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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第十二章 失われた理想郷【第二部3】

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12-54 赤月会の裏切り者

 絶命したヤクザの身体から血まみれの腕が抜き取られ、彼はだらんと仰向けに倒れる。


「もー、何してるの? さっさと殺しとかないと」

「もしかして何か考えてた? ならごめんね」


 そして二人の少女がドアを開けて僕に話しかける。こいつは確か赤月会の幹部のツァルとロイだったっけ。体の半分が機械の身体というこの特徴的な見た目をもちろん忘れるはずがない。だけどどっちがツァルでどっちがロイだっけ。


 ただこのやり取りでツァルとロイが偽ペイルライダーの仲間である事はわかった。けれどどうして。彼女たちは赤月会の仲間なのに何故赤月会に害を為すペイルライダーと手を組んでいるのだ。


 いや、そもそもペイルライダーは白き帝の軍勢の関係者も殺しているしどっちの勢力に属しているんだ――僕はさっぱり理解出来ず混乱してしまった。


「どうしたの?」

「あ、いや」


 けれどだんまりを決め込むのは良くない。ここで何か返事をしないと怪しまれてしまう。何でもいいから発言するんだ。


「一旦泳がせておこうかな、と」

「ふーん。あいつが何かをするとしてメリットの割にはリスクのほうが大きいと思うけど……なんで?」


 苦し紛れの言葉に片割れは僕を完全に疑ってしまった。だがメリットとリスクとはなんだ。メリットは赤月会に微々たるダメージを与える事、ではリスクとはなんだ。


 いや、簡単な事だ。赤月会にダメージを与える事がメリットと解釈するのなら、それをメリットと定義づける二人は赤月会の裏切り者という事だ!


「「せいッ!」」


 二人はスパイである――僕がその結論に思い至ると同時にツァルとロイは鋼鉄の腕で僕を引き裂こうと襲い掛かった。どうやら向こうも僕がなりすましだと気付いてしまったらしい。


 ならばもうペイルライダーのふりをする必要もない。僕はすかさず銃を発砲して応戦する。


「あー、やっぱり偽物だったか。どうするロイ?」

「そりゃ殺すしかないでしょ、ツァル。ミヤザワさんにも迷惑がかかるし」

「ミヤザワさんか。つまりお前たちは」


 ミヤザワは日本でありふれた名字の代表格だけど二人が指しているのは当然今回の騒動で暗躍している宮澤劇団のミヤザワだろう。アラディア王国のスパイであるツァルとロイ、そして偽ペイルライダーは白き帝の軍勢と赤月会を仲違いさせ共倒れにするためあれこれ仕込んでいたと考えるならば辻褄も合う。


「あはは、知る必要は無いよ!」

「あんたはここで死ぬからね!」


 二人はそれ以上語る事はなかったけどこれは重要な証言だ。僕の無実を証明するのにも役立ちそうだし是非とも生きてこの情報を持って帰ろう。どうせなら隠しカメラで録画とかしておけばよかったけど仕方がないか。


 ツァルとロイの攻撃パターンは人間の肉体をやすやすと引きちぎる程度の威力を持つ機械の腕による攻撃のみだ。しかし息の合った連係プレーはなかなか厄介であり僕はひたすら回避に徹する事しか出来ない。


 サードマンモードで復活すれば負ける事は無いけど切り札は隠してこそ切り札となる。以前熊本で戦ったアンタレスとゴースのやり取りから察するにアラディア王国の工作員たちはまだ情報の共有をしていないから二人がその事実を知らない可能性もあるし、それに実際にやるのを見せたら攻略法を発見されるかもしれないしいたずらに見せびらかすべきではないだろう。


 幸い敵の攻撃は苛烈とはいえ攻撃手段は肉弾戦のみだ。中国人らしく何かしらの拳法をかじっているのだろう、尋常ではない動きをしていたけどサードマンモードを使って相手の動きを視る事が出来る僕ならば見切るのはさほど難しくない。反撃となるとちょっとしんどいけど。


「もう、ちょこまかと!」

「とっとと死ねッ!」

「えー、嫌です」


 というか反撃、もっと言えば殺す必要があるのだろうか。二人を殺すメリットは現時点では特にない。むしろ生け捕りにして赤月会に引き渡せば身の潔白が証明出来て晴れて無罪放免となるだろう。その場合赤月会に害を為すスパイだという事を証明する必要があるけど……。


 うん、これといった証拠がないから無理だね。やっぱり逃げるしかないのか、せっかくのチャンスなのに。


「あ、コラ!」


 僕はため息をついて素早く事務所から脱出する。その気になれば殺せるのに悔しくて仕方がないけどさ。でもこればかりは切った張ったじゃ問題を解決出来ないからなあ。


「逃げてんじゃねぇぞコラッ!」

「クッ、何としてでも殺さないとッ!」


 二人はひどく焦り死に物狂いで僕を殺そうとする。スパイである彼女たちにとって情報の漏洩は何よりもの重罪であるし、赤月会にも殺されてしまうだろうしそれも当然か。


 ただこっちとしては冷静さを欠いてくれているほうが逃げやすい。サードマンモードを上手く使いつつ最適な逃走経路を――あら?


「(見つけたぞッ!)」

「あらーん」


 廊下の角を曲がった所で僕はサブマシンガンを装備した中国語を話す黒服と遭遇してしまう。こいつらはもちろん赤月会だろうから事務所を襲いに来たのか、あるいはペイルライダーを殺しに来たのだろう。


 何をしに来たのか目的はいろいろ考えられるけど、ただ一つ断言出来る事は銃口がこちらに向けられていて僕を殺す気満々だという事だ。そりゃまあ、うん、そうだろうね。


「(助かったわ! そいつがペイルライダーだ! 殺しなさいッ!)」


 ツァルとロイのどちらかが言ったのか、そもそも中国語だから何を言っているのかわからなかったけど多分この状況を利用するため何らかの指示を出したのだろう。


 ズガガガガッ!


 銃弾が飛び交う中僕は階段を飛び降りてとにかく逃げる事に徹する。うーむ、赤月会の人を殺すわけにもいかないし……仕方ない、何回か死ぬのは覚悟で強行突破するか。


「はッ!」

「(がああ!?)」

「およ?」


 けれど下のフロアに移動した所で鎖が足に絡まった黒服さんが吹き飛ばされる瞬間を目撃してしまった。どうやらカウボーイが投げ縄で物を放り投げる様にマフィアの人は投げ飛ばされてしまった様だ。


「ヨシノさん、こちらです!」

「どうもです!」


 そこにはたった今助けてくれた律子さんだけではなく刃こぼれした日本刀を両手に装備していた黒鬼さんもいた。状況が飲み込めないけどどうやらピンチになった僕を助けに来てくれたらしい


 僕は牽制のために発砲しつつ黒鬼さんの後を追う。まったく、すぐに助けに来てくれるなんてとても頼れるアニキだ。特にここ最近は悲しい事があったから嬉しいよ。


 不謹慎かもしれないけど僕は彼と一緒に困難に立ち向かうこの状況をどこか楽しんでいた。僕はあまり人には心を開かないのにこれはどういう心境な変化なのだろうか。


 なんていうかやっぱり黒鬼さんは他人とは思えないんだよなあ。生き別れの兄弟とかそんなオチがあるわけでもないのに。


 とにかく馬鹿馬鹿しい考えは捨てて今は逃げに徹しよう。全ては僕らが生還する事が前提となっているから何としてでも生き延びないと。

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