12-74 赤月会とマトリとの共闘
サクラギを連れ戻すため僕らは再びネオユートピアの手前にある橋へと移動した。やはり前回と同じく封鎖されたままだったけど、今回は随分と物々しい感じになっていた。
「何であなたがここにいるんですかねぇ、月影さん」
「それはこちらのセリフですよ、黒鬼さん。ここは表の人間が来る場所ではありません」
「ご忠告痛み入ります。ですが生憎こちらは限りなく黒に近いグレーな人種でしてねぇ……あん?」
橋の手前ではどういうわけか黒鬼さん率いるマトリチームと、月影さん率いる赤月会日本支部の面々が勢ぞろいして睨み合っていた。黒鬼さんたちはヤクザよりもヤクザらしい見た目をしているし事情を知らない人が見れば反社同士が一触即発のヤヴァイ状態だと勘違いしてしまうだろうな。
通報してもいいけどまずは話を聞こう。ハナコはビクビクしながら彼らに尋ねた。
「ど、どうしたんですか黒鬼さん。それに月影さんも。なんか局地的に治安が悪くなってますけど」
「捜査情報はトップシークレットなのですが……まあいいでしょう。我々は捜査の結果ネオユートピアに放置された麻薬プラントを犯罪者連中が再稼働したという情報を手に入れてこれから総出で乗り込むところだったんですよ。そこをこのクソアマが邪魔しやがりましてねぇ」
「我々も内通者があちらに潜伏していると聞き訪れた次第です。当然荒事もあり素人は邪魔になるので立ち去ってくれますか?」
「ふにー、仲良くしようよー。同じ街に住んでるんだから」
「「絶対無理ですね」」
ミヤタはしょんぼりしながらそう促すも二人は仲良くする事を断固拒否した。もちろんマトリとマフィアが仲良くしたらそっちのほうが問題だけども。
「今回のターゲットはあなた方ではないとはいえ赤月会も麻薬の密売には手を染めていますからねぇ。今はもうネクロムには手を出していないとはいえ私からすればさしたる違いはありません」
「麻薬は求める人間がいて初めて成り立つ商売です。私たちはどうしても欲しがる人間のためにリスクを冒してまで売っているにすぎません。それにその収益は巡り巡って生産した貧しい国の人間が生きるために必要なお金になります。我々赤月会が篤志家の側面もある事はあなたもご存じでしょう。もちろんビジネス目的の善行ですが……結局は事の良し悪しの区別もつかず自ら破滅の道を選ぶ日本人が愚かなだけです。とやかく言われる筋合いはありませんね」
「グラ〇ドセフトみたいな倫理観ねえ」
「あ、レイカもやった事あるんだ」
「ひかげも? ああいう生き方って憧れるわよねー」
「憧れるものなんですかね……?」
レイカとひかげのやり取りに紗幸は呆れていたけど、チェルノはいいやと首を振った。
「世間一般的には黒鬼の正義のほうが正しいだろう。だが海外とかでは麻薬王は自分たちを搾取する大嫌いなアメリカに麻薬を売りつけ、貧しい自分たちに利益を還元し生活を良くしてくれる英雄として扱われている事もあるのだ。一定数は月影の主張に賛同する人もいるかもしれんな。世界はそんなに簡単ではないのだ」
「ほへー、でもちょっとだけわかる気がするかな」
紗幸はチェルノから世界で起こっている出来事を教えてもらい少しだけ賢くなる。中南米の革命家や独裁者は大体麻薬ビジネスに手を出しているからね。向こうからすれば欧米は昔自分たちに好き放題やったから復讐の意味合いもあるのかもしれないなあ。
「ったく。喧嘩がしたいんやったら好きにせぇ。儂らは先に行くで」
ただ両者が火花を散らしていても僕たちには関係ない。ドーラは彼らを無視してネオユートピアに向かおうとした。
「はて、あなた方はなぜあのような場所に。いかに危険な場所なのかは理解しているかとは思いますが」
「サクラギがあそこにいるそうで。っていうか月影さんは……知ってます?」
偽ペイルライダー、と思われるサクラギが赤月会にとっては都合のいいコマであり生かす価値のある人間だとは知っていたけど僕は念のため彼女に確認した。これで殺すつもりだったなら目も当てられないけどね。
「もちろん把握しています。もう利用価値はなくなり生かす価値も殺す価値もなくなったので無視するつもりですが、向こうのほうから襲い掛かれば敵として処理するでしょうね」
