12-77 ルミナリエスのヴィクスとの邂逅
うん、敵も疲弊してきているしいい感じいい感じ。これは小手調べみたいなバトルだからこのままさっくり突破出来ればいいけど。
「ぐむむ~こうなればこちらも奥の手であります! ヴィクスさん、よろしくお願いするであります!」
「(こくり)」
「新手か!?」
だがもちろんファリンは秘密兵器っぽい兵隊を投入した。そのまだあどけなさが残る少女の兵士は口元にガスマスクをつけ、何やらタンクの様なものを背負っていたからおそらく何かしらの化学兵器の使い手である事は容易に想像出来た。
「たた、隊長!? ここで彼女を使うのは駄目です!」
「根性さえあればなんとかなる! 日本にはこういう素晴らしい格言があるのであります! 気合で何とかするであります!」
けれど僕ら以上にどちらかというと敵さんのほうがわちゃわちゃと混乱していた。そりゃまあ、化学系の兵器は敵味方問わず平等に猛威を振るうから大前提として巻き添えにならない状況で使うのが必須だからね。
「無茶ですって! ああもう皆マスクをつけろッ! 早くッ!」
「皆、気を付けて!」
良からぬものを察知しレイカを含め前線に出ていたメンバーは急いで後退する。それとほぼ同時にヴィクスという少女の周囲に緑色のガスが漂い、ガスマスクの装着が間に合わなかった兵隊は苦しそうに倒れてしまった。
「おばばばばっ!」
一応痙攣しているから死んではない……よね? 味方の損害も考えずに攻撃するなんてひどい奴らだ。単純にファリンが考えなしなポンコツっていう可能性もあるけど。
「……………」
ヴィクスは自分のせいで味方が死にかけているというのに表情一つ変えず両腕の袖から大量の緑色のガスを噴射し続ける。あれを吸ったら当然連中みたいになるから気を付けないといけないだろう。
「けほ、けほっ、くちゃいのー」
「なんやこれ!?」
嗅覚に秀でたゾンビチームはその悪臭にたまらず後退する。少し嗅いだくらいじゃ死ぬ事はないようだけどダメージはあるらしい。
「化学兵器ですか……厄介ですね」
けど、バステに比較的耐性があるゾンビとは違いただの人間に過ぎないフィリアさんには避ける以外に取れる手段はなかった。
形のない気体による攻撃は堅牢な盾をもってしても防ぐ事など到底不可能であり、接近戦しか攻撃手段を持たないメンバーはそれだけで詰んでしまう。
ただ幸いにしてヴィクス自体はアロウレスの一般兵、というかそれよりもむしろ低い程度の身体能力だ。接近して毒ガスを噴射するくらいしか攻撃手段はなさそうだし距離を取りながら攻撃すればさほど問題ないだろう。
「黒鬼さん、アレ使ってみます?」
「アレですね、わかりました」
このまま正攻法で戦ってもいいけどこちらには黒鬼さんのサイコジャックがある。敵が一体だけなら催眠もかけやすそうだし上手い具合に利用してみるのもいいかもしれない。
黒鬼さんの眼は僕にそうした時の様に赤く光り輝く――もヴィクスに変化はなかった。
「おや、失敗しましたねぇ」
「え、またですか?」
だけど黒鬼さんはまたしてもサイコジャックに失敗してしまう。異能の披露にちょっぴりワクワクしていたひかげは肩透かしを食らいあからさまにがっかりしてしまった。
「こうなる場合の原因はいろいろありますが……どうやらもう別の誰かがかけた催眠にかかっているようですね」
「そんな事言っちゃって、もしかして肝心な時に役に立たない不遇スキルだったりするんですかね? ちゃんと成功しているところを見せてくださいよー」
「チッ」
ひかげの煽りに言い訳をした黒鬼さんは舌打ちをしてしまう。こいつって時々こういう厚かましいところがあるよね。
「はいはい、じゃああいつにしますか。っていうか最初からこうすればよかったです」
「さっきから何を……うぴゃー!?」
「隊長!?」
黒鬼さんは仕方なくもっとも効果的な結果をもたらすであろうファリンに催眠をかける事にし無事に成功する。ただこのポンコツな指揮官がいなくなったらむしろ敵を利する事になりそうな気もするけど。
「そいじゃあ適当にお仲間をボコってくださいな、ファリンさん」
「了解であります! ほわたー!」
「ぬあああ!?」
ファリンはビシッと敬礼をして早速指示通り同士討ちを始めた。敵も流石に上官を殺すわけにもいかず敵陣は目論見通り一気に混乱してしまう。
「グルルルル!」
「おおっと」
しかし長々と戦っていたせいでさらに増援が来てしまった。相手はグレルだけどこれはチップを埋め込んだ奴かな。倒す事は余裕だけどさすがにちょっと疲れてくるよ。
「なんやまたこいつらかい。こらキリがあらへんな」
「うん、猫の手も」
「それはもうええから。寒いわ」
僕はしつこくギャグを言おうとしたけど即座にドーラに止められる。うーん、ここにはお笑いにうるさい関西人もいるし今回はやめておこうか。
「ここは戦力を分散するのが上策かと。密集していれば全滅します。一部は残り一部は先に進むというのはどうですか」
「そうですねえ」
何より最大の脅威であるヴィクスは倒せていない。美夜子の言う通りあまり長い事ここで足止めを食らっているわけにはいかないだろう。倒すのに時間がかかるのならそれも一つの手であろう。
「あうー!」
「もちっ!」
「ふふ、サラともちは残りたいみたい。あたしもそれでもいいわよ」
「うーん……じゃあ私も。皆もそれでいい?」
「うぱー」
「大将首は黒鬼さんに譲りましょう。相手が人間なら赤月会でもなんとかなります」
そんなわけで言い出しっぺの美夜子、そしてレイカとサラ(とついでにあんこ)、ひかげとそのお友達、月影さんが志願しこの場に残ってくれる。いい感じに強いメンツが揃っているしこれだけいれば十分かな。
「わかりました。では行きますよ!」
「さーいえっさー。どこまでもついて行きますよ、黒鬼の兄貴ィ」
「うん、皆も頑張ってね! すぐに悪い奴をやっつけてくるから!」
僕らが判断を下す前に黒鬼さんがそれを決断する。この決断力の速さはやっぱり流石だね。
とにかく今は時間との勝負だ。ネクロムによるケミカルハザードも大変だけど、個人的にはそれ以上にバンドをすっぽかしたサクラギに一言言ってやりたいからなあ。
……ううん、一言じゃきっと足りないだろうな、彼への文句は。正直僕に濡れ衣を着せたのはいいんだけどそれ以外のアレとかコレとかがね。
サードマンモードを使わなくても彼の存在を感じる事が出来る。きっと彼はすぐそこにいるはずだ。




