12-70 二心同体
同時刻、ネオユートピアにて。
激しく降りしきるゲリラ豪雨は道路上にドブ川をつくり、そこを様々なゴミが流れた。
かつて神渡の街を襲った大災害から月日が流れるも、その場所は置き去りにされたまま放置されていた。
いや、むしろ錆が侵食をする様に当時よりも悪化しているかもしれない。そこかしこに薬物中毒者や浮浪者があふれ、注射器やゴミが散乱しているさまはゴミ捨て場以外の何物でも無かった。
あの震災は人々の心や生活を破壊した。街には自暴自棄になってクスリに手を出した薬物中毒者や、失業した人間があふれ治安が悪化し、自治体はやむを得ずそうした人間をこの場所に押し込んで隠したのだ。
その状況は故郷とよく似ており自分たちの潜伏先にはこの上なく相応しすぎた。ツァルとロイは互いにそんな事を思い、ひとまず雨をしのぐため廃墟のビルの中に身を潜めた。
そして昔と同じように身を寄せ合い互いの体を温め雨音に耳を澄ませる。ショパンの調べとまではいかないが、雑音をかき消してくれるその音は実に心地よかった。
自由に動き回れるのは便利だがやはりこの態勢が一番しっくりくる。生まれた時からずっと自分たちは文字通り一心同体だったのだから。いや、この場合は二心同体というべきだろうか。
「寒いね」
「うん。でもこうしてれば温かいよ」
「だね」
今はもう別々の存在になってしまった二人は常に孤独感を抱くようになってしまった。もしどちらが死んで離れ離れになったとするならば。それは想像するだけで耐え難いほどの絶望を感じさせるものだった。
――雨呪さん、風呪さん。あなたは私にとって我が子の様な存在です。
――つまり私たちは家族です。家族は裏切りませんよね?
この任務にあたる前、ミヤザワに伝えられた言葉が頭の中に響き渡る。それは二人にとってこの上なく誇らしい事であり、この上なく絶望させるものだった。
何よりも恐ろしかったのがそれを告げた時のミヤザワの眼は優しい母親のそれだった事だ。それは心の底からそうする事が二人にとって幸福であると信じているという事を意味していたのだから。
「もうすぐだよ。もうすぐミヤザワさんに恩返しが出来る」
「それに復讐も出来る。赤月会にも、あいつらを受け入れているこの街のクズどもにも」
「頑張ろうね、ツァル」
「うん。二人でやり遂げてお母さんに褒めてもらおうね、ロイ」
「ねえ、もしもアラディア王国に帰れるなら何が食べたい?」
「そばとかいいんじゃない?」
「アナゴドックも外せないよ」
「おお、いいねー。そういや最近大学の近くにハンバーガー屋さんが出来たらしいよ」
「なるほど、そりゃ行かないわけにはいかないね。行きたかったなあ……」
二人はもう一つの故郷に帰り、新しい家族に囲まれて幸せなひと時を過ごす日常を思い描く。それが虚しい妄想だと理解していても。
裏切り者の自分たちを赤月会は血眼で探しているだろう。果たして彼らと警察の包囲網を潜り抜けて無事にミッションを完遂出来るだろうか。
「ねえツァル、私を置いて死んじゃだめだよ」
「わかってるよ。私がロイを残して死ぬわけないじゃん。死ぬ時は一緒だから」
二人は恐怖を押し殺し互いの手を握りしめて決意する。自分たちを救ってくれたミヤザワに報いるため、そして復讐を成し遂げるためにもここで死ぬわけにはいかなかった。
雨はより激しさを増して全てを飲み込む濁流へと変わり、壊れた世界は静寂に包まれた。




