12-73 ライブ開始直前、失踪したサクラギ
――芳野幸信の視点から――
そしてついに訪れたライブ当日。正直な所寂れた商店街で無名のバンドだったからお客さんが一人もいない事も覚悟していた。だけど――。
「ホワーイ? これは一体どういう事なんだ」
ライブハウスは信じられない事に全席立ち見になるほど賑わっていた。知り合いでかさまししたとしてもそれはあまりも異常な光景だったので、僕らは喜びよりも困惑のほうが勝ってしまった。
「もしかしてこれのせいじゃない? ほれ」
「あ、これわたしがぶたにくと一緒にポスターを貼った時の奴だ」
戸惑う僕らにひかげはスマホの画面を見せてその理由を説明してくれる。そこにはぶたにくがライブのポスターを貼っている動画が再生されており、どうやら通行人が勝手にミヤタを撮影して動画サイトに挙げた様だ。
「なんか週間一位になってるの。これってすごいの?」
「普通にすごいんじゃない?」
「ほへー。何でだろう? 普通にブタがポスターを貼っているだけなのにね」
「それはね、この世界のブタは社会通念上ポスターを貼るなんて真似は出来ないからだよ」
「ふーん。まあいいや、おかげで宣伝になったみたいだし。後でご褒美をあげようっと!」
ミヤタはどうしてバズったのかしっくり来ていない様子だったけどひとまず吉報に喜んだ。
そういや僕らは慣れてるけどぶたにくって探し物をしたりゲームをしたり考えてみればまあまあぶっ飛んだ事をしてるよね。きっとゾンビ化による知能の向上が理由だろうけど普通の人からすれば常識から外れたトンでもない事なのだろう。
とにかくこれでは開始時刻を早めるなど諸々の予定を変更したほうがよさそうだ。僕は急いでイナデラたちと話し合うため控室へと向かった。
「るんるんるーん、みんなー、客席は見た? すごい事になってるよ! ふに?」
ミヤタは早速喜びを分かち合うためイナデラの下に向かう。しかし控室には何やら緊迫した空気が流れておりミヤタはあれ、とアホ毛をかしげてしまった。
「あ、ああうん。お客さん入ってるね。それはいいんだけど」
「ええと、何かトラブルでも発生したんですか?」
「サクラギが来ないのよ」
焦った様子のイナデラたちにただならぬ様子を察知したハナコはそう尋ねると、スイメイが困り顔でそう告げる。
「メールを送っても返事がないし電話にも出ないしどうしたんだろ~。心配だなあ……」
「ああもう、どうするのよ! これじゃあライブが始められないじゃない! っていうか炎上するって!」
ケマもヘイザエモンもひどく困っている様に見えた。なるほど、確かにギター担当の彼がいなければバンドは成立しないだろう。
「最悪A子やシオン君あたりに頼むっていうのは」
「そっちも連絡がつかない、っていうかA子さん以外に至っては連絡先を知らないんだよ」
「そっかあ。じゃあ私が連絡を……駄目だ、繋がらないね」
シオンたちはアラディア王国のスパイなのでそれも仕方がないだろう。唯一連絡が出来るのはハナコとひかげくらいだが当然空振りに終わってしまう。今はピリピリしているしそれも無理ないだろうけど。
「どういう事なのかしら。何かトラブルにでも巻き込まれてないといいけど。今は特に揉め事が多い時期だし」
レイカは不安にさせないため明言を避けるけど今この辺は反社の抗争の真っただ中だ。もともと海崎は治安のいいエリアではないけど普段よりもその危険性は格段に高くなっている。考えたくないけどその可能性がないわけではないだろう。
ここは冷静に考えよう。僕は問題解決のために今まで手に入れた情報からロジックを組み立てる。
「フィリアさん。あの一件で僕への疑いは晴れましたけど、どういうわけか誰かが稽古場を見張ってましたよね」
「ええ。それも一流のプロが」
僕は他の人間に聞かれない様にフィリアさんと小声でやり取りをする。この推理はちょっとサクラギの友人たちには聞かせたくなかったからね。
「もしかして彼らは僕じゃなくてサクラギをマークしていたんじゃないでしょうか。偽ペイルライダーの犯人として。彼が本当にペイルライダーでなくても狙われた可能性はあります。そもそも僕らは紙袋を被って素顔を隠している事にもう少し疑問を持つべきでした。そういうキャラではなく、何か素顔を見せられない事情があったとするのなら……」
「ふむ。一理ありますね」
フィリアさんは僕の推理を暴論として処理せず受け入れてくれる。偽ペイルライダーの正体はサクラギではないか――どうやら彼女も同じ結論に思い至った様だ。
「偽ペイルライダーの正体がサクラギさんだとして彼が行く場所は一つしかありません。誰の目も届かない無法地帯、ネオユートピアですね」
「ええ」
僕は事前情報でハナコから正史であの場所が決戦の舞台になると聞いていた。確かにあの場所なら身を潜めるならうってつけだろう。某国の拠点もあるって都市伝説はあながち間違いではなかった様だ。
「皆、僕はサクラギのいる場所に心当たりがある。ちょっと連れ戻してくるからどうにかそれまで繋いでいて欲しい」
「本当!?」
「まじ!?」
「そう、お願いね!」
「ええ、あの人の気持ちも考えない馬鹿をとっとと連れ戻して頂戴」
イナデラたちは藁にもすがる気持ちで懇願するけどスイメイのそれは少し異なるものだった。もしかしたら彼女はサクラギの正体について知っていたのかもしれないな。
「うーん、じゃあ適当にうちの子たちで時間稼ぎしておくか。マタンゴさんズ!」
「はーい」
「えびばでだーんすなうするねー」
ひかげはひとまずお友達にお願いして繋いでもらう事にした。マタンゴさんズのダンスは毎回好評だし前座としては十分だろう。
「マタンゴさんズの踊りならしばらく大丈夫だろうね。最悪キノコ胞子をまき散らして皆をパリピにすればいいし」
「そないな事したら営業停止処分を食らうからやめたほうがええで」
紗幸は良からぬ発案をしたけどドーラは即座に止める。まああくまでもそれは最終手段って事でね。
「それじゃあ緊急クエスト開始なの! ライブを絶対に成功させるために頑張るの!」
「りょーかい。じゃ行ってくるね」
「うん、よろしくね! もうあなたたちだけが頼りだから!」
そして僕らはサクラギを連れ戻すためにネオユートピアに向かった。やむにやまれぬ事情はあってもやっぱり友達を不安にさせるのは良くなかったからね。
きっとあの失われた理想郷で全ての真実が明らかになるのだろう。
サクラギの真実や、どうして現場に残されたDNAが僕と同じだったのか、そして僕自身が何者であるかについての全ての謎が……。




