回避されてしまい大体の攻撃はかすりヒットになってしまう。
しかもそれだけじゃなく横っ飛びで回避しながら銃撃とかゲームみたいな事もしやがるからなあ。流石は僕のクローン、手強くてなんだか嬉しくなってくるよ。
「ねえサクラギくん、桜の樹の近くでわたしとお話ししたのはサクラギくんだよね!?」
「だとしたら何だっていうんだ!」
ミヤタはどうにかクローン兵をアッパーカットで撃破し、素顔のサクラギと以前出会った時の事を尋ねる。
「あの時サクラギくんはすごく悲しそうだったの! わたしには難しい事はわかんないけどみんな帰るのを待ってるの! こんな所にいないで一緒にバンドしようよ!」
「うるさいッ! そんな事をして意味なんてないッ! 蓑呂木商店街はもう何をしても無駄なんだッ! どうせ叶わない夢なんて見て何の意味があるんだッ!」
どうせ叶わない――その言葉にカチンときたハナコはたまらず舌戦に加勢する。
「どうせ無理だからって諦めたらッ! そんなに簡単に諦めたらもっと頑張っていたらって一生後悔しながら生きていく事になりますッ! 夢は諦めなかった人だけが叶えられるんですよッ! 破滅を選ぶ度胸と勇気があるなら這い上がる事だって出来ますッ! どうせ失うものがないのなら破滅する未来じゃなくて光り輝く未来に賭けてみましょうよッ!」
「綺麗事を……ッ!」
ハナコの真っすぐな正論にサクラギは何も言い返せなくなってしまった。
いわゆる大事件を起こす無敵の人は大体人生を悲観してそうした事件を起こす。しかし一般的に犯罪史上に残る犯罪を行うというのはなかなか覚悟が必要な事だ。そのエネルギーを這い上がる事に使えば上手くいくかもしれないのに。
小卒の人間が独学で大企業の社長になり。三十代で生活保護を受けていた人間が世界的なベストセラー作家になり。戦争で村を焼かれた奴隷の少年がオリンピック選手になり。世界はこんなにも希望に満ち溢れているというのに、普通の人間はそれでもなお諦める事を選んでしまうんだろうなあ。
「というか同じ商店街に宇宙に行ったジジイがいたんじゃね。お前そんな成功例があるのによくそんなネガティブ思考になれるな」
「ごもっともで」
そんな論争の最中ギバさんは思わず笑ってしまいそうな情報を引っ張り出す。シリアスなシーンなのにこの強烈なパワーワードのせいでなんだか締まらなくなってしまうなあ。
「イリスッ! こいつらを黙らせろッ! この失われた理想郷と一緒にぶっ潰せッ!」
「へ!?」
怒り狂ったサクラギはさらなる増援を呼び寄せる。その人物はなんと少し前に出会ったイリスさんだったのだ。
「……………」
「ど、どうして! なんでイリスさんがここにいるの!?」
イリスさんの澄んだ眼には光が宿っていない事から彼女もまた催眠にかけられているのだろう。多分だけどアラディア王国の催眠アプリでも使っているのかな。
「ひゃああッ!?」
直後、イリスさんからとてつもないオーラが放たれ僕たちは立つ事もままならなくなってしまう。そして理解する、こいつは今まで戦った敵の中でも本当の本当に次元が違う存在だと。
イリスさんは天に昇り虹色に光り輝く虹龍へと変化した。その姿はあまりにも神々しく、そしてあまりにも美しかった。これが神話の世界の話ならば僕たちはきっとなすすべもなく一瞬で消し飛んでしまう取るに足らない端役なのだろう。
ウオオオオンッ!
「のわー!?」
「ぴゃー!」
空を悠々と飛行するイリスさんは口から破壊光線をぶっ放しビルを木っ端みじんに破壊していく。当然そんな規格外の攻撃を防ぐ事なんて出来るはずもなく、僕らは一切の抵抗も出来ずに蹂躙されていった。
足元のビルも攻撃が直撃し崩れ落ちてしまう。だけど皆を助けている余裕なんてない。この神話クラスの化け物の前で僕に出来る事は必死で自分の身を護る事だけだったんだ。




