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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第十二章 失われた理想郷【第二部3】

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12-63 黒鬼とギバちゃんのラブコメ

 ミヤタが海へのトラウマを克服して楽しそうにワイワイキャッキャとはしゃぎはじめ、上着を羽織っていたギバはパラソルの下でけだるげにコーラを飲んでいた。


 律子も一応水着だったが相変わらず読書をして自由気ままに楽しんでいる。本人に海ならではの娯楽を楽しむつもりは毛頭ない様だ。


「なあ美夜子、酒ねぇのか」

「ファミリーエリアは酒類の持ち込み禁止です」

「あー、そうなったんだっけ。だりぃ……」

「むにょー」


 仕方がないので美夜子に絡むも帰ってきた返事は素っ気ないものだった。なお流石に彼女は水着ではなく普段の忍者スタイルだったが、その辺を歩いていたマタンゴさんをこねくり回して一応楽しんではいる様だった。


「ギバさんは泳がないのですか? せっかくオシャレな水着を買ったのに」

「オシャレなんて概念は大昔に捨てちまったよ」


 ギバはハッ、と鼻で笑い肘から先のあたりがブランとなった左腕を見せる。無論たとえ手足が欠損していてもファッションを楽しむ権利は誰にでもあるのだが、生憎彼女はそういう事が出来るほどアグレッシブな生き方はしてこなかったのだ。


「まあお前に言う事じゃないか」

「私は特に気にしていませんが」


 美夜子はその言葉に落ち込んだように返事をする。震災で両手両足を失い全身を火傷した彼女は普通の人間として生きる事を既に諦めていた。だからこそ自分を救ってくれた兄に対しての忠誠心はメンバーの中で最も強いのである。


「かなしいかおはかなしいよー? わらおうよー」


 そんな寂しい気配を察知したマタンゴさんは美夜子の捕縛から脱出し、へんてこなダンスを踊って楽しませる。


「きゅん」


 ああ、何と愛くるしい事か! 美夜子は抑揚のない声で感激していた。一見無表情にも見えるが感情表現に乏しい彼女にとってこれは最大限の感動を表していたのだ。


「そっちのひともみんなとおよごうよー」

「おいコラ引っ張るな」

「みんなもてつだってー」

「かまへんでー」

「ほないきまっせー」


 更にマタンゴさんはギバを海に連れていくため強引に服の袖をつかんで引っ張った。当然抵抗されるも、彼はその辺でたこ焼きを食べていた仲間を呼び寄せ、一致団結して頑なな彼女を意地でも助けてあげようとお節介を焼いたのだ。


「「よーいやさー、よーいやさー、よーいやさー」」

「なにしてんのー? よーいやさー」

「ぼくもよーいやさー」

「ちょ、コラ、脱げるから! 美夜子も見てないで助けろ! 律子でもいいから!」

「無理です。今の私はきゅんきゅんMAXです」

「……………(無言でパラっとページをめくる音)」


 マタンゴさんズはお祭りの掛け声の様に力任せに引っ張り続ける。楽しそうな気配を察知したマタンゴさんは獲物に群がるゾンビの様に次々と集まり、何とも愛くるしいゾンビハザードが発生してしまった。


「うぎゃっ!?」

「何の騒ぎです? ん」


 そしてちょうど上着がすぽんと抜けたところで黒鬼が戻ってきてしまった。ギバは自身の水着姿を見られ、一瞬思考が停止し固まってしまった。


 ギバの水着はオレンジをベースとした派手で露出度が多いものだった。ご丁寧に左腕の部分にも同じ色の布切れを巻いており、彼女でしか出来ないオシャレをしている。


「んだよ……文句あっか」


 様々な羞恥の感情が渦巻きギバはやや俯きながらそう言った。だがそんな彼女を見て黒鬼は、


「まあ……似合っとるんやないか?」


 気まずそうに、そして恥ずかしそうに照れながら目をそらしてそう言ったのだ。


「~~~~~! 殺すぞッ!」

「ぐべぇ!?」


 ギバはその初々しいリアクションに耐えかねて恋する女子高生の様に赤面しながらアイアンクローを決めた。なお彼女は赤ゾンビなのでその気になれば普通に頭蓋骨を粉砕する事も出来るがそこにはちゃんとラブコメ補正、もといギャグ補正が発動しているのでご了承いただきたい。


「むほぉお! ラブコメの波動を感じます! シャッターチャンス!」


 正史マニアのハナコは即座に反応してスマホのカメラを向けた。最終的に二人が結ばれる事を知っている彼女にとって、このシーンはまさしく名場面だったので見逃すわけにはいかなかったらしい。


「人の隣でラブコメしないでくれる? そこのマタンゴさん、いてつくはどうでかき消してくれるかしら」

「ぼくたちそんなのできないよー?」

「合体すれば出来るでしょ」


 だが律子は退屈そうに本を閉じて立ち上がりその場を離れてしまった。苦悶する黒鬼はもちろん相方のその寂しげな様子に気付くも、なかなか脱出出来ずそのままもがき続ける事しか出来なかったのだった。

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