「なんか扱いがひどくないですかね? せめてもうちょっと、こうね」
サクラギがどのような動機で事件を起こしたのかはわからない。しかし月影さんからすれば一切眼中になかったらしく、ひかげはその不遇な扱いに思わず同情してしまったらしい。
「やはり偽ペイルライダーはサクラギさんだと月影さんも考えているんですね」
「ええ、彼が内通者と結託し事件を起こしたという証拠もあります。今は用意していないのでお見せ出来ませんが」
「そしてアラディア王国の秘密の拠点があるネオユートピアに身を潜めた、というわけですね」
「やっぱりここにアラディア王国の……」
伏線はあったけど僕らは改めておおよその全容を把握する。きっとあちらにはツァルとロイ、サクラギ、それに久我率いるアロウレスが勢ぞろいしているに違いない。
「あれ? でもさっき麻薬プラントって黒鬼さん言ってましたよね。それってアラディア王国が密売してたって事ですか?」
「あっ」
ただハナコとひかげは即座にその事実に気が付き狼狽える。もしかしたら彼女にとって家族同然のシオンが外道な犯罪に加担してしたのではないか――そう思ったのだろう。
「その辺がややこしいんですが麻薬の密売に関与していたのはツァルとロイだけですね。もうある程度把握している前提で話しますが彼女たちは白き帝の軍勢の幹部でもあり、連中には赤月会へスパイ行為をしているという体で上手い具合に立ち回っていたそうです」
「つまり麻薬の密売は白き帝の軍勢が」
「そうなりますね。まあもしかしたら今回は別の使い方をするかもしれませんが」
「別の使い方、ってああ!?」
「ふに、どうしたのハナコちゃん?」
黒鬼さんの説明にハナコは一瞬安堵するもすぐにある事実に思い至り絶叫する。ああ、そういや前にもネクロムの工場でバトルした事があるけどあの時は。
「ネクロムによるケミカルハザード……!」
「ええ、死なば諸共道連れでそうする可能性は十二分にあります」
「ふにに、それは大変なの!」
黒鬼さんが重々しくそう言ってその場にいる全員がようやく事の重大さを認識した。もしそうなった場合どのくらいの被害になるかはわからないけど、今なおネオユートピアが人の住めない環境にある事を考えると甚大な被害がもたらされるのは間違いないだろう。
「そんな、シオン君たちは……」
「う、ううん。知らないと思うよきっと。それか違うか」
親しい人間がそんなおぞましいテロに関与しているのではないかと勘繰りハナコとひかげはひどく不安がってしまう。僕も彼がそんな事をする奴には思えないけど、あいつは目的のためなら手段を選ばない所があるから否定しきれないなあ。
「そういうわけだ。今回はガチでヤバい。ここから先は大人の仕事だから子供は帰ってクソして寝てろ」
ギバさんは乱暴な口調で優しくそう諭してくれる。そういう彼女たちも二人くらい子供が混ざっているとかそういうツッコミはなしでね。
「そんなこと聞いたら絶対に帰らないの! 皆、いいよね!」
「お嬢様がそれをお望みならば」
「うんっ」
もちろん僕たちに神渡の危機を前に逃げるという選択肢はなかった。ちなみにひかげはやっぱり嫌そうな顔をしていたけどもう諦めたらしい。
「どうしますか、黒鬼さん。少人数で白き帝の軍勢と対等に渡り合った彼女たちは間違いなく戦力になるとは思いますが」
「……やれやれ、仕方ありませんね。目的のためならグレーな手段をいとわないのがマトリです。この街を護るために皆様の力を借りてもいいですかね。あんたもです」
「ええ。赤月会もこの街には恩義がありますからね。中国マフィアだって義侠心の概念はあるんですよ」
「うんっ! もちろんなの!」
黒鬼さんは苦笑しながら渋々同行を許可してくれる。そして彼は仕事モードの鋭い眼差しになり、刃こぼれした一対の刀を抜刀して切っ先をネオユートピアに向けた。
「ほな行くで。もう二度と俺たちの街は壊させへんからなッ!」
「それじゃあみんな、行っくよー!」
「「応ッ!」」
そして立場の違う者同士は互いに手を取り合い、大切なモノを護るためという一つの目的のために心を一つにする。
きっとそこで僕は全ての真実を知る事になる。けれどもう迷いはない。僕らの手で神渡の街にとっての『あの日』の悪夢を終わらせるんだ。




