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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第十二章 失われた理想郷【第二部3】

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12-68 ツァルとロイの失踪

 僕らに声をかけた人物――それはもちろん赤月会の月影さんだった。彼女たちは僕が偽ペイルライダーだと思っているので当然この状況はかなりよろしくない。先ほどまでギャグシーンだったけど皆はガチモードになり一斉に警戒してしまう。


「ああ、ご安心を。我々はヨシノさんが襲撃犯でない事は最初から知っていたので」

「あら、そうなんですか」


 だけど月影さんはあっさりとそう言ったので僕らは拍子抜けしてしまった。しかしそれはそれとしてこんなに反社がいたらかなり目立ってしまうなあ……通報されるんじゃなかろうか。


「ひとまず場所を変えてお話ししましょう。楽しい時間を邪魔して申し訳ありませんが」

「どうします?」

「うーん、とりあえず話がしたいのならお話してあげたほうがいいと思うの」

「お嬢様がそれをお望みならば」


 困った様子のハナコはミヤタに判断を仰ぐと当然の如くそんな返事が返ってきた。月影さんはむやみやたらと暴力を行使するタイプのマフィアじゃないし、こちらとしても情報交換をしておきたい。その申し出に応じる価値はあるだろう。


「ではこちらへ」


 唯一残念な事があるとすれば心の準備をする間もなく水着回が強制終了してしまったという事くらいか。もうちょっとキャッキャウフフしたかったんだけどなあ。



 月影さんに案内されて移動したのは海の近くにあるホテルの最上階のスイートルームだった。スタッフさんは畏まって挨拶していたからきっとおおよその事情は把握しているのだろう。


「このホテルは赤月会のフロント企業が経営しているので情報が洩れる心配はありません。まずはお飲み物でも飲んでお寛ぎください」

「いや無理ですって。小市民の自分には何から何まで」


 ただ紗幸はこの一泊数十万はいきそうな部屋の空気を吸うだけで精神的ダメージを受けていた。最近は比較的セレブやハイソな文化と接する機会も多かったけどやはりまだ耐性は出来ていない様だ。


「ふかふかのベッドだよ! ふかふかしようよ!」

「ふかふかー」

「シャア!」


 言うまでもなくミヤタはキノコやサバトと一緒にバカでかいベッドの上をゴロゴロと転がっていた。きっと彼女はDNAにセレブが染みついているんだろうなあ。


「あーこら、おやめなさい。うっかり壊して弁償したくないから」

「で、おもてなしをするために呼んだわけじゃないですよね」

「ええ」


 僕はお友達を回収するひかげを横目で見ながら月影さんに話しかける。最高級のおもてなしもぜひ受けてみたいけど僕たちにはそれ以上に優先すべき事があったからね。


「まずはそうですね――どうして最初から僕が犯人じゃないと知っていたのにちょいちょい襲撃したのかその理由をお聞かせ願えますか? おかげで神経をすり減らしながら逃走犯の真似事をする羽目になったんですから」

「いやまあまあ満喫してたんじゃね。隠れ家でケツかきながらお菓子をばりぼり食ってたし」

「話の腰を折らないでください、ギバさん。で、その理由は?」

「私たちは内通者の可能性がある人物を数名程度把握していましたが決定的な証拠がありませんでした。なのでヨシノさんを囮にする事で証拠をつかもうとしたのです」

「なるほど、僕らは手のひらの上で踊らされていたってわけなんですね」

「ええ、おかげさまで証拠をつかむ事が出来ました。その映像がこちらです」


 部下の黒服さんはボタンを操作してプロジェクターとスクリーンを出現させ、そこにいつぞやか僕が白き帝の軍勢の傘下組織に潜入しツァルとロイと交戦した時の映像が表示された。なるほど確かにこのやり取りは裏切り者であるという証拠には十分すぎるだろう。


「……知ってたんですね」


 アトゥは同郷の友人が裏切り者だと知られてしまいショックを受けている様に見えた。僕にとっては無実が証明される証拠だとしても、マフィアであるツァルとロイにとっては紛れもなく人生終了のお知らせだ。同じ権力と命懸けで戦う人間である以上覚悟はしていただろうけど、きっとこうなった以上二人が殺されるのも時間の問題だろうな。


「っていうかまあまあ至近距離だけどどうやって撮ったの」


 ただレイカはしばらく映像を見てすぐに映像の違和感に気が付いた。もっと言えばカメラ回しから撮影をした人は室内にいたんだろうけど……あの時そんな奴はいなかったはずだし、うーん?


