12-62 ミヤタの海へのトラウマ克服
僕は母さんたちと別れ、マタンゴさんズと共に立派な砂像を作っているミヤタに話しかけた。
「やっほーミヤタ。それは何だい、って聞くまでもないか。矢〇通?」
「うん! よく出来てるでしょ?」
「がんばったー」
「ヤ〇トールー」
ミヤタはスコップでぺしぺしと叩いて微調整をしちょうど矢〇通の砂像を完成させ、同時に両サイドのマタンゴさんズが力強くYTRポーズをして喜びを表現する。細部まで見事に再現されてなかなかの出来栄えだ。
「僕も一緒に遊んでいいかい?」
「いいよー」
そして僕は自然な流れでミヤタたちと一緒に黙々と砂浜遊びをする。水遊びもいいけどやっぱり幼女はスコップを装備して砂浜で遊ばないとね。
「ぺしぺし」
芸術センスの塊とも言うべきミヤタは次々と名選手を砂像で再現していった。レインメーカーポーズを決めるオ〇ダ、躍動感あふれる見事な受け身を決める邪〇、絶妙に弱そうなY〇SHI-HASHIなどなど。やっぱりCHA○Sに偏ってるね。
普通は海でプロレスラーの砂像は作らないけど本人が楽しければいいだろう。そう、本人が楽しければ。
「そぉーれ!」
「ひゃー!」
「あうー!」
「……………」
ミヤタはちらりと楽しそうに海で戯れる紗幸たちを横目で見た。ちょっと不安だったけどあんなにはしゃいじゃって、あちらは何も問題がなさそうでよかったよ。
紗幸は普段の戦闘同様立派なガトリングタイプの水鉄砲(税込み17280円)を駆使してさながら追跡者の様に無双していた。レイカもサラと楽しそうにタッグマッチをして何よりだ。
「じー」
「ミヤタも海で遊びたい?」
「うーん」
本当はミヤタもあの中に混ざって遊びたいのだろう。だけどなかなか踏ん切りがつかずその一歩が踏み出せなかった。
もちろん人それぞれだし無理に海への恐怖を克服する必要は無い。でも本人が心のどこかでそれを望んでいるのなら、お節介だとしても手助けをしてあげたほうがいいだろう。
だけどそれはどういうやり方がいいのだろう。優しすぎても駄目だし強引過ぎても駄目だという事を僕は知っていた。海に入る、たったそれだけの事がどれだけ勇気のいる行為なのか『あの日』を経験した人間は誰もがわかっているからね。
「ミヤター!」
「わわっ!」
そんな様子を眺めていると海の中から潜水艦のミサイルの様にサバトが飛び出てきた。彼女はそのままミヤタの前に着地、その手をガシッと掴んでしまう。
「ミヤタも泳ぐぞ! 楽しいぞ!」
「あっ、ちょっ」
「お嬢様っ!」
「ふににっ!」
突然の事に僕はもちろん海で遊んでいた皆もギョッとしてしまう。だけどサバトは複雑な要素は一切考えず、ただ友達と楽しい事を共有したいというその一心でミヤタを海に引きずり込んだんだ。
ザパァ! ミヤタは海にダイブし勢いよく水しぶきが上がる。全員が何も出来ずに固まって動けなくなった数秒後、
「あははははっ! もう、サバトったらー!」
「あら」
水面から顔を出したミヤタは大笑いしていたんだ。先ほどまでの暗そうな顔がまるで噓であったかのように。
「お嬢様」
「ミヤちゃん」
案ずるより産むが易し。皆は様々な不安が杞憂に終わり安堵する。やっぱりミヤタも海と共に生きる町に住んでいた人間、母なる海の愛情は忘れられなかったという事か。
「ヨシノくんもおいでよー! 一緒に遊ぶのー!」
「ふふ、そうだね」
さあ、後は全力で遊ぶだけだ。僕もすぐにミヤタの元に向かい海の中に飛び込んだ。
パシャンと弾ける飛沫。火照った体に冷たい水が何とも心地いい。わずかに口の中に海水が入りしょっぱさを感じる。
考えてみれば僕も久しく海の中に入っていなかったなあ。この感覚もいつぐらいぶりだろうか。とにかく今は何も考えず全力で楽しみつくそう。
なおその頃には僕は本来の目的を忘れてしまったのは言うまでもない。でもそれは海ではしゃぐ事よりも重要じゃないからどうでもいいよね。




