12-53 偽造電子マネーとマネーロンダリング
ガチャ。そしてその人物はやっと部屋の中に現れる。彼は暗闇のせいで僕の存在にすぐに気付く事はなかったけど、銃口を向けられている事を理解し、
「おおっと!? なんだお前か……」
と、驚いたもののどういうわけかすぐに警戒心を解いたのだ。僕にはそれが不思議でならずただただ困惑する事しか出来なかった。
ペイルライダーが今回殺害したのは白き帝の軍勢に近しい赤月会の人間で、つまり犯人は裏切り者を粛正しようとした赤月会側の可能性が高い。だというのに白き帝の軍勢の傘下の組織である彼は僕を見て安心してしまった。これは一体どういう事なのだろう。
「そっちも生きていたんだな」
「ああ、なんとかな」
状況が飲み込めなかったけど僕は話を合わせる事にした。戦いを避けるだけじゃなく上手くいけば情報が手に入る可能性があったからね。
これは千載一遇のチャンスだ。少なくともこの男は偽ペイルライダーと接点がある。ハッタリでも嘘でも何でもいいから無実を証明するための情報を是が非でも入手しないと。
「悪いが一服したいからその間見張っててくれないか。昨日から一本も吸ってないんだよ」
「構わないが」
偽ペイルライダーの口調が敬語かタメ口かはわからなかったけど僕は取りあえずオリジナルっぽくふるまった。でもすっかり油断しきってそんなお願いをするあたりやはり彼とペイルライダーは良好な関係らしい。
ヤクザは小さな冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プシュッとプルタブを開けてグビグビと飲む。精神が疲弊しきっていた今の状況ではそれは彼にとってまさしく命の水だっただろう。
「ぬるっ。ブレーカーを落とすんじゃなかったぜ。痛て……」
アルコールが刺激になったわけじゃないだろうけど彼は痛がる仕草をした。よく見るとヤクザの左手の小指には包帯が巻かれていたのできっとそういう事をしたばかりなのだろう。
彼は煙草を吸い始め軽く休憩をする。敵が警戒していないとはいえやはりバレたりしないのかビクビクするよ。
しかし何も喋らないのもかえって怪しまれる。僕は軽くその怪我について気遣う事にした。
「痛むのか?」
「ああこれか? お前と別れた後いろいろあってなあ。ちょっくら愚痴を聞いてくれよ」
男は相当鬱憤が溜まっていたのか何も言っていないのに小指についてのいきさつを自分から語り始めた。ヤクザが指を怪我するという事はつまりはそういう事なんだろうけど。
「お前も知っての通りうちはここ最近偽造電子マネーをひたすらマネーロンダリング? っつーのをしてただろ。ただ若い衆が赤月会相手に偽造電子マネーで取引してその差額を懐に入れててな……おかげで俺もケジメをつける羽目になったよ」
僕は事前に聞いていた言葉を再度関係者の口から確認する。それは赤月会のみならず同じ組織の中でも信頼関係を損なう愚行にほかならず、仮にヤクザでなくても責任を取らなければいけない深刻な事態だというのは僕にだって理解出来た。
「うちだけじゃなくて他の組の人間も似た様な事をしていたらしい。今はどこも金がないからなあ……けどそれで戦争になったら世話ないぜ。でも聞いてくれよ! 小耳にはさんだんだが赤月会の人間もうちの組織に似た様な事をしてたそうじゃねぇか! なのに小指を詰めなきゃならないなんて筋が通らねぇだろ、クソッ!」
「それは災難だったなあ」
ヤクザは怒りに任せて缶ビールの底を机に叩きつけ衝撃で中のビールが飛び出てしまう。僕は適当に相槌を打ったけどなかなか興味深い情報を入手出来て内心嬉しかったよ。
偽造電子マネーによる取引やマネーロンダリングはお互いの組織がお互いに対して行っている。それはアラディア王国による裏工作があったという事を補完する情報だった。
多分だけどそれを唆したのはアラディア王国の工作員に違いない。絶対にばれない方法で私腹を肥やせるのなら元々ならず者でしかない反社連中はすぐに食いつくだろうし。
「それよりも聞いたぜ! 一人で赤月会の事務所を壊滅させるだなんて大したもんじゃねぇか! おかげでスカッとしたぜ!」
「別に誇るほどの事でもない」
ヤクザの称賛に僕は出来るだけ少ない言葉で返事をする。今は上手くいっているけどどうにかぼろが出る質問が来ませんように。
「赤月会に寝返っていた裏切り者も潰してくれたし本当にペイルライダー様様だよ。俺が組長だったら若頭くらいにはしてやったのに」
「そうだな」
ひやひやしながら僕はその情報を分析する。彼の会話を聞く限り偽ペイルライダーは白き帝の軍勢側なのだろうか。だがそれは今まで聞いた情報と矛盾する。これは一体どういう事なのだろう。
「それよりも、だ」
ヤクザは煙草をくわえながら棚の下に転がっていたハードディスクを机の上に置きカチャカチャといじる。すると蓋が外れ中から拳銃が出てきた。
見た感じフィリピンあたりで密造された安物のリボルバーだろうか。性能はショボくても人を殺すには十分すぎる。それはもちろん僕も――。
「それは?」
まさか彼は仲間のふりをしている僕を殺すために拳銃を取り出したのか。いや、状況から考えて赤月会への報復に使うつもりなんだろうけど僕は万が一に備えいつでも銃を撃てるようにした。
「もう終わりだよ、何もかも。親と子分の仇を討たねぇで何が極道だ。悪いがお前とはこれでさよならだ。短い時間だったが楽しかったぜ」
やはり男は僕の事を露ほども疑っていなかった。どうやら彼は鉄砲玉として復讐のためにカチコミに行くらしい。とりあえずバトルにならなくてこれで一安心かな。
「ああ、骨は拾ってやるよ」
「おう」
僕は適当にそれっぽい別れの言葉を言って、煙草を灰皿に捨てて入り口のドアに向かう男を見送る。この後男が目的を達する事が出来たとしても赤月会に殺されてしまうだろう。けれど僕は正直彼がどうなろうとどうでもよかった。それに……。
「やぶしっ!」
彼は一矢報いる事すら出来ずに殺される事を知っていたからね。
部屋の入口に近付いたヤクザはドアの中央から生えた鋼鉄の腕に貫かれ、そのまま心臓を奪われ絶命してしまう。非現実的かつなかなかグロいいわゆるハートキャッチという技だ。