「この映像は私が撮影しました」

「え!? っていつからいたんですか!?」


 しかしそこに突如として名乗りを上げる人物がいて、声のした方向を振り向くとそこにはどういうわけかラーメン大好き哀歌ちゃんが、それも僕らのすぐそばにおりハナコも含めて全員がかなり驚いてしまう。


「まったく気配を感じられませんでしたがいつの間に……」


 どうやらフィリアさんもまったく気付かなかったらしくかなり驚愕する。僕らはまだしも彼女は警護のプロなのに。っていうかそんな事があり得るのだろうか?


「私は存在感が薄いので。この映像を撮影した時も普通にいましたよ」

「いや存在感が薄いってレベルじゃないですよ!?」

「では存在感を消して見せましょう」

「へっ」


 哀歌はそう言うとすぅ、っと消滅してしまった。そして呆気に取られた数秒後、彼女は相変わらずのポーカーフェイスのまま別の場所から出現する。


「驚いた。異能的な?」

「そう解釈していただき差し支えありません。なお私は今回赤月会にも情報提供をしましたが、基本的には皆さまの味方でいるつもりなので」

「は、はあ、そうですか」

「ふーん。まあ味方ならいいかな。僕の無実を証明してくれてありがとね」

「仕事ですから」


 哀歌についてはラーメンが好きという事くらいしか知らず、情報が何もないけど立場ははっきりしているから特に気にする必要は無いだろう。もしかしたら今までもあれやこれやと陰からサポートしてくれたのかな。


「ちなみに赤月会の人間にも死者が出ていますがそれはいずれも白き帝の軍勢に寝返る予兆を察知した組織のみです。なのでむしろペイルライダーの存在は都合がよかったですね。偽の情報を流し、狙われやすい状況を作れば勝手に殺してくれましたから」

「ははあ、そうやって表立って消せない人間を本人も利用されている事に気付かないまま殺させたと。つまり偽ペイルライダーも踊らされていたんですね。お主も悪よのう」

「マフィアは基本悪ですよ。金のために善行をするマフィアはいても善なるマフィアなどこの世に存在しません」


 僕の指摘に月影さんは涼しい顔でそう答えた。やはりこの女傑はアジア最大級のマフィアの幹部、相当な切れ者だ。味方にする分には頼もしいけど絶対に敵には回したくないよ。


「ドロドロとしてますね……それでそこまで言うからには偽ペイルライダーの正体にも気付いているんですよね」


 マフィアの姦計を目の当たりにしたハナコはかなり強張った表情をしていた。ピュアな子にはこういうのはきついだろうな。


「ある程度目星はついています。が、今言った通り便利なので今は泳がせています。偽ペイルライダーは殺しの技術は優秀ですが本物とは違いそれ以外は平凡です。証拠の隠滅や偽装工作、策謀を巡らせるのは二流で、消耗品の鉄砲玉ならばともかくヒットマンには向いていないでしょうね。現にこうして我々にまんまと利用されていますから」

「なんだか敵さんが可哀想に思えてきました」


 月影さんからボロカスに酷評されハナコは偽ペイルライダーに同情してしまう。実際そうなんだけどもうちょっとオブラートに包んで言ってあげて欲しいものだ。


「チーム明日花の皆さん。一つ頼まれごとを聞いてはくれませんか」

「話くらいは聞くけど。むー」


 ドロドロした話から月影さんはそう申し出たのでミヤタは不満げにそう返答する。きっと彼女の事だ、狡猾極まりないやり方を内心かなり不愉快に感じているんだろうな。


「実はツァルとロイがちょうどこの映像の後ぐらいから失踪したのですが……その捜索をお願いしたいのです」

「雲隠れしたのか。お前たちの事だからとっくに殺していると思ったが」

「ええ、見つけ次第そうするでしょう。裏切りは死によって償わなければなりません。それがマフィアの世界です」

「……………」


 彼女の答えに質問したチェルノもまたむすっとしてしまう。アトゥはかなり浮かない表情をしていたけどこればかりはね。


「もちろん可能ならで構いません。ですが彼女たちは何かよろしくない企みをしています。その被害が赤月会や白き帝の軍勢だけで済めばいいですが一般人に被害が及ぶ可能性もあります。こちらとしてもそうしていただけると助かるのですけどね」

「むーん。とりあえず保留でいい?」

「ええ」


 月影さんはなかなかずるい言い方でミヤタを揺さぶった。こんな説得をされたらきっとミヤタはいろいろ思う所はあってもこのクエストを引き受けてしまうだろうなあ。

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