12-78 偽ペイルライダーの犯行動機
序盤の猛攻をどうにかしのぎ僕らは違法に増築されたビルエリアを移動していた。動線を考えていないビル内部は立体迷路のように複雑であり、なかなか攻略に難儀してしまう。
「ウウウゥウ」
更には時々サイコ・ウィスプやグレルと言った雑魚も死角から襲い掛かってくるのでひと時も油断は出来ない。適当に通常攻撃だけで倒せる相手とはいえこんな戦いにくい場所で交戦するのはやだなあ。
「サイコ・ウィスプにグレル……この敵は元々ここにいた奴っぽいわね」
「ああ。大方ネクロム漬けの奴がこうなったんだろうな。ここはタダでいくらでも手に入るし」
「そっか、この人たち人間だったんだ」
律子さんとギバさんの口から知りたくなかった事実を教えてもらい紗幸はほんのり落ち込んでしまう。見た目が化け物になっているとはいえやっぱり元人間を殺すのはなんか嫌なんだろうな。
「ん」
しばらく進むとドーラは野生の勘で何かに気が付き警戒モードになる。
「おや、ドーラにもわかったのか。この先に敵が大勢いるから気を付けて。念のため僕が先に行く」
「おう」
「気を付けてね、ヨシノくん」
敵が待ち構えている、その目的は大体不意打ちからの総攻撃で反撃させる間もなく一気に全滅させるというものが多い。だけど何度でも死ねる僕なら初見殺しも余裕だからまずは敵さんの出方を伺ってみよう。
錆びた鉄のドアを押し開けると屋外に出る。城で言えば外郭エリアに相当するその場所にはもちろん転落防止用の柵なんてなく、落下したら間違いなく即死してしまうなかなかヒヤヒヤするエリアだった。もちろんそれは敵にも言えるし戦いの際はそれを狙ってもいいかもね。
「やっほー、ここにいたんだ」
「……………」
目の前の少し離れた場所には紙袋を被った少年――サクラギがいて、彼は僕から盗んだ拳銃を持っていた。また彼の姿を確認するとすぐ、周囲のビルの屋上や窓からサブマシンガンで武装していた無数の黒いフルフェイスのヘルメットを被ったペイルライダーもどきが、ドアから出た僕に銃口を向けていた事を確認する。
サクラギは気さくに挨拶をする僕を無視する。普通ならここでハチの巣になる所だけど敵は攻撃する素振りは見せない。その気になればいつでも殺せるのにそうしないっていう事はきっとお話ししたい事があるんだろうな。
「もうすぐライブ始まっちゃうよ。折角頑張ってたのになんでブッチするのさ。蓑呂木商店街は君の居場所だったのに」
ライブ、そして蓑呂木商店街の単語を発した時にサクラギはわずかに動揺した様に見えた。僕とは違いこちらは感情が表に出やすいタイプの様だ。
「君は本気であの場所を何とか出来ると思っているのかな。蓑呂木商店街は僕の居場所だった。だけど大人になる頃にはきっと無くなっているだろうね」
「否定したいけど確かに否定しづらいねぇ」
サクラギは寂しそうにそう告げ、紙袋を取りようやく素顔をあらわにした。
「え……」
「っ」
僕の後ろに隠れたメンツはその真実に絶句する。だけど僕は特に驚きはしなかった。
「で? 君はどのくらい僕たちの事を知っているんだ」
「偽ペイルライダーとかそういうんじゃないよね。うーん、何となく普通の人間じゃないって事は薄々。やっぱり君のイケメンな顔も関係しているんだよね」
サクラギの素顔――それは僕とまったくの瓜二つだった。正確にはミヤタと出会う前くらい、まだ人間じゃなかった頃の僕の顔に。こんな事だろうと予想はしていたけどね。
「僕たちは戦うために作られた存在なんだ。戦うために最適な遺伝子を組み込み、戦うために最適な感情を植え付けられた。試験管の中で生まれたから産みの親なんてもちろん存在しない。どこかの国によって極秘に研究されてアラディア王国がそれを引き継いだっていうのは知っている。僕もそれ以上の事は知らない。ただ一つだけ言える事は僕たちは何者でもないって事だ」
「……………」
「すぐに優しい人と巡り合えて家族に迎えられた君にはわからないだろうね、この苦しみは。自分が何者であるのかわからない、何のために生まれたのかわからない、何のために生きているのかわからないこの絶望が!」
サクラギは声を荒げて僕たちについての真実を語る。ただ、それはまったくもって間違っていると叫びたかった。
僕も人並みに悩んでいた時期があった。人間でない事に悩み葛藤していた時期が。そしてその苦しみは今も続いている。だけどここで反論しても無意味だし今は黙っておこう。
「君は僕と同じだ。だというのに君は全てを持っていた。僕は大切な場所を護れなかった。だけど君は大切な場所を護る事が出来た! 顔を隠して陰日向で生きる事もなく堂々と生きている! 一体何が僕と違うっていうんだッ!」
「そうか。だから君は……」
「ああ。ツァルたちやアラディア王国の考えている事なんてどうでもいい。僕はただ君に復讐と嫌がらせがしたかっただけなんだ」
それはあまりにも幼稚な真相だった。犯行動機はただの嫉妬というとても人間らしい感情だったんだ。
けれど僕には彼の気持ちが痛いほど理解出来てしまった。何故なら彼は僕自身であり、僕のもう一つの可能性だったから。
「だとしても」
ただそれはそれとして僕はひどく憤慨していた。ああ、きっとペイルライダー事件の時のミヤタもこんな感じだったんだろうなあと思いながら。
「君は復讐のために全てを失う事を選ぶというのか。今の君には失うものがある。それはとても恵まれている事だっていうのに。大切なモノを護るために戦わずに逃げるっていうのか!」
「っ」
「ああ本当に君の気持ちがわかるよ、だって君と僕は同じだからね。君は本音ではどうせ頑張っても蓑呂木商店街を護る事は無理だろうと諦めている。だから僕への復讐を言い訳に使って自分から破滅を選んだんだッ! 皆の想いを否定してねッ! 君は最低なクズ野郎さッ!」
「ぐッ! 黙れェッ!」
全てを見通していた僕は彼の心の奥底に隠した真意を暴く。図星を突かれたサクラギは激しく動揺し、頭に血が上って銃声で返事をする事を選択した。
「望む未来をこの手にッ! 僕は世界を再構築するッ! さあ、観測するんだ! 僕が魂から願い求めた世界をッ!」
バババババッ!
彼が攻撃すると同時に取り囲んでいた兵隊も一斉に銃を発砲して僕を肉塊にしようとする。流石に厳しいからサードマンモードを発動して、っと。
銃の撃ち方の癖で分かる。ヘルメットで顔を隠しているけどあいつらもきっと僕のクローンだ。流石は僕、正確無比で無駄がないなかなかの射撃スキルを持っているよ。
ま、だからこそどう立ち回ればいいのかわかるんだけどね。僕はひたすら動き回って銃を発砲、クローン部隊をちまちまと攻撃していく。




