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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第十二章 失われた理想郷【第二部3】

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12-69 アトゥたちの過去

 楽しい水着イベントが変な感じで終わり、セントマリアに戻った後も陰鬱な空気は終始漂っていた。


「ぽけー」

「うぱー」


 だけど特に元気がなさそうなのは旧友が失踪し赤月会に命を狙われていると知ってしまったアトゥだろう。彼女はひどくぼーっとしてしまいぬるぽが頭の上に登っている事にも気付いていない様だった。


「大丈夫か、アトゥ」

「あうー」

「え、うん」

「うぱっ」


 見かねたカネヒラとサラが声をかけると彼女はようやく我に返って、その際ぬるぽは落下しべちょんという音を立てた。なお少しびっくりした顔はしていたけど体が柔らかくぬるぬるしていたおかげで特にダメージはなかった様だ。


「わたしはツァルさんとロイさんの事をよく知らないけど……どういう人だったの?」


 寂しそうなミヤタは落下したぬるぽを抱きかかえアトゥに話しかける。ただ彼女はうーん、と困った様な表情になり回答を躊躇ってしまった。


「話してもいいけど戦う時辛いかもよ」

「ううん、それでもいいの」


 ただ、たとえそうだとしてもミヤタにとっては自分の無理解で相手を苦しめる事のほうが耐えがたい苦痛であったらしく、彼女は迷う事無くそう答える。


「そっか。まあそういう事なら、うん。いいよ」


 そしてミヤタの確認を得た所でアトゥは重い口を開く。ツァルとロイ、そしてアトゥに関する過去を。


「僕とツァルとロイは元々中国の西のあたりに住んでいてね。厳密には自治区だから中国なのかどうかっていうのは議論があるけどそれはこの際問題じゃない。僕たちの故郷は朝から晩まで核実験をしていたんだよ。僕たちも気付かないうちにいつの間にかね」


 その話を聞いた僕はすぐにそれがどこなのかピンと来てしまった。あの場所で起こった悲劇は海の向こうにいる僕でも知っている程度に有名だったから。


 中国に限らず核実験はどこの国でもやっている。本来は安全に配慮しトンネルとかを掘って行うものだけど、それは極めてコストと手間がかかるので往々にして周辺住民への被害は考えずにそのまま爆発させる事も多々あるのだ。


「当然尋常じゃないくらいに健康被害が出て奇形児もたくさん生まれた。ちなみに僕の口と手はゾンビ化によるものじゃなくて元からなんだ。ゾンビになった経緯は本題じゃないから端折るけど」


 アトゥはマスクを外して自身の口を見せる。その形状は人のそれではなく蜘蛛の様に裂けており、確かにこれは初見ではゾンビだと勘違いしてしまうだろう。


「身体が異常に成長する子供が生まれたり、眼球がない子供が生まれたり……ツァルとロイは身体が引っ付いた状態で生まれたんだ。だから別々の姿になったのを見た時は驚いたよ」


 ツァルとロイは一度見たら忘れない半身が機械の身体をしていたけど、僕はようやく腑に落ちた。


 医学的にはシャム双生児というんだっけ。大体は大人になる前に死んでしまうのだけれど彼女たちは無事手術が成功して助かった様だ。そしてその極めて困難な手術を施したのはきっとアラディア王国なのだろう。


「皆は必死で核実験をやめて欲しいって訴えたけど、相手にされなかったどころか逮捕されたりマフィアの人間に殺されたりした。そのマフィアが中国の赤月会なんだ」

「あれ? じゃあツァルさんとロイさんは」

「目的はそういうことなんだろうね。普通に正面から戦えば何も出来ずに殺されるけど、敵の仲間になれば内側からガタガタに出来るから。中国の赤月会と日本の赤月会は必ずしも同一の存在じゃないけど二人からすればそんなの関係なかったんだろうね」


 話を聞く限りではツァルとロイには十分すぎる動機があったらしい。加えてアラディア王国への恩義も含めれば命と引き換えにしても成し遂げようとするに違いない。


「んで、僕たちはただ虐げられるだけの日々を送っていたんだけど……それを何とかしたのがチェルってわけ。少ない兵力で拠点にゲリラ戦を仕掛けて隠ぺいした情報を流出させてさ。これがその時の写真だよ」

「ぶほっ」


 だがシリアスな話題からスマホでネタ画像を見せられ悲しげだったミヤタは吹いてしまう。何故なら画面にはブリーフ一丁で拘束され青いネコ型ロボットのメイクを施された現地の高官が映っていたからだ。この写真と一緒に諸々の情報が世に出たんだっけ。


「ちなみに自分は元々人民解放軍の人間で騒動の鎮圧に向かったんすけど、それをきっかけにリーダーについて行く事にしましたね。今ではものすごく後悔していますけど」

「フッ、口ではそう言っているが実際は違うのだろう?」

「まあそうっすね。確かにお金はないですけどなかなか充実してますからねぇ」


 メイリンはチェルノと共に当時の事を懐かしみのろけ話の様に過去を語った。もしかして彼女は弾圧する側に回っていたのだろうか。普段の陽気な彼女からは想像も出来ないなあ。


「後はニュースとかで見た事があるよね。僕の故郷の惨状は世界に知られる事になって大分マシになった。もちろん失った命や時間が戻ってくることはないし故郷も汚染されたままだけどさ」

「へー。チェルノってただの痛い子だと思ってたけどちゃんとした革命家だったんだね」

「失敬な、吾輩は生まれた時から革命家だぞ!」

「もち!」


 僕がそう言うと彼女は誇らしげに胸を張った。当時世界的なニュースになったあの騒動の裏にまさか彼女の活躍があったとは。どうやら彼女の評価を改めたほうがよさそうだ。


「でもそっかあ、ツァルとロイは……僕らが何もしなくても終わりそうだね。せめて無事に国外逃亡してるといいんだけど」

「うーん、アラディア王国が協力してるのなら大丈夫じゃないかな」

「だね。きっと大丈夫だよね」


 ツァルとロイの過去を知ったミヤタにとって二人はもう倒すべき敵ではなくなったらしく、生き延びる事を願い励ましの言葉をアトゥに送った。


「実際ツァルとロイに関して俺たちが出来る事は何もなさそうだな。赤月会にやられるにしろ逃げおおせるにしろ、消息を掴んだ時にはもう終わってるだろう」

「そだねー、じゃあスルーでいいかな。一応お願いはされたけど協力する義理もないしガン無視って事で」

「あう!」


 カネヒラはそう結論付け、話し合いの結果僕らは不干渉の立場を取る事にした。今回の問題はそう簡単なものではなく、どちらに味方しても後々ややこしい事になる可能性がある。ならばノータッチをしたほうがいいだろう。個人的にはツァルとロイには生き延びてほしいし。


 全く不安がないと言えば嘘にはなるけど彼女たちはそもそもいくつもの修羅場を潜り抜けたアラディア王国の優秀なスパイだ。僕らの下手な手助けはむしろ足手まといにしかならないだろう。


 立場があるから表立って応援は出来ないけど二人には頑張って生き延びてもらいたい。気付けば僕はハメられた事をすっかり忘れてツァルとロイの無事を願っていたんだ。

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