12-59 海に行こう!
「というわけで海に行こうと思っているの!」
「どういうわけで?」
会議が始まり、全ての事情を知っている母さんは――というか多分発案者の母さんは唐突にそんな事を言った。
「ええと、いきなり言われてもわたしにも何が何だか。まずはどういう事か説明してくれますか?」
不在だった僕とミヤタだけが知らないのかと思ったけど、ハナコもそう質問した事から察するに大体のメンツは初耳らしい。さっきのやり取りから黒鬼さんは知っているみたいだけど……。
「今ゆう君は偽ペイルライダーのせいで赤月会に追われているわ。これを何とかしない限りもしかしたら一生追い掛け回されるかも入れない。だから海に行こうと思っているの!」
「だからの後に続く言葉がおかしいよ母さん。前後の文に繋がりがないから。そう思うに至った経緯を教えてくれないと」
「それはね、偽ペイルライダーを困らせるためよ。ゆう君のおかげで偽ペイルライダーがダブルスパイである事が判明した。つまり今の彼が一番嫌がるのはダブルスパイだってバレちゃう事なの。ゆう君には自分がスパイだって堂々と主張して目立つ行動をとって欲しいの。だから海で思いっきり遊ぶの!」
「はあ、なるほど……いやそれでも前後の繋がりが、うん。水着回を入れたいから無理やりねじ込んだの?」
母さんの作戦はあまりにも馬鹿馬鹿しく僕を含めて全員が混乱してしまう。前半部分は納得出来るけど後半部分はねぇ。
「ふーむ、だが意外といいアイデアかもしれんぞ。方法はともかく敵が最も嫌がる事をするのは理に適っている。遊んでいる最中に敵に襲われる可能性もあるがな」
「本音は?」
「海で遊びたい!」
「だろうね」
チェルノは真っ先に賛同しアトゥはすぐにその本心を見抜く。アトゥはやや落ち込んでいる様だったけど、それに対して彼女はものすごく楽しみにしているみたいだった。
「旧友がスパイの最有力候補になったわけだから空気を読んで欲しいものだけど」
「すまん、それはそれ、これはこれなのだよ。それに言っちゃあなんだがお前も薄々ツァルとロイがそうではないかと思っていたのではないか」
「まあね。何で赤月会に所属しているのかと思ったけど合点がいったよ」
「まあ、ある意味妥当っちゃ妥当っすねえ」
ツァルとロイがスパイの可能性が高いという情報に、彼女たちの過去について知っているチェルノ団の古参メンバーは遠い目をしてしまった。
「なんか悪いな。やっぱりショックだったりするか」
「そっちが謝る事じゃないですよ。というか個人的にはツァルとロイがしている事には賛成なんで。むしろチェルノ団と赤月会はどっちかといえば対立していますし連中がどうなろうと知った事じゃないです。ぶっちゃけ僕としては旧友が命を懸けてまで故郷の仇敵と戦っているって知ってちょっと嬉しいですね」
「ならいいけどよ」
彼女の気持ちを慮ったギバさんにアトゥはどこか嬉しそうに言った。一般的には理解しがたいけど、立場は違えど同じ権力に立ち向かう同志だったという事実は彼女にとって喜ばしい事だったらしい。
「そうですか、悲しんでいない様なら何よりです。でも海かあ~、いいなあ。ミヤタさんはどうです?」
それはさておき別にこの状況を打開するために目立つ行動をするのはいいとして、東北に住む僕たちの場合は別の問題があるからなあ。能天気なハナコもまた楽しみにしていた様だけど、
「うーん」
「あっ」
ミヤタの不安げなアホ毛を見てすぐにそれが失言である事に気付いて申し訳なさそうな顔になってしまった。
そう。海は一般的には楽しい場所だ。海にトラウマを抱いている人間でなければ、の話だが。ましてやミヤタの死因は……。
「レイカはどないや」
「あたしは多分大丈夫だと思うけど……」
同じく津波で死んだレイカはそう言いつつもやや緊張している様に見えた。彼女ですらこうなのだからミヤタはもっと不安に違いないだろう。
「紗幸はどう?」
「多分なんとか。仮想世界で一度行ってるし。ひかげちゃんは?」
「私はどちらかっていうとそんなにトラウマにはなってないっていうか、アレだから、うん、アレだし」
「?」
紗幸とひかげは直接津波には飲み込まれていないけどこちらも問題ないか。ただひかげは別の事で気まずそうにしていたけど。まあトラウマがないならいいか。
「お嬢様」
「ううん、わたしも海に行ってみるの!」
「そうですか。なら私もお供いたします。ですが無理はなさりませんように」
「ぷひ」
迷っていたミヤタは海に行く事を決心し、フィリアさんは過去を乗り越える事を願いその決意を受け止める。出来れば無茶はしてほしくないけど彼女が決めた事ならば僕も何も言わないよ。
「……うん、ゆう君は?」
「僕はまあ、うん。平気だよ」
そしてそう告げた僕は母さんのもう一つの目的を理解した。きっと母さんはもう大丈夫だと、そう思ってこんな事を発案したのだろう。
メインクエストも大事だけどこっちも大事だよね。海と共に生きてきた僕らがもう一度海を好きになるためにも、ね。




